スリザード・クラブ (蛇寮非魔法族出身者の会)   作:非魔法族

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第4話 休暇 (3)遠足は談話室に帰るまで

「こんにちは、ミス・セラ・ストーリー、そしてミスター・シム・スオウ。良い天気じゃな」

 

 深くゆったりした声が廊下に響いた。シムの背筋が凍りつく。無言で振り返る。先ほどまで誰もいなかったはずの廊下に、長い長い銀髪と髭をたたえた長身の老人、ホグワーツ校長アルバス・ダンブルドアが、二人の目の前に立ち、ブルーの瞳をキラキラさせて、こちらをじっと見つめていた。

 

「こんにちは、校長先生。良いお天気ですね」

 

 セラは二人の「目くらまし」を解いて、緊張の混じる声で快活に挨拶をし、シムも続けて挨拶をしたが、何と言ったのか自分でも覚えていなかった。

 魔法学校の校長、それも、今世紀最大の魔法使いと呼ばれる賢者、マーリン勲章勲一等・大魔法使い(グランド・ソーサラー)最上級独立魔法使い(スプリーム・マグワンプ)・ウィゼンガモット首席魔法戦士(チーフ・ワーロック)・国際魔法使い連盟議長の数々の(きら)びやかな肩書を持つ大人物が、こちらに相対して声をかけている。

 ただでさえ緊張しよう状況であるが、それに輪をわけて、今はわざわざ姿を消して人気のない校舎を歩いているところを目撃されたという状況なのだ。シムの鼓動は強さと速さを増した。教師であれば、何かやましいことがないか訝しんで当然であり、実際に二人にはやましいことがある。

 

「全然気づかず、失礼しました。……ひょっとして、しばらく私達の後ろにいたのですか?」

 

 セラはあくまでにこやかに言葉を続けた。

  

「否。わしは透明になって生徒の跡を付け回すような真似はせんよ。ちょうど図書館から出たら、廊下を歩いているきみ達が遠目で見えたからの。こっちも『目くらまし』を使って驚かしてみたくなったまで」

 

 校長先生は微笑んだ。セラは(かぶり)を振った。

 

「……かなり景色に溶け込めるようになったつもりでしたし、音も匂いも消せるようになったつもりでしたが、やっぱり校長先生の前で透明になれはしないものなのですね。後学のために、どこがダメだったか教えて頂けないですか?もちろん目を凝らせば何かがいることは分かると思いますが、遠くで一目見ただけでとは……」

 

 シムは、この間の悪い場面で、魔法についての質問を堂々とぶつけるセラの胆力に感心した。校長先生は鷹揚(おうよう)と頷いて応じた。

 

「まず、そもそも『目くらまし』をきみの年齢で、半分透けて見えるようなレベルではなく実用的なレベルで使えるということ自体、随分と天晴(あっぱ)れなことじゃ。習得が非常に難しく、魔力の消耗も大きく、本人の適正にも――つまり警戒心や狡猾さや慎重さといった気質にも大きく左右される。幸いほとんどの生徒が使えないからこそ、城全体に『目くらまし』を暴く結界が張られていなくとも、この学校がなんとか学校の形を保っていられるわけじゃが」

 

 校長先生はそこで一回言葉を区切った。

 

「その上で指摘するならば、魔法にはほとんど必ず痕跡が残るものだからの。きみのような十代の魔法使いの瑞々しい魔法の痕跡を、わしくらい年老いて干からびた魔法使いが見破るのは朝飯前なのじゃ。年の功という奴かの」

 

「痕跡ですか……」

 

「今は分からなくとも、いずれ分かるようになるかもしれぬ。精進あるのみじゃ」

 

「わかりました。頑張ります。……しかし校長先生ともなると、『目くらまし術』で完璧に透明になれるのですね。――たしか魔法界には、『死』の目すら誤魔化せるマントをもらったお話があったと思いますが、あのマントも実は、校長先生のような、『目くらまし術』の達人がモデルになってたりするのでしょうか」

 

 セラがあえて話を逸らし続けているのは、校長先生が自分達に都合の悪い話題に切り込むのを避けるためではなく、純粋な好奇心なのだろうかと、シムは(いぶか)しんだ。いくら百歳を超える老人でも、話の本題を忘れるはずがない。仮にも魔法学校の校長を務め、今世紀最高の賢者と(うた)われる人物がそこまで耄碌(もうろく)しているはずがない。……いや、ホグワーツ初日の(そーれ、わっしょい、)新入生歓迎会(こらしょい、)での頓珍漢な挨拶(どっこらしょい)を聞く限りでは、その可能性もなくはないかもしれないが――。

 

「お世辞は照れるの。たしかにわしは、あの物語に出てくる『マント』がなくても、人の目を(あざむ)いてほとんど姿を隠すことができるが。あの話の末っ子が『目くらまし術』の達人だったという説は考えたことがなかったの。長持ちしない普通の『透明マント』――もちろん『普通』とはいっても葉隠れ獣(デミガイズ)の毛で織ったり『眩惑呪文』を繊維に染み込ませたりするような極めて値の張る代物じゃが――それの理想形として思い描かれたものだと思っておった」

 

 校長先生は自らの顎鬚(あごひげ)()ぜた。

 

「しかしマグル出身のきみは吟遊詩人ビードルを読んで育ってはいないはずじゃが、こちらのお伽噺についても勉強しておるのだね」

 

「読み物としても面白いですが、ただの空想にすぎない非魔法界のお伽噺とは違って、妖精(フェアリー)の実在が既知となっている社会でのお伽噺(フェアリーテイル)は、現実じみていそうでとても興味深いです。死すら克服する魔法具がもし本当にあったとすれば――」

 

 熱っぽく言うセラを(さえぎ)るように片手を挙げ、校長先生は重々しく言った。

 

「たしかにビードルの伝承には史実が基になっているものも多いが、ただのお伽噺にすぎぬものも無論多い。死を克服する手段があろうとは、それをお伽噺に求めようとは、まともな魔法使いならば――賢い魔法使いならば、そんな夢想はしないものじゃ。ワフリングの魔法基本第一法則が、そしてほかならぬ『三人兄弟の物語』の教訓が戒めているとおり」

 

「それは残念です」

 

 心から残念そうにセラは言った。

 

「………しかし、たしか校長先生は錬金術の研究をされていましたよね?死を克服する手段がないといっても、錬金術では、『賢者の石』を創り出せたのですよね?命の水・不滅の霊薬(immortality elixir)や黄金を生める石を、創り出せたのですよね?非魔法族の歴史の本からは、錬金術(alchemy)は失敗に終わって、化学(chemistry)や工業の発展に貢献しただけと教わりましたけど……」

 

 セラは、ローブから取り出して開いた黒い手帳を見ながら言った。校長先生は眉を上げて応じる。

 

「ふむ。きみの言う通り、わしは錬金術師とも共同研究をしていたの。きみは錬金術にも興味があるのかね」

 

「はい、六年生になったら履修したいと思っています、今年は開講されていないみたいですが……」

 

「『錬金術』のクラスは六年生以上の希望者が一人でもいれば開講されることになっておる。講義についてゆくために、O.W.L(ふくろう)試験の『変身術』『魔法薬学』『天文学』で『O・優(大いによろしい)』と、『呪文学』『数占い学』『古代ルーン文字学』『薬草学』で『E・良(期待以上)』の成績を修めるのが強く推奨されるがの。それもあってか、今年は誰も希望者がおらなんだ。ただ、わしも時間があれば一回ほどゲストで講義するかもしれぬから、もし開講されれば張り切っ――」

 

「不死の石、金を生む石ですか?!そんなとんでもないものが魔法界にあるんですか!?それならなんでみんなそれを使わないんですか!?なんで『魔法史』の教科書に出てくる人は皆死んでしまっていて、なんでガリオン金貨の価値が暴落していないんで…………いえ、すみません」

 

 数テンポ遅れて、シムは驚きの声を上げた。ダンブルドア校長の言葉を遮ってしまったことに気づき、そしてこれがダンブルドア校長に向けて発した初めてのまともな台詞だったことに気づき、シムは赤面して口ごもった。

 

「――シム。まず、欲しいだけの命と黄金なんて、そんなに大したものではないよ。それどころか、人生で最悪の物じゃ」

 

 校長先生は優しく、しかし有無を言わせぬ調子で言った。いきなりファーストネームで呼ばれたことにシムは驚いた。

 

「そしてその上で答えるなら、まず『賢者の石』で得られる『命の水』は、飲んでも厳密には不滅になるわけではなく、あくまで老いる速さを限りなくゼロに近づけて寿命を延ばすだけじゃ。しかも効果が持続しないから、定期的に飲み続けねばならぬ」

 

「それでも十分に凄ま――」

 

 シムの発言を再び片手を挙げて制し、校長先生はきっぱりと言った。

 

「そして『命の水』は、魔法薬とは違って、驚くべきことに、()()()『賢者の石』を使って生み出さないと、一切の効果を得られない。それどころか、ただの毒じゃ。(いにしえ)のマグル達は、水銀を生む赤い石を『賢者の石』、ただの水銀を『命の水』だと思い込んで飲んでしもうたようじゃが、哀れな彼らと同じような末路をたどることになる。無論、『命の水』は金属などではないが」

 

「……」

 

「この理由を理解するには、きちんと錬金術を勉強する必要があるからして、説明は省かせてほしいがの。ともかく、他人の作った『命の水』は飲めないゆえ、『命の水』をダイアゴン横丁の軒先で見るということはないのじゃ。夜の闇(ノクターン)横丁あたりで叩き売りされることもあるかもしれぬが、ただちに魔法省に厳しく取り締まられる。詐欺か、さもなくば殺人未遂になるからの」

 

「……」

 

「さらに『賢者の石』を扱うことのできる魔法使いは、極めて限られる。錬金術という極めて難解で精緻な魔法分野の深奥まで熟達し、かつ錬金術の土台となる学問、ホグワーツの教科でいえば『変身術』『魔法薬学』『呪文学』『天文学』『数占い学』、加えて『古代ルーン文字』『薬草学』などにも精通し――N.E.W.T試験でこれらすべて『O.優』を取るなどということは序の口にすぎぬ――そのうえで莫大な魔法力を持っていなければ、そこから『命の水』を一滴でも絞り出すことはかなわぬ。『賢者の石』の作成者にして所有者のニコラス・フラメルと妻のペレネレは、この六百年間、『命の水』を飲み続けておるが、これは決して並大抵のことではない」

 

「……」

 

「『賢者の石』でクヌート銅貨がすべてガリオン金貨に置き換わってしまう状況になっていないのも、『命の水』が、多大な労力と魔力と時間とを注いで、ようやく少量が得られるというものだからじゃ。贋金(にせがね)鋳造(ちゅうぞう)が割に合うものではないのと似たようなものじゃな。もちろん、それ以上に、ニコラスとペレネレが、欲望のままに卑金属(ひきんぞく)を黄金に変えたり、その黄金を他者に施したりといったことをしない、理性を適切に備えた者たちであるからというのも大きな理由じゃ。――もっとも、魔法の研究に不自由しないだけの財産を得たり、母校ボーバトン改築のためのある程度の資金を贈る程度の慎ましさはあったようじゃが……」

 

 淡々と解説を続けた校長先生は、そこでようやく言葉を切った。シムはなおも問いかける。

 

「……『賢者の石』は、フラメル夫妻が持っているものですべてなのですか?いま新たに創り出すこともできないのですか?」

 

「とても幸いなことに、それもかなわぬ。『賢者の石』の創造に成功したのはニコラス・フラメルのただ一人のみじゃが、これは彼が魔法史上、文字通り比類なき才を持つ錬金術師であったことに加え、いくつかの幸運が作用したからじゃ――幸運の極めつけは何より、錬金術に非常に重要になる、太陽と月と惑星と星ぼしの位置が、ちょうど適切であったこと。今後恐らく一千年は、『石』を創れる星空にはならぬ。ゆえに、たとえマーリンやロウェナやサラザールやパラケルススや鄒衍(ゾウ・ヤン)が今ここに蘇ろうとも、新たな『石』が生まれることは決してない」

 

「……」

 

 シムは再び沈黙した。いくら魔法界とはいえ、そんなうまい話があるわけがないかと、自分を納得させる。セラは眉をひそめて食い下がった。

 

「……()()()不老長寿になって数世紀を生き続けていないのはそういうわけだったのですね。しかし、『賢者の石』を扱う能力があれば、ニコラス・フラメルとペレネレ()()()()数百年を生きられる可能性があるのですよね?夫妻に『石』を貸してもらえれば――貸してもらえずとも、夫妻の見ている前で『石』を使うなどすれば。……そして、ひどく(おご)っているかもしれませんが、もし万が一、私が将来、『賢者の石』を扱えるだけの力を身につけられたとしたら、フラメル夫妻にそれを願うことはできるのですよね」

 

「――きみはそうまでして、長く生きたいのかね?何故かの?」

 

 校長先生は静かに問うた。セラは目を輝かせた。

 

「だってそれは――やりたいことが沢山あるからです。魔法族が百年以上はラクに生きれるといっても、まだまだ足りません。もっと魔法を使えるようになりたいし、新しい魔法を作れるようにもなりたいし、魔法のしくみを知りたいし、魔法だけじゃなく世界のしくみも知りたいし、世界中を旅したいし、それで世界中の綺麗な景色や珍しい物を見て、世界中の美味しい物を食べて、世界中の本を読んで、映画を観て、音楽を聴いて、ギャンブルやお酒にハマったりもして、スポーツに打ち込んで、それで、それで――。とにかく、一度きりじゃない、色々な人生を送れます。自分にどこまで力があるのかわからないけれど、それでも色々な可能性を試せます。こんな因襲的な魔法界を改革して、魔法界と非魔法界とつなげて人類をもっと豊かにするような人生も送ってみたいし、いっそ大学に通って広い非魔法界で杖に頼らない人生も送ってみたいし、上級生二人についてゆく人生も送ってみたいし、人里離れた小屋で静かに野菜を育てて暮らしながら、世界の移り変わりを眺めつづけるような人生も送ってみたい。――ああ、もちろん、私ひとりだけじゃなくて、ほかの誰でも使えるような『石』を作りたいですし、そうすれば私の家族も友達も皆、不老長寿で健康で望むだけ生きられる世界になりますし、もちろんそんな世界に変わったら色々な問題が生じるでしょうけど、それも魔法でなんとかできるかもしれないですし――」

 

 ほとんど息を継がないままセラは言い終えた。校長先生は溜息をついた。

 

「まことに、老人には眩しい夢じゃな。しかしセラ、きみはまだ若いから分からないじゃろうが――きみのような、とりわけ可能性の大きく開けた若人(わこうど)には、未来はどこまでも明るく眩く映るものかもしれぬが。百年も生きておるとな、大抵の人は、もう十分だと思うようになるものじゃ。人生の酸いも甘きも、ほとんど舐めつくしてしまうのじゃ、わしがさっきまで舐めていたレモン・キャンディーと同じように、いつまでも味わうことはできぬ。」

 

 校長先生は(さと)すような視線を送る。

 

「永遠に生き続けるということは、生きていないことと同じじゃ。そういう不死の存在(インモータル)は、ポルターガイストやまね妖怪(ボガート)のような、始めから生きていない存在(アモータル)と、もはや変わらぬ。『死』というものがあるからこそ――大いなる旅の終着点にして新たなる旅の出発地でもある『死』というものがあるからこそ、人の生は輝くものじゃ」

 

「…………そうかもしれませんが、生きることに退屈してしまうのは、心も体も老いてゆくからなのではないでしょうか?もし私の脳みそも身体も若いまま保たれたとしたらそんなことはないかもしれませんし、それに生きるのを止めたくなったら『命の水』を飲むのを止めれば良いだけです。それに、だいたいフラメル夫妻だって六百年も――」

 

 セラの不満げな反論を気にせず、校長先生は続けた。

 

「『賢者の石』は忌むべき邪悪な魔術ではない。『命の水』を生み出すために、他の生命の犠牲が必要になることもないし、憎悪や害意といった黒い感情を要するものではない。しかし、それでも、セラ。あれは本来、人の手には過ぎた代物じゃ。フラメル夫妻もそれを分かっておる。彼らは、魔法の叡智を研究し深めるばかりで、よほど世界に危険が迫ったときには人々に手を貸してくれることもあったが、普段は人の世から隠遁して静かにひっそり暮らしておる。『賢者の石』を生み出した者の責務として、長すぎる寿命が人にどのような影響をもたらすのか、自らその実験台になろうとしているのではないかとすら、わしは考えておる」

 

 校長先生の声はどこまでも重々しかった。

 

「フラメル夫妻が、他人に石を貸し与えて使わせるか否かは、わしのあずかり知らぬところじゃ。ただ、彼らのほかに六世紀を生きている人間はわしは知らぬ。であるから、みだりに人に使わせないだけの賢明さはあるのだろうし、『賢者の石』を扱えるだけの魔法使いもまた、過ぎた寿命を望まぬだけの賢明さを持っておるのだと思う」

 

「…………貸してくれないなら『石』を奪ってしまおう、そう思う人はいなかったんですか?」

 

 継ぐ言葉を考えるかのようにセラがいったん黙ったので、そこでシムが疑問を口に出してみると、校長先生は首を振った。

 

「いたとしても、今まではその試みはすべて失敗に終わったことじゃろう。並の闇の魔術師なら、フラメル夫妻の棲家を突き止めてその護りを破れるとは思えぬ」

 

 セラはまだ何か言いたげだったが、校長先生はそこで手を叩いて、口調と話題を切り替えた。

 

 

 ★

 

 

「この話はさておいて。長々と話し込んでしまったが、まだきちんと挨拶すらしていなかったの。セラ、ハロウィーン以来じゃな。シムは初めまして。この前は怖い思いをさせてすまなんだ」

 

 キラキラしたブルーの瞳に射すくめられ、シムは頭を下げた。

 

「こちらこそ初めまして、校長先生。なんとか無事で良かったです」

 

「校長先生、結局あの後何か分かったことはありましたか?」

 

 セラの問いかけに、ダンブルドア校長は首を静かに横に振った。

 

「すまぬ。まだ調査中じゃ。きみ達を狙った襲撃ではないことは確かだと思うが」

 

「そうですか……。魔法界一の賢者として知られる校長先生なら、何でもすぐにお見通しなのかと思いました」

 

 セラは眉をひそめて言った。あれほど大胆にもかかわらず、手がかりの欠片も見つからないほど周到な事件だったのだろうか。もっとも、仮に分かったことがあったとしても、ただの生徒に過ぎない自分達に込み入った事情を明かすわけにいかないのだろうが。

 

「いくつになっても生徒にお世辞を言われるのは照れるの。顔が髭と白髪にまみれてると、赤くなってもバレにくいのが便利じゃな、シムもこの歳になったら思い切って伸ばしてみてはどうかの」

 

 照れのない平静そのものの表情で校長先生は言った。戸惑うシムを気にせず、校長先生は肩をすくめる。

 

「わしは確かに、自分で言うのもなんじゃが、賢者だとかなんだとか、そんな風に見られがちで、そんな風な称号で呼ばれることが多いの。しかしたとえわしの見た目が、トールキンのガンダルフに、あるいはル=グウィンの魔法学院のネマールに見た目がそっくりだからといって、ドイルのホームズにもクリスティのポワロにも似ているということにはならんよ。ほれ、パイプも吸っておらんし」

 

 セラは驚いたように言う。

 

「校長先生こそ、随分と非魔法界の物語にお詳しいのですね」

 

 そしてセラは校長先生から視線を外して呟くように言う。

 

「……それにしても今年は色々ありますね。怪物が城に現れたり、クィレル先生が戻ってきたかと思えば『闇の魔術に対する防衛術』の先生になったり、四階の廊下の一つが立入禁止になったり、ハリー・ポッターが入学したり――」

 

「――ハリー・ポッターは、きみ達と同じ、マグルの家庭に育った普通の少年じゃよ。箒がとびきり上手いらしいということを除けばの。ホグワーツの普通の一年生のように接してあげるのが本人のためじゃ。……きみ達とは寮が違うから、関わる機会は少ないかもしれないがの」

 

 校長先生は柔らかい調子で諭すように言った。

 

「そうします。……そもそも私達はスリザリンですから、スリザリン生とグリフィンドール生とが『普通に』接する機会というものはなかなか訪れない気はしますけれど」

 

 皮肉っぽくセラは付け加えた。そしてお辞儀をして続ける。

 

「ともかく、ためになるお話ができて良かったです。ありがとうございました。それではまた――」

 

「セラや、そう急ぐでない。ハロウィーンの話はまだ終わっていない。立ちっぱなしも疲れるから、座りなさい」

 

 話を切り上げようとするセラを遮るように、校長先生は杖を振り、ふかふかの肘掛け椅子が三脚現れた。校長先生が座って指を組むのを見て、二人も観念して座る。誰もいない長い廊下で、校長と向かい合って椅子に座るというのは、傍から見れば非常に奇妙な光景だろう。

 校長先生も同じことを思ったようで、「……この光景はちと、寂しいの」と呟いた。そう言い終えるのと同時にシムは三度(まばた)きしてしまったのだが、一度目を(しばたた)かせると、校長先生の手には再び杖が握られていて、しかもその杖はローブに仕舞われようとするところで、廊下の壁の色が変わりぐにゃりと歪み始めていた。再び目を瞬かせた後には、校長先生の背後に白い靄が立ち込め針葉樹が生え始め、もう一度目を瞬かせると、シムは、クリスマスの飾りつけがなされた赤と緑を基調にした小さな部屋にいた。

 シムの脳が状況を咀嚼(そしゃく)しようとする前に、校長先生の声がする。

 

「セラ、ハロウィーンの次の日に、きみがした要求についてじゃが――」

 

 会話の方向が予想していなかった方向に進み、シムは驚いた。横には暖炉の火が爆ぜており、先ほどまでと違って暖かい空気がシムの周りを包んでいた。

 

「『ホグワーツの部屋でマグルの電子機器を使えるようにしたい』というきみの望みは、この前も言った通り、叶えることができぬ。城の極めて強い魔法力の干渉を徹底して防がねばならず、仮に実現できたとしても、種々の保護魔法を遮ることになり、きみの身の安全もそうじゃが、それ以前に城の構造そのものへの危険が生じることもありうるからの」

 

 セラはそんなことを校長にお願いしたのかと、シムは半ば呆れつつ半ば納得していた。

 

「代わりと言ってはなんじゃが――」

 

 ダンブルドア校長が杖を振り、透明な大きい袋が宙に現れた。一見すると大きなビニール袋のようだ。

 

「ちょうど一昨日こしらえた物じゃ。中に入れたものは、外からの魔法の干渉から護られる。『テレビ』などを入れるわけにはいかないじゃろうが、持ち運びのできるサイズの機械なら、そうじゃな、ホグワーツに仮に持って行っても、恐らく壊れることは無いじゃろうし、袋の上から操作することもできなくはないかもしれぬ。――正直、そこまでしてマグル製品を持ってゆく意味は無いと思うが、少しはきみの期待に沿うかの?」

 

「すごい……ありがとうございます」

 

 セラは感心した声を上げる。シムは小声で問いかける。

 

「……まさかホグワーツに、電卓とか『ゲームボーイ』とかでも持ってゆくつもりなのですか?電池がすぐ切れそうですけど」

 

「たしかに電卓を使えるのは便利かもしれないね。あとはまあ、便利な小さい機械もそのうち色々出てくるかもしれないし。それに、非魔法界の製品が入っているか魔法界の品が入っているかを気にせずに、ひとつの荷物でデパートにもダイアゴン横丁にも行けるし」

 

 セラは懐からポーチを取り出した。

 

「……念のために言っておくが、マグルの面前で『検知不可能拡大呪文』のかかったポーチから不用意に多数の物を取り出してはいけないからの。それと、そのポーチは購入したものであろうな?法律は『検知不可能拡大呪文』の個人使用を禁じているということは一応言っておかねばならぬ、たとえ多くの魔法使いが無視していようと」

 

「心得ておきます。もちろんこれはダイアゴン横丁で買った物です」

 

「うむ。加えてじゃが、魔法力のある品はその袋に入れられないし、マグル製品であっても、殺傷する目的に転じうると本人が考えているような物は入れられないようになっておる。きみがそうするとは思っておらぬが、万一ホグワーツに危険な物を持ち込まれてはかなわないからの」

 

「わかりました、もちろんそんなことはしませんよ。素敵なクリスマスプレゼントをありがとうございます」

 

 セラは頭を下げる。校長先生は愉快そうに皮肉めいた口調で言う。

 

「まさか生徒から、それも十一月に、クリスマスプレゼントを要求されることになろうとは思ってもみなかったが。いやはやスリザリン生の慎み深さというものは中々侮れぬものじゃな」

 

「お褒めにあずかり光栄です」

 

 セラは恭しく一礼した。校長先生は生意気を気にも留めず、手をぽんと叩いた。

 

「そういえば、マグルにはサンタクロースのお伽噺があったの。自分で言うのもなんじゃが、わし、サンタクロースそっくりの見た目じゃな。今年のクリスマスはサンタクロースの格好をして生徒達にプレゼント配りでもしてみようかの。どうせ生徒はそんなにおらんし」

 

 とたんに校長先生のローブが真っ赤に染まり、右手には大きな白い袋が握られていた。長い白髪と白髭を備えた老人のこの格好は、背後の大きなクリスマスツリーと相まって、お伽噺の挿絵が顕現したかのようだ。

 

「レイブンクローとハッフルパフの談話室は合言葉がなくても入れるのじゃが。シム、スリザリン談話室の合言葉を今度こっそり教えてくれんかの」

 

「グリフィンドール出身者に合言葉を教えたら監督生に殺されちゃいますよ」

 

「たしかにミス・ロウルやミス・ファーレイあたりは怒るととても怖そうじゃな。ちなみに半世紀前のグリフィンドール寮にも、ミネルバ・マクゴナガルという名の、生徒達がたいそう恐れた監督生がおっての。つまり、今の変身術教授よりもさらに、ということじゃが」

 

「……というより、校長先生の権限で入ろうと思えばいつでも入れたりしないのですか?」

 

「おおセラ、そういえばそうじゃったな。ところで、これ、似合ってるかの?」

 

「とてもお似合いですが……しかし難癖をつけるなら、本物はもっとでっぷりと太ってるような気がします」

 

 校長先生のローブは元の紫色に戻った。

 

「忘れておった。それではホラスとわしを足して二で割れば丁度良いかの。……ああ、すまぬ、彼はとっくに退職しておった。ホラスというのは、スネイプ先生の前任の、スリザリン寮監を勤めていた魔法薬学の先生じゃ。今もホグワーツにいれば、きみ達を可愛がったかもしれぬが」

 

「そうだったんですね」

 

「そうじゃ、シム、きみにも何かささやかなプレゼントを贈ると、セラと約束してしまっておった。何か希望はあるかね?」

 

「えっと……すみません、ちょっとまだ考えていませんでした」

 

 シムは急に話を振られ、当惑して答えた。たしかにハロウィーンの翌日、セラとそんな会話をしたような気がするが、半ばただの冗談かと思っていた。

 

「もし何でも良ければ、『魔法界と非魔法界の安くて美味しいお菓子厳選詰め合わせセット』とかどうかね?わしはマグルのお菓子も大好きでの、十年しかマグルのお菓子を食べていないであろうきみよりも、遥かに詳しい自信がある」

 

「ではそれでお願いします、ありがとうございます」

 

 シムは反射的にそう答えてしまった後、折角の機会だからもっとちゃんと考えれば良かったかと悔い始めた。校長先生は首を傾げた。

 

「まあ、セラと比べるとちょっと手抜きかもしれぬの。さらに欲があれば、クリスマスが過ぎても言ってくれて構わぬ。用意できるかはわしの気分次第じゃが」

 

 校長先生はそして、いたって何気ない口調で、シムが恐れていた本題に切り込んだ。

 

「さて、セラ。先ほどはどうして、この実に良い天気の中、わざわざガラガラの城の中で『目くらまし』をかけて廊下を歩いていたのかの?」

 

 

  ★

 

 

 固まるシムをよそに、セラは落ち着いた口調で淀みなく答える。

 

「せっかく人がガラガラなので、思い切り城を探険していました。そのついでに、『目くらまし』で歩く練習をしようと思ったからです。校内に人が沢山いるときでは危なくて『目くらまし』なんてかけられないですからね」

 

 校長先生は深々と頷いた。

 

「なるほどの。百年近く住んでるホグワーツ熟練者のわしでさえ、常に変化し続ける摩訶不思議なこの城の全容を把握できているとはとても言いがたい。散歩や探険がちっとも飽きないから、老人の健康への配慮なのかとも思うくらいじゃ」

 

「廊下でお見かけすることはあまりありませんでしたが、校長先生も城を散歩されるんですね」

 

「かち合うとしたら双子のウィーズリーくらいのものじゃろうな、わしの散歩ルートや時間は中々に特殊じゃからして。まあ、寝ぼけて深夜にさまよって迷子になっているだけともいうが」

 

 そして校長先生はなおも何気ない口調のまま続ける。

 

「ところで話は変わるが、慎重を美徳とするスリザリンの中でも、とりわけ思慮深いきみなら当然、教職員の保護から離れて勝手に校外に出るのは、たとえばホグズミードなどに繰り出すのは、賢明ではないということくらいは分かっておるの?」

 

 校長先生の眼鏡がキラリと光った。今日のことがバレてるのだとシムは悟った。

 

「校長先生からそんな風に褒めて頂けるなんて恐縮ですが、もちろん承知しております。ホグズミードには当然、素性の知れない成人の魔法使いが多数いて、そのすべてが魔法を好きなだけ使える場だということも、何かあったときに先生方の迅速な救助を期待できないということも承知してます」

 

 セラはやはり声色を変えずに答えた。校長先生も平坦な口調で続ける。

 

「それではそんなきみが、もし仮にシムを連れて城を抜け出すことを計画するなら、きみ自身やシムの安全を、どのように図るつもりだったのかね?」

 

「もし計画するとしたら、表の大通りをざっと案内して、馴染みの店に入るだけで、昼過ぎには帰ってくるようにすれば、大丈夫だろうと判断します。この前先生に『守護霊(パトローナス)』で伝言を載せる方法を教わりましたから、万一のことがあっても、村の信頼できる大人と連絡も取れますし。それと、抜け道は五階の『おべんちゃらのグレゴリー像』の裏を使います。いたって安全な道ですし、そんなに城の抜け道に詳しくない私ですら知っている道で、フィルチさんや他の一部の生徒も知っているでしょうから、道中で万一の事態が起こったとしても、助かる可能性がいくばくかは期待できるかもしれません。念の為に当日の朝も、あらかじめ安全を確認しておきますが」

 

「ふむ。――しかし計画する上でそこまであれこれ考えるなら、一般的にはその時点で、城の外に出るべきでないと思いとどまるものではないかな?」

 

「もちろん仰る通りです」

 

「発覚すれば、軽くない罰則や減点が課されることも、セブルスやミネルバが上機嫌にはならないであろうことも、分かっておるな?」

 

「もちろんです」

 

「そうであれば、そこまでして城の外に行く理由は何なのじゃ?」

 

 シムはからからの喉を絞って、自分が連れて行ってほしいと頼んだ、と言おうとしたが、セラはシムに目配せを飛ばすと、校長先生の方に向き直り、首をかしげて「そうですね……」と滔々(とうとう)と言葉を紡いだ。

 

「私達みたいな生徒にとって、学校って、世界のほとんどすべてみたいなものじゃないですか。……ましてや魔法界は狭くて、ここにはほとんど英国中の子どもがいますし、ホグワーツは全寮制ですし。本当に、ほとんど世界そのものです」

 

「それなのに、この世界は、どこまでも閉鎖的で因習的で差別的で。ちょっとやそっとで挫けはしないですが、めげまいと頑張っても、やっぱりどこかで、少し息苦しくなってきてしまいます」

 

 若干うつむいていたセラは、緑の瞳を、まっすぐ校長先生のブルーの瞳に向ける。

 

「だから、この城だけが魔法の世界じゃないって実感できたとしたら――私は一年生のときに、上級生に連れられて――失礼、連れられたとしたら、凄く嬉しかったはずです。なので、私も下級生に、はやく城の外を見せてみたいと思うはずです」

 

「なるほどのう。……きみ達のように十一歳で初めてこちらの世界にやってくる子も、そうでない子も。貧しき子も、重い病を患う子も、親のいない子も、愛を知らずに育った子も。どの子も隔てなく、何の憂いもなく健やかに暮らせる。そのような理想的な社会を築けなかったことは、わしら大人の責任であり、わしの人生でやり残したことの一つじゃ」

 

 校長先生は息を吐きながら目を細める。

 

「――ではシム、きみはそうやって城の外に行ったとしたら、世界の広さを実感できたと思うかね?」

 

「えっと、はい、良い村だなと思ったと思います」

 

 校長先生は右手で顎鬚を撫でた。

 

「うむ。――それではセラ、きみとシムがホグズミードにこっそり観光しに行くとしたら、どのようなコースをたどるのかね?」

 

「先ほど申し上げた通り、ホグズミードの表通りをざっと案内した後、喫茶セレニティというお店でお昼を食べます。あそこの内装は素敵で料理も美味しいですし、上のサンドフォード書店では、非魔法界の物語も読めますしね。そうしたらまっすぐ城に戻ることにします」

 

「それは楽しそうじゃの。たしかにシルヴィアは胡瓜サンドイッチひとつとっても一味違うからの。わしの人生指折りの出来の『拭浄呪文』が発動した瞬間は、サミュエルから借りた幻想文学の頁に珈琲をこぼしてしもうたときじゃった」

 

 校長先生はそれから厳粛そうな顔つきをして言った。

 

「さて、今の心躍る冒険の計画は、もちろん仮定の話であって、今後は――つまり、何かと城が慌ただしい今年度いっぱいはということじゃが――計画を実行に移しているきみ達をわしが見かけるようなことはないと思って良いかな?そうであれば、無論、その話をわざわざスリザリン寮監や副校長が知る必要はなくて済むのじゃが」

 

「もちろんです」

 

 微笑んでウィンクをする校長先生に、二人は大きく頷いた。不問に付されると分かり、シムは心からほっとした。

 

「うむ。――ときにセラ。きみは放課後に先生の個人研究室を訪ねて過ごすということはあるかね?」

 

 再び転換する話にセラはきょとんとしたが、肩をすくめてさらりと言う。

 

「先生方も忙しいですし、私も忙しいですしね。あいにく、そのようなことは中々」

 

 校長先生は頷いた。

 

「そうか。確かに今年度は、先生方は忙しいからの。そうしたいことがあったとしても、なるべく我慢してくれると嬉しい」

 

 今度はシムの方を見て校長は続けた。

 

「シム。きみもそのまま頑張りつつ、あまり根を詰めすぎぬように、ただし羽目を外しすぎぬようにの」

 

 校長先生は椅子から立ち上がり、二人も反射的に立ち上がった。校長先生が杖を振ると、椅子は消え、壁も暖炉も薄くぼやけて崩れ落ち、景色はたちまち元の寒々とした長い廊下に戻った。

 

「では、さらばじゃ」

 

 校長先生は(きびす)を返し、廊下の向こうに消えていった。

 

 

  ★

 

 

 セラはどっと緊張が解けたように、長々と息を吐いて片手を壁についた。シムもしばらくして動悸がおさまり、セラに話しかけた。

 

「……寿命が縮みましたけど、なんとか大丈夫でしたね。セラの言う通り、見逃してくれましたね」

 

「今年のうちはもうダメみたいだけどね。とりあえずは良かった。――学校を抜け出したことについて言われたのは、今回が初めてだ。今までは見逃されただけだったのかどうかは分からないけれど……」

 

「……今までも見逃されてたのだとしたら、そろそろセラの規則違反が目に余ったから、ここらで注意しとこうと思ったんですかね?」

 

「うーん、直々に注意するほど校長先生も暇じゃないだろう。まず寮監に先に話を通すだろうし……」

 

「じゃあ、ハロウィーンの件との差し引きで、そこら辺は大目に見てくれたとか」

 

 セラはしばらく黙って、口を開く。

 

「それもあるかもしれないけど――注意したかったというより、他の目的もあったのかもしれない。……たとえば、本当にただ遊びに行っただけなのかを確認したかった、とか」

 

 シムは背筋に冷たいものが走るのを感じた。

 

「……怪しい闇の魔法使いの手先になって、怪物かなんかを、ドラゴンの卵かなんかを城に持ち込んできてやしないか疑われてた、ってことですか」

 

「……うん。ハロウィーンから間を置かずにだからね。疑われてはなくとも、また厄介ごとに巻き込まれてないか、心配して念のため確認するくらいは」

 

 セラは壁に手をついて前傾する姿勢をやめ、振り返って壁に背をもたれさせた。

 

「すぐに校長先生が現れたのも、見慣れない子どもを見たら報告するように村に話が通ってたか、抜け道を使うと分かるようになってたからかもしれない。たぶん今まで私が抜け出したときもそうやって把握されていたのかも。――それはそうか、ホグズミードが、世界の外のわけがないか」

 

「…………これ、話を聞かれてませんよね?校長先生、そこらへんに隠れていたりしないですよね?」

 

「そこまで校長先生も悪趣味じゃないだろうし、聞かれて困る話もしてないだろう。どうせホグズミード行きはバレてたんだし、向こうで何も後ろ暗いことはしてないし」

 

 シムは頷いた後、首を捻る。

 

「でも、僕らの話を確かめにきたなら、セラが嘘をついたり隠したりしてないかどうか、もう少し念入りに確認せずに、あんなにあっさり僕らを帰してしまって良いのですか?」

 

 セラは肩をすくめた。

 

「今世紀最大の魔法使いでなくとも、長年先生をやってれば、子どもの嘘なんて大抵すぐに分かるものじゃないかな。私は嘘や演技が得意な方でもないし。『忘却呪文(オブリビエイト)』や『服従の呪い(インペリオ)』にかかってても、話が不自然になるかもしれない」

 

 そしてセラは思い出したかのように言う。

 

「……あと、『開心術(レジリメンシー)』という魔法だってあるしね。さっき使っていたかは分からないし、さすがに気軽に生徒に使うことはないだろうけど、その気になれば、目を合わせたときに私の直近の行動は(つまび)らかになっただろうし」

 

「……『開心術(レジリメンシー)』?」

 

 どうせろくな魔法ではなさそうだと思いながらシムは繰り返した。

 

「平たく言うと、人の心に触れて侵入して、記憶や感情や思考をそのまま理解する、そんな魔法らしい」

 

「……心を読む魔法ですか。そんな魔法があっても驚きはしないですが、いやな魔法ですね」

 

「心を読むのとはまた違うらしいけど――まあ、私にはその違いはよく分からなかった。ともかく、目の前の魔法使いが開心術を使えるなら、交渉をするときだろうと、戦闘をするときだろうと、当然圧倒的に不利になる。そのうえ、開心術を使える魔法使いは、ほとんどが優れた魔法使いらしい。だからこそ、防御手段の『閉心術(オクルメンシー)』を習得するべきだと、シーナには言われた。開心術と閉心術は表裏一体で、開心術は、かならず同じ技量の閉心術で逸らすことができるそうだ」

 

「『閉心術』……」

 

「サラザール・スリザリンその人が稀代の『開心術士』だったらしく、スリザリン生は開心術や閉心術の適性がある人がそこそこいるみたいで、シーナもそのタイプだったけれど。私は、ほんのちょっとだけ練習した限りでは、どうもあまり閉心術がうまくないみたいだ。基本の『心をからっぽにする』という時点でどうも難しくて――」

 

「……そのうち、『閉心術』の練習もやるんですか?」

 

 シムはここ最近で一番の恐怖を覚えながら、セラの言葉を遮って恐る恐る聞いた。幸いセラは、首を横に振った。

 

「私自身、うまく開心術を使える自信もないし。それに、心を見られる方も見る方も、お互いとてもしんどいだろうし。あれは精神的に一番キツい訓練だった。もちろん、君が閉心術の訓練を望むなら、やろうと思うけど――」

 

「できればやりたくないです」

 

 反射的にシムは答えていた。セラに自らの心を覗き見られるようなことがあれば、トロールに喰われた方がマシだ。セラもどこかほっとしたように頷く。

 

「それなら、今のところは止めておこう。習得できるに越したことはないし、私もそのうちきちんと使えるようになりたいところだけどね」

 

「……『閉心術』を使わないと、開心術は絶対に防げないんですか?心を覗かれてるかどうかも分からないんですか?」

 

「本格的な開心術は、杖を振って呪文を唱えるし、『相手に心に入り込まれてる』ことがはっきりと分かる。ただ、優れた開心術士は、目を合わせるだけである程度のことを読み取れるらしい。この場合、そこまで違和感はないみたい」

 

 何故かシムは、この前に医務室で見た、寮監の黒い瞳が頭をよぎり、すぐに無意識にそのことを考えるのを止めた。

 

「……だからまあ、目を合わせないことがいちおうの対処にはなると思う。もちろん、相手が開心術士なら、『開心術を警戒している』という露骨なメッセージになってしまうけれど。……ただまあ、いずれにしても、さすがにホグワーツの生徒に『開心術』を使われるなんてことは想定しなくて良いと思うよ。まず使えないだろうし」

 

 それからセラは息を吐いて、もたれていた壁を後ろ手で押して直立の姿勢に直った。

 

「面白い話も聞けたけれど、やっぱり校長先生と話して本当に疲れた。はやく談話室で冷えたかぼちゃジュースを飲みたい」

 

 セラは歩き出し、シムも後を追う。六十度の角度で三度捻じれた奇妙な階段を曲がりながら降り、下の階へ至る。

 

「それにしてもセラでも緊張するんですね。安心しました」

 

 セラはゆっくり首を横に振った。

 

「いくらなんでも、百歳くらい年上の、こちらのことなんてすべてを見透かしてそうな、当代最強といわれる魔法使い相手に、ふつうに話せるわけがないだろう。いくら向こうが気さくに接していたとしても――逆になんで、あそこまでの魔法使いが、ただの小娘相手に、親戚のお爺ちゃんみたいに振舞えるんだ――畏れ多いものは畏れ多いよ」

 

 シムも似たようなことは感じていた。お茶目な好々爺(こうこうや)のようにも、あるいはすべてを知る老賢者のようにも、あるいは計り知れない力を持つ魔法使いのようにも、あるいは単なる変人のようにも見えるかの校長は、当然今まで会ったことのないタイプの、あまりに印象的な人物だった。

 

「……あれほどスリザリン生が毛嫌いしてるから、性格がよほどグリフィンドールぽい感じなのかと思ってましたけど、そこまででもなさそうというか、むしろ――」

 

 シムは口を閉じて足を止めた。廊下の向こうから、何人もの人影が足早に現れたからだ。

 

 とても小柄な老爺、神経質そうな若い男、箒を携えた眼光鋭い壮年の女性――「呪文学」のフリットウィック先生、「闇の魔術に対する防衛術」のクィレル先生、「飛行術」のマダム・フーチだった。

 

 

 ★

 

 

「おや、ミス・ストーリーにミスター・スオウ。こんにちは」

 

 三人は立ち止まり、フリットウィック先生が、二人を見上げてキーキーした声で言った。二人も挨拶を返す。珍しい組み合わせに、シムが戸惑いながらフーチ先生の箒に視線を向けていると、フーチ先生はきびきびした声で説明する。

 

「ほら、グリフィンドールのシーカーの動きが、試合の途中に少しだけ、非常に不自然に、箒に振り回されていたようになっていたでしょう。念のために、箒に異常がないか、呪いがかかっていないかを調べていたところです」

 

「……そうだったんですね」

 

「――あなた方は、試合を、見てはいなかったのですか?クィディッチの、試合を?……リーグ初戦の、クィディッチの、試合、を!?」

 

 フーチ先生は驚愕の声を上げたが、二人が頷くと、溜息をついた。

 

「…………まあ、スリザリンは敗れてしまいましたから、あなた方がスリザリン生なら、見なくて正解だったかもしれませんね」

 

「それで、箒に異常はあったのですか?」

 

 セラは興味ありげに問いかけ、フーチ先生は首を横に振る。

 

「ありませんでした。呪いの類も、現状はかかっておらず、痕跡も見出せてはいません」

 

「呪いですか……。その、詳しくはありませんが、フーチ先生の授業では、箒には強固な防護魔法が施されているから、呪いをかけるのは極めて困難だし、直接に触ることなしに動きを制御することもできないと、そう教わったような……」

 

「その通りです。ましてや、この箒は当日の試合途中まできちんと動いていました。仮に試合中に、高速で飛び回る箒に遠方から呪いをかけるとなると、熟練の魔法使いであっても考えられないことです。遅延発動する類の呪いをしみこませて、何らかのトリガーで起動したとしても、いつどうやって箒にそれを行ったのか、いつどうやって痕跡を――」

 

「マダム・フーチ」

 

 フリットウィック先生が咎めるように短く声を出した。箒を二人の鼻先に突き付け熱く語っていたフーチ先生は口をつぐんだ。しかし、セラはなおも遠慮がちに続けた。

 

「……選手自体に『錯乱呪文(コンファンド)』がかけられていた可能性は?飛び方を見てはないですが、箒がおかしかったように見えただけで、実は選手がおかしかったとか」

 

「……その可能性も拭えなくはないないでしょうが。『錯乱』した状態では、明らかに箒を振り回して飛んでいるように見えるはずです。箒()振り回されているように見せるなどという、曲芸じみた難しい飛行をできるはずがありません」

 

「それなら……たとえば『服従の呪い(インペリオ)』にかかっている状態なら、箒をコントロールする技能は落ちなそうな気はしますが……」

 

「……校内で『許されざる呪い』が使われるなどまず有り得ないでしょうが、優れた飛び手なら、命令されてそのように飛ぶのは不可能ではないかもしれませんが――」

 

 フーチ先生は言いよどみ、今度はクィレル先生がおどおどしながら口を開いた。

 

「ミ、ミス・ストーリー、手段について色々な可能性をか、考えるのは良いことだが、手段だけでなく、その目的も考える必要があ、ある。『許されざる呪い』は、使えばしゅ、終身刑になる。闇に覆われた時代ならともかく、い、今の時代では、そのリスクを背負うほどのリターンがな、なければ、使うのはば、馬鹿げていると思わないかね?」

 

「……そうですね、わざわざ選手を『服従』させておきながら、群衆の前で箒の曲芸をやらせるだけというのは、馬鹿げている。選手を傷つけるか殺すかしたいなら、もっと手っ取り早い命令を出せば良いし、そもそも『服従』をさせる必要も無い。思い至りませんでした」

 

 得心したかのように頷くセラに、フリットウィック先生も付け加える。 

 

「何にせよ、試合後の選手はまったくの正常でした。選手に呪いがかけられていたとは考えられん。ミネルバの購入した箒が不運にも不良品であり、試合中に一時的にわずかな不調をきたしてしまった。そして選手が不運にも場慣れのしていない新人だったために、戸惑ってコントロールを失い、箒の動きの歪みを不用意に増幅させてしまった。そうみるのが自然です」

 

「念のために、次回の試合は校長先生にも監視していただきます。ですから何人(なんびと)たりとも、神聖なクィディッチの試合を侵すことは、できません」

 

 怒りか熱意か、炎のゆらめくまっすぐな瞳でマダム・フーチは言い切った。セラは頭を下げる。

 

「わかりました。お忙しいところ色々聞いてすみません、ありがとうございました」

 

 セラとシムは廊下の壁に退()いて先生たちが通れるようにしたが、フリットウィック先生は立ち止まったまま口を開いた。

 

「いえいえ。しかしミス・ストーリーもミスター・スオウも、あれから元気そうで良かったです」

 

 またか、という顔つきにならないようにシムは気をつけた。ハロウィーンの件について先ほども校長先生と話したのは、目の前の先生方は当然知らない。

 

「お気遣いありがとうございます。今のところは、あれからまた怪物に襲われることはなくて良かったです」

 

 クィレル先生も、おどおどした口調で話し始めた。

 

「フ、フリットウィック先生からじ、事情を聞いて驚いた。あのか、怪物たちにそ、遭遇して、切り抜けたとは、た、たいしたものだ。ぼ、防衛術の期末試験をめ、免除して合格にして良いくらいだ」

 

 セラは頭を下げて答える。

 

「いや、フリットウィック先生とスプラウト先生が来てくださらなければ危なかったですよ。期末試験もフリットウィック先生持込可で受けられるシステムなら、合格にしてほしいところですが――私一人で受けなきゃいけないですよね」

 

 おどけるセラに、クィレル先生も笑う。

 

「も、持込はもちろん不可だ。先生持込可の実技試験にしてしまえば、ド、ドラゴンでも、ダース単位で持ってこなければな、難易度がわ、わりにあわない」

 

「ドラゴンの群れを相手取るなんて、私もダンブルドア校長を持ち込まないと無理です。それ以前に私はモノではないが」

 

「ごめんなさい」

 

「まあ、と、とにかく、君達がぶ、無事で、ほ、本当に良かった。本当に良かった」

 

 そして三人の先生は、二人の横を通って廊下を去っていった。

 

 

 ★

 

 

 三人の背中を見送りながら、シムは呟く。

 

「……今気づきましたが、グリフィンドールのシーカーって、あのハリー・ポッターですよね」

 

「……たしかに、そうだったね」

 

 ハリー・ポッター。つくづく話題に事欠かない人物だと、シムは半ば呆れ、半ば同情する。

 

「……あのハリー・ポッターの箒が、試合中にたまたまおかしくなったんですか?それとも、やっぱり誰かに狙われてるってことはないですかね?……もちろん、校内の大半が見てる場で事故に見せかけて殺すというのは、あまりにリスキーですけど。逆に校内の大半が揃ってる場だからこそ、容疑者になりにくいということも……」

 

「うーん、どうだろう……。『例のあの人』の信奉者なんかには、ひょっとしたら恨まれてるかもしれないけど。箒に触れずに外から呪いでコントロールするというのは無理があるし。やっぱり、単に初舞台で緊張しちゃったんじゃないかな……試合の様子を観てないからなんとも言えないけど」

 

「あれ、でも、緊張してめちゃくちゃに飛んでたんだとしても、スリザリンが負けたということは――」

 

「そうか、彼はスニッチを獲った可能性が大きいのか。まったく『生き残った男の子』は大したものだ」

 

「普段から彼の凄い飛びっぷりは目にしてますが、さすがですね。……というか、スリザリンが負けたなら、談話室の雰囲気、今あまり良くなさそうですね」

 

「うん。門限ギリギリに戻るのが無難だろうね」

 

 そうして二人はいったん2E教室へ向かい、それからシムは鞄を持って図書館にこもり、「薬草学」のレポートに取り組んだ。既定の長さにまとめられたところで、図書館を出て夕食をとり、夕食後は2E教室で「魔法史」の宿題も片づけた。杖を取り出して、自らの文房具をダンスをさせる練習をしていると、外出禁止時刻が近づいたところで、スリザード談話室からセラが出てきた。

 

「そろそろ、スリザリン寮に戻っても良い頃合いだろう」

 

 冷え切った夜の廊下と階段を練り歩き、スリザリン談話室へとつながる石壁の前に立つと、セラは二人の「目くらまし」を解除した(あいにく、姿を見せた状態で合言葉を言わないと、この壁は開いてくれない)。

 

偉大なるマーリン

 

 合言葉を唱えると、壁が開いて、仄暗い緑色の光に照らされた荘厳な談話室が姿を現す。それと同時に、セラが呟いた。

 

「……まだお通夜が続いてたか」

 

 普段は、この時刻には人があまりいないものだが、シムの期待に反し、室内はスリザリン生で溢れ返っていた。人数に応じて収縮する談話室の今の様相は、「室」と表現するには少々広大にすぎるかもしれない。

 そして、広大な談話室(じゅう)に、陰鬱(いんうつ)きわまりない空気が立ち込めている。ソファに黙って座る者、宿題を片付ける者、小声で会話をする者が大部分だ。全員が全員、宿敵(グリフィンドール)への敗戦を未だに引きずっているわけではないだろうが、活発に話したくとも、周囲の空気が許さない状況であると見えた。

 さらに不運なことに、静寂に包まれていたせいで、二人の入室が非常に注目を浴びてしまうことになった。談話室にいた者のほとんどがいったん動きを止めて入口に目をやり、軽蔑と憎悪に満ちた視線を送る。ひそひそした揶揄らしき声が部屋のあちこちで沸き起こる。陰鬱な空気は立ち消え、かわりに敵意に満ちた嫌な空気が醸成されてゆく。

 

「魔法界のネイティブは、こういうとき『マーリンの髭(なんてこった)』って言うんでしたっけ」

 

 シムも呟いたが、おどけたセリフを唇に乗せたところで、心境が軽くなるわけでもないことに気づいた。

 普段はシムが談話室を通ったところで、とくだん寮生から関心を払われることはなく、したがって身の危険を感じることはない。たまに悪口を浴びせられることが精々だ。

 しかし、今日は最も仲の悪い寮(グリフィンドール)と雌雄を決する日。寮の団結心が一年で一番高くなりうる日であり、したがって排外意識も最も強く働く。あるいは試合に勝利を飾れば寛容にもなったかもしれないが、今は(グリフィンドール)の最年少の英雄に惨めに敗れた後だ。そこに、鬱憤の捌け口となる異端(セラとシム)が――「異教(グリフィンドール)」よりもよほど忌むべきかもしれない「異端(マグル出身スリザリン)」が――ひょっこり現れた状況だ。シムは、張り詰めた今の談話室の空気を吸って、自分が置かれた状況を否応なしに理解させられた。

 さらに、談話室は、基本的に教師や他寮の生徒の介入が望めない聖域だ。唯一立ち入る可能性のある寮監スネイプは、必要に迫られなければ談話室を訪れることはない。スリザリン寮の寝室には、異なる性別の生徒も異なる学年の生徒も入れないから、はやく寝室に入ってしまえば良いのだが、あいにく、男子寮へと続く扉はかなり遠い。

 

「杖をいつでも出せるように、ただし自分から決して抜くな」

 

 セラが唇を動かさないまま呟き、その平坦な低い声にシムはぞっとした。セラは以前、最上級生の集団を相手するのは骨だと言っていた。そしてセラはまた、一対一の決闘で自分より強い生徒は校内にほとんどいないと言っていたが――これは裏を返せば、セラより強い生徒も、当然いるということだ。

 

「……『穢れた血』か。今頃になってのこのこ顔を出すとは、良いご身分だな」

 

 そして談話室の空気を汲み上げるように、声が低く響いた。

 




「二・三日後に更新したい」と言っておいて二ヶ月後ですみません。会話回が続く。キリが悪いですが続けると三万字を超えるのでいったん二万字で区切ります。(ハリーやリドル以外の)一般生徒と校長との会話はサンプルが無いので、校長が一般生徒とどう接するかは想像で書くしかない。トップクラスに好きなキャラクタだけれど難しい。


「目くらまし」:
作中の人物があまり「目くらまし」や「(効果が薄れゆくほうの)透明マント」をあまり使わない理由について、単に作劇上の都合ではあると思いますが、一応ここでは「『目くらまし』はとても難しいから」「マントは非常に高価だから」としてます。

「透明になる魔法はダンブルドアクラスじゃないと使えない」という設定ならばハリーの透明マントの価値もより際立つと思うのですが、七巻で普通にクラッブが使ってるんですよね…。「もう『目くろます術』を使える」という彼のセリフからは、ホグワーツで「目くらまし」を習うのか否か判然としませんが(ホグミスでは習うようですが)、この二次創作では、ホグワーツ生は基本的に使えないということでお願いします。フレッドとジョージは五巻で「首なし帽子」をさらっと作ってますが(父親が「透明ブースター」を搭載していることやハーマイオニーが帽子を見て手放しで称賛してる事実に目を向けずとも)彼らは明らかに規格外に優秀なホグワーツ生なのでノーカウント。

(とはいえ、クラッブとゴイル、「成績が悪い」「防衛術のふくろう試験を落としている」事実はありますが、「悪霊の火」を使えている以上、魔法の力自体は決して劣っているわけではないのかもしれません。もっとも「悪霊の火」は「制御も難しいが、使うこと自体も難しい」のか「制御が難しいだけで、使うこと自体はとても簡単」なのか原作の描写からは何とも判然としませんが…。後者ぽい感じはしますが、仮に前者なら、「クラッブは実はめちゃくちゃ強かった」で解決しそうです。あそこのシーンは日本の漫画なら「『悪霊の火』を使いこなすまでに成長した超強化クラッブ&『髪飾り』に触れて人間性と引き換えに超知性殺人サイボーグと化したゴイル」VS「三人組&ドラコ」の死闘になりそう)

マントについては、一巻で、死の秘宝が実在すると知らないロンが、透明マントを見て「こういうマントを手に入れるためだったら、僕、なんだってあげちゃう。ほんとになんでもだよ」と発言しているので、普通の透明マントも、ウィーズリー家の経済力では、手の届かない代物だとみなせそう。また、五巻でムーディの手持ちのマントは二枚しかないが、もし安価であれば、ムーディの性格的に、もっと持っていても良さそう。


「賢者の石」:
この超チートアイテムの存在が知られていながら、存在がほとんど無視されて魔法界が回っている理由(いくら魔法族の寿命が長いとはいえど、皆が皆ハリーやダンブルドアのように、達観した死生観を持って定命を受け入れ、財産への執着もないというのは少々不自然のように思われる)について、わざわざ重箱の隅を突いても仕方ないですが、一応ここでは「石を使うのは極めて難しい」「自分で石を使わないと意味がない」「現代では石を作れない」などの独自設定を無理矢理つけてます。解消しきれていないこと、たとえばダンブルドアの死生観と彼とフラメルの友人関係とが並立していることなどについては、筆者の手に余るのでこれ以上深入りしないつもりです。

(現代で石を作れないとすると、六巻でのハリーとダンブルドアの「なんでヴォルデモートは賢者の石を自分で作ったり盗もうとしなかったのか」「命の水は寿命を延ばすだけだし、命の水に依存した状態になるから、分霊箱より魅力的ではなかったと思う」のような会話と若干の齟齬が生じますが、そこは勘弁)
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