なんとしてでも、推しは推しとして推したい! けどパンツは見たい!   作:黒マメファナ

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日付変わってしまった敗因:前後編になったこと。


カノジョとして私にできること

 久しぶりのイベント、楽しんでるかなあ? そんな風に私は時計を眺めながら彼の帰りを待っていた。もちろん、そこには彼の推しでありかつて深く繋がり合った関係までいった千聖ちゃんや、まだちょっとだけ狙ってる感じのある彩ちゃんがいて、パレオちゃんもいるってなるのは妬いちゃうけど。

 

「……最近は私の方が、ヒドいことばっかりしてるもんね」

 

 大学では私がまるでアイドルみたいに扱われていて、いっつも側にいてくれてるはずの千紘くんは空気以下の、それこそ私に付く悪い虫さんみたいな扱いで。そんな嫉妬や憎悪を向けられた彼は、ひと月経つ前にはもう昔に戻っちゃったみたいに、優しく私を突き放してきた。

 

「サークルの新歓でしょ? そういうの顔出すのが大事なんだから」

「未成年なのにお酒出されて……えっちなことされちゃうかもよ?」

「お前は……どこでそういう知識を仕入れてくるんだよ」

「千紘くんの部屋にあったやつだよ?」

 

 慌てながら、実際やったら犯罪だから大丈夫だよって千紘くんは言ってたけど、新歓で先輩が私の身体を見て近くに寄ってきたり、肩とか触ろうとしてきたり、この後ホテルどうとか言われたよ。彼には言ってないけど。あと全部興味ないしカレシいるんでって追い払ってあげたけど。

 

「すっかり強かになったわね、花音」

「まあ……私の千紘くんを軽んじる最低な男のヒトっていうのには慣れちゃったし」

「でも隙を突いてくるのね」

「守ってくれないんだもん」

 

 言えない、というのも私がまだまだ変われてない証拠なんだけどね。だってそれは実質的に千紘くんを盾にする行為なんだもん。客観的に見たらそんなにイケメンでもないしオタクだし、釣り合ってないから寝取りやすいって思われちゃって、余計に当たりが強くなりそうだよね。

 

「あのヒトのステが低いって扱いが我慢ならないわね」

「紗夜ちゃん」

「こんにちは」

「卒業以来ですね」

 

 そんな話をしていると、近くの席で注文を終えた紗夜ちゃんがとてもかわいらしく唇を尖らせていた。みんな忘れられないんだなあ……って何年も何年も積み重ねて拗らせちゃった私が言えることじゃないんだけどね。

 

「あのヒトが低いのは自己評価でしょう」

「まぁそうよね。でも確かに、花音に今度こそ嘘を吐かせたくない。そう思ってしまってるのかしら」

「そのために自分が優しい嘘を、というのは全く成長が見られませんが」

 

 そうなんだよね。もっとわがままになってほしいんだよねえ。なんならもう大学でもいちゃいちゃしてればいいと思うし、パスパレを、千聖ちゃんを応援したいっていうなら堂々とイベントに行けばいいと思うよ。

 

「そんな器用じゃないでしょう。白鷺さんが相手なら尚更」

「あはは、えっちなことしちゃったからねえ」

「……それはそれで無責任よ。私だって会いたいのに、わかってないなんて」

 

 ふふ、だからそんなに器用じゃないんだってば。そんなところも好きだなあって思っちゃえるんだけど。

 ──そんな千聖ちゃんの言葉もあってか、千紘くんは今日のイベントに行った。明日が私の誕生日なのにってしきりに訊ねてたけど、それは明日の予定、でしょ? イベントに帰ってきてからでいいよおって見送った。嘘じゃない。だって私の知ってる大好きな笑顔をする千紘くんはいつだって、好きなことをしてキラキラしてる千紘くんだから。

 

「ただいまー」

「あ、おかえり……!」

 

 出迎えると、千紘くんは優しい笑みとあったかい腕の中で包んでくれる。ちょっとびっくりしたけど、嫌とは絶対に思わない。汗臭いとか、そういうのも気にならない。むしろ好きなヒトの匂いは好き。好きなヒトに包まれるのは、大好き。

 

「ちょっとだけ遅くなった」

「ううん、大丈夫だよ」

「お風呂もう入った?」

「うん」

「じゃあ、先お風呂にしようかな」

「うん」

 

 そう、そして私と千紘くんは今、一緒の部屋で暮らしてる。前から泊まらないだけでそういう感じだったんだけど、大学進学をきっかけに千紘くんの両親が元々ほぼ一人で生活させていたことや私の両親が通うのは大変だろうって言ってくれたことが重なって親公認で近くのマンションに。こんな都合がよくていいんだろうかって思ったり、結局これは二人で生きていけてるわけじゃないんじゃないかって思ったりしたけど、それから先がどうなるかは私たち次第だよね。後、大学入ってから思うのは同棲してるっていうのは私のことを狙ってくるヒトたちを牽制しやすいなあってことくらい? 

 

「ふぅ、さっぱりした」

「千紘くん、パレオちゃんから連絡来てるよ」

「ん? なんか忘れ物でもしたかな、ちょっと読み上げてもらっていい?」

「はあい」

 

 冷蔵庫で冷やされたお茶を取り出してる千紘くんに言われて机の上にあったスマホのロックを解除する。そのままメッセージアプリを開いてパレオちゃんと書かれたかわいいアイコンの場所をタップする。そこには無事着きました、おやすみなさいという言葉と久しぶりに話せてとても嬉しかったので幸せのおすそ分けです、と動画が添付されていた。

 

「──っ!? それってまさか」

「……千紘くん?」

「あの、あのね花音……いやなに言っても言い訳になるんだけど俺は横のアングルでしかそれを見てないんだよ!」

 

 その動画はパレオちゃんの車の中で千聖ちゃんがわざわざゆっくり見せるようにタイツを脱いでるというものだった。パレオちゃん視点であるだろうその隣で目線が下にある千紘くんもいて、真正面から撮影しているためその下にあったワインレッドのショーツが惜しげもなく晒されていた。

 

「目線が変態さんだよ?」

「……それは認める」

「あ、また画像が……今度はパレオちゃんかあ」

「見せなくていいよ、察した」

「見せないよ、変態さん」

 

 でも続けて今日見せたものですってメッセージが添えられてるから見たんだよね? 訊ねると目を逸らしながら見ましたとか細い声でお返事がきた。

 ──んー、そっかあ。なるほどねえ。

 

「脱ぎ始めるなよ」

「……流石にわかる?」

「お前の行動はね」

「えへへ~、カレシさんだもんねえ」

「って言いながら脱いじゃうんだよなぁお前は!」

 

 そこも大正解♪ 私は私のことを知ってくれる大好きなカレシさんと一緒にいられて幸せだよ。そう言うとそういうのは服を着てから言ってもらえますと怒られてしまった。えっと……今日はシないの? 

 

「日付変わったら誕生日だよ?」

「だからなに?」

「プレゼントほしいなあ」

「逆じゃない?」

「赤ちゃんだよ?」

「まだ早くね!?」

 

 冗談だよおと笑う。まだ早いもんね、まだ。その言葉が聞けただけでも嬉しくて、さっきまでちょっとヤキモチ妬いてたの、全部吹き飛んじゃった。服は着ないけどね、だって今日はそのつもりでお風呂上りでも気合入れてるからね。

 

「そういうのはもっとムードがほしいというか?」

「本音は?」

「隠れてるのを捲られてるのが好き」

「……うーん、変態さんだね」

 

 拗らせちゃってるんだね。でもそれはホラ、去年千聖ちゃんとか私がさんざんパンツ見せちゃったせいもあるからそういう性癖の責任は取らなくちゃ。遠慮されちゃうけど、私は別に、確かにまじまじと見られると恥ずかしいかもしれない。でも、千紘くんになら、変態さんの目で見られてもイヤじゃないよ。

 

「だから、もっと私を見ていてね? いーっぱい独占していいから」

「花音……ありがとう」

「ふふ、だって私は千紘くんが大好きだから」

 

 ハジメテは、彼を壊すために利用した。本当は痛くて泣いちゃいそうで、でも怒りが私の涙をひっこめて。二回目は心が痛かった、何度も何度もごめんねと謝って、でも千紘くんは怒ることなく、抱き締めて名前を呼んでくれた。それから先はもう、痛いと思うこともなく、日付変わる前には起こしてねと言い残して私は彼に包まれたまま眠りについた。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 ──時刻は十一時半を回ったところで、俺は隣ですうすう寝息を立てる花音に目を向けた。こう見ると去年の春から初夏にかけての二ヶ月の間にあった怒濤の事件に比べて苦しそうな表情が減った。

 

「……ん、う……おはよお」

「おはよ」

「んふ……ふふふ」

「どうしたの?」

「起きたら、千紘くんがいるのが……幸せだなあって」

 

 代わりに目に見えて増加していったのは柔らかく甘い笑顔、幸せの笑顔だった。さみしがりで甘えんぼうで、独占欲が強くてちょっとだけ意地悪で。ずっとずっとそばにいてくれた俺の大切なヒト。そんな彼女の誕生日が目前に迫っていた。

 

「ほら、せめて服着てお祝いしようか」

「ん……パンツどこお?」

「俺が探すんだね……」

 

 本人じゃなくて脱ぎ散らかした下着が迷子になってしまったようで布団を捲って探すと、紫色に白の刺繍が入ったソレを発見し、ちょっとだけ持ち方に気を遣って渡す。こう布の状態だとまだ平気なんだけど、どうしても花音のスタイルや白い肌がコントラストになってたり着替えの瞬間を見せられると違った感情が湧くんだよなぁ。だから衣擦れの音だけが耳に入ってくるようにする。

 

「着替えたよ~」

「まだ頭、寝てるな」

「そんなこと……ふぁ、ないよお?」

 

 とか言いながら背中に抱き着いて頬をこすり付けてくる元幼馴染さん。猫かよ、そう思っていたらそのまま正面にやってきて甘えてきたからよいしょと抱えてリビングへと運んでいく。今日の寝巻は色々見えそうなのはわざとですかね? 

 

「うん」

「変態さんですか?」

「千紘くんが?」

「なんでそうなるの」

「そういえばね」

 

 露骨ゥ! 話のそらし方が雑すぎて逆に俺が悪いのかなって思ったよ! でも花音はそんなことおかまいなしとばかりに俺を背もたれにして、スマホの画面を見せて……上下セットフツーに四桁するようなソレの色を訊ねてきた。

 

「プレゼントはこれがいいんだけど、何色がいいと思う?」

「なにこれ」

「ベビードールっていう下着だよ?」

「そ、そう」

 

 その前の検索欄のところにセクシーって文字が見えるのは気のせいでしょうか、そして全体的にスケスケだったり布面積が小さかったり、なんならものによっては大事な部分丸見えなんだけど、これは果たしてパンツって言えるの? 

 

「でも、裸とどっちがコーフンする?」

「断然こっち」

「だよねえ……ねね、何色がいーい?」

 

 なんでそんなノリ気なんだろうか、しかもそれが誕プレってそれでいいのか。ツッコミを入れるともちろんだよと明るく微笑まれる。どうしてと問いかけようとしたところで唇を奪われた。それはもうたっぷり数秒、数分もの間。

 

「──っはぁ、だって……こんなえっちな格好しちゃう女の子だって、千紘くんだけには知ってほしい」

「か、花音……」

「千紘くんだけの私がほしい。誰も知らない、あなただけの私が」

「そ、っか」

「それが、私が本当に求める誕生日プレゼントだよ」

 

 それが、それがきっとスカートに隠されたその奥にある、誰にも見せないし見えないはずのパンツを見せるってことにつながるんだろうか。千聖さんもそういう特別を、アイドルの千聖ちゃんでも、幼馴染さんの親友の千聖さんでもない、俺だけの白鷺千聖を求めたんだろうか。確かに、たぶん俺が千聖さんのことを急にパンツ見せてきてその反応を見て楽しむようなサドで変態チックで、でも甘えたがりで寂しがり屋で、かわいいところもある女の子だよだなんて別のヒトに伝えても妄想乙で終わりだろうからね。

 

「やっと気づいたの?」

「……いやぁ、気づけないよそれは」

「ちょっとだけ、千聖ちゃんがかわいそうだなあ……って思っちゃった」

 

 今度一日くらい貸してあげようかなとか言い出した花音にそれだけはやめてねと伝えておく。俺だってまだあの時の気持ちを失ったわけじゃないよ、千聖さんに迫られたら好きって気持ちが再燃しちゃいそうなくらいだからね。だからこそ、ちゃんと早めに区切りをつけないとさ。

 

「うん、それは大事だね……あ、でもね」

「なに?」

「千紘くんが。どうしても辞めたいって思わない限りは、パスパレのオタクでいてあげてね?」

 

 フツーならきっと、自分がいるのに他の女の子のおっかけしてるなんて最低なカレシもいいところだろう。実際にそういう陰口をたたかれてるのは知っていたし、俺も漠然と付き合うってそういうものなのかと様式的な恋人に囚われていたけど。

 

「ならさ」

「んー?」

「花音の予定が合うかぎりは……一緒ってのは、ダメかな?」

「……私も?」

「俺が、一緒にいたいから」

 

 もちろん花音にオタクになれって言うわけじゃないけど。どうしても離れている間に何かあったらって思うとどうにも明るく楽しめないんだよね。ホラ俺って大学でも嫌われものじゃん? だからって俺をダシにしてくるヤツなんて幾らでもいるわけで。

 

「守ってくれるの?」

「……自信はないけど」

「ん、わかってるよお……だから、一緒にいる、ね?」

 

 ああもう、俺には勿体ないくらいのカノジョさんだ。でも同時に俺だけにしかその勿体ないくらいのカノジョさんとしての顔をしないってことも理解してる。抱き締めるとあったかくて幸せが胸に広がっていく感覚がした。そしてしばらく目を閉じてそのあったかさを共有していると花音のスマホが振動し始める。

 

「あ、日付変わったねえ」

「……誕生日おめでとう、花音」

「ありがとお……えへへ」

 

 なんとなくの流れで抱き締めてたけど奇しくも千聖さんのアドバイス通りになったね。それから誕生日のケーキと千聖さんがプレゼントよって手渡してくれた紅茶の香りに頬を緩ませながら俺は二人きりで彼女の誕生日を祝った。

 

「千紘くんからは?」

「そりゃもちろん、クラゲのぬいぐるみだよ」

「わあ、かわいい……おっきい……」

 

 うーん俺だけに見せてるからセーフ! そのうっとり表情でおっきいは本来ならアウトなのでやめようね花音! そう言うとかわいらしく首を傾げられてしまった、くそうこういう時ばっかりは無自覚なのかよ! 

 

「……あー、えっと……変態さん」

「健全な男子なので」

 

 プラスで黒色のスケスケヒラヒラのベビードールなるセクシーランジェリーも購入することになった。

 ──その後、届いたソレでベッドにやってきた花音との夜は忘れられるようなものではないと同時に恋人なんだなぁと考えさせられる脳内保存の新たなバリエーションになってしまった。

 

「千紘くんが望むのなら……大学でもえっちなの履いてきてもいいよお?」

「いいや、それはやめとく」

「そう?」

「……俺だけが見れるなら、大歓迎だけどね」

 

 もう、花音のパンツがただただ見たいだなんて思う時期はとっくに過ぎた。今は俺だけが独占できる花音が見たい。俺だけが松原花音のスカートの中を知っていたいんだ。そんな気持ち悪くも浅ましい独占欲を伝えられた花音は輝くようなスマイルで俺にそれを美しい言葉で返してくれた。

 ──私も、愛してるよ。たったその一言がちゃんと俺から伝えられるようになるのは来年の誕生日くらいかもしれないけど。

 

 

 

 




パンツパンツうるさいけど、パンツコミュニケーションに頼らない方法もいくらでもあるけど、この物語は普通に恋愛してると思う。
アイシテルの一言が言えないのにパンツ見たいが言えるオタクくんさぁ……とにかく、松原さん誕生日おめでとう!
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