演説が終わり、王が休息をとっていると、補佐官が部屋に入ってくる。
「御休み中に失礼いたします!」
「何事だ」
「西の都にて沿岸より敵襲。敵は目算20m以上。人の形をした新型魔導兵器です。数は30。現在敵兵器は街や兵に向けて砲撃を行なっている模様。既に多数の被害が出ています。」
「早いな。おちおち休ませてもくれないか。」
王は数秒の沈黙の後、補佐官に言伝をする。
「砲撃をしてくるという事は、支援用という可能性がある。突撃用の兵器などもあるやもしれん。『絶対に上陸を阻止しろ。』そう伝えてくれ。迎撃部隊の編成はお前に任せる。」
「はっ。」
言伝を受け、即座に補佐官は部屋から出ていく。そして、廊下を小走りで進みながら、トーラムを呼び出す。西の都に迅速に兵を運ぶ為には、彼の存在が不可欠だからだ。
補佐官が出て行った王室には静寂が訪れる。
静寂とは人に考える暇を与えてしまうものだ。たとえそれが無意味な思考であっても。
そしてそれは王においても同様だった
(ついに西の都か。しかし、東の都と南の都ときて、なぜ西の都なのだ?敵は王国を潰す程度の力はあるはず。なぜわざわざ西の都に?何か理由があるのか?ならばなぜ...)
思考すればするほど湧き出る疑問の海の中で、王が息継ぎを行えるようになるにはまだ時間がかかりそうだ。
〜西の海岸線〜
王国最大の商業都市、ウェスタゥンスタット。世界一の人口を誇るその都市は今まさに壊滅の危機に瀕していた。
建物の半数は瓦礫と化し、今なお続く砲撃により次々と破壊されている。
守備兵は魔法も届かない位置からの砲撃により殆どが死に、残った兵士も、その瞳を恐怖の色に染めながら、ただ水平線を見つめる事しかできなかった。
そしてその視線の先にあるのは、巨大な砲を両碗部に付けた魔導兵器のような銀色のモノ。
そのモノは、ゆっくりと歩を進めながら、両腕を上空に向け砲撃を行っている。砲から放たれた紫色の光の塊は、尾を引きながらゆっくりと放物線状に飛んでいき、着弾し、爆発する。
その破壊力は着弾点に3mほどのクレーターが出来るほど。人がまともにくらえば吹き飛んでしまうだろう。
それでも残った僅かな兵が逃亡しなかったのは、街を守るという使命感からだろうか。それとも、恐怖により足が動かないからなのか。
どちらにせよ、止まったヒトなど、そのモノにとっては的でしかなかった。
一方、避難している数千人の民と護衛の数百人の兵士達は、街から十キロ程離れた地点に居り、王都に向かい進んでいた。
民の中には家族を失った者。恋人を失った者など様々だが、それでも皆諦めず生きようとしている。そしてその気持ちは統率者が汲んでやらなければならない。
統率者、つまり西の都を執り仕切っていた貴族の男だ。
自らも妻子を失った事を表にも出さず、皆に激励の言葉を掛けたり、道中にあったいくつかの町や村に避難を促しながら、王都へと向かう。
ふと夏の暑さでゆらぐ地平線に目を向けると、何かが見える。
何かがこちらに向かって来ている。
鳥だろうか。それにしては大きい。魔導兵器か。しかし、あんな形の物は見たことがない。であれば飛竜かもしれない。だんだんと近づき大きくなっていくその影に、兵士達が警戒し始める。
しかし予想とは裏腹に、実際飛んで来た物は竜車であった。
竜車が空を飛んでいる。乗り手も居ない。ただ真っ直ぐ西の都へ向かっている。
民衆はそれがトーラムの部隊であることにようやく気付き、喜びと驚きが入り混じったような声が上がる。
それに混じって貴族の男の口からも安堵の息が漏れる。
「あぁ、これで西の都は救われた。」
通り過ぎて行く竜車を少しの間眺めていたが、目的を思い出し再び進み始める。
それからしばらく行進を続けていると、今度は地響きのような音がどこからか聞こえて来る。
いや、間違いなく地が小さく振動している。
民衆もそれに気付き始め、ざわつき始める。しかし、
「王国の地上部隊が近付いて来てるんじゃないのか?トーラム様は飛んでいたから早かっただけで、遅れて他の兵士達が来たのかもしれないぞ。」
民衆の1人が言い出す。他の民衆の不安を消そうとしているのだろう。
しかし溢れかかった不安を隠しきれず、声が少し震えている。
それでも怯えきった他の者効果があったのか、安心したような声やため息が伝播していく。
そんな中、貴族の男は胸騒ぎを覚えていた。地響きが仮に部隊の行進による物だったとしても、地響きが始まってしばらく経った今でも地平線から兵が見えて来ないのは不自然だ。それに、これは感覚的な物だが、行進による揺れというよりは、もっと底から響くような揺れと音のように感じたのだ。
そして、そういう嫌な予感ほど当たるものだ。
突如、前方の地面が割れる。いや、前方だけではない。人々の周りを囲うように割れているようだ。
そしてその割れ目から、肌色をした八本脚の謎の怪物が次々と湧き出してくる。
脚だけでなく眼も八つあり、言うまでもない巨躯と、その口にかなり遠くから見えるほどの巨大な二本の牙が備えている。
その怪物は大きな跳躍に僅かな歩行を交えながら近付いて来る。
湧き出した怪物は瞬く間に辺りを覆い、もはや退路は無くなっていた。
民衆は驚き怯えて、様々な声色の悲鳴が辺りに響き渡る。
しかしその状況で貴族の男は、彼自身が驚く程に冷静であった。
そうか、今から死ぬのか。という諦めに近いような感情が貴族の男の体を包み、周りの喧騒を遮る。
男は静寂に煽られ、自らの生を振り返る。
想えば短い人生であった。大貴族の長男として生まれ、ただひたすらに父の様な人になりたいと生きてきて、気付けば領主になっていた。
周りの期待と不安に押しつぶされそうになりながらもなんとかやってきたが、それももう終わりだ。
嗚呼、父上。私は貴方のようにはなれなかった。
私は全てを失い、この悔しさと無力感の中死ぬのだな...。
そうして目を瞑り、その時を待つ。
民衆の悲鳴と共に地鳴りが身体に響いてくる。竜車の地竜達も大きく甲高い声を上げている。
彼らは助けを求めているのだろうか。一体誰に?
この状況で助けに来れる者など何処にもいない。仮に助けに来たところであの怪物に殺されてしまうだろう。
では誰に助けを求めているのだろうか。神か?もしくは助かろうとする己自身にか?
未だ助かろうとする者たちの声を聞き、哀れみのような、嘲りのような不可思議な感情に包まれる。
(彼らはまだ、生きようとしているのだな...)
そこで男ははっとする。
私は一体何を考えているんだ?
領地は滅び、財も失い、家族すら失った。しかしまだ私には失っていないモノがあるじゃないか。
まだここに私の命は在る。
まだここに守るべき民が在る。
であれば今私がすべき事は一つ。
この私の命に替えても、民を生かす事だ!
あぁ、そうだ。私達は生きたいのだ!
覚悟を決めてからは早かった。すぐに目を開け、団長に指示する。
「西部方面軍団長!貴君に命ずる!」
突如現れた怪物に言葉を失っていた団長だが、貴族の男の呼ぶ声を聞きすぐさま体を向け、指示を待つ体勢を取る。
それを確認し、貴族の男は続ける。
「この場にいる全ての人を、命を、完全に守り抜け!」
それは誰が聞いても不可能だと言わざるを得ないような命令。この状況で人々を守り抜く事は無理だと、誰もが言うだろう。
しかし軍団長は
「はっ!必ずやお守り致しましょう!」
必ずと言ってみせた。
正直そこまで自信はない。だが、自らが軍団長であると言う使命感、そしてある程度の考えの上で言い切った。
包囲状態で死者を出さずに突破する方法は一つしかない。
包囲の一点に魔力を投射し、穴を開け、その穴を維持したまま包囲を抜ける事だ。
口だけなら簡単だが、実際維持し続けるのは難しい。知能のある人相手ならばの話だが。
なにしろ今回は人相手では無い。
相手は知能の無い怪物だ。包囲を幾重にもしないし、包囲の穴を埋めようともしないだろう。ただ向かってくるのみならやりようはある。
まず究極魔法である程度の道を開け、その後制圧用の小規模魔力投射を連続して行い、道を開き続ける。兵士が民衆の前後左右を囲いながら包囲を抜け出し、最後にもう一度後方に赤の究極魔法で壁を作る。
その後も通常魔法を使えば足止めはできるだろう。
「これで行こう」
軍団長は心を決める。これで死者が出た場合は、全て私の責任であると。
覚悟を決めた軍団長。そしてその他の兵士と民衆。生きようとする彼らの元に、大きないくつもの影が地を揺らしながら迫っていた。
遅れ&あんまフォーリナー出なくてすみません。
次もこんな感じの遅さになりそうです。
最後に私から質問なのですが、あまり後書きなどで感情を出さない方が良いでしょうか。出来れば教えてくださると助かります。もちろん個人の問題なので多いからどうこうという話ではないですが。