スリザード・クラブ (蛇寮非魔法族出身者の会) 作:非魔法族
「スリザード・クラブについて話そう。魔法族の血にこだわり非魔法族を侮蔑する思想が幅を利かせるスリザリンでは、私たちみたいに非魔法族の両親から生まれた生徒は、ありていにいえば人権が保証されてなくて――『人権』の概念がそもそも魔法界にない気がするけど――私たちは存在しないものとして扱われるか、あらゆる攻撃にさらされる危険がある。魔法界に来て早速で悪いけれど、覚悟を決めて身を護る術を身につけないと、比喩ではなしに身が危ないんだ」
「ただでさえホグワーツ新入生は、みっちり詰め込まれる授業と、複雑怪奇なホグワーツ城に慣れるだけで精一杯だ。これは家庭で幼いころから魔法の訓練を受けていた、一部のスリザリン生も例外じゃない。それに加えて、非魔法族出身の子供にとっては――たかが数ヶ月前に魔法界のことを知ったばかりの子供にとっては、そもそも魔法界の常識や文化をほとんど知らないハンディがあるんだ。他の寮であれば、同級生や上級生の手助けで自然となんとかなるものだけど、この寮は見ての通り……」
「そういうわけで、まずは身を護る術を訓練し、魔法界のいろはを叩き込み、ホグワーツの歩き方を教え、そして共に学び魔法の訓練に励み助け合う、それがスリザードクラブだ」
「私たちは、
「つまり、魔法族の血が混ざっているふりをして害をなされないように生きるか、徹底的に研鑽を積んで害をなされないようにして、胸を張って非魔法族出身のスリザリン生として生きるか、どちらかだ。スリザード・クラブの人々は、後者を選んだ。私も、後者を選んだ」
「君は歓迎会での一件があった以上、もう蛇のふりをして生きることはできないけれど――仕方なしにではなく、前向きな気分で、
セラの堂々たる演説がそこでいったん止まった。セラはシムの目をまっすぐ見つめる。マグルの学校の教室に似たこの空間は、彼女のローブ姿を不自然なものにしてはいなかった。あまりに魔女然とした姿に、シムは思わずうつむいて自分の体を見やった。一年間のうちの成長を見越して、若干大きめにあつらえてあるローブ。出来の悪いハロウィンの仮装大会のようだ。ハロウィンの仮装大会とは違い、今後魔法界のファッションが変わらない限り、死ぬまで着続けることになるのだが。
シムは再びセラに目を戻した。言われるまでもなく、シムの心は決まっていた。
「お願いします」
セラは顔を緩めた。
「よし。改めてよろしくね」
「はい。――ところで、スリザード・クラブには何人いるんですか?」
「……まだ言っていなかったね。実は、今は私一人だけなんだ」
「……スリザリン全体の中に、ストーリーさん一人だけですか……?」
「そもそも私たちみたいな生まれは、本来スリザリンに組分けされるはずもないんだ。数年に一人のレベルでは出るけど、それでも多いくらいだ」
「それじゃ、去年までは誰かいたのですか?」
「私が一年のときは、七年生に二人いたけどね。それだけだ」
「……」
「私が入っていなければ、スリザード・クラブも終わりだった。6年ぶりに入ってきた仲間ということで、二人にはよく可愛がってもらえた。進路にかかわる
「六月には、二人とも華々しい成績を抱いてホグワーツから羽ばたいていった。二年生になった。私は独りになった」
「……」
「この一年を乗り切れば。そう思って三年生になった。非魔法族の生まれは誰も、入ってこなかった」
「……」
「そうして四年になった。ようやくだ。ようやく……」
「だから――そうだな、私にとっては、君がスリザリンに来てくれたのは、まったくの僥倖だった。白状すると、君が堂々と全スリザリンの前で自分の生まれを明かしてつまはじきにされたとき――私は弾けるばかりの笑顔になった。
セラの感傷的な顔を、シムは直視できなかった。
「…………逆の立場だったら、僕も同じことを考えたと思います。なんとも、お疲れ様です……」
「それに、本当に利己的な人なら、わざわざ露悪的になってそんなことを言わないでしょう」
セラはふっと笑った。
「それではスリザリンではやってけないよ。『本当に利己的な人なら、わざわざ露悪的になってそんなことを言わない』と思わせているだけかもしれないじゃないか。私みたいな、偽悪者のふりをする偽善者を見抜けるようにならないと」
あえてそのようなことを言うあたり、「偽悪者のふりをする偽善者」のふりをしたい偽悪者なのではないかとシムには思えたが、話が堂々巡りになるので辞めておいた。そしてシムは同時に、本来では関わりを持てるかどうか定かでないセラという少女に、自分の存在が無条件に感謝され、なかまだと見なされていることは、セラの境遇の理不尽な不幸によるものにすぎないことに思い至り、セラの不幸を喜んでいる自分を発見した。この内面が利己的なスリザリンというやつなのだろうか。
「とにかく、大げさにクラブとはいっても、私と君だけなんだよね。勧誘しようにも、勧誘しようがないし。もちろん私と関わるのが正直気まずかったり不愉快だったりすることがあったら、控えるけれど」
不愉快であるはずがない。過ぎた謙遜は傲慢ですらある。自覚していないのか、自覚した上で言っているのか分からないが、いずれにしても恐ろしい。あるいは自寮で数年冷遇されれば、無理からぬことなのかもしれない。
「そんなことはないです。むしろストーリーさんこそ、僕みたいな人間の面倒を見るのが嫌とかでなければ、喜んで」
慎重に、しかし本心を隠すことはなくシムは答えた。
「私としては、こうやって新入生に先輩風ふかせて大人ぶるのは楽しいしね。歓迎だよ」
セラはいちいち予防線を張って照れ隠しをする癖があるらしいとシムは気づいた。
「あと、ストーリーさんだなんて長いからね。まだ会ったばかりだけれど、よければセラと呼んでくれ」
「わかりました。僕もシムと呼んでください。――ところで……」
シムは口ごもった。
「ちょっと恥ずかしいですけど、まだ僕は魔法界についての常識が全然なくて。そもそもスリザリンがなんでマグル生まれの生徒をこんなに冷遇するのかについて、純血だとかなんだとかについて、きちんと分かっていなくて。……今更ですみませんが、良ければ、色々と教えてくれませんか」
セラは押し黙った。
「……そうか、ごめん。まずはそこから説明しないといけなかった。ちょっと待ってね……さっき長々と格好つけて話したのが、色々と恥ずかしくなってきたから」
セラは後ろを向いて右手を顔に当ててしばし固まった。
★
「私も君もほんの生まれたばかりだったから分からなかったけど、十三年前まで、かなり悲惨な事件や事故が相次いでいたそうでね……。魔法界は陰惨な内戦状態にあったわけだ。いや、もっと前からの話をしよう」
セラはシムに向き直り、かいつまんで魔法界の最近の情勢と歴史について話し始めた。
ホグワーツの創設と、純血主義について。スリザリン卿の離反について。魔法族が歴史の表舞台から姿を消した、国際機密保持法の制定について。「ヴォルデモート卿」を自称して暴虐をふるい、「名前を言ってはいけないあの人」「例のあの人」とまで恐れられた、最悪の闇の魔法使いについて。その「例のあの人」の信奉者「死喰い人」と、スリザリン寮の関係について。「例のあの人」と戦った世界最強の魔法使いアルバス・ダンブルドア校長と、「例のあの人」を齢一歳にして打ち破った、「生き残った男の子」ハリー・ポッターについて。そしてマグル生まれの差別とスリザリンについて。半純血だけでなく、マグル生まれの生徒も、ごくまれにスリザリンに組分けされるということについて。
ホグワーツに来る前に教科書や本からある程度知識を仕入れていたとはいえ、その情報の濃密さと荒唐無稽さに混乱させられた。セラが語り終えたあと、シムはしばし閉口した。
「……いろいろ言いたいことはありますが……。この国のパブリックスクールでたとえるなら、寮に白人至上主義過激団体の根城が一つ混じっていて、しかもそこには白人だけでなく、有色人種が気まぐれでぶち込まれるということでしょう?控え目に言って、狂っているのではないでしょうか」
やっと紡ぎだせた言葉は、そのようなものだった。
「ああ、もちろんスリザリン生のすべてが『死喰い人』の子どもで
「今すぐ他の寮に移籍できませんか」
「他の寮に移籍できるなら――」
セラが言葉を切った。
「私が今、ここにいると思う?」
「……そうですね。……それにしても、テロリストのメンバーの多くが捕まっていないというのも凄い話ですが、彼らはよく自分の子供をホグワーツに通わせますね。ホグワーツ校長は、『例のあの人』のレジスタンスのリーダーだったんですよね?」
「魔法界は異常に狭いからね。英国の魔法学校はホグワーツ以外に存在しないから、英国とアイルランドの若者は、ホグワーツに通うか海外の魔法学校に行くか、さもなければ家庭で学習するしかないんだよ。非魔法界なら、生まれやら経済力やら学力やらで、進学してゆくにつれ似た層が固まってゆくものだし、そもそも高等教育は受けない人が多いけれど、魔法界では一貫してひとつの学校で最後まで教育を受けるわけだからね。ドロップアウトする生徒もほとんどいない。貴族の子息も貧しい家庭の子も、天才も愚人も、聖人も悪人も、英国中の若者が一堂に会する、カオスきわまりない空間なわけだ」
英国中のあらゆる境遇の若者が七年間をともに同じ学校で過ごす。非魔法界に置き換えて想像してみようとしたが、どうにも思い描けなかった。
「しかも、十一歳の子供を、まだ無限の可能性を秘めてるはずの子供を、組分け帽子がたった四つの枠に押し込めてしまう。人がたった四種類のステレオタイプに縛られるはずもないのに、その四種類に分かれた子供は、実際にその枠に当てはまるように自己暗示してしまう。組分けされるのではなく自分で組分けしてしまう。――私もそうだけどね。スリザリンであることを拒否するより、スリザリンなんて属性を気にしないより、スリザリンであると自己規定するほうが気楽だ」
セラは自嘲の表情を浮かべた。
「しかし、千年前から続く純血思想ですか……。もう20世紀も終わるというのに……」
「最近の非魔法界もあちこちで似たようなことが起こっているとは思うけど、英国魔法界の社会や文化が中近世で止まっているというのは全く同意だよ」
「羊皮紙と羽根ペンには驚きましたよ。――ただ、魔法族の血が薄くなるという恐怖は理解できる部分もありますね。物語だと、主人公の血筋が良いのは定番ですが、やっぱり魔法族の血が濃いほど魔法の力が強いものですか?」
「なんともいえないけれど、英国魔法界では当てはまらないように思う。たとえば、今世紀最大最強の魔法使いと言われる、ホグワーツ校長ダンブルドア先生は、両親の片方が非魔法族出身の魔法使いであったと思う」
「それと、これは自慢なんだけど、たとえば私は学年で一番成績が良いしね。決闘でも四年生までに敵はいないし、上級生でも私と互角以上の人はほとんどいないと思う」
セラは得意気に笑った。
「君に渡した手紙も、あの魔法もそれなりに難しいからね。驚いた?」
セラは大人びているようで、年相応の屈託ない面を見せることへの抵抗は案外ないようだった。
「はい、素直に凄いなと」
「ありがとう。ただまあ、歴史に名を遺す非魔法族出身者がどれほど多いかと聞かれれば、答えに詰まってしまうね……。もしかしたら、魔法界に触れるのが十年遅いというハンディだけでない、血が絡む要素があるのかもしれない。ある意味では純血思想が正しいのかもしれない。――とはいえ、魔法界には進んだ生物学はなくて。魔法生物学はまだ博物学の域を出ていないし。そもそも魔法界の学問全体があまり発達していなくて、魔法の原理を解き明かせる段階にはとうてい至っていない。だから、純血思想を完全に否定できるわけではない現状が正直なところだ」
もちろん小難しい理屈なしに、
「仮に純血主義が正しかったとしても、魔法族は人が少なすぎて、正真正銘の純血の家系なんてないし、あったとしても近親婚を繰り返してひどいことになっているだろう。
「そもそも、なんで僕たちがスリザリンに送られるんですか?そもそも組分けはどういう仕組みで行われているんでしたっけ?」
「色々な人に聞いて推測した限りだけど、四つのうち適性が最も高い寮に組分けされて、いくつか拮抗する場合は本人の意思もある程度尊重される。そして残念ながらどの寮にも当てはまらなかった場合は、分け隔てなく教えることを好んだ創設者の寮、ハッフルパフに組分けされるようだ。――ただし、ハッフルパフは性根が邪悪な人間が入れる寮ではない。そういう人は、魔法族の血が流れていればスリザリンに送られるみたい。……スリザリンには優秀な人も多いけど、なんというか残念な人もいるだろう?」
シムの頭には、ちょうどマウンテンゴリラから知性と慈愛が取り除かれたと形容すべき二人の巨漢の姿、たしか名前はゴラッブとクイルといったか、その姿が思い浮かんだ(あるいはクライルとゴッブという名前だったかもしれない)。なにやら唸り声をあげて男子トイレに入ってきた二人は、シムを見かけると両脇を囲み、なんの前触れもなく腰を低くしその剛腕を豪速で繰り出してきた。見た目にそぐわぬ俊敏さに恐れをなしつつ頭をすくめ退却すると、互いの拳が互いの顔面に音を立ててめりこんでいた。シムはその光景を見て、この二人を従え制御するマルフォイ少年の手腕と心労に、初めて尊敬と同情の念が湧き上がった。
「ただ私たちは、魔法族の両親を持たない――言うなれば、卑怯や臆病を恥じない人がグリフィンドールに、知への敬意を全く持たない人がレイブンクローに、倫理や努力を嘲笑う人がハッフルパフに入るようなものだ。私たちがスリザリンを熱烈に希望して組分け帽子を説得したとかならまだしも、少なくとも君はそういうタイプじゃないだろう?」
「はい……」
「『非魔法族出身』である強烈な失点を補えるほど、
「つまりセラは、自分が才能あって臨機応変で賢くてでっかい目標を持っていて自分を守るのが得意だと言いたいわけなのですね」
シムは純粋な表情を装ってからかった。
「やめてくれ、許してくれ。……もちろんスリザリンのこれらの特質は裏を返せば、卑怯で悪賢く、まずい野望を持ってても突き進んじゃって、暴力や権力をふるうことにためらいがなく、人の気持ちを考えることもなく、正義や道徳を軽視し、既得権益にしがみつく腐敗したエリート意識と帰属意識、身内には無批判で盲目的に結束し、外部の者には異様に排他的で差別的とも言い換えられる。どの寮も、こうやって正の面と負の面が言えるけどね」
まだ日も経っていないが、たしかにこのような生徒はスリザリンに多くいるように思われた。
「組分け帽子はたしか、グリフィンドールその人の被った帽子に創設者たちが知性を吹き込んだといわれている。グリフィンドールの思想の影響が他の創始者より若干大きいのかな?でも他の寮の適性もあった場合に、あえてスリザリンに送るほどなのか……」
セラは思案し、上の空で呟いた。
「君もどうせ、やたら理屈っぽい物言いから察するに、レイブンクローも勧められたクチだよね?」
「その通りですけど、理屈っぽい物言いって、セラこそ人のこと言えたものではなくないですか?」
「ごめん、こうやって理智的な会話をできる人はそこまで多くないからね、あくまで褒めているよ。私もレイブンクローとスリザリンで迷っていた。ところでプライバシーに踏み込むかもしれないけど、組分け帽子はどんな感じのことを君に言っていた?」
シムは唐突に組分け帽子の歌を思い出した。
――スリザリンではもしかして、君はまことの友を得る――
「……そうですね。正直恥ずかしくて、できればあまり言いたくないというか……。セラはどうでした?」
「……たしかに私も包み隠さず言うのは恥ずかしいな。訊いてごめん。私はレイブンクローが合いそうだなと思いながら帽子を被ったんだけど、胸に抱いている目標を実現するためならレイブンクローじゃなくてスリザリンに行く方が良い、みたいなことを言われて。『スリザリンでなくて良いのかい、スリザリンに行けば君は偉大になれるのに』という感じの囁きに、まんまと言いくるめられてしまった」
「……スリザリンに来たことで、その偉大になれる可能性は開かれたんですか?むしろ狭まったような……」
「初めは一刻も早く組分け帽子に『
「ところが、魔法族は――
組分けの日の、監督生ジェマ・ファーレイの言葉がシムの脳裏をよぎった。――ありとあらゆる呪いを知っていると思わせるような態度を取れば、誰が筆箱を盗もうと思う?――
「スリザリンは、魔法族の血筋にこだわるけど、同時に『力』を求める実力主義の寮でもある。血筋にかかわらず、『力』があれば認められ畏怖されかしずかれる。両親がともに非魔法族の
セラは杖を取り出し、後ろ手で机を叩いた。机は膨れ上がり、天井を覆わんばかりの古竜の姿を取った。非魔法界の出身の者なら誰でも知っている――
「自寮の人とふつうに交流するふつうの学生生活を送るのが絶望的になったのは残念だけど、それでも六年上のスリザード、シーナとソフィアにも会えた。あの二人に会えただけでも、スリザリンに来てよかったと思えた。ああ、もちろん君とも――そうだな、良い友人になれれば良いと思っているよ」
シムは、最初から一貫してセラの言葉に一定の遠慮と敬意と警戒の色が込められていることと、セラの自分を見る目が年の離れた弟を見るようであることに改めて気づいた。やや大きめにあつらえてある自分のローブが再び気にかかった。
「ほとんど一緒にはいれないけれど、違う寮には友人もできるのは救いだ。……それと、スリザードがいなくなった後も、別にスリザリンで完全に孤独に過ごしていたわけではないよ。さすがに三年もスリザリンで過ごしていれば、ちょっと助けを求めることができる仲間だってできるしね」
「そうだったのですか」
組分けの日の、独りで食事をとっていたセラの姿が脳裏をよぎったが、失礼にならずにそのことについて述べる方法が思い浮かばなかったので、何も言わなかった。そんなシムの何か言いたげな表情を見て、セラは口を開く。
「ああ、強がりとかではなくてね。ただ単に他のスリザリン生の前で堂々と『穢れた血』と仲良くしていては沽券にかかわるからね。表だって友好的に話したりはしないだけ」
「それって……」
いささか相手に都合が良いのではないか。シムは言葉を呑み込んだ。
「まずは自分の身を護る。それがスリザリンの徳目だよ。せっかく身分があるのに、私を庇って私と同じところまで身分を落としては、当人だけじゃなく私にとってもありがたくない話だ。グリフィンドールやハッフルパフの正義感には反するかもしれないけどね」
セラの口調は冷静だった。
「私にどこまで表立って仲の良い態度を見せてくれるかは、もちろん本人の『力』にもよるけどね。たとえば監督生のジェマ・ファーレイなんかは、そこそこ表立って、その地位を失わないぎりぎりのラインで、つまりスリザリンとしては異常なほど表立って、私と仲良くしてくれる。彼女は名家の出身ではないけど、魔力、求心力、政治力、魅力――スリザリンでも特に優れた『力』がある。そのうえそれなりにまともな倫理観を持ってくれている。彼女が今年から監督生の立場になったことは、まったくありがたい」
シムは、組分けの日に自分を罵倒した上級生を唯一たしなめてくれた監督生を思い浮かべた。そして彼女が「新入生歓迎会で、そのような言葉はやめなさい」と言っていたことも思い出した。
「君の周りも、まだ入学当初だからみんな周りをうかがって慎重になっているだけで、次第になんとかなると思うよ。祖父母の一人二人が非魔法族であるような人はたくさんいるし、片方の親が非魔法族の人もそこそこいる」
「それを祈りますよ。……そういえば、セラはマグルって言葉を使わないんですね。わざわざ非魔法族って言いにくくないですか?」
「うーん、『
「侮蔑はしないにしても、非魔法界をすすんで理解しようとする魔法族はたしかにほとんどいないような気がしますね」
ホグワーツ特急の停車するキングズ・クロス駅で見た、ちぐはぐの洋服を着た魔法族たちの姿をシムは思い出した。
「私は、非魔法界の叡智や文化や社会を本当に尊敬している。魔法なしで非魔法族は、これほど豊かになり、経済を発展させ、月にだって行き、命や心の仕組みの糸口すら見えてきて、ヒトよりはるかに物覚えの良い機械だって作り、世界中がつながろうとしているというのに、多様な思想や芸術を生み出しているというのに、そんなことは魔法界ではまったく認知されてないんだ――
セラは熱っぽく訴えた。
「……それが大望、ですか……」
シムは適切な返事が思い至らなかった。彼女の野心より気宇壮大なものを抱いているスリザリン生は、恐らくそういないだろうと思えた。
「だから私は魔法を学んで訓練するのと同時に、非魔法界の叡智も、たとえば自然科学を、時間の合間を縫って学んでいる。科学の知見なんてやはり魔法に活かしようがなくて、魔法とは根本的に相容れないようには見えるけど。本当に相容れないのかどうかは、魔法界の誰もちゃんと探求しようとしたことはない。もしかしたら、魔法も非魔法界の学問体系に吸収できるものなのかもしれない……レイブンクローに嫌われてしまったのは、あくまで魔法の『力』を求めているのであって、叡智そのものへの好奇心に突き動かされているわけじゃないからかもしれないけどね」
「……セラがスリザリンに送られた理由の一つには、マグルの、いや非魔法族にこだわるその姿勢が、魔法族にこだわるスリザリンの眼鏡にある意味でかなった、というのがある気がしてきました」
「……面白い考えだね」
セラは困惑と微笑を混ぜ合わせた表情を浮かべた。
導入回で、説明ばかりになってしまっていますが、次回で1話は終わりです。第一章は全6話の構成で、訓練やホグワーツ探検の話、ハロウィーンの話、ホグズミードの話などです。
セラの様々な話:いちホグワーツ生に過ぎないセラの考察がこの二次創作内の世界の事実と一致することはもちろん保証されていません。
純血主義に共鳴するマグル生まれ:
ローリング氏によれば、死喰い人の中にさえマグル生まれがいるそうですが(※)、なんともすさまじいですね……。
(※ Harry Potter wikiのMuggle-bornのページの"According to J.K Rowling, a Muggle-born can become a Death Eater in rare circumstances."の記述から飛べるreference[17]のインタビューのページの下のほうにその発言が書いてあります。マグル生まれの死喰い人がいると結論付けるのは早計かもしれませんが、いなかったらいないと答えそうなものですし
2020-09-05 直接サイトのリンクを貼るのがセーフか分からないのでリンクを消しました ・追記:というか他のインタビューでリリーその人がジェームズと一緒に死喰い人の勧誘を受けたと取れそうな部分も)
早速反応を頂けて嬉しいです!二次創作を書くのに初めて手をだしたことで反応のありがたみが凄く良く分かりました…