個性『鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼』   作:江波界司

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続いてしまった。
感想、高評価してくれた皆様ありがとうございます。
思ったよりも期待の声と高評価頂いたので少し書きます。


ひみこハーフ 001

 [001]

 

 阿良々木暦(あららぎこよみ)が高校に入学してから数日が経った。

 雄英高校に入ってからといって、僕が僕でなくなるわけではない。

 僕の身体能力は、人より少し高い程度。

 これでも名門校でやっていけるのは、存外僕に才能が満ち溢れているということかもしれない。

 登校初日に除名をかけた体力測定があったりもしたが。

 担任の冗談だったのは救いだ。

 何せ、僕は本当に除名されかけたのだから。

 その理由を説明するためには、まず。

 僕と忍との関係を話さなければならない。

 僕と忍。

 人と鬼。

 人間と吸血鬼の関係を。

 

 [002]

 

 できるだけ簡潔に話すなら、僕と忍は相互を補い合う形で生存している。

 僕は人間であるために。

 忍は怪異であるために。

 お互いの存在を、半歩ずつ近付けることで。

 半端者であることで生きている。生きていける。

 僕が半分吸血鬼であるというのは、そういうことだ。

 そのため、定期的に忍に血を吸わせている。

 吸血鬼は血を吸う鬼だから。

 その際、忍に血を吸わせた時、僕達のリンクは深く結ばれる。

 互いが互いを補い合う関係が深まる。

 その結果、一時的に僕の中に残る吸血鬼としての特性が強くなる。

 この方法を使って僕は、入学試験を突破した。

 けれど、やはり、この方法は使うべきではない。

 この方法に、彼女に頼るべきではない。

 それは許されない。

 彼女をこんな目に合わせたのは僕なのだから。

 彼女を影に縛ったのは。

 彼女を幼女にしたのは。

 彼女を怪異の王から堕としたのは。

 鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼から力を奪ったのは。

 どうしようもなく、僕なのだから。

 そんな僕が、どうして、そんな彼女の力に頼れるのだろう。

 

 [003]

 

『のう、お前様よ』

「なんだよ。言っておくが、ドーナツは当分無しだからな」

 

 僕の財布は、それはもう過度なダイエットをしてしまっている。

 

『その件については後ほど小二十四時間ゆっくり話し合って決めるべきじゃが』

「小一時間、じゃないのか。一日中話し合う気は僕にはないぞ」

『ともかく置いといてじゃ。お前様よ。ヒーローというのは、何やら格好をつけた服装をするものではないのか?』

「僕は別に、かっこいいヒーローになりたい訳じゃない」

『ほう?ならお前様はどんなヒーローになりたいんじゃよ』

「僕は、僕はヒーローという職につければそれでいい」

 

 昨今は、個性というものの扱いについての法律が厳しい。

 特に、許可を持たぬ個性使用は厳重だ。

 僕は将来、死ぬまで忍との関係を続けるつもりだ。

 そんな生活の中で、うっかり吸血鬼パワーを使ってしまうような事があった場合。

 僕は、ヴィランと呼ばれない自信はない。

 だって、怪異という存在が。

 存在感が。

 存在意義が。

 もう既に、人類の敵だから。

 僕は、忍が吸血鬼として人類の敵(ヴィラン)とならないように。

 せめてもの責任感で、ヒーローになる。

 ヒーローならまだ、これは個性だと嘯くこともできると思うから。

 

『かかっ、存外つまらん目標を言ってくれるの。儂がおるのじゃぞ?いっそ、ほれ、あのNo.1を超えるくらい言ってしまっても笑わんぞ』

「笑うよ。お前以外の全員が、僕含めて笑う」

 

 僕はそう言いながらコスチュームに着替える。

 なんてことのない、どこにでも売っていそうな。

 普通のジーパンとパーカーに。

 

 [004]

 

 雄英高校には最近、新しい先生が来た。

 彼が来た。

 No.1ヒーローこと、オールマイト。

 最高のヒーロー。

 最強のヒーロー。

 ナチュラルボーンヒーロー。

 世界的に有名な彼が、雄英高校でヒーローのたまごを育てる先生となった。

 そんな彼の教えるヒーロー学では、実戦訓練のように、対ヴィランを想定した戦闘訓練をしたりしていた。

 僕の今の成績は、よくても中の下くらいだろう。

 戦闘力はそこまで高くない。

 学科は、まあ、数学以外はそれなりだ。

 

『かかっ。名門に入ったのに、そうそうにサボタージュとはの〜。お前様の肝の座り方は中々じゃ』

 

 そう、僕は平日の昼間から、学校にも行かず、町を歩いている。

 こんな所を誰かに見られたら、きっと不良かヤンキーかヴィランだと思われてしまうだろう。

 

「僕は決して邪な思いで学校に行ってないんじゃない」

『かかっ。まるで引きこもることを正当化する、現代の引きこもりのような事を言うのう』

「僕は引きこもっていない!」

 

 僕は不登校でも非登校でも未登校でも無登校でもない。

 確かに登校していないし、登校を拒否しているし、未だ登校していないし、登校する気も無いけれど。

 このサボタージュには理由がある。

 僕が今高校にも行かずここにいるのは、ある種のケジメだ。

 僕がヒーローを目指すためのケジメ。

 僕が半吸血鬼を容認するためのケジメ。

 それは責任と言えるのかもしれない。

 僕のせいで一歩、こちら側に来てしまった彼女への責任。

 忍ともう一人、僕が責任を感じなければいけない相手がいる。

 

「はあ……。おい、そろそろ姿を見せろよ」

「あは♡バレてました?」

 

 振り向いた先。

 細い横道から、彼女は現れる。

 トガヒミコ。

 ヒーロー社会に馴染めない少女。

 猟奇的で乙女チックな少女。

 僕を見つけ、怪異を見てしまった少女。

 彼女が、そこにいた。

 

「毎日つけられたら、流石に警戒もする」

「そーなんですね。てっきり吸血鬼パワーで見つけてくれたんだと思いました」

 

 ニコリと、隈のある目を曲げる。

 その笑顔は、やはり少し不気味だ。

 

「忍ちゃんはいないんですか?いるなら是非会いたいです」

「……いない。それより、僕に何か用があるのか?」

 

 嘘をついた。

 忍はずっと、ここに、僕の影にいる。

 

「前にも言いましたよ?(こよみ)くんの血がみたいんです」

「あれだけ見て、まだ見たいのか」

「もっと沢山見たいです。それと、もっと血塗れになって欲しいです」

「コーディネートが猟奇的すぎる」

「きっと似合います!さあ、真っ赤になりましょう!」

「こんな嬉しくない女の子からの誘いは初めてだ!」

 

 彼女はこういう子だ。

 曰く、血塗れでボロボロの男が好みらしい。

 その性癖に、あの時の僕はぴったりハマってしまったのだろう。

 あの時は本当に、一生分の血を流して、浴びて、ボロボロになっていた。

 

「というか、今日はどうしたんです?確か、暦くんは学校に行ってるはずじゃないですか」

「今日は、お前に用があって来たんだ」

 

 彼女に用がないなら都合がいい。

 ないことはないのだろうけれど、頭から血を浴びるのはもう懲り懲りだ。

 

「私に?なんです?」

「お前、ヒーローを目指す気はないか?」

「ないです。嫌です」

 

 即答だった。

 分かりきっていたことだけど、それでも。

 想定していたより、想像していたより、キツいものがある。

 こうして言葉にして、現実にしてしまったことで、分かってしまった。

 彼女と僕が、どうしようもなく相容れない存在なのだと。

 彼女と僕は、どうしても理解し合えない関係なのだと。

 

「どうしてそんなことを聞くんですか?私、ふつーにヒーローとか学校とか嫌です」

「いや、もしかしたら、トガが真っ当に生きてくれるかも知れないと思っただけだ」

「私にとって、これが真っ当です」

「そうか。そうだよな。そうじゃなきゃ、僕達は出会うこともなかったんだと思う」

「そうですよ。だから、私はヒーローになりません」

「つまんないこと、聞いたな」

「いいですよ、暦くん」

 

 そう言うと、トガは制服のポケットを漁る。

 また、いつものあれが始まる。

 そう確信した。

 

「じゃあ、今日こそ刺しますね」

「嫌だって、もう言っても聞かないのは知ってる」

 

 トガが取り出したのは、ナイフ。

 用途はもちろん、切るため、刺すため。

 彼女は、僕を見つけては切りに来る。刺しに来る。

 僕の血まみれの姿が見たいから、そうする。

 だから僕は頑張って逃げる。

 反撃はしない。

 流石に、うっかり吸血鬼パワーで殺してしまったなんてことになったら。

 責任なんて話もできない。

 

『かかっ。いつもながら、元気なやつじゃの』

「何かいい事でもあったんだろ!」

「はい!暦くんを見つけました」

 

 そんな生活を、あの春休みからずっと続けている。

 

 [005]

 

 翌日。

 担任のプロヒーローに仮病がバレて、それはもう怒られた。

 ヒーローたるもの、なんて一般論ではなく。

 純粋に、人としてその行いを責められた。

 

 朝の説教タイムもそこそこに、僕達は訓練施設へと移動する。

 所謂、救助活動の訓練をするらしい。

 USJだなんて不穏な名前で呼ばれたその施設は、なるほど。

 アトラクションかのように災害を再現していた。

 だから、突然現れたヴィラン達をその訓練の一例だと思うことは、何も不自然なことではない。

 

「本物のヴィランだ!」

 

 担任、イレイザーヘッドが叫んだ。

 USJを担当している13号もそれに頷く。

 ヒーローの名門校に、ヴィランの侵入者。

 異例の事件が幕を開けた。

 

 [006]

 

 広間に集まったヴィラン達。

 イレイザーヘッドは長い階段を降りて、それに単身で乗り込む。

 一見して無茶かに思われた戦力差を、彼は個性と戦闘技術によって埋めていた。

 僕達生徒は、13号先生の指示を受けてUSJ脱出を試みる。

 

「行かせませんよ」

 

 だが、僕達の退路を黒いモヤが塞いだ。

 

『お前様よ!危険じゃぞ、あの黒いの』

「見れば分かる」

『そっちではない。アレじゃ、あっちの黒いのじゃ』

 

 脳内で、忍は僕の視線をある方向へ向けさせる。

 イレイザーの行った、広間へと。

 細身な男の隣にいる、巨大な異形のヴィランへと。

 

「あの、巨大なやつか」

『そうじゃ。アレはおかしい。およそ人らしい生気を感じられん』

 

 個性は身体機能だ。

 異形型と呼ばれる、例えば犬や猫のような姿の個性でも。

 中身は人間であり、人間なら当然、吸血鬼にとっては食事の対象。

 ならば、忍にとってヒーローもヴィランも境なく食料のはずだ。

 そんな忍が、人であるヴィランを見て危険だと言った。

 食べる対象を、危険だと。

 これは、かなり、相当まずい展開なのかもしれない。

 鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼が、成れの果てとはいえ。

 危険を感じるほどの存在だということなのだ。

 

「……忍。アレ、倒せると思うか?」

『お前様が限界まで儂に血を分けたとしても、今の儂らでは無理じゃろう』

「日中の上に、相手の個性は不明か。それに……」

『これだけギャラリーがおっては、儂の存在が露見しかねん。無論、それはお前様が一方的に嫌がっておるだけじゃが』

「大事なことだ。それだけは避けたい」

 

 忍の存在。

 怪異の存在がヒーロー達に認知されてしまえば、忍の身が危ない。

 

「私の役目は、バラバラにしてなぶり殺すこと!」

 

 僕たちの作戦が決まるより先に、モヤが動いた。

 僕が少し目と意識を外していた間に何があったのだろう。

 黒い霧が僕らを包み、景色を強引に切り替えさせる。

 これは、ワープってやつか。

 着地をミスって、盛大に背中を打った。

 

「大丈夫か」

「あ、ああ」

 

 背中を向けてそう言ったのは、誰だったか。

 髪の毛の色が赤と白の二色に分かれた、火と氷の個性を持っているやつ。

 起き上がると、彼が手を貸してくれなかった理由が分かった。

 僕達の周りを、顔の怖い人たちが囲んでいる。

 

「まさか、これ全部を相手にしないといけないのか」

「下がってろ。俺一人でやる」

 

 サッと冷気を漂わせる彼。

 思い出した、(とどろき)だ。

 轟は右手を振り上げると、辺りを瞬時に氷漬けにした。

 すごい個性だ。

 轟は、自由を奪ったヴィランを尋問している。

 目的を聞き出すらしい。

 

『それで、これからどうするんじゃよお前様』

「分からない。けど、お前の言う通りなら先生が危ない」

 

 他にワープされたクラスメイトも問題だが。

 みんなで生還するにはやはり、あの怪物をどうにかしなければならない。

 

 

 

 

 

 

 




数話くらいプロットはあります。
人気次第で続けるか考えます。
感想頂けると嬉しいです。

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