なんとしてでも、推しは推しとして推したい! けどパンツは見たい!   作:黒マメファナ

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幼馴染の終わり

 ──それから半年が経ち、世間ではすっかり冬がやってきていた。来た、と言っても雪とかは降るわけではなく、暖房の効いた部屋でのんびりと……そう非常にのんびりとした日常を過ごしていた。

 

「もう無理大学のレベル落とす」

「ええ……頑張ろうよお」

 

 これがのんびりとした日常になるくらいには、元々そんなに地頭のよろしくない俺なんだけど、バイトとイベントの合間に花音に勉強を教えてもらって、そこでなんとか中程度の成績を維持していた。ノートの取り方が壊滅的に下手っぽくて、花音が解読して、足らないところを教科書から補完してくれるって寸法でね。高校違うのにホントそれは助かってたんだけど、さすがに受験はまた違うんだよね。

 

「一緒の大学行こうねって約束したのに」

「だって……レベル高くない?」

 

 夏休み前に口約束でいいよ! って言っちゃったけどさ。模試の判定見て驚愕だったよ。ノートの取り方を指摘されても俺だってどうしてここまで下手になるのかわかんないね! たぶん別のこと考えてるんじゃないかなって言ったらもう少しでBD叩き割られるところだった。俺の癒しが! 推しが! 

 

「癒しであり推しならここにいるじゃない」

「千聖さんは何しに来たの?」

「茶化しに」

「私はアメとムチのアメ係よ」

「私だけでできるもん」

 

 あのあの? お二人でバチバチモードはやめていただけます? アメとムチって千聖さんアメで叩いてくるじゃん。いやムチで優しくなでてくるような花音も十分ヤバいんだけどあなたたち役目交代しません? 

 

「仕方ないわね。今日はちょっとご褒美にというわけで気合を入れたのよ」

「……っ!」

「あら、いい反応ね♪」

 

 白のレースが眩しい紺色のショーツが俺の前にさらされた。なんだろうね、花女のセーラー服から覗く白い太股から見える秘境って感じがすごい。なにがってもうなんかすごい、最高、優勝。富士山山頂から見る初日の出って感じ。ただ反応がサディスティックなのでやはりアメで殴ってくる。

 

「いいわよ……ちゃんと勉強ができたら、顔、入れる?」

「か、かお……っ」

 

 ソファーに座ってる千聖さんに対して俺が床に座っているのでスカートを捲って見せられただけでもかなりアングルがアレなのに、さらに脚をゆっくり開かれるもんだからちょっと鼻息が荒くなってしまっていると太股をえい、とシャーペンで刺されて痛みが襲ってくる。

 

「痛い! 言葉で咎めてよ」

「変態、鼻の下伸びてる」

「仕方ないわよ、千紘はコレには抗えないんだから」

 

 抗える男いる? おらんくない? 嘘でしょノーマル性癖持ちで目の前でかわいい女の子にパンツ見せられたら興奮するでしょ? 俺がおかしい? いやおかしくないはずだ! ただややマゾヒズムに歪んでるのは認めるところであると思う。だって満場一致だし。

 

「んんっ、ほらあ……あとちょっとできたら……ベッド、行こう? パンツだけじゃなくて全部見せてあげるから……ね?」

「ぜ、ぜんぶ……!」

 

 耳許で脳が蕩けそうなくらいに甘いボイスで囁かれ、脳内余すところなく真っピンクにされてしまう。腕を掴まれ肘はもにゅんと柔らかで、でもややワイヤーの硬さとおそらく真ん中のリボンであろう感触がして、手は太股に挟まれてしまった。

 

「ちょっと花音。昇天してるわよ」

「ああ、千紘くん!?」

 

 勉強で熱を上げていた俺の頭はさらにピンク色の波動で完全にオーバーヒートしてしまった。ちょっとさすがに無理、とソファーに頭を乗せて天井を見上げながら手を振ると千聖さんが隣に座って、花音がちょっと名残惜しそうにしながらおやつにしよっかと立ち上がった。あ……水色だ。

 

「見たわね」

「……チラリと」

「どうだった」

「最高だった」

「変態」

 

 言いたいだけでしょ。それにしても今日は水色と紺色って、相変わらず仲良しですねというと頬をつままれた。痛い痛い。けどこれは幸せで贅沢な痛みということは重々承知なので甘んじて受けていると、結局大学受験、大丈夫そうなの? と心配そうに伺ってきた。

 

「千聖さんもおんなじところなんだっけ」

「ええまぁ、その方が便利なのよね」

「じゃあ余計にがんばろ。推しとおんなじ大学とかマウント取りまくりだ」

「なら数学は私が見てあげようかしら?」

 

 お手柔らかにお願いします。少し見せてもらったけど千聖さんってスゲーノートの取り方上手なんだよね。芸能活動してるのにちゃんと単位足りてるって時点でもはや尊敬ものなんだけど、なのに俺よりフツーに判定いいのは本当にもうなんていうか授業に対する姿勢の違いだよね。

 

「もうすぐクリスマスね」

「やーっと二学期が終わる」

「イブのイベントは来るわよね?」

「そりゃもちろん」

 

 そりゃあさ、個人的感情としては千聖さん個人と過ごしたいんだけど、ほらやっぱりアイドルなわけだからね。それに俺は花音とも過ごしたいし、だったらもう不公平なく紗夜さんやパレオちゃんなんかに声をかけて盛大にクリスマスパーティーでも過ごそうかと思ってるし。

 

「それ、夜通しの予定かしら?」

「たぶん?」

「なら、私は彩ちゃんに声をかけてみるわね」

「うん」

 

 今年はどうやら寒波が来るらしく花音はホワイトクリスマスになるかもよってわくわくしたよう微笑んでたなぁ。いや笑えない絶対寒い。ホント暑いのも寒いのもイベントで野外に出る民としては地獄もいいとこでしょ。凍え死ぬっての。そんなこと言ってる間に花音がおやつタイムだよおとチョコケーキを持ってきた。

 

「うわ、美味しい」

「紅茶も完璧、さすが花音だわ」

「えへへ」

 

 どこかの有名店のチョコケーキらしく花音は一度食べたいねって千聖さんと話していたものらしい。甘いのがそんなに得意じゃない俺もこれはいける。クリームが甘さ控えめで、チョコもちょっぴりビターだ。甘くないふわふわクリームに、ビターなのにでもミルクも配合されてるのかやっぱり甘さが後を引くチョコレート。なんだか俺を挟んでる二人のようで、少し笑ってしまう。

 

「終わったら数学よ。私は今日、そこまで長くいられないのだから」

「じゃあ私はお夕飯の準備しとくねえ」

「私の分も?」

「そりゃあもちろん。食べてから行くでしょ?」

「ええ、じゃあお願いね、花音」

「うんっ」

 

 ああ、この時間がもっともっと、ずっと続けばいいなぁ。夏くらいまではギスギス感が強かったのに、いつの間にかまた親友同士に戻っていて、仲良く俺を取り合っている。ほのぼのとした三角関係だった。思わずその関係に甘えたくなるくらいに、居心地のいい関係になってしまっていた。でも、おしまいにしなきゃいけない関係なんだ。

 

「それじゃあごちそうさま」

「またねえ」

 

 数学地獄から抜け出し、ご飯も食べ終わり、千聖さんが帰っていく。この後もまた勉強かぁ、とちょっとげんなりしながら見送っていると、頑張りなさいとほっぺにキスをされた。うん、頑張ろうって思えてしまうところあたり俺って単純だなぁ。

 ──だが、花音が戻っていった隙に、千聖さんは俺の名前を呼んできた。

 

「千紘」

「ん?」

「……パンツ見たい?」

「……遠慮しとく」

「そう……わかったわ。じゃあね、千紘」

 

 うん、じゃあね千聖さん。俺は夜闇に彼女が消えていくのをずっと見守っていた。ずっと変わらず、千聖さんは千聖さんのままだ。推しは推しのまま推してるけど、それとは別に、千聖さんって大切な人ができたんだ。大好きだった。厳しくて優しい千聖さんが、俺は大好きだったんだ。

 白い息を吐いて、やっぱ日が暮れるとちょっと冷えるな、なんて思いながら部屋に戻ると突然花音が飛びついてくるのをちょっとカッコ悪いけどドアに背中を預けて受け止めた。

 

「わっと……花音?」

「えへへ……独り占めしよっかなあって」

「千聖さんに怒られるよ?」

「かなあ」

 

 けど拒否することもなく俺は花音を抱きしめる。やがて満足したらしい彼女は続き頑張ろうねと笑いかけてくる。うげ、もうよくない? 帰ってきてからずーっと勉強してる気がしてきたんだけど。

 

「だめ、ただでさえ判定厳しいんだから。取り返さないと」

「はい……」

 

 スパルタである。割と千聖さんの方が俺を気遣ってペース配分してくれるところがあるけど花音はひたすらに俺を振り回してくる。甘えんぼで、ずっと一緒にいてくれた幼馴染で、今はこうして、想いを通じ合わせてる。

 

「ねえ」

「ん?」

「千聖ちゃんと何を話したの?」

「なんも。パンツ見たい? って言われたからもういいよって遠慮しといただけ」

「……そっかあ」

 

 こつんと頭を寄せられる。勉強中に甘えたいって意思を示されるの、実はすごい珍しいことで何か嫌なことでもあった? と訊こうと思ったら、全部をその唇に吸われてしまった。

 ──花音は独占欲がすごい。千聖さんも十分すごかったけど、なんだろうな、花音はずっとずっと幼馴染でだからこそ我慢してきた部分がいっぱいあったんだろうな。それが崩れて以降は求められるし、貪られる。それもまた愛情なんだなって気づいたのは秋が深まる頃だった。

 

「花音」

「……っ、あ、ご、ごめん、千紘くん……また」

「いいよ。おいで、花音」

「……ちひろ、くん」

 

 あの秋の日、花音と千聖さんの三人でデートに行った時に、俺たちの前に現れた懐かしいような懐かしくないような、花音を怒らせたあの男が迫ったことがあった。壁際に追い詰め、腰を抱いたその瞬間、俺は思ったし、そのまま口に出していた。

 ──コイツに触っていいのは、コイツが触れられてもいいって思ったヤツだけなんだよ! って。我ながらつっかえつっかえでカッコ悪かったし、殴られて痛かったし恥ずかしかった。でも、そんな独占欲じみたものが俺の中にもあって、その名前が愛情だって気づいたから。

 

「泊まりたいなあ」

「ダメ」

「えー」

 

 散々甘えまくっていつもの発作のようなものがなくなった花音だったが今日はさらに甘え声を出してくる。えーじゃないです。花音のこと好きを前面に押し出しての甘え方はまだまだ慣れてない部分もあるから、もうちょっと待ってもらっていいかなと思う。けどどうやらそうはいかないらしい。

 

「いつもみたいにご褒美に、しよ?」

「そんなことした覚えないんだけど」

「今日から」

「あはは、帰れ」

「いじわる」

 

 いじわると言われようとなんと言われようと、俺はまだ花音と恋人になった覚えはないからね。壊れかけてたけど一応、まだ俺と花音の関係に名前を付けると幼馴染でしょうが。

 だが、それこそが花音の一番の不満であるため頬が膨らむ。はいはい、むくれないむくれないと宥めていく。

 

「絆してご褒美とやらで疲れてそのまま泊まる……が流れなのは知ってるからね」

「む、バレてる……」

「当たり前でしょう」

 

 これで一線はまだ踏み越えてない、って言うならまだしもね? もう散々抱いたんだからいいでしょってあなたたち俺のこと何回襲ったんですかね? 確かに六月の拗れた時に千聖さんとは一日中ダラダラと、花音とは仲直りという名目で朝まで、散々抱いたけどさ。いい加減婚前交渉どころか付き合う前からこういう淫蕩生活はよろしくないと思うんだけどどうかな花音? 

 

「確かに、えっちなのはよくない……んしょ」

「俺に跨り、脱ぎながらのクセによく言えますね!?」

 

 びっくりの言動のちぐはぐさなんだけど。ああおかげでチラ見だったはずの水色にピンクのリボンがかわいらしいふわふわとした下着姿が露わになっちゃってる。これでドキドキしなかったらヤバいやつだけど、もう俺は、これ以上は誘惑されないんだからな。

 

「んー、じゃあ幼馴染やめよ?」

「……そうくる?」

「うん」

 

 む、バレてる気がする……まぁしょうがないか。俺としてはクリスマスイヴのイベントまで引っ張りたかったんだけど、たぶん千聖さんにもバレてる気がするんだよね。と言っても決めたのはつい最近のことでまた迷うかもしれないしなんなら……あ、いやここから先は最低男まっしぐらだからやめておこう。

 

「服を着たら返事をします」

「……やだ」

 

 やだって言いましたかこの人!? 露出狂なの? 千聖さんもそうだけど俺の周囲の人マジで好きな男にはパンツを見せたり教えないとしなきゃいけない文化圏からやってきてるのかな? だけど頑固な花音は動く気配がないので、そのままの体勢から上半身を起き上がらせ、花音を抱きしめた。

 

「幼馴染、やめてもいい?」

「……いいよお」

「ごめん、ずっと、宙ぶらりんにして」

「十年くらい待った」

「それは盛りすぎ」

「ふふ」

「あはは」

 

 ほらな、花音を泣かせてしまった。もう俺は二度と、彼女を幼馴染さんと呼んでた頃には戻れなくなった。涙を流し俺の方に顔を埋めて泣きじゃくる彼女をひたすら抱きしめていく。花音も俺の背中に手を回してひたすらに、声を上げて泣いていた。

 

「……クリスマスイベント」

「うん?」

「私も一緒なら……いいよ」

「わかった」

「ナンパされちゃわないように守ってね、千紘くん」

「はいはい」

 

 ──多分このオタク気質は一生変わらない。例え花音の前だろうと、俺は千聖ちゃんの害悪厄介認知勢オタクはやめられないし、やめるつもりもない。いつまでもイベントに顔出して他のオタクにマウント取るし、ライブでは汗掻き喉をからしながら黄色のペンライトを振るよ。

 

「そこは変わらないままかあ」

「ドルオタだから」

「変態さんだけど」

「おい」

 

 でもまぁ、花音の言う通り俺ってかなり変態なんだと思う。でも千聖さんだって花音だって同じくらい変態だからね。すぐスカート捲るし、捲らなくても色んな方法で色とりどりのパンツを目撃してきたんだから。黄色、白、黒、緑、青、紫、紺、ピンク、赤、水色ってバリエーション豊富。時にはなんか意匠の凝ったものなのとか言って画像で解説しながら現物見せてくれたり、透けるやつとか履いてきたりさ。色々、ホントにこの数ヶ月で二人のパンツを見てきた。好きな人のパンツを、これでもかというほど堪能してきてるんだよね。

 

「つまり?」

「いや別に……次はどんな刺激的なんだろうなぁって」

「どうしようね」

 

 とんでもない会話を、幼馴染だった彼女と繰り広げていく。楽しみにしてて、とか言われて俺は苦笑いをしてしまうけど、俺はそれが楽しみでしょうがなくなってることに気づいた。

 こう宣言した以上、花音はとんでもない、所謂勝負下着で来るのだろうか、それとも案外普通かな。ああもう妄想が止まらなくなってきちゃったな、なんて言うと花音はバカと言いながら俺にキスをしてくれた。

 ──ああ、俺は大好きな人と過ごす大好きな日常は、刺激に満ち溢れてるんだ。これからもずっと。

 

 なんとしてでも、推しは推しのまま推したい! けどパンツは見たい! スカイブルーEND! Thank you for reading.

 

 

 

 

 


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