筆者の銀英伝二次創作『ブラウンシュヴァイク公が転生したけど、転生先はフォーゲルだった件』、略して『転フォー』の外伝にして続編にして、同作の第2期『ブラウンシュヴァイクからフォーゲルに転生したけど、立ちはだかったのはヤン・ウェンリー(原作読破済み転生者)だった』への橋渡しとなる物語です!
※第2期は、まだ未定ですが、書く方に気持ちが傾いてきています(笑

銀英伝ファンのサラリーマンが転生したヤン・ウェンリーが同盟のために、そのチートをフルに発揮して頑張る、というお話です。どうぞお楽しみください(笑

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筆者の銀英伝二次創作『ブラウンシュヴァイク公が転生したけど、転生先はフォーゲルだった件』、略して『転フォー』の外伝にして続編にして、同作の第2期『ブラウンシュヴァイクからフォーゲルに転生したけど、立ちはだかったのはヤン・ウェンリー(原作読破済み転生者)だった』への橋渡しとなる物語です!
※第2期は、まだ未定ですが、書く方に気持ちが傾いてきています(笑

銀英伝ファンのサラリーマンが転生したヤン・ウェンリーが同盟のために、そのチートをフルに発揮して頑張る、というお話です。どうぞお楽しみください(笑


銀英伝好きのサラリーマンが転生したら、運よくヤン・ウェンリーだった!

 自由惑星同盟軍の軍人の一人、ヤン・ウェンリー。以前から有能で、周囲からも有望な若手と思われていた彼が、前世の記憶を取り戻したのは、第四次ティアマト会戦の時である。

 その戦いでの布陣を見て、星域の名前を耳にした彼は、突然自分の脳内に、前世の記憶が流れ込んでくるのを感じたのだ。

 

* * * * *

 

 前世での彼はごく普通のサラリーマンだった。宇宙戦艦もなければ、地球外惑星への移民技術もない世界で生まれた彼は、ごく普通に生きていた……いや、ごく普通ではなかった。彼は、ブラック企業で家畜のように働かされていたのだ。

 

 そんな彼の心の支えは、『銀河英雄伝説』であった。銀河を舞台に、ラインハルトとヤンという二人の英雄がしのぎを削りあう戦記物語。それに彼は夢中になり、心躍らせた。本編小説10巻だけにとどまらず、外伝小説5巻はもちろん、OVAや、道〇かつみ氏の描いたコミック版、藤〇竜氏の描いたコミック版、〇崎版をもとにした新アニメ、果ては公式アンソロジー集やネット上の二次創作まで読み漁った。

 それらの全てが、彼の支えであった。

 

 だが彼にとって不幸だったのは、それらはあくまで支えであって、癒しではなかったことだ。

 それらに夢中になったとはいえ、それらによって仕事が楽になるわけではないし、彼の疲れを癒したり、体の不調を取り除いてくれるわけでもなかった。過酷な仕事は、彼の体を容赦なくレッドゾーンまで追い詰めていき、ついに限界は来た。

 

 ある日の仕事中、彼は意識を失い、そのまま命をも失った。彼の会社はその後、その責任を問われ、多くの批判を受けた末に処分を受け、倒産することになるが、既に冥府の門をくぐってしまった彼がそのことを知ることはない。

 

 そして彼は転生し、生れ出てきたのだ。この、彼が夢見た『銀河英雄伝説』の世界に、名将ヤン・ウェンリーとして。

 

* * * * *

 

 さて、記憶を取り戻してすぐ、ヤンは面食らった。この彼が今いる戦場、第四次ティアマト戦役の様相が、彼が前世で知るものとは大きく違っていたからだ。帝国軍の前衛で戦っている敵艦隊の一つが変な動きをしている。こんなことは、彼が知る第四次ティアマト戦役ではありえなかったことだ。

 だが彼は、軍事の素人ではなかった。前世ではただの『銀河英雄伝説』好きのサラリーマンだったとはいえ、現世では、原作で魔術師と呼ばれた名将、ヤン・ウェンリーなのである。ヤン・ウェンリーとしての彼が持つ歴史知識と、戦略戦術能力は健在であった。

 その能力と知識で、彼はその艦隊がこちらの後背を襲おうとしていることを見抜き、そのことを所属しているパエッタ艦隊の司令部に上申したが、受け入れられはしたものの、それが反映されることはなかった。正面の艦隊の攻勢が激しく、その後ろに回ろうとしている艦隊に対応する余裕はなかったからだ。

 

 それからも、彼の面くらう日々は続く。前世での彼も知らない第五次ティアマト会戦が起こったり、アスターテ会戦も、彼の知るものとは様相が違うものになったりなど、この世界の歴史は、彼の知る『銀河英雄伝説』のものとは全く似て非なるものへと変わっていった。

 

 とはいえ、いまだ准将で、戦役において大きな影響を与えるほどの身分ではない彼は、ただ(軍人としては)平凡な日々を過ごしていた。幸いにも、同盟軍の士官、特に上級士官としての職場は、少なくとも前世に比べればずっとホワイトで、それが彼にはとてもありがたかった。

 さらに運が良い(?)ことに、彼の所属するパエッタ艦隊は、アスターテ会戦の後に発動した三星域奪還作戦(9~11話)においては出動することなく首都待機となった。それも、戦いが嫌いで、前世のことで働き詰めは勘弁願いたいと思っている彼には幸せであった。

 作戦の発動中、彼は定時で帰り、いっぱい睡眠をとり、休日を堪能したという。

 

 しかし、その彼にも、スポットライトの当たる時がやってくる。

 

 銀河帝国が、皇帝崩御で揺れているという。その情勢を聞いて、彼はピンときた。帝国で『リップシュタット戦役』が始まるなら、それと同時期、同盟で始まるのは―――。

 

 前世の記憶があるとはいえ、ただの何のコネもない一軍人なら、例え救国軍事会議のクーデターが起こることを知っていても、どうにかすることはできなかったろう。だが、ヤンは、三星域奪還作戦において、ビュコック中将にアドバイスした縁から、彼とのコネがあった。

 

 彼はすぐに、同盟軍艦隊司令部に直行し、三星域奪還作戦の失敗で失脚したロボス元帥の後をついで同盟軍艦隊司令長官となっていたビュコック大将に面会すると、真っ先にこう言った。

 

「司令長官。近いうちに同盟でクーデターが発生します。対処が必要です」

 

 その言葉に、ビュコック大将はびっくりしたが、彼は、三星域奪還作戦でのヤンの助言が実に的確だったことから、その言葉に間違いが極めて少ないことを知っていた。そこで彼はすぐに否定することはせず、まずは彼に尋ねることにした。

 

「それはどういうことかな? 今のところ、そのような兆候はないように見えるが。そう予測した理由を教えてもらえるかね?」

 

 ビュコックに尋ねられると、ヤンは彼の考えを話し始めた。といっても、その内容は『銀河英雄伝説』でヤンが話していた内容を、今のこの状況にあわせてアレンジしたものだったが。だが彼は、その内容が間違いないことを確信していた。

 

「まず一つは、帝国の情勢です。今、帝国は皇帝崩御を受けて、大きく揺れています。おそらくじきに、帝国は二つに分かれて争うことになるでしょう。そうなった時、帝国のどちらかの勢力が、我が軍の介入を抑止するために、なんらかの手を打ってくることが考えられます。その手の中で一番有効なのが……」

「クーデターを起こす、ということか。ふむ……」

 

 ビュコックがそう言うと、ヤンはうなずいて話を続ける。

 

「二つ目は、我が軍の状況です。我が軍は、これまで幾度も軍を動かしましたが、ほとんどが政治的要求……悪い言い方をすれば、政治家たちの点数稼ぎのための戦いでした。そこに前回の大敗です。それを受けて、兵や士官たちの中に、『政治家のために使いつぶされるのはまっぴらだ』という空気が蔓延してるであろうことは否定できません」

「そうじゃな……むぅ……」

 

 ヤンの指摘にビュコックはうなずく。実際、彼の艦隊でも、そのような不満の声は挙がっているからだ。

 

「であれば、そのような状況で、クーデターという花火を起こすには、どのような火種でもたやすいと考えます。これらの要素を考えると、むしろ、帝国が我が軍にクーデターを引き起こすという、ローリスクハイリターンな手を打たない可能性は限りなく少なく、仮に打たなかったとしても、遅かれ早かれ、軍の不満派が勝手にクーデターを引き起こす可能性も低いとは言い切れません」

 

 ヤンがそこまで言い終わったところで、ビュコックは破顔した。それは彼を嘲笑するものではなく、賞賛する顔だった。

 

「いや、見事だ。わしも気づかなかったその可能性を、実に説得力のある推論で見出すとは。さすが、軍の一部で『未来の新星』と呼ばれているだけのことはあるわい」

「はぁ……。自分はそんな大したものではないと思っているんですがね」

「なに。評価は自分で決めるものではなかろう。さて、それでそのクーデターを阻止あるいは、短期間でつぶすにはどうしたらいいと思う?」

「はい、それは……」

 

 ビュコックに尋ねられたヤンは、自分が考えた対応策を話し始めた。前世の記憶で、救国軍事会議が実行したプランを知っていれば、それに対する策は容易に考えられた。少なくとも、奇跡(ミラクル)ヤンであれば。

 

* * * * *

 

 その日、新しい統合作戦本部長となったクブルスリー大将は、ある軍施設を訪れていた。

 その廊下を歩いていると、一人の軍服姿の男がやってきた。

 三星域奪還作戦を立案するも、アルレスハイムに1艦隊しか送らないというポカをやらかし、おまけにその艦隊司令官であったウランフ中将に叱責されたことでヒステリーを起こし卒倒してしまい、彼に「こんなガキがこの作戦を立てた参謀と知ったら、帝国軍の奴らがさっそくこれをコメディドラマにするだろうな」と言われた、フォーク准将である。

 

「本部長閣下。私です、フォークです」

 

 『銀河英雄伝説』の作中では、その彼に対し、「君は……まだ、予備役で療養所にいると記憶していたが?」と聞き返したが、今回はそうはならなかった。彼は近づいてきたのがフォークだとわかったとたん、こう言ったのだ。

 

「君の狙いはわかっている。何をしようとしてるかもな。残念だが、君がいるべきなのは療養所でも軍でもなく、あの世のようだ」

 

 彼の言葉と同時に、彼のSPが一斉に銃を放ち、フォークをハチの巣にした。

 ヤンから、フォークがクーデター派に唆され、現役復帰を願うふりをしてクブルスリーを暗殺しようとする可能性があることを教えられたクブルスリーは、そうならないように先手を打ったのだ。

 もちろん、その前に、フォークの背後関係を洗って『クロ』であることを確認してからであるし、実際フォークの懐には銃が仕込まれてあったが。

 もちろん、軍施設を訪問していたのは、何か行事などの予定があったからではなく、フォークをおびき出すための罠だったのは言うまでもない。

 

 血まみれになって倒れ伏したフォークだった肉の塊を一瞥してため息をついたクブルスリーのもとに、ヤンとビュコックがやってきた。

 

「やはり、君の言うとおりになったよ、ヤン准将。ありがとう、君のおかげで、私の身も、何より我が同盟軍も助かった」

 

 その彼に、ヤンは頭をかきながら答えた。

 

「いえ、クブルスリー大将。助かったと安堵するのは早いと思います。まだクーデター派の企みが終わったわけではありませんから」

「そうだな。ではビュコック大将、ヤン准将。例の件はよろしく頼む」

「わかりました。本部長も、身の安全にはくれぐれも気を付けてくだされ。クーデター派の刺客が、また襲ってこないとも限りません」

「あぁ、わかっている」

「本部長、あの件もお願いします」

「あぁ、わかった。できるだけのことはしよう」

 

 そして、クブルスリーの暗殺未遂を未然に防いだヤンとビュコックは、すぐさま次なる手を打つ。ただちに同盟内の各惑星を調査し、叛乱が起こる可能性がある惑星をリストアップ。そこにあらかじめ艦隊を派遣したのだ。幸いにも原作とは違い、アスターテで負けはしても提督の戦死は出ておらず、アムリッツァでの大敗も発生していない今の同盟には戦力は十分にある。もし起こっても、迅速に鎮圧できるであろうことは疑いない。

 そしてその通りになった。事前に艦隊を派遣していたことが功を奏し、いくつかの惑星で起こった叛乱は、一日もかからずに鎮圧された。

 

 そしてこれに業を煮やしたクーデター派は、ついにハイネセンでの決起を決意する。

 クーデター派の影響化にある陸軍の兵士たちが、ハイネセンの主だった軍・政府施設を占拠し、衛星軌道上はルグランジュ提督とパストーレ提督による艦隊が抑える、という計画だ。

 

 ただこれはある一方では失敗する結果となった。

 

 既にクーデターが起こりうるだろうと知っていたクブルスリーが先手を打ち、重要施設に多くの正規兵を配備していたのだ。彼らによって地上側のクーデターは秒で鎮圧された。

 

 その知らせを、ルグランジュ提督は拳を強く握り、歯噛みしながら聞いた。

 そして彼は、怒りの形相で言い放つ。

 

「おのれ、大義を知らぬ奴らめ……! かくなるうえは、ハイネセンを火の海にしてでも……!」

 

 そこにある報告がもたらされる。

 

「提督! ビュコック艦隊と、あともう1艦隊が接近中!」

「なんだと!?」

 

 ハイネセンのあるバーラト星域の外周から現れた艦隊。

 それは、演習公開の名目で出撃していたビュコックの艦隊と、叛乱鎮圧のために臨時に編成された、ヤンの指揮する艦隊である。もちろん、演習公開に出撃していた、というのは嘘の情報である。

 

「おのれ、ビュコック、ヤン・ウェンリー……! ただこちらには『アルテミスの首飾り』がある……! その火力支援を受ければ奴らなど……」

「ルグランジュ提督。それが……」

「なんだ!?」

「『首飾り』が先ほどから機能停止。こちらからの再起動命令も受け付けません!」

「な、なんだと!?」

 

 そう。首都ハイネセンを守る防御衛星群『アルテミスの首飾り』は、事前にクブルスリーによって一時的に機能をロックされていたのだ。首飾りと艦隊で、クーデター艦隊を挟撃する手もあったが、ヤンが完全自動化された兵器を嫌っていたのと、首飾りはもともと艦隊との連携を想定されていたものではなく、これを使うとなると、こちらにも被害が出かねないことを懸念して、取りやめている。

 

「お、おのれぇ……! だが戦力は同数! ならば大義ある我らが負けるはずがない! 総員、同盟を救うため、この一戦に命を賭けよ!」

 

 ルグランジュとパストーレが自分の艦隊にそう檄を飛ばしているころ、ビュコックとヤンも戦闘を前に、各艦に檄を飛ばしていた。

 

「これより、クーデター派との決戦を行う。ハイネセンに住む皆の家族を守るための大切な戦いだ。後悔のないようにしっかりやってくれ。以上だ」

「(前世で見た某宇宙戦艦ものに出てきたブラックアンド〇メダも好きじゃなかったからなぁ……。アン〇ロメダ改はそうでもなかったけど。本当に完全機械化された兵器は使わないのが一番だ)あー……これから戦いが始まる。しょうもない戦いだが、それだけに勝たなくては意味がない。勝つための算段はしてあるから、無理せずに気楽にやってくれ。かかっているものはたかだか国家の存亡だ。個人の自由と権利に比べれば、大した価値のあるものじゃない。それじゃみんな、そろそろ始めるとしようか」

 

 その訓示を聞いたビュコックと、クーデター側の反応はそれぞれ異なっていた。

 

 ビュコックは

 

「やれやれ、あいつらしい言い方じゃな。あんな言い方をして士気が下がらなければいいのじゃが」

 

と苦笑いをもらし、一方のルグランジュは

 

「たかだか国家の存亡だと!? 同盟という大切なものをたかだかと言い捨てるなど許せん! 必ず血祭にあげてやる!」

 

 と怒り狂っていたのだった。

 

 かくして戦いは始まった。

 

 ここで、正規軍側に一つの誤算が生じた。作戦では、戦いが始まると同時に、叛乱鎮圧にかかっていた各艦隊がバーラト星域に舞い戻り、叛乱軍艦隊を、ヤン、ビュコックの艦隊と包囲する手はずだったのだが、各艦隊が各惑星の反乱部隊の悪あがきによって、指揮管制システムに異常をきたし、艦隊の再編成に時間がかかり、結果、駆け付けるのが予定より遅れてしまったのである。

 

 かくして戦いの序盤戦は、互いに正面から撃ち合うという形に終始する。

 

「まさか、各艦隊が足止めを食らうとは思わなかったの、ヤン准将」

「えぇ。でも、作戦の骨子が変わることはありえません。各艦隊が駆け付けてきてくれたらこちらの勝ちです。今は敵の攻勢を受け流しながら、守りに徹しましょう」

「そうじゃな」

 

 両提督の作戦に対する意見は見事に一致し、ビュコック艦隊とヤン艦隊は、叛乱軍艦隊の攻勢に対し、とにかく防戦に徹し、耐え忍ぶ方針に決した。叛乱軍艦隊はひたすら前進し、正規軍はひたすら後退する。叛乱軍が攻め、正規軍が守る。そんな戦いが続いていた。

 

 その様子に、ルグランジュ提督は再び歯噛みする。

 

「おのれ、まだ撃ち崩せないのか! このままでは、援軍が来てしまうぞ!」

「それが……敵艦隊の防戦が実に巧みで……」

「言い訳はいい! とにかく攻めて攻めて攻めまくれ!」

 

 そしてついにその時はやってきた!

 

 バーラト星域の外縁に、ムーア提督率いる艦隊が駆け付けてきたのだ!

 

「少し遅れてしまったな……。ルグランジュとパストーレの奴と戦うのは心苦しいが、これも同盟と同盟市民のためだ。全艦、突撃!」

 

 ムーア艦隊は、猛然とルグランジュ艦隊に襲い掛かっていく。

 

 さらにそこから、ウランフ艦隊、ポロディン艦隊、アップルトン艦隊、アル・サレム艦隊と、次々と艦隊がバーラト星域に突入してくる。

 それで勝敗は決した。

 

 クーデター軍艦隊は、半包囲され、四方からレーザーやミサイルを撃ち込まれ、たちまちその戦力を減らしていく。

 

 勝敗が確定したところで、ビュコックから降伏勧告が出された。パストーレ提督はこれに従ったが、ルグランジュ提督は……。

 

『ビュコック提督、ルグランジュ艦隊副指令のストークス少将であります。当艦隊は、貴艦隊に降伏いたします。小官はともかく、部下たちには寛大な処置をお願いします』

「了解した。……ルグランジュはどうした?」

『はい。ルグランジュ提督は降伏するのをよしとせず、指揮権を小官に委譲した後、自決されました……」

「そうか……。生きてほしかったのだがな」

『提督からの最期の言葉をお伝えします。『最後の敵手が宿将ビュコック提督と若手の新星であるヤン准将であったことを誇りに思う。自由惑星同盟と民主主義万歳』です』

「うむ……」

 

 かくして、クーデター派の艦隊を壊滅させた同盟軍は、ただちにクーデター派のアジトを発見し、急襲。クーデターの首魁であるグリーンヒル大将らクーデター派の幹部を一斉に逮捕。これにてクーデターは終結した。

 

 こうして、自由惑星同盟で発生したクーデターは、『銀河英雄伝説』本編より極めて短い時間で鎮圧されたのである。

 

 だが、事態の推移はこれで止まらなかった。

 

* * * * *

 

 自由惑星同盟の最高評議会ビル。そこでヨブ・トリューニヒトは悪鬼のような憎しみに満ちた表情で目の前の人物――ビュコックとクブルスリー、トリューニヒトの腹心の一人・アイランズ、そしてヤンをにらみつけていた。

 

 すべてはクーデター終結の翌日に始まる。

 その時までトリューニヒトはほくそ笑んでいた。クブルスリーを暗殺して、その後釜として自分の派閥であるドーソンを新たな統合作戦本部長として送り込む目論見こそ失敗したが、クーデター派のメンバーは、ほとんどが反トリューニヒト派である。彼らの後釜に自分の派閥の軍人を送り込めば、軍への影響力を増やすことはまだ可能と考えていた。また、クーデター派によって、自分に敵対している政治家たちが捕まったのも大きなポイントだ。

 これで、この同盟政府における自分の立場は盤石になる―――そう思っていた。

 

 だが。

 

 その慢心と、事態が彼の予想よりかなり早く推移し、迅速にクーデターが終結したこと。ヤンの人格が、わずかに原作の彼とは違っていたこと。そして何より、ヤンの中に『銀河英雄伝説』の知識があったことが、トリューニヒトの計算を狂わせた。

 

 クブルスリー暗殺未遂事件が発生すると、クブルスリーはすぐに、暗殺未遂の黒幕の逮捕という名目で、地球教の拠点と、トリューニヒトの私兵である憂国騎士団の拠点に、特殊工作部隊を送り込んだのだ。

 そして部隊の調査により、両者の拠点から、トリューニヒトと地球教、そしてフェザーンとのつながりを示すデータが見つかった。

 

 トリューニヒトらしからぬミスである。彼は慢心からくる油断から、それらのデータを抹消するのが遅れてしまったのだ。抜け目がない彼でも、悪魔が悪戯することがあったらしい。クーデターが迅速に解決したことで、データを抹消する余裕がなかったことも一因だが。

 

 やり口は、民主主義の在り方に抵触しかねないグレーゾーンなものであったが、トリューニヒトが後々、同盟にとって最大の毒となることを知っているヤンは、彼を早期に排除するためにはやむを得ないことと割り切ることにした。

 もっとも、転生前の人物の人格の影響もあることを否定することはできないだろう。原作のヤンでは、とてもこんなことはできないであったろうから。もっとも今の彼でもこれ以上のことはできないだろうが。

 

 さて。データを手に入れた軍は、さっそくこのデータを、匿名でインターネットに公開した。トリューニヒトが、最悪の宗教テロリスト・地球教とつながっていた疑惑がある、というニュースはたちまち、ネットに拡散し、同盟全土に広まった。

 同盟各地で、反トリューニヒトのデモが巻き起こり、トリューニヒト政権発足時には95%もあった支持率は、このニュースが流れて数日で、15%にまで落ち込んだ。トリューニヒトの弁舌をもってしても、憂国騎士団による秘密裡の弾圧を使っても、彼の落日はもはや止めようがなかった。

 

 政権内にも亀裂が入り始め、ついには、彼の腹心であったはずのアイランズ国防委員長を中心に、トリューニヒトの辞任論が沸き起こった。どうやら、トリューニヒトの闇を目にしたことが、アイランズの守護天使を目覚めさせたらしい。

 

 そして、ヤンら三人とアイランズは、今こうして、トリューニヒトの前に立っている。彼のデスクに、辞任要求をたたきつけて。

 

「おのれ、やってくれたな、ヤン・ウェンリー……!」

「何のことです? これは、あなたの中の心根が生んだ自業自得ですよ。地球教や憂国騎士団を使って、邪な野望のために同盟を道具として使おうとしていたあなたの心の、ね。あなたが清廉な政治家なら、こんな結末を生むことはなかったはずです」

「貴様ぁ……!」

「まぁ、おとなしく辞任することをお勧めしますよ。そうすれば、帝国軍のある提督に射殺されるよりはマシな歴史を歩めると思いますがね」

「もし、私が断ると言ったら……!?」

「残るならご自由にどうぞ。あなたの弁舌とやらで、今のこの状況を好転できると、信じているなら、ね」

「……」

 

 そしてトリューニヒトはついに諦めた。席から立ちあがり、ヤンを一瞥し、「覚えておれよ、ヤン・ウェンリー……!」と吐き捨てると、彼は議長室を出ていったのである。

 その開いた席に、アイランズが座った。そしてため息を一つ。

 

「ありがとう、ヤン准将。君たちのおかげで、同盟の民主主義は守られたよ」

「そ、そんな。アイランズ氏。頭をおあげください。私のしたことなんてささいなことです」

「いや、そんなことはないぞ。君は、クーデターを防ぎ、軍の弱体化を防ぎ、そして同盟最悪の敵を排除してくれた。まさに英雄と言っても過言ではない偉業だ」

「そ、そんな大げさですよ」

 

 クブルスリーからもそう誉められたヤンは、思わずビュコックのほうに顔を向けたが、ビュコックはただ、朗らかな笑みを浮かべるだけだった。それを見て、裏切者!とヤンは泣きそうになるのだった。

 

 そこでアイランズはこほん、と一つ咳払いして真面目な顔をした。

 

「それでヤン准将。君の意見を聞きたい。こうしてスタートから出直すことになった我が自由惑星同盟だが、これからどのように国を進めていけばいいと思う?」

 

 それにヤンも、まじめな顔をして答えた。

 

「まず前提として、銀河帝国を打倒するというのは不可能であることを認識する必要があります」

「ふむ……」

「ヤンの言う通りじゃな。あれだけ広大な領土じゃ。それを我が軍の艦隊だけで攻略するのは、物理的にまず不可能じゃ。例え、艦隊決戦を挑んで敵の首脳陣を討ち取っても、次に待つのは、帝国各地で蜂起した残党潰しだ。オーディンをたたくとしても補給路の問題が出てくるしな」

「確かにその通りだな。ではヤン准将。どうしたらいいと思うね?」

「はい。その前提を踏まえたうえで、取れる道は一つしかありません。すなわち、帝国との共存です」

 

 そのヤンの案に、アイランズ、ビュコック、クブルスリーは驚愕の表情を浮かべた。視線が一気にヤンに集中し、彼は思わず頭をかいた。

 

「帝国を倒すことができない以上、帝国と共存するしか方法はありません。帝国と和平条約を結び、イゼルローンあたりを緩衝宙域として、侵さず侵されずの関係を保つ。幸いながらに、未開発惑星はまだ多くあります。いずれ、人々が住むのに星が足りなくなれば、また戦いが起こるかもしれませんが、それでも、かなりの時間、平和を保つことができます。そしてその平和な時間は、同盟市民にとって、かけがえのない宝になることでしょう」

 

 そこまで一息に言い終えたところで、ヤンは一息ついた。一方のアイランズは、わずかに眉をひそめた。

 

「しかし、ここまで戦いを続けてきた帝国が、そんなにすんなり和平に応じるとは思えないのだが……」

「いえ。私の見立てでは、今回の帝国の内乱によって、帝国は開明的な方向に向かっていくと思います。そうなった帝国ならば、状況次第で和平に持っていくことはできるでしょう。そしてその和平につながる状況を作っていくのは……」

「わしら軍事の仕事、というわけか」

 

 ビュコックの言葉に、ヤンはうなずいた。

 

「なるほど。言われてみると、確かにそれが一番のような気がするな。わかった。政府の方針も、帝国との和平を念頭に動くことにする。軍はただちに、『帝国との和平』ができる状況にするための作戦計画を立ててくれたまえ」

「了解です」

 

 それで会談は終わった。自由惑星同盟は、新たな目標に向けて動き出すことになったのである。

 

 だがそれは同時に、銀河帝国と自由惑星同盟との闘いが、新たなステージに移行することでもあったのである。

 




いかがでしたか?

こうして権力の座から追放されたトリューニヒトですが、彼はまだまだ終わりません。
彼はこの後も地下に潜って、地球教や憂国騎士団とつるんで、ヤンへの復讐と権力の座に返り咲くために色々と暗躍する予定です。(第2期で

もし面白かったり、ヤンとフォーゲルの対決を見たり、トリューニヒトの暗い活躍を見たい方は、ぜひ感想くださいませ!(良い感想を頂けると、作者の第2期を書く気が高まります(笑

そうそう、もしよければ、ひいちゃの他の作品も読んでみていただけると嬉しいです!

=追記=
フレデリカも、銀英伝&ヤン好き女子が転生した姿で、しかも人格がフレデリカ本来のものではなく、その女子のもの、というネタを考えてしまいました。いかがでしょ?

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