題名考えてくれた方ありがとうございます!
あくまでも原作の裏でこんなことやってるんやろな…っていうノリで書きました。
「――じゃ、1分後に開始です。弱錬とサグマさんは手筈通りに」
闇が太陽を覆い、空では月が嘲笑う。
幕末が江戸の夜。老若男女が長屋の屋根に立ち、道を征くちょんまげの
彼らは一様に眼をギラつかせ、正常に、冷徹に手を動かしていく。
ある者は太刀を、ある者は槍を、ある者は鍋蓋を、ある者は鉈を。
それぞれが最上の得物を手に、時を待つ。
標的の男が佩く刀は流麗にして殺意そのもの。立ち姿には隙がなく、柔軟なれど活火山のような苛烈さを感じさせる。
明らかな強者。
「残り20秒、構えてください」
一人で挑めば斬れないだろう。保って十数合、ともすれば一刀のもと斬り捨てられるかもしれない。
故に、複数で挑む。
知を絞り策を練り、そして数で押し潰す。
何かを為そうと思うなら、道徳を薪に脳を回せ。
天がやれって言ったから、何をしてもしょうがない。
天がやれって言ったから、リンチしてもしょうがない。
「
声と同時に跳躍、髷を貫くように弱錬が斬りかかる。男の背後では鍋蓋を構えたサグマが突貫。
ぎるん、と男の顔が動く。正確な回避と受け、カウンターで二人の首が飛んだ。
弱錬の後ろから更に突き。奴の体ごと槍が心臓へと進む。
次も失敗。極僅かな足運びと共に一閃、弱錬もろとも輪切りにされる。
おっとびっくりした顔すんなよ
こいつが巨漢であったお陰で気付かれず男の前に降り立てた。
体幹の歪みは激しいが、鉈くらいなら容易に振れる。時間もある。ならば殺せる斬り伏せる。
呼吸、止め、抜き斬れ。
迫る刃を無視して腰を捻り、命脈を絶たんと前を向く。電子の空へと吐いた言葉は奇しくも同じ。全てを許す合言葉。
「「天誅!!」」
ここは辻斬・
人の命が何より軽い、鮫の蔓延る金魚鉢。
一般にはクソゲーと評され、
手を組み裏切り和解する。また裏切り再結託。
他者への信は既に無く、あるのは刃と己のみ。
戦う理由はただ一つ。
あ、狂犬さんチィース!一緒に天誅しない?
駄目?そっかじゃあアンタを天誅だ!!!
◇◇◇
「で、俺が産まれたっつーわけ」
駄弁る、という行為は現代社会ではありふれているが幕末ではごく貴重である。
なんせ常に天誅を警戒しないとだからね。反射で盾を調達する程度には気を張る必要がある。
「産まれたってかリスポンだろツッコミ天誅!」
「はいガード。代金置いときますね」
例えばこんな風に。哀れなり茶屋の娘、アンブッシュで散る…諸行無常の響きだな。
ちょんまげこと『吹雪狩』を襲ってはや数日。無事天誅された俺は、友人たる弱錬と共に茶屋にいた。
吹雪狩と結託し狂犬を倒したのは良かったが、まさか『俺たちの勇者』が通り掛かるとはな。なんだよ「暑くて起きちまった」って可愛いかよ。
「てかこのゲームおかしくない?なんでこの
「あるけど天がやれって言ってんだよ」
天誅の意味知らんとか情弱かオメー?お??
「女の子相手に煽りとか酷い…もしや童貞?」
「おーけー喧嘩だな。構えろ糞ネカマ」
「フレに呼ばれたので抜けますね^^」
呼ばれる友達いないじゃん、そう言ったらグーパンが飛んできた。湯呑で受けた。
可愛ければ手加減して貰えると思ってネカマするとかアホでは。幕末を見誤ったな破片天誅!
まぁ、戯れるのもほどほどに本題へ入ろうか。
「そうそう、新イベの話だ」
「なんだっけ、デスゲームもどきだよね?」
近々行われるイベント『極限月下』。死亡すれば即終了のこれで、俺は上位にランクインしようと考えている。理由は簡単、報酬のためだ。
俺はランクイン報酬の大鉈「蛍火軌跡」が欲しい。そりゃもう猛烈に。
公開されていたグラフィックの美しさに惚れた。ナイフに近いフォルムに惚れた。夜を鋳溶かしたような刃の色に惚れた。銘の通り蛍の軌跡を写す装飾に惚れた。
だがこいつを手に入れる為にはランカーを倒さなければならない。そう、幕末のシステムに適合した化け物を。金魚鉢に住む鮫をだ。
吹雪狩に挑んで分かるように、奴らの強さは異常である。またその強さは総合ランキングが上がるほど跳ね上がっていく。
「なに、ランクインしたいから僕に組めって?こっちにメリット無いじゃん」
「冬イベ交換報酬のピアス」
「は?」
「同じく飾り鈴、金黒赤三色全部だ」
そんな小馬鹿にしたような顔すんなよ弱錬。欲しがりめ。
「チョーカーとミニスカ、成功の暁にはリアルでもなんか奢ってやる」
「よし乗った。いい取り引きだねリンドウ君」
リンドウ、つまり俺。
弱錬はアホだから物で簡単に堕ちてくれる。
ランカー殺しの算段はもうつけてるし、手伝わせるなら気心の知れたこいつが適任だ。
何気にこいつ扇動得意だしな。本気出せば十人単位で即興結託できるし、対ランカーにはもってこいの人材だろう。
「そういやどうやるのさ。レイドボスさんに喧嘩売るとかじゃないよね?」
「普通に『被下剋上』相手に漁夫の利天誅だよ。人集まるし結託狙わせやすいから」
単純な、標的を誰かに倒させそいつを漁夫るだけの作戦だ。
ぶっちゃけランカー以外でも良いが、人手が必要な関係で人気の高い彼が狙い目である。イベントは"倒された奴が持つポイントが倒した奴に移る"仕様だから、リンチさせたのを漁夫れば楽に稼げるだろう。
「報酬は先払いだよな?」
「一部だけな」
ほい、と耳から外したピアスを渡す。待て汚い物を扱う手付きで触んな傷つくだろ。
「…マジ?」
嘘だよバーカ。今度はインベントリから取り出したチョーカーを渡した。こっちは未使用品だ。
「じゃ、よろしく」
そう言ってログアウト、日付さえ跨がなければ何してようと健康だ。そうに違いない。
「―――見つけたぞ」
「ちょっと姉さん声大きいって…」
◇◇◇
「――ぉまっ!?待てって、言って、んだろ!」
現在イベント中。
天気は晴れ時々
「
「天の下に死ぬがいい悪漢!天誅!!」
わたくしリンドウ、執念深いブラコンに襲われております。
お出かけの際は、俺に斬られる用意か奴を斬る用意をしてくれ。
「糞が、いつもなら腹切でも何でもしてやるってのによォ…マジで矛収めてくんない?」
「黙れ外道!我が弟を殺めた罪…死で償え!!」
ランクインまで死ねるかバーカと反撃天誅。振った鉈は手に持つ蓋でいなされる。礼とばかりのリバーブローはステップ踏んで回避、距離を取りひと呼吸。
弱錬は…作戦通りやってくれてる。なら良し、時間は無いがゼロではない。速攻で片付ければ狂わないだろう。
にしても再会できるとはな。
なぁ、幕末でも希少な
サグマさんよ。
「
「2分で終わらせる!!」
辞世の句で百人一首作ってやんよ。
◇◇◇
続かせろって天が言ってる