なんとしてでも、推しは推しとして推したい! けどパンツは見たい!   作:黒マメファナ

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好きだからわがままになりたい

 ──全て叶わないくらいなら、全て壊してしまえばいい。

 あの雨の日、千紘くんは私に嘘をついた。本当は千聖ちゃんを家に上げたのに、それを隠した。そして、二人はまだ愛ですらないそれを貪りあった。

 許せなかった。私のことをずっと幼馴染としていた彼を、そして応援すると言った口で彼に愛してると囁いたであろう千聖ちゃんを。だから私は、全てを壊した。千紘くんに不貞を働かせて、幼馴染ですらない、オタクですらない。ただ下半身に正直になったケダモノとして貶めた。

 

「それで話ってなあに?」

「……花音」

 

 それから数日後、千聖ちゃんに呼ばれて私はファストフード店で恋敵と向かい合った。彼女も気づいたのだろう、千紘くんは決してあなたのものじゃないということを。それじゃあ、戦争を始めようね。口火を切ったのは、千聖ちゃんの方だった。

 

「千紘から連絡がこないの」

「うん」

「もしかして……」

「うん」

「──私、嫌われたのかしら?」

「……うん?」

 

 ここから糾弾される、と思っていたのになんか、なんか違う。千聖ちゃん……もしかしてなんにも気付いてない? 私のこと気付いてないのかな? え、でも千聖ちゃんなんだからそのくらいの予想は立てれると思うんだけど。

 

「だって! 今まで一度たりとも既読無視はされなかったのよ? それが急に……ねぇ花音なら何か知っている?」

「……え、ええっと」

 

 ふえぇ……千聖ちゃんが、いつもの千聖ちゃんじゃないよ? 恋は盲目なんてよく言ったもので、純粋に千紘くんから連絡がこなくておろおろしてる。あの、連絡こなくしたの私だって気付いて? 気付かないとお話しが進まないんだけど。

 

「あんまり褒められた方法じゃないし、危険だけれど……アレをやるしかないわね」

「アレ?」

「パンツよ」

「ん?」

「パンツを撮って送るの。それなら既読無視することもできないはずだもの」

 

 なんかおかしなことまで言い始めた。パンツ? ううん、なんか頭痛くなってきちゃった。

 ──でも、そんな純粋でかわいらしい恋心が、私の気持ちに再び火を点けた。なんで無視されるのか知ってるよ。そんな風に挑発めいた口調で私は千聖ちゃんに言葉を向ける。

 

「え?」

「私だもん。私が千紘くんを壊しちゃったから」

「……何を言ってるの、花音」

「わからない?」

 

 なんだっけ、なんとか姉妹、だね? そういう言い方あったよね? と口にすると千聖ちゃんの顔が青ざめていくのがわかった。同時に、どういう流れで千紘くんを壊したという結末になったのかを察知したみたい。

 

「花音……!」

「なんで被害者みたいな顔ができるの? あなたが悪いんだよ? あなたが……私の千紘くんを奪った」

「奪った……? 千紘は誰のものでもないわ! それを、あなたの勝手な感情で壊したって言うの?」

「恋なんて勝手な感情でしょ?」

 

 すごく身勝手な感情だ。好きだから独占したい、汚したい、穢されたい、独占されたい、犯したい、どんな気持ちも恋という魔法の前には素敵な色を付ける。私の幼馴染だったのに、千聖ちゃんのせいでなにもかもおかしくなったんだよ。

 

「もう、千紘くんに近づかないで、千紘くんは私のものだから」

「それを決めるのは花音じゃない、千紘自身よ」

「じゃあもう、連絡のこない千聖ちゃんは、少なくともありえないね?」

「──っ!」

 

 その言い合いはパレオちゃんと紗夜ちゃん、また恋敵とも呼べる二人によって止められた。この二人も排除しとかないと。後は……彩ちゃんもかなあ。ダメだよ千紘くん? 私を見てくれるなら、私が一番近くにいるって言ったのにそうやって浮気をするから、ぜーんぶ壊されちゃうんだよ? ゆっくり、ゆっくり壊していく予定だった。それなのに、それから二週間ほどが経って、状況は……驚くほど変わってなかった。

 

「千紘さんのバイト先、ですか?」

「ええ」

「千聖ちゃん、知らないの?」

「教えないんですよあの人」

 

 シフトを出しに行ったら、たまたま四人がなにやら相談をしているようで私は盗み聞きをしていた。どうやら千紘くんのバイト先に突撃しようとしているものの誰も場所を知らなくて困っているようだった。私だけが知ってる、そんな優越感にふふ、と声を漏らして笑っているけれど、パレオちゃんがなにやら少し大きなタブレット端末を取り出していた。

 

「まずは情報を精査しましょう。千紘さんからバイト関連の話、何か聞いていますか?」

「そもそもバイトやってるところ想像しにくいわよね」

「た、確かに……ちょっと難しい」

 

 うん、そうなんだよね。でもオタ活をするにはバイトは必須ということで千紘くんはバレにくいバイト先を探したんだよね。

 と、次に手を上げたのは紗夜ちゃんだった。ここで重要なのは千紘くんはそうそう嘘はつけない、ということだった。だからこそ、こうして千紘くんの発言をまとめて推理しようとしてるんだろうけど。

 

「時給の話で深夜手当、という言葉が出てきたから深夜までやっているもしくは24時間の可能性があります」

「おおーなるほど」

「コンビニとかかなぁ?」

「いいえ、たぶん普段から知り合いが少ない、という条件が付くわね」

「うーん、するとコンビニはないかなぁ?」

 

 みんな、すごいなあ。そこまで行くと飲食、表に出るような接客業……高校生がバイトできる軒並みが候補から外れていく。そしてその条件が達成できる上に、たぶん千紘くんは最大のヒントを言ってるはず。そういううっかりさんだから

 

「──! あ、パレオ、わかっちゃいました!」

「ホント!?」

「はい! 千紘さんの財布ってポイントカードとかほとんど入ってないんですけど、何故かカラオケの会員ポイントカードだけ持ってるんですよ!」

 

 そうなんだよね、もっと言うと千紘くんはその手のサービスとかに詳しい。当たり前だよね、そこで働いてるんだから。

 パレオちゃんの情報にみんな盛り上がっていく。でもこれだけじゃ情報不足なのも事実だった。なにせそのチェーン店、近くにたくさんあるから。

 

「いっぱいあるね」

「そ、そうですね」

「まぁどこでも見かける部類ですし」

「ここは、もう千紘の行動原理を推察するしかないわね」

「心理トレースですね!」

 

 諦めない。ここで私なら後日ストーキングしちゃえばいいやと思っちゃう部類なんだけど、どうやらこの四人は今日、そこに行きたいらしい。わかんないなあ、そこまで頑張っても、千紘くんは千紘くんでしかないのに。

 

「短絡的に行けばここが一番近いですね」

「だけど彼は誰かに会うことは避けるわ」

「特に推しである千聖さんに会うのは避けるかと」

「すると……高校の近く?」

 

 そう考えるのが妥当でしょうね、と言った千聖ちゃんはもう答えを見つけているかのような雰囲気だった。

 千紘くんのめんどくさい性格上、誰にも会わない場所を選ぶはず。でも高校の最寄り駅と自分の最寄り駅、その圏内で芸能事務所や千聖ちゃんのお仕事の範囲外になるだろう場所に千紘くんのバイト先はある。

 

「ココね」

「なるほど」

「彼らしいですね」

「では確かめに行きましょう!」

 

 そう言って意気揚々と四人は千紘くんのバイト先に向かっていってしまった。どうして? どうして私が何もかも壊したはずの千紘くんを、そうやって丁寧に直そうとしてくるの? イベントに行ってしまって、またオタクになっちゃって、どうやら彩ちゃんも加わってまた新しい名前を付けてもらって。どうして? なんでみんな……千紘くんを見捨てないの? どうして……? そんな風にぐるぐる考えて、口に出してしまっていたら、ひまりちゃんがいつの間にか隣にいた。

 

「だったらなんで、花音さんは先輩のこと、まだ好きって顔してるんですか?」

「ひまりちゃん……」

「ホントの花音さんはどっちなんですかっ、先輩が好きなのか、それとも嫌いなのか」

「……それは」

 

 好きだよ。でも、私以外に優しい顔をする千紘くんが嫌い。私が千紘くんの一番傍にいたのに! 私が一番長く千紘くんを見てきたのに、好きだって言い続けてきたのに! 恋人じゃなくても、すごく、すごく幸せだったのに、それをあの子たちが壊したんだよ? 

 

「……違います。花音さんは、先輩のこと見てなんかいませんよ」

「そんなこと!」

「少なくとも今は、先輩のことなんにも見えてませんから」

 

 ひまりちゃんはまっすぐに私を見る。透き通ったその目に映った私は、とても濁って歪んだ顔をしていた。

 ──涙があふれてくる。こんな醜く歪んでしまった愛情を抱いていたら、千紘くんだって愛想が尽きるよね。私、いつからこんな風になっちゃったんだろう。

 

「長すぎたんですよ」

「長すぎた……」

「蘭が教えてくれたんですけど、水って常に流れてないとどう頑張っても濁ってダメになっちゃうんですって。停滞しすぎちゃったんですよ」

「……そっか」

 

 雨も降らずにじめじめっとしたところにずっと放置された水たまりのような関係、それが私と千紘くんの関係だった。でも、それが間違いだったんだ。ひまりちゃんは、続けてでも千紘さんは変わろうとしてますよ、と優しい声を掛けてくれる。

 

「先輩はずっと、花音さんのこと気にしてますよ。今ですよ……変わりたいなら、今しかないですっ」

「……変わる」

 

 それは、すっごく怖かった。だってそれまでずっと幼馴染だったから。千紘くんはずっと幼馴染で、それがあるから私は彼とずっと一緒にいられたのに。

 ──でも、もうそれじゃダメなんだ。これからも一緒にいるためには、幼馴染じゃ、ダメなんだ。

 

「私……千紘くんのおうちに行ってくる」

「え、大丈夫ですか? 迷子になりませんか?」

「多分っ、大丈夫……!」

 

 大丈夫、大丈夫。私は変わるんだ。迷子にならずに彼の家まで、そうじゃないと私はずっと、ずっとこの気持ちの行先がわからないままだから。

 雨の降りそうな空を気にしながら歩き続ける。すっかり暗くなって、それが怖かったけど、私は一人で歩き続けて……そこに見知った家を見つけた。

 それから少しして、千紘くんがやってくる帰ってくる。私を見つけて、少しだけ迷ったような顔をしてから、優しい声で家、上がる? と訊いてくれた。

 

「……うん」

 

 ひまりちゃんの言った通り変わるなら今しかなくて、きっとこれが最後のチャンスなんだろうと思う。千紘くんとの関係を変える最後のチャンス。嫌われたっていい、今ここで千聖ちゃんのことを好きって言われても……えっちされても、って思ったけどそれは流石に嫌だなあ。でも私は、千紘くんとお話しがしたかった。

 幼馴染って名前がなくなった今だからこそ、千紘くんに本音で話せる。それを聞いてほしい。

 ──ああでも、まずは……甘えたい。もう壊したいだなんて思わない。ただ純粋に、千紘くんのあったかい腕の中で私の壊れちゃった気持ちを全部、洗い流したい。そう思って飛び込むと、戸惑いながらも包んでくれる。

 

「……放置してごめん」

「ううん。私こそ……ごめん」

「お、落ち着くまで……こうしてる?」

「……? うん」

「そ、そっか」

 

 ちょっと心臓のドキドキが多い。なんでそんなに緊張してるんだろう、と思ったらそっか。最近で密着したのが……アレをした日だったから、なんか千紘くんはかわいいなあ。ああ、千紘くんがソレでも、落ち着いてくれるならいいって思ってることが伝わると、急に私はわがままになってしまう。ほしい、ほしい、千紘くんがほしい。いっぱいごめんねと大好きを伝えたい。

 そんなわがままに振り回されて、千聖ちゃんのあの言葉が思い浮かぶ。千紘はパンツで喜ぶわよって言ってたっけ。

 

「今日ね……何色だったっけ」

「確認しなくていいよ? なんで見せる前提なの?」

「え……だって仲直り、するんでしょ?」

「仲直りでパンツを見せる風潮が花音の中の文化なの!?」

 

 そんな驚かれても、私聞いたことあるよ。男の子のストレスはおっぱいを揉むといいとか、キスは免疫を上げるから健康やストレスにもいいって。パンツも元気になるんでしょ? それにほら……漫画で仲直りえっちって言葉もあったし。

 

「それ、恋人同士ですることじゃない?」

「……あ、今日は黒だったあ」

「話を聴いてほしいかな!」

 

 こういうのは雰囲気と勢いだよ? というと千紘くんは諦めたようにおいでと両手を広げてくれる。

 ──ああ、やっぱり大好き。ごめんね、千紘くん。もうキミの幼馴染にはなれなくなっちゃったけど、私は幼馴染になれなくなったからこそ、いっぱい伝えたい。ずっと、私はキミが好きなんだ。最初はね、一緒にいたらそれでいいって思ってたけど、中学生の時、入院したキミにキスした時からもう、ホントはダメになってた。大好き。愛してる。いっぱいいっぱい、私のことを受け止めてほしい。あ、でもその答えは、疲れたから明日の朝にしようね? 

 

 

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