なんとしてでも、推しは推しとして推したい! けどパンツは見たい!   作:黒マメファナ

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カラオケは密室だけどちゃんとカメラもあるんだよ

 千聖さんを傷つけた。花音を傷つけた。パレオちゃんを傷つけて、紗夜さんを、彩を傷つけた。だから人間関係ってイヤなんだ。傷つけて、傷ついて。答えのわからない間違い探しみたいなことを繰り返していく。そして俺はいつも間違えるんだ。

 彩を泣かせた。もう彩が俺の名前を呼んで人懐っこい笑みでポテトをねだることもないだろう。

 紗夜さんやパレオちゃんは、これからもオタ仲間だと言った。言ったけど、一度恋愛感情を持ってしまった以上、知ってしまった以上、今まで通りにはいかない。

 千聖さんもあれからずっと姿を見てない。花音にも、会ってない。

 

「はぁ……」

「センパイ、ため息多いですよ~?」

「色々あるんだよ……」

「推しがプロデューサーあたりとホテルから出てくるもしくは入ってくるのを見たとか」

「やめろ、冗談でもホント勘弁して」

 

 バイト先の後輩に冗談交じりにそんなこと言われて俺は耳をふさいで首を左右に振った。そんなの想像もしたくない。いやでも枕営業は何より千聖さん自身に否定されたし確かに血が……という思考を強制的にシャットダウンする。あの事を思い出すと芋づる式に花音の下りを思い出すからアウトなんだよね。

 

「なにかあったんですか、ホントに」

「いや、リアル関係だよ」

「オタクなのに、ですか?」

「ムカつく言い方だけど、そうなんだよ」

 

 オタクなのにオタ活以外で悩むなんて、とは俺だって思うけどだって! だって俺は……そのオタ活関連の人物がリアルにくいこみ始めてるのが問題なんだよなぁ。千聖さんといい彩といい、どっちかというと紗夜さんやパレオちゃんもオタ活関連だったんだけど。

 

「おい白崎、これ八番まで頼むわ」

「はーい」

「八番さん顔面偏差値高めの女子集団だったんで……逝ってらっしゃいセンパイ」

「やめてくれ……」

 

 返事をして、それから失礼しますメガ盛りポテトとドリンクを四つ分、持って入ると、そこにはかわいらしい歌声でちょっと昔のアイドルソングを踊りつきで歌うかわいらしいツートンツインテの子がジャンプして──ブワリとめくれ上がったスカートからピンクと白のしましまが。

 

「見たわね」

「見たね」

「見ましたね」

「もっと見ますか?」

「な、な……なにしてんの!?」

 

 顔面偏差値高め女子軍団の正体は、オタ活関連人物でありながらリアルにくいこんできた四人組だった。というかもっと見ますかってなんですかね? 見ないからね? 近づいてこないでね? 

 ──じゃなくてそれ以前になんでこんな遠いところのカラオケに来てるの? 

 

「みなさんの情報を元にパレオが特定しました!」

「有能な従者を得て頼もしい限りだわ、はいパレオちゃん」

「こ、ここここれは……お、推しに、あ~んしてもらえるっ!?」

 

 おいこらそこのキモオタ。推しもなにもそもそも箱推しだから横の彩も推しでしょう。だがアイドルにあ~んしてもらうといううらやまし……んんっ、けしからんご褒美をもらったパレオちゃんは千聖さま~と懐いていく。オタク? なにやってるのオタク? 

 

「じゃあ次は私だね!」

「み、ミックス打ってもよろしいでしょうかっ!」

「……パレオさん」

 

 紗夜さんが終始ポテトへの手を止めないながらドン引きしている。その行動に俺がドン引きだよ。パレオちゃんは止められないから俺はそっと立ち去ることにした。

 ──だけど、そこで誰かに肩を掴まれた。もう振り返らなくてもわかってる。千聖さんだよな。

 

「あたりね。ご褒美でもあげようかしら」

「このバイトを平穏無事に終わらせてください」

「……ほかに言うことはないの? せっかく、会いに来てあげたのに」

 

 ふん、と腕を組んでそっぽを向かれてしまう。千聖さんはどうしてこう、素の表情のさらに素を見せるととってもかわいいんだろう。拗ねていじけてしまうところがなんだか愛らしくてついつい笑ってしまう。

 

「ありがとう」

「げ、元気出たかしら? それとも……今日のパンツを見せた方が」

「うん元気出たからパンツはいらないかな!」

 

 スカートの裾をつまむのはやめていただいてもよろしいでしょうかお嬢様。あなたは自分のパンツをなんだと思ってるの? 俺のやる気のブーストドリンクはパンツですか? 一パンツで十回復するんですかね? 

 

「今日は黒なの、ちょっとセクシーめにしてみたのだけれど」

「どういう意図で?」

「もちろん……千紘に見せるためよ」

 

 見せなくていいんだけど。なんでそんな俺のことをパンツが見たい変態みたいな扱いするのさ! パレオちゃんも紗夜さんも見せてくるし。というか俺としては紗夜さんが見せてくるってのが衝撃すぎて未だにびっくりが胸の中に残ってるくらいなんだからね。

 

「いいじゃない。男のロマンとしてはどうなのよ」

「え……っと」

「なによ」

 

 最高ですよああちくしょう! それをここで口に出せたらどんなにいいことでしょうね! 無茶言わないでほしい! だいたい千聖さんだって見せるのは素直に言うと恥ずかしいでしょう? と反論するとなんと首を横に振ってきた。

 

「それで私があなたにとって推し以外になれるなら……触られても平気よ?」

「……ちょ」

 

 一歩近づかれ、壁際に追いやられる。さ、触るって、なにを? パンツを? それってパンツのどこ触らせるつもりなんですかね? 思わず想像してしまい鼻の奥が熱くなるような錯覚があった。

 

「想像したのね」

「してません」

「いいのよ? クロッチを触りたいなら……そっちでも」

「え、あの!? いや!」

 

 その騒ぎのせいかセンパイどうしたんですか~と後輩がやってきて、その状況に表情を固めた。そりゃそうだよね、冴えないキモオタセンパイが小柄だけどえらい美人さんに壁ドンされてスカートの端を持って俺に触らせようとしてるんだから。そりゃフリーズするでしょ。

 

「あの子は?」

「俺の後輩」

 

 ついでに二学年下だけど高校も一緒の後輩ちゃんだったりする。なんでも誰にもバレないようにバイトしたかったらしく、知り合いを通じて俺に相談を持ち掛けてきたんだ。ちなみにオタクのことが嫌い。なので俺も例外なく嫌われているのでありますよ。ンン、当然でありますな! 

 

「嫌われて……ねぇ?」

「へ、あ……っ!?」

 

 なに考えてんの!? としか言いようのない。なにせこのアイドルで女優でもあるこのヒト、俺の首を掴んでほぼ無理やりキスしてきた! とっさに離れようとするけど、クソこのヒト力強くないですか!? 案外非力って彩から聞いたんだけど嘘だったのかアイツ! 

 

「ぷはっ、なにしてんの?」

「ふふ、しばらくぶりに欲しくなったのよ……それじゃあまたバイト終わりに、ね?」

 

 数秒間たっぷり貪られ、小悪魔的表情でまた八番ルームに戻っていく千聖さん。うわ、ほんとに何考えてるのあの人。俺が別に後輩にキスするところ見られても恥ずかし! うわ死にたいからもうこのバイトやめようかなってくらいで済むけどさ。千聖さんは唯一といっていいほどパンピーにも名が通った女優さんなんだからね? スキャンダルで強制ドボンで責任感じて自殺するしかねぇ……! ってなるじゃん。

 

「せ、センパイ……今のって」

「あの、ごめん。このことなんだけど、どうにか他言無用で!」

「ここ二ヶ月くらいで何があったんですか……?」

 

 う、やっぱ説明要求はされるよね。まぁ確かに五月あたり、俺はこの後輩ちゃんの恋バナにまったくついていけなかったんだから。それが急にこれだ。おかしいと思って当然だよな。観念してその展開を教えると、やっぱりあれ白鷺千聖さんだったんですねと言われた。

 

「……うん」

「センパイは、千聖さんと付き合いたいじゃないんですか?」

「そんなこと考えてオタクやってるヤツなんていないよ」

 

 追っかけやってるとそう思われるのは知ってるけどさ。実際そんなこと考えてるやつ一握りもいないと思うよ。地下アイドルならまだしも……いや去年までの状況を踏まえてパスパレがどっちだったかは議論が噴出するとは思うんだけど。少なくとも冠番組もある、ちゃんと個人の活動もグループの活動もある、という状況から鑑みるとプロと言ってもいいでしょう。ちょっと贔屓目に見た感想だけど。

 

「わかんないです」

「なにが?」

「流行りでもないものにそんな熱心になれる理由が」

「俺からするとすぐ終わっちゃう流行りをなんでそんな熱心に追いかけれるのかって思うけどね」

 

 やっぱりパンピーとオタクの間には越えることのできない溝があるよなぁ。でも、それはオタクかオタクじゃないかって名前じゃなくてもそうなんだって、俺は知ってしまった。みんな越えられない溝がある。千聖さんにも、彩にも、花音にも、パレオちゃんや紗夜さんにも。俺はみんなに名前をつけて、勝手にわかった気でいた。溝を埋めた気でいた。彼女だってそうだ。後輩ちゃんという名前を付けて、勝手に俺が決めた枠の中で納めている。そうじゃない部分を見ないようにしている。

 

「そうじゃないですよ」

「ん?」

「センパイはいつだって、オタクかオタクじゃないかで溝を作ってるじゃないですか。だからそう感じるんですよ」

 

 まるで拗ねたような言い方をする後輩ちゃんは、その名前が溝を生んでるんだと教えてくれた。もっと素直に相手を見ることができれば、そうはならなかったんだって。俺は無意識に同じことをしていたんだな。

 ──オタクだって言われ続けて、名前を作って溝を掘られてたはずが、いつの間にかそれを理由に溝を掘る側になってしまっていたんだった。俺がやられて嫌だったことを、いつの間にか自分でしていたのか。

 

「ごめん……()()

「いいんですよ。白崎センパイは、どーしようもないオタクなんで」

「今その言い方をするかぁ?」

「しますよ」

 

 もう一度だけごめんと言って後輩ちゃん、有沢と一緒にバイトを終えて、そのまま帰っていく彼女を見送った。八番では未だにあの四人が……と思うとなんだかちょっと緊張してしまうね。

 あれだ、ラノベとかなら所謂ヒロイン総出演のハーレムだ。なにせ全員に一度は告白されてるんだから。おかげで胃がキリキリしてるのはやっぱりハーレムなんてこの現代日本の倫理観では無理だってことくらいかな。

 

「お待たせ──」

 

 ──そして歴史は繰り返す。往年のアイドル曲を振り付きで踊っていて、その最後のジャンプでめくれ上がるスカート、やけに大人っぽい白のレース。あれだよね、彩って案外アレな下着を着けてらっしゃるんですね……じゃなくて! 

 

「見た!?」

「見たわね」

「見ましたね」

「そんなに見たいなら!」

 

 見せないでいいです。スカート持って立つなシット! と目線で訴えるとおずおずと着席する。というかなんでみんな今日そろいもそろって……よりによって普段はスキニーの紗夜さんまでスカートなんですかね? 

 

「見せやすいので」

「脱ぐ枚数少なく済むじゃない」

「すぐさまご期待に応えることもできます!」

「私はそんなつもりないからね!?」

 

 前半三人はホントなに言ってるんだろうね! 特に二人ほどすごくナニカを連想させる物言いしてたんだけど。

 そもそも、千聖以外の三人はフった気がするのに立ち直りというかめげてないんだね、というと千聖さん以外の三人がほぼ同じ意味の言葉でお答えしてくれた。曰く、フラれたのと好きなのは関係ない、と。

 

「しかもまだお相手がいないというならば引く理由にはならないわね」

「私がいるのに?」

「千聖さんとはお付き合いをしていないと、千紘さんは否定されますので」

「そうだよ。お互いに同意がないと恋人じゃないよ?」

「くっ……彩ちゃんまで」

 

 物量に負けてる。ごめんね千聖さん……俺もここで千聖さんと付き合ってますとは言えない状況だからさ。恨みがましくこっちをみないで。ちょっと泣きそうな顔するのやめて。推しの涙とかいう最終兵器使おうとしないで。踏みとどまろう? 

 

「さぁさぁ、それはさておき、千紘さんも歌いましょうよ~!」

「いいね、千紘くんの歌、私も聴きたい!」

「結構うまいんですよ、彼」

「はいっ!」

「……紗夜ちゃん、パレオちゃん? サラっとマウント取ってくるのやめてもらっていいかしら?」

 

 いいけど俺もアイドルソングしか歌えないからね? オタ仲間二人は知ってるのでどうでもいいとして、パレオちゃんは現役アイドルの前でよくアイドルソング歌えるよなぁと思いながら眺めていた。紗夜さんは結構古めのバラードを歌いがちなのも知っている。めちゃくちゃ上手いのはさておくとしてね。

 

「……私だけ見せてなかったわね」

「見せてくれなくていいです」

 

 千聖さんのも直で見たわけじゃないし……と思ったら向かいに座っているせいもあり見えた……というよりわざとチラ見せされた。ムカつくけど男として歓喜せざるを得ない。そう思っていると紗夜さんは何を思ったか唐突にスマホをカメラにしてスカートの中を撮り始めた。そして……少しなにかを操作して俺のスマホが震えた。

 

「見て」

「いやです」

「じゃないと直接触ってもらうわよ」

「ぜひ拝見させていただきます!」

 

 これはセクハラじゃないんでしょうか? セクハラは男から女だけじゃなくて女から男でも成立するはずなんですよね童貞いじりとかさ! そうは思いつつも結局抗えなくて紗夜さんのライトグリーンが映し出された画像を開いてしまうんだけど。ああごちそうさまです……って言ったら怒られそう。

 

「オカズならパレオが毎日でも貢ぎますが!」

「わ、私……は、流出が怖いから、無理」

 

 前のめりにならんでください。そんなにパンツばっかり見せられたら前のめりになるのは俺の方なんでやめてもらっていいですかね。

 とりあえずでも、そんな騒ぎのせいですっかり、俺はいつもの俺に戻されてしまったことに気づいたのは最後に二人きりになってから千聖さんにバカみたいにキスされた時なんだけどね。

 

「気をつけなさいね」

「なにを?」

「……あの子は、執念深いわよ」

 

 わかってるよ千聖さん。きっと俺はまた間違える気がするから先に謝っておくと、いいわよとまたキスをされて、それを最後に千聖さんちの前で別れて、家に戻っていく。

 気を付けてってナイフとかじゃないよねと思いながら夜道を歩いていった。

 ──そして、家の前にはナイフこそ持ってないけれど、いつもの明るくてふわっとした雰囲気を完全に失った幼馴染さんだった彼女がいた。

 

「家、上がる?」

「……うん」

 

 これが最後のチャンスだ。花音と話し合う最後の。嫌われたっていい、殴られたって……さすがに殺されるのは勘弁してほしいけど、なんならまたアレをしたっていい。俺は、花音と話がしたかった。

 幼馴染という名前がなくなった今だからこそ、俺は花音の本音が訊きたいから。

 

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