個性『鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼』   作:江波界司

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久しぶり所ではない更新。
果たして読んでくれる人はいるのだろうか


ひみこハーフ 003

 [010]

 

 氷で囲まれたこの広間で、僕と忍は時間稼ぎに徹することを決めた。

 轟がワープゲートを止め、救助が来るまでの間、僕らはここで耐える。

 だが、いくら吸血鬼もどきと吸血鬼の成れの果てのツーマンセルとはいえ。

 あの化物の攻撃を耐え続けるのは、無理だ。

 だから忍。お前に賭けるぞ。

 正直、僕じゃあれをどうにかする策は浮かばない。

 

「分かっておるわ。だから、死ぬなよ、我が主よ」

「分かってる。だから死ぬなよ、忍」

 

 僕らは互いを補い合う。

 彼女が明日死ぬと言うなら、僕の命は明日まででいい。

 今彼女が死なぬと言うなら、僕はまだ死ねない。

 

「脳無!」

 

 細身のヴィランが叫ぶ。

 一貫して足掻く僕らに、どうやら気を悪くしたらしい。

 向かってくる怪物。

 今度はもう、瞬きはしない。

 一度攻撃を耐えられたからといって、次も耐えれる保証はない。

 そもそも忍の援護ありでギリギリ繋ぎ止めた命だった。

 だが、それでも僕には、忍がいる。

 脳無は大きく振りかぶった右拳を、僕へと振り下ろす。

 ガードなんてしても無駄なのだから、仕方ない。

 僕は持てる全ての力を使って、逃げる。

 当然の事ながら、僕の力ではあのヴィランのパンチを躱すことはできない。

 半身分動いた僕の左腕を、ヴィランの右拳が撃ち抜き。

 僕の左腕は、肩から下が丸々どこかへ吹き飛んだ。

 血が溢れ、傷口に痛みと熱さが集中する。

 

「これで、いいんだな……忍……」

『ああ、上出来じゃよ』

 

 そう、僕の影の中(・・・)で彼女は応えた。

 化物が襲って来る寸前、忍は僕の影に避難した。

 こうすれば、狙いは自ずと僕になる。

 そして、ここからが忍の策、作戦の本節だ。

 僕の影の先、脳無の背後から、忍は姿を現す。

 完全にヴィランの死角に入った忍は、そのまま脳無の体へ飛びつき、その太い首筋に歯を、牙を突き立てた。

 

「──────っ!」

 

 獣のような呻き声がコダマする。

 どうやら、効き目はあるらしい。

 エナジードレイン。

 吸血鬼の特性。特徴。特技。

 血を吸うことで、相手の力を、精力を、エネルギーを吸い取る。

 いくら打撃に強かろうとと、どれだけ再生能力が強かろうと、どんなに力が強かろうと。

 そもそものエネルギーを奪われてはどうしようもない。

 そんな、エナジードレイン耐性なんていう、対吸血鬼用の個性を持っているというならどうしようもないけれど。

 忍の予定通り、予想通りに、奴は膝を付く。

 やがて、全身に漲っていたはずの力を失い、脳無はその場に倒れた。

 

「は……?おい、おいおい、なんだよそれ。そんなの、ズルだろ、チートじゃねぇか……」

 

 細身のヴィランは、また首を搔きながら文句を言っている。

 確かに、これはズルだ。

 僕は頼らないなんて言っておきながら、結局こういう時、危機的状況で忍に頼っている。

 でも、僕もそれなりに体を張ったのだし。

 クラスメイトにも被害が出ていないというのなら。

 一件落着ってことに、ならないだろうか。

 ……僕の意識は、そこまでだった。

 

 

 [011]

 

 後日談というか、今回のオチを、僕はまだ語れない。

 何故ならこれは、僕と彼女の物語だからだ。

 僕と、彼女。

 阿良々木暦と、トガヒミコの物語だからだ。

 起承転結というテンプレートをなぞるなら、これはまだ転に至っていない。

 この物語は、僕が傷つき倒れたことから始まる。

 始まることで回り出す、転々とする物語だ。

 

 [012]

 

 僕がUSJ襲撃事件の結末を、事の顛末を聞いたのは、翌日の昼だった。

 あの怪物との戦闘の後、僕は出血多量によって意識を無くした。

 その数分の後ちにオールマイトが駆けつけ、ヴィランたちは去っていたらしい。

 忍はギリギリ僕の影に身を潜めたようで、他のクラスメイトや先生には見られていないようだ。

 個性を予め知っていた学校側は、僕の飛ばされた腕を回収して繋いでくれていた。

 吸血鬼の再生能力と現代の医療で僕の左腕はしっかりと動く。

 そんな僕は今、病院のベッドの上だ。

 一気に血を流したせいでかなり貧血なのだ。

 輸血と点滴を受けながら、今は体を休めている。

 

『かかっ。流石に焦ったわ。お前様があれだけ血を流して倒れておるのに、儂は影から出られんかったからのう。そのままうっかり死んでしまうのではないかと思っておったぞ』

「縁起でもないことを言うなよ。……それより、助かった。ありがとう、忍」

『礼には及ばん。どうしてもというなら、ドーナツを所望するがのう』

「分かった。今度また、買って来てやるよ」

『次は儂も行くぞ』

「僕が行くのは日中のつもりだったんだが」

『問題ないわ。儂も今は、真っ当な吸血鬼とは言えんからのう』

「そうか。それじゃ、学校帰りにでも寄ろう」

『かかっ。それは楽しみじゃのう。なら、寝坊せんように、今のうち寝ておこうかの』

 

 などと、言い訳のように言う忍は、やはりというか存外、疲れている。

 もともと吸血鬼は日を浴びて生きていられない。

 吸血鬼性をかなり失ってなお、彼女はまだ吸血鬼だ。

 直射日光を限界まで避けたとはいえ、血を与えて強化したとはいえ、負担をかなりかけてしまった。

 これは20や30ドーナツを買っただけじゃ返しきれそうにない。

 まぁ、そんなことは、明日の自分に任せよう。

 僕もまた、消耗している。

 忍のおかげで再生能力は上がっているのだけれど、肉体以上に精神が疲れている。

 あれだけ死を間近に感じながら戦うのは、思えば初めてだった。

 不死を無くして初めて死を感じるなんて、鈍感だとか朴念仁だとか言われても仕方ない。

 仕方ないから、僕は寝る。

 もうすぐ、赤い夕日が落ちる頃だ。

 

 [013]

 

 

 欲求不満の話をしようと思う。

 欲とは、欲求とは、欲望とは何か。

 生きていくために必要な何かだと、僕は考えている。

 その必要な何かがないというのは、あるいは、何かを失うというのは、とても苦しいもので。

 だから、欲求に逆らうというのは、言うまでもなく辛いことだ。

 ところで、人間の三大欲求をご存知だろうか。

 僕は今、人間でも吸血鬼でもあるけれど、それでも人間的な欲がないわけじゃない。

 そんな僕が言っても、いや、そんな僕だからこそ言えるのだけれど。

 僕は、起こされるという事象が好きじゃない。

 もっと有り体に言えば、嫌いだ。

 だが、そんな嫌いな行為でも、理由があればなるほど。

 感情とは裏腹に、起きてしまうしまうものなのだと。

 僕は、この静かな夜の病院で体験することになった。

 

「おはようですっ、暦さんっ」

「この分だと、僕は永遠におやすみしてしまいそうだけどな」

「大丈夫ですっ。急所は外してます」

「なにも大丈夫じゃないけどな!」

 

 目覚めてすぐに、僕はトガに馬乗りにされていた。

 この表現だと、まるで彼女が夜這いに来たようだけれど。

 どちらかと言えば、夜に這いよる混沌のようだ。

 クトゥルフ神話も真っ青になるほど、僕の服とベッドのシーツは真っ赤になっていて。

 貧血で頭が真っ白になりそうな僕は、現状お先真っ暗だ。

 まぁ、でも、彼女が僕を殺すことはない。

 今は夜、それも深い夜だ。

 僕の吸血鬼性は、昼間より一層強まっている。

 だから、体を数十か所刺されたくらいなら、問題は大有りだけれど、命に別状はない。

 

 

「それで、お前はどうやってここに来たんだ?トガ」

「ニュースで見ました。暦さんが、病院に運ばれるところ」

「僕が聞いているのは、この真夜中の病院にどうやって入って来たのかということだ」

「わたし、こういうの得意なんですっ」

 

 ストーカー行為も極めれば特技、ということだろうか。

 そんなことを誇らしげに言われても、僕は褒める気にはなれない。

 むしろ、他に聞くべきこととか、言うべきことがあったはずなのだ。

 僕がまるで忘れていたかのように、そういうことを聞かないのは、言わないのは、僕が彼女はそういうことをする子だと知っているからだ。

 

「けど、まぁ、一応聞いておく」

「なんですか?」

「なんで、僕を刺してる」

「暦くんの血が見たいからです」

「そうだよな。知ってた」

 

 つまりはそういうことだ。

 彼女はどこまでも猟奇的で、サイコパスで、恐ろしい。

 何より、彼女がその行為を、好意で行っていていることが怖い。

 今一度確認するけれど。

 これは僕と彼女の物語だ。

 血によって地獄を見た、地獄のような春休みを経験した僕と。

 血によって地獄を知り、地獄のような春休みを眺めた彼女の。

 イカれているほどに、居た堪れない、歪な物語だ。

 

 




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