どうやら訂正前の物を間違えて上げてしまったようで、編集いたしました。
王は自室で報告書に目を通していた。
「そうか...公国は滅んでいたか...。交易が絶えたのもそのせいか。となると現在交易が途絶えている国も恐らく、滅んでいるのだろうな。敵性勢力は世界中で同時に攻撃を仕掛けている、ということか...。ははっ、彼我の戦力差は圧倒的と言わざるを得んな」
思わず苦笑いを浮かべる。敵対勢力のお陰で王国史上類を見ないほど報告書が上がってくるので忙しいことこの上ない。おまけに南の都市消滅による国民の混乱で街は荒んでおり、内乱も起きるかもしれないという緊迫した情勢が続いている。
「このような状況で内乱など起ころうものなら、あっという間に国が潰れる。なんとしても民を安心させなければならんな。」
民を安心させるの手段は様々だが、最も手っ取り早いのは演説だろう。しかしこの王、政策や軍略等は得意だったが、演説のノウハウは全くと言っていいほど無かった。
ノウハウが無くては民を安心させることが出来ないどころか、不信感すら抱く者も現れるだろう。そうなってしまっては終いだ。国と民を守る為の行動が、逆に国と民を傷付けてしまう事となる。それだけは避けなければならないが、演説以外に安心させる方法もないので、短期間で出来る限り良い原稿を書く他ない。
「やれやれ、前途多難だな。」
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それから数日が経ち、原稿も完成し、いよいよ演説当日となる。既に王城の広場にて演説を待つ民衆が大勢集まっている。
「人前で緊張する事など、今まで一度とて無かったが、今回は少しだけ緊張するな。」
王が隣にいる補佐官にも聞こえない程度の小さな声で呟く。しかし、
「緊張しておられますか?」
気付かれぬ様に振る舞っていたつもりが、補佐官には見透かされていたようで、王は少し驚いた。
「何故分かったのだ?外見に出ていたか?」
「私が何年、王の補佐をやっていると思っているのですか?王の表情や動き一つ一つに気を配らねば、補佐官など務まりません!」
「そうか...そうだな。すまない。私も長年王をやっているのだ。民の前で緊張するなどあってはならぬな。王とは民の羨望の的であり、民からの尊敬あって初めてなれるものだ。民の前で緊張などしてしまっては、それは王とは呼べないな。」
一息付き、バルコニーへ進む。
明暗差により一瞬視界が真っ白になる。数度瞬きして目を慣れさせると、そこには大群衆があった。
王がバルコニーに現れた瞬間、静寂が訪れる。ふと民衆1人1人の顔を見れば、不安を抱いている者、怒りを覚えている者、王の謁見に喜ぶ者。心中様々だが、その誰もが、王の言葉を待っていた。
そして、演説が始まる。
「我が国の宝たる国民よ。先ずはこの様な王国の緊急時に私の声を聞きに来てくれた事に感謝する。...そして次に、王でありながら、南の都と東の都の民...いや、王国の民を守れなかった事を謝罪する。...本当に...申し訳ない!」
民衆がざわつく。通常、演説では謝罪などのマイナス的な言動は滅多に行われないからだ。
数秒の沈黙の後、演説は再開される。
「皆も知っている通り、現在王国は、敵性勢力によって攻撃を受けている。しかし敵勢力の正体は未だ掴めず、現在のところ迎撃しか出来ていない状況だ。」
実際、敵が正体不明という事が民や兵の不安を募らせている最も大きな要素の一つと言っていい。人が最も恐れを抱くのは未知だ。王国の戦況を知らなかったのか、民衆の少数がまたざわつく。しかし、王の力強い言葉に我を取り戻す。
「だが必ず、敵勢力の正体を掴み、反撃を行う事を約束する!今はまだ気休めの様な言葉かもしれないが、必ずそれが事実だという事を証明して見せよう!よって我が国民には、この王国最大の危機を、どうか私を信じて、耐えて欲しい!そして、下を向かず前を見ていて欲しい!私が王国の民の前を行く!それを見て、そして私に付いてきて欲しい!」
「以上だ。」
少しの間を開け、演説の終了を宣言する。
すると、
「うおおぉぉ!」
「王様万歳!」
拍手と共に称賛の声が上がる。
演説としてはとても短く、平凡なものであったが、それでも民を安心させるのには十分だった。
王は少し安堵する。民の力が少量なれど戻って来た事に。
バルコニーから室内に入ると、待機していた補佐官が声を掛けてくる。
「素晴らしい演説でした!」
「世辞はやめよ。私から見ても正直良い演説とは言えなかったという事は分かる。」
「いえいえ、「演説の基はその者の心にあり」でございます。先ほどの王の力強き言葉に勇気付けられた者もいるでしょう。」
「先代王、父の言葉...。成る程心か。確かに、精神が強き者は戦でも強いからな。人に心は不可欠だな。失念していた。」
「はい!人は人の心を持つが故に人なのです。」
「ハハハ、それはつまり、敵は人では無いという事か?」
「どうなのでしょう。少なくとも私は、人とは思えません。残虐性も、力も。」
冗談のつもりが、少し深刻な空気になってしまい、慌てて話を変える。
「...そういえば、敵について何か分かった事は有るか?」
「一つ有ります。ただこの情報は不確定な為、報告するか迷っていたのですが...」
「何でも良い。話してくれ。」
「分かりました。先日、民間で調査を行なっていた団体が、天上から来ているという説に基づき、南の都付近の上空を観測していた所、明らかにその場に存在していなかった敵性勢力の兵器が、突然現れた。との事です。」
「成る程、次何処に現れるかの検討もつけられんという事か、少なくとも人の基準では。」
「はい、ですので国全体で敵の出現を監視出来るよう、自立人型魔導兵器の開発を進めております。」
「おお!それは良い報せだ。それが出来れば、兵として役立てる事も出来るかもしれないな。心は人の強みでもあり弱みでもある。心が無ければ恐怖心も生まれまい。」
「なかなかに希望が見えてきたな。このままの勢いで正体も掴めると良いが。」
王は王国に芽吹いた小さくとも確かな希望を感じながら、束の間の休息を取った。
お読み頂きありがとうございます。
今回は王と民の話でしたね。演説に関しては何も考えず読んで欲しいです。正直自信ないので...。
先日とある映画を観に行きまして、上映中4回も泣いてしまいました。とても素晴らしい映画でしたよ。僕もあんなシナリオが書けるようになれると良いんですけどね。