さて、カルネ村を探そう。
アインズさんと恋人関係になった夜から、俺はナザリック周辺にあるはずの村を探すべく、奮闘している。
こんな姿、シモベたちに見られたくない。なので、部屋には俺が創造したNPC……名前をエードラムという……が一人、護衛についた。俺の後ろで、作業を見ている。
種族はドッペルゲンガー。ナザリックの司祭という立場で、ギルドメンバーを神と崇めている……という設定だ。
――頭はかなり賢い。守護者統括の代理を務められるほどに。そう、設定付けた。
そんなわけで、普段はアルベドと共に仕事をしている。今日は本人が「息抜きしたい!!」と爆発したので、俺の護衛につかせた。
これが息抜きになるんだって。なぜ?
話を戻そう。
まず自室の倉庫から、遠隔視の鏡を取り出す。そして応接用の長テーブルに置いて、完成。
あとは鏡の前に座り、大きなタッチパネルを動かすように、両手を動かす。
鏡には直接手を触れずに行う。アニメでもそうだったし。だから、俺も。
見えている景色は草原。夕陽が美しい。
左右上下に動かして、視点切り替え。
拡大、縮小の方法はタッチパネルと同じ。
……じゃあ、視点の移動はどうすればいいんだ?
例えば、前に一メートル進みたい時。
試しに、鏡に向かって手を突き出してみる。視点が変わる。
進んだ!間違いない。見えていた景色がちょっと違うし。
「でも、どのくらいの距離進んだかわからないな……」
「大体一メートルですよ」
「おお」
驚いて後ろを振り向く。
いつの間にか、エードラムが背後に立って、鏡を覗いていた。
「よく、一メートル進んだとわかったな」
「鏡にうつる景色の特徴を、覚えていましたので」
「そうか。教えてくれてありがとう。エードラム」
「いえいえ。でしゃばりました。お許しを」
「許すとも。だが、それは俺以外にしてはダメだよ?」
「はい。心得ました」
「うん。それならいい」
大体やり方がわかってきたので、本格的に村を探す。
まずはナザリックから半径一キロ圏内を。
六時間ほど探せば、ようやく村を見つけた!
しかも、しかも!
エンリとネムの姉妹が、鏡にうつっているじゃないか!二人とも寝ている。まあ夜だからな。
しかも襲われた形跡はない。つまり、襲撃前って事だ!
「やった!ここだー!」
「おめでとうございます。周辺の村を見つけられましたね」
拍手してくれるエードラム。声の調子も上がっているようだ。
俺はここまで付き合ってくれた彼に、礼を言った。
「エードラム、付き合ってくれてありがとう。待たせたな」
「いえいえ。では、次はいかがいたしますか?」
「この村を監視する。時期を見て、ここへ行く」
「かしこまりました。掌握しますか?」
「戦争を仕掛けるんじゃない。恩を売るんだ」
「恩ですか。劇でもされるので?」
劇?……原作でナザリックがやっていたマッチポンプの事を言ってるの?
俺は頭を振った。
「違う。まあ、その内な……」
とりあえず、今日はもう休もう。
残業した気分だ……。いや、残業したのか。
両腕を組んで、ぐっと上に伸ばす。
精神的に疲れたな。こういう時はアインズさんの顔が見たい。
俺は立ち上がる。
「とにかくアインズさんに報告するか……」
「私が《伝言》でお伝えしましょうか?」
エードラムには《伝言》の魔法を覚えさせている。
原作でよく使われていた魔法だからな。備えあって憂いなし、だ。
「いや、俺がするよ」
まあ今日は使わないけれどね。
俺はアイテムボックスから、手のひらにすっぽり収まる水晶玉を取り出した。
そして、水晶玉に登録してあるフレンドの一人、アインズさんに連絡する。
「もしもし、アインズさん?夜分遅くにすみません。村を見つけたので、一応報告させていただきます」
――――――
村を発見してから、二日ほどたった。
俺はできるだけ全ての時間を使って、村を見守り続ける。
いつでも村に訪問しても良いように、白い鎧を着用していた。
白い方が、黒や紫より怖くないかなって思ってさ。
今日はアインズさんも一緒だ。テレビを楽しむ感覚で、鏡に村をうつし、観察する。
鏡の前に二人用のソファーを置き、そこに二人一緒に座る。周りには護衛のセバスが一人、背後に立っている。
「まだ何も起きないなあ……」
そんな俺の呟きに、アインズさんが言った。
「起こせば良いではないか」
そんな「散歩に行こうぜ」みたいな調子で言われても……。
俺は頭を振る。
「何か起こる気がするので、もう少し様子を見ます」
「そうか?皆、ゴーナイトの命令を待っているぞ?」
「それはありがたいです」
でも村を襲撃しろとか、命令できないよ〜。敵対してないもの。
とにかく法国からの襲撃があるまで、のんびり姉妹を見守ろうか……。
背伸びして、再び画面を見る。
「あ」
エンリの視線の先で、彼女の母親が騎士に切られた。
始まったぞー!!
「きた!アインズさん、お願い!〈転移門〉で、あそこに行きたいです!」
「わかった。セバスを連れていけ。こちらの指揮は任せろ」
「ありがとうございます!」
今のアインズさんの指揮はめちゃ不安だけど、エンリ姉妹と生き残った人たちを助けに行きたい!
「セバス、行くぞ!」
「かしこまりました」
アインズさんの魔法で作られた、半球の黒い渦の中へ飛び込んだ。
――視界が変わる。
体に異変はない。
外の風を感じた。
目の前にはエンリとネムの姉妹。絶望に顔を染めている。
奥の騎士たち……エンリたちを追いかけていたようだ……は、ひどく驚いているようだ。
さらにその奥では、エンリの父親が素手で戦っている。
だが、剣で切られてしまった。
そこにさらに攻撃が――。
俺は指をまっすぐ指した。
「あの者を、助けてやれ」
「御意」
セバスは背後で爆発音を響かせ、エンリ姉妹、追ってきた騎士たちを通り抜けて、エンリの父親を助ける。
鎧の上から拳で殴り、三人まとめて吹っ飛ばす。
そしてセバスが唯一使える回復手段で、切られた父親を治してやった。
その間に、俺は座り込んでしまったエンリ姉妹と、騎士たちの間に立つ。
「あ……」
エンリが声をもらす。
俺は手で制した。
「ここにいなさい。守ってあげるから」
「……はい」
「おねえちゃん……」
「大丈夫だよ」
不安そうな姉妹の声に、ちょっと申し訳なくなる。
騎士たちは、セバスより俺の方が弱いと勘違いしたのか、こちらへ襲ってきた。
セバスがこちらに来ようとしたので、手で止める。
「う、うわああああ!」
遅い。
俺は騎士の手の甲を軽く強打し、落ちた剣を奪う。
そのなまくらな剣の腹を使って、相手の胸部をまた軽く強打。
騎士は「ごべ!」と言葉をもらし、二メートルぐらい吹っ飛んで転がった。
「うん。勝てるな」
スキルを使わなくても勝てる。いい感じだ。
俺は、姉妹を追ってきた騎士たちのうち、もう一人の騎士に顔を向ける。
「ひっ!来るなあ!!」
相手は剣を無闇矢鱈に振りまわす。
俺は姉妹から少し離れてから、スキルを使う。
体を霧状に変化させて、ゆらりと騎士に覆い被さった。
どれだけ腕を振っても、霧になった俺を振り払えず。
「が……ご……」
騎士は倒れて動かない。
うんうん。俺の〈カースミスト:レベルⅤ(即死Ⅴ、物理無効Ⅷ)〉か使えるな!
これで低レベルの相手ならば、今みたいに一方的に倒せるぞ!
喜んでいると、後ろの気配が増えた。振り返ると、アインズさんが姉妹に腕を伸ばしている。
ちょっと待ってくれ。
俺は素早く、姉妹とアインズさんの間に体を入れた。
「……何しているんですか?」
「あなたが注目する人間に、興味があってな」
「注目……?」
声を発したエンリが……姉妹が、今度は俺に注目する。
俺は後ろを振り返らない。
「それで、軍はこちらに来ているのでしょうか?」
「まもなく、な。アルベドが五百のシモベを連れてくる」
「村を助ける為ですよね?」
瞬きする一瞬。
「いや、襲うんだろ?」
「違いますってば!」
俺は叫んだ。
――――――
生き残った村人を、村の中央広場に集める。
みんな怖がって泣いたり、家族と身を寄せ合って、可哀想な事になってる。
助けただけなんだけどな……。なんか、ゴメン。
村を襲撃した騎士たちは少し離れた場所に、置いた。
騎士たちは縄で縛ったり、両手足を折って使えなくしたり、様々だ。武器は回収してある。
その周囲を、ナザリックの百のシモベたちが囲んでいる。
残り四百は周囲の森にとけこみ、隠れている。
俺はアインズさんの隣で、指揮する。
「それじゃ、騎士たちは拠点に運んくれ。ケガした村人たちには、治療してやって」
「御意」
「かしこまりました」
セバスとエードラムが、村人たちを治療していく。
セバスは一人ずつ、エードラムは周囲の人間をまとめて。
村人たちの困惑の色が濃くなった。それでも、ケガを治してくれた相手に、警戒の色を少しだけ解いたように見える。
俺は、さらに指示を出した。
「ケガ人の手当てが終わったら、セバスはこちらに戻れ。エードラムは死体の方に行って、祝福を。アンデッドにならないように、してやってくれ。……それでいいですよね?村長殿」
「は、はい……」
俺から近い場所に、村長夫婦を座らせている。
奥さんの方はすっかり怯えてしまっているが、村長殿は妻を守ろうと、恐怖に立ち向かっている。つまり俺たちと、まだマシに話せる状態だった。
さてセバスが戻り、エードラムが死体を並べている場所へ向かった。
頃合いだろう。
俺は村人たちの注目を集める。
「はーい、皆さん注目してくださーい」
気分は学校の先生だ。
……周りは、そんな楽しい空気ではないけどね。
村人たちがこちらを向く。皆、怖がっているようだ。
それでも俺は続ける。
自分たちは、この村を助けにきた事。
対価として、情報を得たい事。
必要があれば、村の復興を手伝う事。
なんて事を話した。
村長殿は、隠しきれない戸惑いを表す。
「どうしてそこまで、我等を助けてくれるのでしょうか?」
「簡単ですよ。お隣さん同士、仲良くしましょうって事です」
「は、はあ……?」
村長殿は戸惑いに、困惑が加わった顔をしている。
バケモノが何言ってんだ?って感じかな?わかる。
でも、本気で考えているんだ。
バケモノな姿なのに、中身だけ転移する前とほとんど変わらない、そんな俺と仲良くしてくれる人間さんを探している。
じゃないと……。
「(俺、そのうち狂っちゃうよ)」
冗談じゃなく、本当に。