偽りの英雄のヒーローアカデミア   作:ひよこ饅頭

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漸く続きを更新することが出来ました……。
毎度のことながら長らくお待たせしてしまい大変申し訳ありませんでした……(土下座)


第6話 強さ

 雄英高等学校はヒーロー育成学校の中でも屈指の名門高校である。

 ヒーロー育成に特化したヒーロー科のクラスが二つ。他にも普通科、サポート科、経営科が三クラスずつあり、それらのクラスですらヒーローに関連する知識を学ぶことができる。

 クラスや学科問わず、雄英高校の全教師がプロのヒーローであることも大きな特徴の一つだろう。また雄英高校のヒーロー科はオールマイトをはじめとした多くの人気ヒーローを輩出しており、偉大なヒーローになるためには雄英高校の卒業が絶対条件であるとも世間ではまことしやかに囁かれている。

 しかしいくらヒーロー育成に特化した学校であろうと、学校である以上、勿論教えるものはヒーローに関するものばかりではない。国語や数学や英語など、普通の学校では当たり前のようにある授業も必修のカリキュラムに含まれていた。

 セフィロスや緑谷出久などが雄英高校に入学して二日目には授業が始まり、午前の授業は普通の授業が全てを占めていた。

 そして昼休憩を挟んで午後の授業。

 ヒーロー科の生徒たちにとっては待ちに待ったものであろう授業が今始まろうとしていた。

 

 

 

「わーたーしーがー!! 普通にドアから来たっ!!!」

 

 授業開始のチャイムが鳴って暫くの後、1-Aの教室の扉が勢いよく開かれ、ヒーロースーツに身を包んだオールマイトが大声と共に姿を現した。目の前に大スターであるスーパーヒーローが現れたことで、1-Aの生徒たちの殆どが喜びの騒めきを上げる。

 オールマイトは黒板の前まで大股で進んでいくと、次には大きな身振り手振りや時折ポーズを決めながら今回の授業について説明を始めた。

 

「今から行う授業はヒーロー基礎学! ヒーローの素地を作るため、様々な訓練を行う科目だ!!」

 

 そう、これこそがヒーローを目指す子供たちがヒーロー科のクラスに入る一番の醍醐味と言えるだろう。

 ヒーローを目指す者にとって、ヒーローに必要なノウハウを身をもって体験して学べるというのは非常に有意義なことだ。加えて多種多様な場面を想定して繰り広げられる授業内容は、実戦の経験に勝るとも劣らない。

 

「早速だが今日はコレ!! 戦闘訓練!! そしてそいつに伴って……こちら! 入学前に送ってもらった“個性届”と“要望”に沿ってあつらえた戦闘服(コスチューム)!!!」

「「「おおおっ!!!」」」

 

 オールマイトが話す度に生徒たちが騒めきを上げ、“戦闘服”という言葉に雄叫びにも似た声が上がる。

 オールマイトがリモコンを操作すると何もなかったはずの教室の壁が突如動きだし、大きな四角のケースが並んだ棚が現れた。それぞれ番号がふられたケースの中には恐らく先ほどオールマイトが言っていた戦闘服が入っているのだろう。

 この戦闘服というのは“被服控除”というシステムによって作られるもので、入学前に生徒が自身の“個性届”と“身体情報”を提出することで学校専属のサポート会社が戦闘服を用意してくれるものだった。因みにそれらの情報と一緒に“要望”の資料を添付すれば、イメージ通りのデザインになるだけでなく、要望に応じた最新の技術や素材を駆使した便利で最新鋭の戦闘服を用意してもらえる。生徒たちにとっては正に夢の戦闘服だろう。

 各々、戦闘服に着替えてグラウンド・β(ベータ)に集まるよう指示を出すオールマイトに、生徒たちは興奮したように声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数分後……――

 各々自分が希望した戦闘服に身を包んだ生徒たちが続々とグラウンド・βに姿を現す。

 彼ら彼女らの姿は正にヒーロー……いや、中には少々(ヴィラン)のような見た目の者もいたが、どちらにせよ誰もが普段とは全く違う姿をしていた。

 生徒たちは互いのヒーロー姿を見やって楽しそうに感想などを言い合っている。

 何とも微笑ましい……まさに学生らしい彼ら彼女らの姿にオールマイトも厳めしい笑みを浮かべながら、早速とばかりにこれからの授業の内容を説明し始めた。

 今回のヒーロー基礎学の授業内容は屋内を想定した対人戦闘訓練。

 設定としては“(ヴィラン)がアジトに核兵器を隠しており、ヒーローはそれを処理しようとしている”という非常にアメリカンなもの。

 生徒たちはそれぞれクジでチーム分けされ、ヒーローと(ヴィラン)に別れて戦闘訓練を行う。ヒーロー側は制限時間内に(ヴィラン)を捕まえるか、核兵器を回収すること。そして(ヴィラン)側は制限時間まで核兵器を守るか、ヒーローを捕まえることがそれぞれの勝利条件となる。

 因みにこの1-Aは生徒数が21名おり、一つのチームだけ三人メンバーになるため、この三人チームの相手を務めることになったチームには何かしらの優遇処置が設けられることになっていた。

 そして栄えある第一回戦は、ヒーロー側が緑谷出久と麗日お茶子のAチーム、(ヴィラン)側が爆豪勝己と飯田天哉のDチームだった。

 二チームが対戦を行っている間は、他の生徒たちはモニターでその様子を観察することになっている。

 一体どんな戦いが見られるのかと誰もがワクワクした様子でモニターを見つめる中、しかし映し出されたAチームとDチームの攻防は予想外に凄まじいものだった。

 いや、この場合は緑谷と爆豪の戦闘が凄まじかったと言うべきなのかもしれない。

 爆豪は先日の体力テストの時にも緑谷に対して凄まじい敵愾心を見せていた。それは今この時も変わらずで、むしろ更に激しくなっている様にすら見える。

 何が彼をこんなにも怒らせているのかは分からない。しかしこれはもはや授業などではなくただの喧嘩だった。

 モニターを見つめている生徒たちは爆豪のあまりの剣幕と威力の高い攻撃の数々に驚愕や焦りの表情を浮かべてモニターを見つめている。対する緑谷は見る見るうちにボロボロになっていき、彼らを止めようとしないオールマイトに生徒の多くが困惑の表情をオールマイトに向けた。

 もはや止めた方が良いのは誰の目から見ても一目瞭然。しかしそれでもオールマイトは爆豪に軽い忠告はしても決して戦闘自体は止めようとはしなかった。

 下の階層で戦闘を繰り広げる爆豪と緑谷、そして上の階層で核兵器デザインの風船を守る飯田と、それを奪おうとする麗日。

 誰もが固唾を呑んで見守る中、最後は爆豪を相手にしていた緑谷が下の階層から上の階層へ攻撃を放ち、そのタイミングに合わせて麗日も飯田に攻撃。その後、攻撃に怯んだ飯田の隙をついて核兵器デザインの風船に麗日が抱き付いたことでAチームの勝利に終わった。

 しかし、ほぼ無傷であるDチームに対してAチームは疲労困憊と重症状態。AチームとDチームは、ヒーロー側のDチームが『勝負に負けて試合に勝った』といった状態になっていた。

 緑谷は保健室へ緊急搬送され、無傷の爆豪と飯田、そして疲労困憊の麗日だけがクラスメイトの前で今回の戦闘訓練の講評をオールマイトから受けることとなった。

 誰の対応が一番良かったか、逆に悪かった行動は何か……など、一人一人の行動について分析され評価されていく。総合評価が一番良かったと評された飯田は感動したような態度を見せ、幾つか注意点を指摘された麗日は気まずそうな表情を浮かべる。

 しかしそんな中、爆豪だけは無言のまま静かに立ち尽くしていた。緑谷に負けたことがそれほどショックだったのか、まるで心ここにあらずといった様子で周りの声や視線すら気が付いていない様子である。

 しかし他の生徒たちの戦闘訓練もあるため、授業は引き続き進んでいく。

 次の戦闘訓練はヒーロー側が轟焦凍と障子目蔵のBチームで、(ヴィラン)側が尾白猿夫と葉隠透のIチーム。

 この二回戦目は一回戦目とはまた違った意味で強烈だった。

 勝利したのはヒーロー側であるBチーム。

 その勝ち方が正に圧倒的だった。

 Bチームが勝った理由はただ一つ、轟焦凍の“個性”によるものだった。

 轟焦凍の“個性”は“半冷半燃”。身体の右側で対象を凍らせ、身体の左側で対象を燃やすという強力なもの。

 今回は右側の凍らす“個性”で(ヴィラン)チームや核兵器ごと建物を凍り付かせ、全てを無力化して勝利を収めた。

 誰もが言葉を失い目を奪われる中、自身の戦闘訓練が終わってからずっと声を発することすらしていない爆豪もまた食い入るようにモニターを見つめていた。大きく鋭い三白眼を更に大きく見開かせ、その顔には大きな焦燥の色が浮かんでいる。次にはグッと眉間に深い皺を刻んで顔を俯かせる爆豪に、しかし誰もがモニターに意識を奪われて気が付くことはなかった。強く強く拳を握り締め、血が出るのではないかと思うほどに強く唇を噛み締める。

 無言のまま微動だにせずに緊迫した空気を纏わせる爆豪に、不意に白銀の細い影が音もなく彼の隣に立った。

 静かに隣に並び立ったのは八木セフィロス。

 セフィロスは軽く腕を組み、目はモニターに向けたまま小さく口を開いた。

 

「どうした、緑谷出久や轟焦凍に気圧されでもしたか?」

「……っ!!」

「負けても良い。悔しく思うのも、気圧されるのも良い。……だが、もしこのまま終わりたくないのなら、考えることは止めないことだ」

「……………………」

「負けたのなら、どうしたら勝てるのかを考えろ。臆したのなら、その臆した力を理解して自分のものにすればいい」

「………自分の、…ものに……?」

 

 そこで初めて爆豪が小さいながらも反応した。眼光鋭い深紅の瞳をセフィロスに向ける爆豪に、セフィロスもまた翡翠色の瞳のみで爆豪を見やった。

 

「己を高める方法は、鍛錬を積んだり自分で戦い方を考えるだけではない。いや、逆にそれだけでは限界がすぐに来るだろう。重要なのは、周りから何をどこまで学べるかだ」

「……………………」

「別に他者に教えを乞えと言う訳ではない。自身が認めた力ならば、それを見て分析して学び、最終的に自身のものにできれば大きく成長できるだろう」

 

 セフィロスの言葉に、爆豪は無言のまま何も言わない。しかし先ほどまでの切羽詰まったような表情は既に無く、何かを考え込むように瞼を伏せ、次には再びモニターに目を戻した。その横顔は先ほどとは打って変わり静かで落ち着いたものになっている。

 セフィロスは爆豪の様子を確認すると、次には自身もまたモニターに目を戻した。

 暫く無言のまま共にモニターを見つめた後、徐に踵を返して長い白銀の髪を靡かせながらこの場を後にする。

 モニターの中では既に戦闘は終わっており、しかし爆豪はセフィロスには目を向けず、ずっとモニターを見つめ続けていた。

 続いて戦闘訓練を行うのは八木セフィロスと峰田実のCチームと、八百万百と口田甲司と砂藤力道のFチーム。

 オールマイトが引いたクジに従い、ヒーロー側がFチームで(ヴィラン)側がCチームとして戦闘訓練を行うことになった。

 対戦チームがそれぞれ決まったことで、生徒の誰もが小さな騒めきを上げて好奇心に輝く目を二人の人物に向けた。

 視線の先にいるのはCチームの八木セフィロスとFチームの八百万百。昨日の体力テストで驚異的な身体能力を見せた八木セフィロスと、推薦枠入学者の一人である八百万百である。

 一体どんな戦いを見せてくれるのか……と生徒たちの期待は大いに高まっていた。

 

「Cチームは三人チームのFチームと対戦だから、優遇処置が適用される。よって、この中から一つ好きな物を選んでいいよっ!!」

 

 大袈裟な身振りでオールマイトが示したのは、いつの間に用意したのか、大きなテーブルの上に並べられた多くの機械。

 監視カメラや赤外線の防犯システム、設置型の罠、などなど。中には侵入者を妨害するものだろう小型のロボットもテーブルの横に鎮座していた。

 

「う~ん、そんなこと言われてもどれを選んだらいいんだ? ……八木、どれが良いと思う?」

 

 多くの機械に目移りしながら、峰田が困ったようにセフィロスを見上げる。

 しかしセフィロスは少しも興味がないようで、変わらず軽く腕を組みながら、素っ気ない視線を峰田に向けた。

 

「どれでも構わん。お前が好きな物を選べ」

「ええっ! そ、そんなこと言われても……」

 

 途方に暮れて言葉を途切らせる峰田に、しかしセフィロスは無言を貫いている。

 どう考えても助言は見込めない様子に、峰田は半ばやけくそになりながら一つのアイテムを指さした。

 

「えぇぇいっ!! じゃあ、もう、こいつだぁぁっ!!」

 

 峰田が選んだのはテーブルの横に鎮座している小型ロボット。

 確かに三人もいるヒーローを抑えるために頭数を増やすというのは有効的な手段だろう。

 オールマイトも無言のまま笑顔と共に大きく頷き、まずは(ヴィラン)側であるセフィロスと峰田がロボットを連れてヒーローを迎えるべく準備に入った。まずはロボットを建物の一階から三階にかけて巡回させ、セフィロスと峰田は核兵器という設定の風船がある五階に陣取る。

 峰田は暫く自身よりも大きな核兵器デザインの風船を見上げた後、次にはチラッとセフィロスを振り返った。

 セフィロスは軽く腕を組んだ状態で目を閉じており、壁に背を預けるように立っている。自分と同じ歳とはとても思えない落ち着き払った大人っぽい立ち姿に、峰田は思わずマジマジと観察するようにセフィロスを眺めた。

 戦闘服に身を包んだセフィロスは、ヒーローというよりかはどこか物語に出てくる戦士のような出で立ちをしていた。

 漆黒の革のロングコートに、両肩と両手首にのみ装着した白銀色の金属防具。コートの下には腹回りだけ防具を着けており、白皙の素肌に直に黒革のベルトを交差させて防具と繋げている。女よりも細いのではないかと思うほどに細いくびれから腰にかけては幾つもの宝玉のような色鮮やかな玉がはめ込まれた白銀の装飾が巻き付いており、両足には太腿辺りまであるロングブーツを履いていた。マントをたなびかせる、まるでアニメに出てくるヒーローのような戦闘服を身に纏っている峰田からすれば一ミリも理解できないデザインである。

 

 

 

「――……峰田実」

「っ!! な、なんだ?」

「そろそろFチームがビル内に侵入する頃だ。こちらも迎える準備を始めるぞ」

「いや、そう言われても……どうすれば良いんだ?」

 

 セフィロスに準備するよう促され、しかし峰田は何をどうすべきなのか皆目見当もつかなかった。

 昨日あった体力テストの光景を頭に思い浮かべてみるが、クラスメイト全員の様子をつぶさに観察していたわけではないため、クラスメイトそれぞれがどういった“個性”を持っているのか未だ詳しくは分かっていない。自分の“個性”はトラップとしては非常に有効ではあったが、果たして相手のチームにどこまで効果があるかは分からなかった。もし相手チームの誰かが轟焦凍のような“個性”を持っていた場合、とても太刀打ちできないだろう。

 しかしゆっくりと瞼を開いたセフィロスは、翡翠色の瞳を真っ直ぐ峰田に向けると、どこまでも余裕の表情で小さく首を傾げてきた。

 

「お前の“個性”はトラップ効果に優れている。上手く使えば一気に相手を戦闘不能に陥らせることも可能だろう」

「でも、相手がどんな“個性”を持っているかも分からないんだぜ!?」

 

 不安と焦りが湧き上がり、思わずバタバタと手足をばたつかせる。

 どんな“個性”を持っているかも分からない相手が三人……しかもその内の一人は推薦枠から入学してきた秀才だ。とても自分の“個性”が役に立つとは思えない。

 しかし焦燥も露わな峰田とは打って変わり、セフィロスはどこまでも冷静な態度を崩さなかった。

 

「敵……ではないか、……ヒーローが来るとすれば上下前後左右。それらに一つ一つ対処策を講じていけば良い」

「うえっ、それって全方向じゃねぇかっ! 第一、前後左右は分かるけど、上下ってどういうことだよ!?」

「つまり天井や地面から攻撃してくる可能性もあるということだ。まぁ、天井からの攻撃の確率は低いとは思うが……。とにかく、まずは後ろの対処からだ。峰田実、お前の“個性”は確か頭の丸い球体だったな。それをあの窓を塞ぐように敷き詰めてくっ付けることは可能か?」

「も、もぎ過ぎると頭から血が出ちまうけど……そのくらいなら、多分大丈夫だ」

「なら頼む。その間俺は……いや、“私”は他の方面を警戒しておこう」

 

 何故か一人称を言い直しながら周りに視線を向けるセフィロスに、峰田は思わず小さく首を傾げる。しかしここは言う通りにしておこうと思い直すと、峰田は頭についている団子をもぎ取って後ろの壁にある窓を塞ぐようにくっつけていった。

 峰田の“個性”は『もぎもぎ』。頭についている団子のようなものをもぎ取ることができる“個性”である。

 このもぎ取ったボール型の物はとても粘着力があり、“個性”の主である峰田以外のものには全てくっ付き離れない。トラップなどには使えるものの、戦闘向きでは決してない“個性”だ。

 一体これでどうするつもりなのか……と頭上に幾つもの疑問符を浮かべる中、もぎ取った球体で窓を隙間なく埋めた、その時……――

 

 

 

「……っ!!? な、なんだぁぁっ!!?」

 

 突然目の前の球体たちの反対側から幾つもの衝撃を受けて、峰田は思わずビクッと大きく全身を跳ねさせながら驚愕の声を上げた。

 どうやら外側から幾つもの小さな何かが窓に体当たりしようとしていたようで、その全てが窓を塞いだ球体に阻まれてくっ付いていた。しかもそれらはどうやら生きているようで、くっついたまま離れられなくなったことに混乱したのか、バタバタと激しく抵抗している。よくよく見ればそれらはどうやら大量の小鳥のようで、その正体とあまりの迫力に峰田は恐怖を感じて数歩後ろに後退った。

 しかし息つく暇もなく、次の急展開が峰田とセフィロスに襲いかかった。

 鳥の群れの襲撃から一拍ほど後、突如部屋の奥からロッドを持った八百万と口田が一列になって飛び出し、それと同時にセフィロスの真下の地面が勢いよく崩れた。地面から大きな影が飛び上がり、峰田が驚愕のあまり全身を強張らせて悲鳴を上げる中、セフィロスはすぐさま反応して白銀色の長刀をどこからともなく出現させた。

 地面を突き破って出てきたのは砂藤。

 そのままセフィロスに襲い掛かる砂藤に、しかしセフィロスは出現させた長刀の身幅でその拳を受け止めた。

 

「な、なんだぁっ!!?」

「口田さんと砂藤さんの攻撃が防がれた!? それでも、ここは一気に攻めるのが最良!!」

「……〈シールド〉」

「……なっ……!?」

 

 口田と砂藤の奇襲が防がれたことに動揺しながらも攻撃を続行しようと突撃してくる八百万と口田に、セフィロスは刀を強く薙ぎ払うことで砂藤を吹き飛ばし、そのまま刀を持っていない右掌を八百万たちに向けて一つの言葉を発した。

 瞬間、セフィロスと八百万たちの間の空間に透明な壁が出現し、八百万たちのこれ以上の突撃を防いだ。

 よくよく見れば、その透明な壁は六角形のガラスが連なって出来たもののように見え、壊そうと攻撃すると、連なった六角形がキラキラと光を反射するようにきらめくのが見てとれた。

 何が起きているのか分からず驚愕と困惑の表情を浮かべて思わず動きを止める八百万たちに、セフィロスは攻撃の手を緩めず右手の人差し指を八百万たちに向けた。

 

「〈グラビガ〉」

「「「……っ……!!?」」」

 

 セフィロスが言葉を紡いだ瞬間、黒い巨大な球体が八百万たちの頭上に突如現れ、次には急激に膨らんで八百万たちに襲い掛かる。

 重力を宿すその球体は八百万たちを包み込むと、次には三人全員が地面に倒れ伏していた。

 

「峰田実、球体で三人を拘束しろ」

「っ!? ……へっ、……あ…なに……?」

「三人が起き上がる前に、お前の球体でそれぞれ拘束してほしい。できるか?」

「……お、おうっ!」

 

 セフィロスに言われ、峰田は慌てて頷いて八百万たちに向き直る。両手で頭の球体をもぎ取ると、次々と投げつけて三人の全身を地面に引っ付けて拘束していった。

 三人ともが完全に身動きできなくなった時、戦闘終了の号令が響き渡る。

 勝利したのは“(ヴィラン)”側のCチームで、峰田は少しの間呆然とした表情を浮かべた後、次にはやっと状況に頭が付いてきたのか、ぱぁぁっと顔を輝かせて両手を頭上に突き上げた。

 

「……や、やった…! やったぞ、八木っ!!」

「そうだな。これもお前の“個性”のおかげだ」

「……!! そ、そうだよな! 流石は俺様だぜ!!」

 

 今までになかった柔らかな笑みと共に言われた言葉に、峰田は驚いた表情を浮かべたものの、次には嬉々とした笑顔と共に大きく胸を張る。見るからに得意げな峰田の様子にセフィロスは再び小さな笑みを浮かべると、次には小さく息を吐いたと同時に表情をいつもの無表情に戻し、未だ地面に伏している三人に歩み寄っていった。左手に持っていた長刀を消し去ると、片膝をついて屈み込んだ。

 

「手荒なことをして、すまなかったな。大丈夫か?」

「だ、大丈夫だ……。け、けど、これってどうやったら取れるんだ……?」

「そうだな……。峰田実、これを取れるか?」

「え? …あっ、……お、おう!」

 

 セフィロスに名を呼ばれ、峰田も慌ててそちらに駆け寄る。未だ苦しそうに地面に伏している三人に引っ付いている紫色の球体を掴むと、次々と剥ぎ取ってポイポイとその辺りに投げ捨てていった。

 数分後、全ての球体を取り払って漸く自由になり、三人ともが地面に座り込んだまま安堵の息を吐き出す。

 続いて小さくよろめきながら全員が立ち上がり、セフィロスは無表情のまま立ち上がった三人の全身にサッと視線を走らせた。

 

「目立った怪我はないようだが、大丈夫か? 歩けないようであれば、ストレッチャーを持ってこさせるが」

「い、いや、大丈夫だ……」

「ええ、一人で歩けますわ。お気遣いいただき、感謝いたします……」

 

 セフィロスの問いに砂藤と八百万が首を横に振り、口田も二人に同意するように無言のまま何度も頷く。

 しっかり両足で立っていることから彼らの言う通り身体は問題ないようだったが、しかし負けたことは事実であるためその表情は三人ともがどこか暗かった。

 

「……そうか。それなら、そろそろ行こう。もし途中で気分が悪くなったりすれば、俺が運ぶから遠慮なく言うと良い」

 

 セフィロスも三人の表情に気が付いたのだろう、軽く頷いて一言だけ言い添えて終わる。

 顔は無表情で自身の勝利に喜ぶでもなく、相手チームに手を貸して気遣う姿には相手への労りすら見えるようである。

 先ほどまで力いっぱい自身の勝利を喜んでいた峰田は、どこまでも大人でスマートなセフィロスの姿に思わず冷めた目をセフィロスに向けていた。

 

(………イケメンかよっっ!!!)

 

 峰田の胸の内にだけ、彼の激しい嫉妬の怒声が響いて消えていった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 全てが美しい朱金色に染まる夕方時。

 人がまばらになっている住宅街から少し離れた道に、一人の少年と一匹の子犬が並んで歩いていた。

 目の色と同じ青みがかった水色の首輪をつけた可愛らしい子犬と、跳ねるような足取りと激しく揺れる尻尾を見つめながら歩を進める白銀の少年。

 何とも楽しそうにピョコッピョコッと歩く子犬を見つめる中、不意に子犬が立ち止まったことに気が付いて少年……セフィロスも足を止めて子犬が見つめる前方に目を向けた。

 

「……あ……?」

「お前は……」

 

 そこにいたのは、大きな三白眼を驚愕に更に見開かせて立っている爆豪勝己。

 ランニングでもしていたのか、ノースリーブに七分丈のズボンを着て、全身から大量の汗を流している。

 

「……てめぇ……、こんなとこで何しとんだ」

「犬の散歩だ。お前は自主練の走り込みか?」

「……まぁ……。……つーか、犬なんて飼っとったんだな」

 

 爆豪が興味深げにじっと子犬を見つめる。

 子犬は何が楽しいのか数回甲高い声で鳴くと、次には千切れんばかりに小さな尻尾を激しく振っていた。

 

「ザックスという。つい最近飼い始めたんだ。……撫でてみるか?」

「……いや、いい……」

「それは残念だ」

 

 素気無く断る爆豪に、しかしセフィロスは少しも残念そうではない表情と声音ですぐに引く。

 爆豪は少しの間何かを考え込むような素振りを見せた後、次には意を決するように真っ直ぐにセフィロスを見つめてきた。

 

「……一つ、テメェに聞きたいことがある」

「なんだ?」

「テメェの個性、ありゃなんだ?」

「……? ……何、とは?」

「まんまの意味だ。クッソなげぇ刀出したかと思ったら、次は意味不明な黒い塊を出しやがる。それもその塊りに触れた奴ら全員が地面にぶっ倒れて起き上がることすらままならなかった。……一体何しやがった……」

 

 まるで警戒心の強い猫のように鋭く見つめてくる爆豪に、セフィロスは細い顎に長い指を添えて少し考える素振りを見せた。

 伝えるかどうか悩んでいるというよりかは、どう説明すべきか悩んでいる様子である。

 そのため爆豪もイライラしながらも大人しく待っており、暫くすると漸くセフィロスが顎から指を離して爆豪を見やった。

 

「俺の個性は“具現化(マテリアリゼーション)”といって、イメージしたものを具現化するものだ」

「イメージを……具現化……」

「そして、それは何も物だけではない。お前たちが考える……一種の魔法的現象も、俺が明確にイメージすることができれば具現化できる」

 

 炎を放つことも、水を出現させることも、雷を落とすことも、風を巻き起こすことも……セフィロスが具体的にイメージすることができ、なおかつ必要なエネルギーがあれば全て具現化することが可能だった。

 

「とはいえ、無限に具現化できるわけではない。俺を起点にしたものでなければ具現化はできない」

 

 それがこの個性の限界であるのかどうかはセフィロス自身も分からない。もっと想像力があれば、もっともっといろんな物や事象を具現化できるのかもしれない。しかし、少なくともセフィロス自身は“セフィロス”を起点としたものでしか明確なイメージを持つことができなかった。“セフィロス”が扱う物、“セフィロス”が放つもの……“セフィロス”を起点にすることによって漸く具体的で明確なイメージを持つことができ、そこで初めて具現化することができる。

 身体の脂質から無生物を創り出すことができる同じクラスメイトの八百万百の個性“創造”と似て非なるものであり、他者が思うより扱いにくい“個性”だった。

 

「だからこそ、個性に頼り過ぎるべきじゃない。まぁ、これは俺に限った話ではないがな」

 

 個性を重要視するこの世界では、如何に強く役に立つ個性を持っており、如何にその個性を使いこなせるかが重要になっている。

 しかし、では個性だけが全てかと問われれば、それは決してそうではない。

 個性というものは決して万能ではない。いくら強力な個性だとしても、できることには限りがあり、また時と場合によっては完全に役に立たないということもある。個性に頼りきってはできることもできなくなる可能性すらあった。

 

「お前もそれを理解しているから、こうして努力しているのだろう?」

 

 走り込みをして身体を鍛えている爆豪に当然のようにそう声をかける。

 爆豪は虚を突かれたように大きな三白眼を更に大きく見開かせると、次には横を向いて唇を大きく歪ませた。

 見るからに態度の悪い爆豪に、しかしセフィロスは少しも表情を動かすことなく小さく頷くのみだった。

 

「さて、これでお前の疑問には答えられただろう。俺はそろそろ帰らせてもらう」

「いや、待てや」

「……? まだ何かあるのか?」

「てめぇ、つえーだろ。丁度いい、勝負しろや」

 

 爆豪の思いもよらぬ言葉に次に目を見開いたのはセフィロスの方だった。今までにないほどの真剣な表情を向けてくる爆豪に、セフィロスもまたマジマジと爆豪を見つめる。

 形のいい薄い唇が徐に開き、しかし紡がれたのは拒否の言葉だった。

 

「断る」

「なんでだよっ!!」

「悪いがそんな時間は俺にはない」

「あ゛ぁ゛ん゛……!?」

「家に帰ってやるべきことが多くあってな。それに、勝負であれば授業で対戦することもあるだろう。外では激しい戦闘はできないし諦めろ」

「チッ!!」

 

 まるで幼い子供に言い聞かせるように言われ、爆豪が途端に不機嫌そうに唇を尖らせながら鋭い舌打ちを零す。

 しかし納得はしたのかこれ以上何かを言ってくることはなく、セフィロスも一つ頷いて踵を返した。

 

「それでは、またな。あまり無理せずほどほどにしておけ」

「ケッ、余計な世話だ……!」

 

 返ってくるのは、どこまでも捻くれた言葉のみ。

 しかしその声音には棘はなく、セフィロスは小さな笑みを浮かべると子犬を伴って家の方向に足を踏み出した。

 背中には未だ爆豪の鋭い視線が突き刺さっているのを感じていたが、セフィロスは一切振り返ることなく歩を進め続けた。

 

 

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