「ちっ…ここも取られてやがる」
アロハシャツの男、酒井が言葉を漏らす。
彼の視線が向いているのは何の変哲もない田んぼ。ここに何があったのだと言うのだろうか。
「兄貴、次行きやしょう」
「おう。行くぞ、ヤス」
彼についてまわるのは子分であるヤス。
酒井が彼の窮地を助けてからすっかり懐かれてしまい、今はこうして行動を共にしている。
「次はここか…しっかり探せよヤス」
「分かってますって」
2人は足を田んぼに付け、歩き回る。
バッタやヤゴは見当たるものの、狙いのものを見つけるまでには至らなかった。
「ここもダメか…」
「そりゃそうっすよ。今はタニシの時代っすからね」
タニシの時代。ヤスの言う通りその言葉は真実だった。
数ヶ月前。驚きの報道が発表された。
『タニシが食べれる。』
『タニシ、実は食用だった』
田んぼでよく見るヤツという認識があったタニシ。それが食べられるという情報が出てから、それらの価値は変わっていった。
タニシは最初は安く取引されていたものの、田んぼから一気に姿を消したタニシは瞬く間に高騰。中にはタニシが
まさに現代のゴールドラッシュとでも言うべきだろう。
「…いねぇっすねぇ」
「しょうがねぇ。次行くぞ」
酒井はメモを見ながら次の田んぼに向かう。
彼は多額の借金を背負っており、それをタニシで返済しようと考えているのだ。
先程の田んぼから数キロ離れた田へと移動する。田んぼといっても穂は無く、タニシを捕らえる為の罠は仕掛けられていた。
これでは本末転倒である。
「しっかし…中々見つかんないっすね…」
「こんな数ヶ月で消えちまうなんてよ、タニシは絶滅危惧種か何かになるんじゃねぇの?」
「そりゃ大変っすね。そういえば兄貴。かつてウナギっていう奴が絶滅危惧種になってから絶滅した話知ってます?」
「ウナギか…死んだお袋が最後に食いたがってたな」
「ウナギが絶滅した原因なんすけど人間、特に俺たち日本人が食いまくったからだそうですよ。これ今のタニシと似てないですか?」
「確かにな…クソッ」
田んぼを何度探してもタニシは見つからない。
またしても上手くいかず酒井は文句をもらす。
彼には時間がなかった。
「…ヤス。先帰っておいてくれ」
「えっ…急にどうしたんすか」
「俺はこれからタニシ園に行く」
「…えっ!?」
「そこでタニシを取ってくる。危険だからお前は帰れ」
タニシ園。そこはタニシをあらゆる所に卸す、農家が所有している田んぼ。先程まで酒井が探していた言わば野良の田んぼとは違い、タニシが最適な環境で育てられている。当然、警備も厳重であり、最悪の場合死刑である。
「い、嫌です!俺は兄貴についていくって…」
「帰れ!…お前まで巻き込んじまうぞ!」
「わ、分かったっす…」
ヤスを帰らせた酒井は更に数十キロ先にあるタニシ園を目指した。
(…ここにタニシがある。俺の家に残った借金も返せるんだ…!!)
「うぉおおおおおおおおおおお!!」
バリケードを破り、酒井は走り出す。
タニシさえあれば、借金もなくなり彼は再び人生を歩むことができる。
再出発したらタニシとは縁をきろう。
彼はそう思い、駆け抜けていった。
「あっちゃ〜この日が来るとは思ってたけどなぁ」
「しょうがねぇだろ。このまま行くとウナギの二の舞だぜ。…ん?」
タニシ園に所属する2人の警備員が歩きながら雑談をしていた。
すると、男の一人が田んぼの片隅に何かがいる事に気づく。
「侵入者か?アロハシャツ着てるな」
「何か手に持ってるみたいだぜ」
「これは…タニシか。これ目当てに侵入してきたのか。運の悪いヤツだな」
「ホント。この速報を聞かせてやりたいよ」
『ここで緊急速報です。タニシが絶滅危惧種に指定されました。これを受けて日本政府はタニシの食用をストップし、後世に伝えるべくタニシを保護する方針です。今まで行われていた高額での取引は全て犯罪となります。繰り返しお伝えします。タニシが絶滅危惧種…』
友人から貰ったお題『タニシ』で書きました。
連載小説で出そうとした所何か違うなと思い、元の作品は削除しました(2020/08/12)