キャストリアと行く聖杯大戦   作:ぴんころ

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……この話が投稿される時、私はまだ寝ているでしょう。


キャストリアは知りたい

「あれが、ルーラーですか」

 

 ”赤”のアーチャーが聖杯戦争初の脱落者となった翌日のこと。

 ミレニア城塞に訪れ、いくつかの会話を済ませ去っていく後姿を見て、キャスターはつぶやいた。

 そのサーヴァントには、サーヴァントらしさがない。というよりも、サーヴァント特有の霊格を抑え込んでいるように見える。

 疑問が顔に出ていたのか、憐は愛歌から聞いている事実を部屋へと戻る最中、歩きながら口にする。

 

「ああ、現代人レティシアの体に憑依している特異なルーラー、ジャンヌ・ダルク。霊体化できない、食事も、睡眠も、普通の人間が必要とする行為を全て必要とするらしいサーヴァントだよ」

 

「なんとなく、私に似ていました」

 

「狂った状態のジル・ド・レェとはいえ、見間違える程度には要素が似てるんだろ」

 

 瓜二つ、ドッペルゲンガー、そういうレベルには達していない。

 有名人のそっくりさん、という程度の似通った顔立ち。

 精神異常をスキルとして患った状態とはいえ、誰よりもジャンヌ・ダルクを知るジル・ド・レェが見間違えるのだから、まあ当然ではあるな、と憐は納得する。

 

「……実は、あっちに見惚れたりしてません?」

 

「なんで?」

 

「いえ、ほら。私も出会った直後に求婚されましたから。似たような顔のあの人を見たらやっぱり求婚するのかなぁって」

 

「んー」

 

 少しだけ考え込む様子を見せる憐。

 なんだかどきどきするなぁ、とその様子を見るキャスター。

 憐と愛歌と色々と暗躍する日々は、普段しないような、そして現代だからこそできるような刺激に満ちた日々だったから。

 彼の関心が他に向いたら、ああいう日々は終わりを告げるのだろうか、なんて。

 そんなことを考えている間に、憐は考えがまとまったのか一つ頷いて。

 

「いや、あれはねえわ」

 

「えぇ……」

 

 見るからに”苦手です”といった雰囲気を漂わせ、ルーラーはダメだと首を横に振った。

 そのあまりの嫌悪に、邂逅時間は一時間もなかったというのに、何がダメなのかと逆に気になってくる。

 

「いや、何がダメってほら、あいつ村娘のはずなのに覚悟ガンギマリなのが目に見えてるっていうか……」

 

 どう見てもあれは”導く側”、英雄として周囲を鼓舞するあり方の女だと否定する。

 

「別にそういうのがダメって言うつもりはないんだけど、それだとルーラーが何かしたら周囲が”ほら来た今だ担ぎ上げろ”って感じになりそうでなぁ。魔術師的には目立つのはアウトだし、俺個人としても一緒に平穏に暮らせる相手がいいし」

 

「あー」

 

 ジャンヌ・ダルク、と言う英霊についてはサーヴァントになった時点でキャスターも知っている。

 百年戦争にて現れ、フランスの快進撃の立役者となった少女だ。

 ただの村娘だった彼女がそうなれたのは、神の声という名前の扇動スキルが高かったということなのだろう。

 そんなのと一緒にいれば、確かに毎日が刺激的になりそうだ。

 

「っていうか、それを除いても俺からすればあいつは敵」

 

「聖杯戦争の裁定者(ルーラー)なのに、ですか?」

 

「いくらありえない存在だからって、キャスターをあんな目で見た時点で俺の敵だよ」

 

 真名すら看破することが許されているルーラーゆえに、誰に言われるまでもなく理解したキャスターの特殊性。

 本来ならば存在しないはずの英霊を呼び出した、その事実が彼女の中でキャスター陣営を要注意人物とした理由。

 理屈はわかるが、感情は納得していない。

 

 部屋に戻れば、気が抜けたのかキャスターから欠伸が出る。

 

「眠たいなら寝ても問題ないぞ?」

 

「はい……」

 

 前回に比べても、なお激しい魔力消費。

 憐の方は魔力のこもった宝石を食べることで無理矢理な回復を行なったが、キャスターの方は大聖杯への細工を含め未だ休憩を取れていない。

 聖杯大戦が動くのは夜である、という原則を考えれば、朝になった今休んでも問題ない、と告げた己のマスターにくしくしと目元をこすりながら少女は頷く。

 そのままふらふらとベッドの方に歩いて行って──

 

「あ、ちょっと待ってそっち違う俺のベッドキャスターの部屋はもう一つ別にもらってるでしょそっちで寝られたら俺がちょっとまずいことに──!」

 

 そのままぽすん、と憐のベッドの上に寝転がる。

 焦りが混じった憐の声など聞こえていないというように、寝息が聞こえてきたのはそのすぐ後のこと。

 

「……この場合、俺がキャスターのベッドで寝ればいいのか? 嫌だなぁ……絶対なんか言われそう。キャスターは言わなそうだけど、愛歌とか、絶対煽ってくるぞあいつ……」

 

 そんなぼやきも、眠りについたキャスターの耳には届かない。

 サーヴァントには三大欲求なんてないけれど、それでも元は人間なのだ。

 疲れれば眠りたい、と思うこともあるだろうし、食事を楽しむという概念も存在する。

 特に、王様でもなんでもないキャスターには、こういう戦争は荷が重たいのだろう。

 

 そうでなくとも、幸せそうな顔で眠っている少女を起こす気にはなれなかった。

 

「さて、どんな夢を見ているのやら」

 

 とは言っても決まっているか、と苦笑する。

 サーヴァントは元来眠ることが必須ではないせいか、それとも何某かの理由があるせいか、夢を見ることがない、と何処かで聞いたことがある。

 ならば、見る夢なんて一つだけ。

 マスターは、契約の経路(パス)を通じてサーヴァントの過去を見ることがあるという。

 ならば、逆にサーヴァントにマスターの過去が流れ込むことだってあってもおかしくはないだろう。

 

「うわぁ……」

 

 そう考えると、憐はとてつもなく恥ずかしくなってきた。

 え、これまさか俺が一目惚れした瞬間とか見られちゃうわけ、と。

 ここで起こせば、そういう事態にはならないだろう。

 それはわかっているけれど。

 

「これを起こすのは無理だなぁ……」

 

 さすがに、そんなことのためにキャスターの眠りを妨げるのは無理だな、と諦める。

 できることなら、初恋の瞬間だけは見て欲しくない、とそう思いながら眠るキャスターの頭を撫でるのだった。

 

 

 

 

 

 そんなことを願われているとはつゆ知らず、キャスターの見る夢は彼の想定通り、マスターの過去であった。

 見ている過去そのものは面白いところなど何もない。どこにでもある、普通の魔術師の半生。

 

『あなた、よく”そう”育ってくれたわね』

 

 沙条愛歌が現れるまでは。

 

 魔術師である両親に魔術師として愛された。

 キャスターから見ても、良い両親だと思う。

 魔術師とは基本人でなしだが、憐の両親はまあ普通の両親だった。

 普通の範疇で、そして魔術師でもあった。

 

 彼が魔術の道から逃げることを許しはせず。かと言って、非人道的と呼ばれる実験をすることもなかった。

 魔術師としての感性が強く、普通の幸せというものを理解できていなかったが、それでも”幸せを感じるのは辛さに身を投げ出すよりもいいことだろう”と決して否定することはなかった。

 

 そして、彼に家の秘奥を授ける前日、三割ほどの魔術刻印を継がせたところで、彼らは死んだ。

 

 原因がなんだったのかはわかっていない。

 わかっているのは、両親から教えられたこと、あの当時、近場で亜種聖杯戦争が行われていたということだけ。

 亜種聖杯戦争に参加したから殺されたのか、亜種聖杯戦争の参加者と間違われて殺されたのか。

 あるいは、全く関係ないところで死んだのか。

 

 真実が何もわからない状況で、わかりやすく憎悪を向けられる亜種聖杯戦争へと憎悪を向けようとした。

 

 そんな折に現れたのが、沙条愛歌だった。

 

『あなたに、生きる意味を与えてあげる』

 

 そう告げた少女は、いずれ出会う運命を少年に授けた。

 

 その日、少年は運命に出会わされた。

 

 いずれ出会う、これ以上なく心を奪われることになる聖杯戦争でしか出会えぬサーヴァントと。

 

 沙条愛歌が、彼にその未来の可能性を与えてしまった。

 

『私に付いて来なさい。あなたが彼女を召喚することは、私にとっても都合がいいもの』

 

 少女が見せた未来図に、少年は心奪われる。

 亜種聖杯戦争への憎悪は、すでに消えてしまっていた。

 両親を殺したと思しき聖杯戦争への恨みはあったが、復讐の憎悪に身を焦がすよりも幸せに対して手を伸ばした。

 

 そこからは、まさしく激動の時間だった。

 

 認識をずらした沙条愛歌によって、彼女の弟子として憐は時計塔に潜り込むことになる。

 生前の父から学ぶことができなかった魔術を学ぶ彼を取り巻く周囲の認識を徐々に狂わせていく。

 気がつけば、時計塔全体が畏怖する魔術師、沙条愛歌がとった弟子という称号が逆転していた。

 沙条愛歌という時計塔史上最大の魔術師をどこからともなく引き抜いて来たどこぞの生徒、という形に。

 それが”師匠が弟子についていく”ではなく”弟子が師匠についていく”という形の方が楽だったから、過去改竄をしたのだ、と沙条愛歌から聞いた瞬間には、キャスターにも畏怖が走った。

 

 現代魔術科にいたのは、そう大した理由ではない。

 ただ、そこが一番既存の魔術師らしくなく、彼の思考に影響を与えてくれたから。 

 彼の半生で、一番幸せそうな時間だ、とキャスターは思う。

 

 その幸せそうな時間も、結局はキャスターに会うための準備期間だったのだが。

 

 ──なんというか。

 

 自分の想定以上に思われていることに、驚きと嬉しさが少女の心を満たす。

 聖杯大戦の後には、ちょっと挨拶にもいかないといけないかな、と。

 一目惚れされた、顔だけを見て告白された、と思っていたが、それは正解であり、間違いだったようだ、と。

 

 一目惚れ、というのは間違いではないが。

 出会う前、知った時点で好かれていたとは、まるで思わなかった。

 ちょっとだけ、憐の家族に申し訳なく思いもしたが、そういうのは全てが終わった後でも問題はないな、と一つ頷く。

 夢の中なので、実際には頷けないが。

 

 自分に対する熱量を理解して、キャスターは納得を得られた。

 なんというか、これまで何度もプロポーズされていたが、嬉しくはあったが正直不思議でもあったのだ。

 どうしてこんなに好かれているんだろう、と。

 

 ただ、これで納得はいった。

 

(まあ)

 

 もう片方、沙条愛歌の姉になろうとする感性はよくわかっていないのだが。

 理屈そのものは説明されたが、理解できるようなものではなかったのでその言葉通りに飲み込んでいる。

 

(これなら、私もちゃんと答えを返せるでしょうか?)

 

 そんな、ふとした疑問とともに、少女の意識は現実へと戻っていく。

 目を覚ませば、そこには少女が今さっき過去を垣間見た己のマスターの姿。

 自分を見ながら慌てている姿がどこかおかしくて、くすくすと笑った、気がする。

 

「ん、起きたかキャスター」

 

「はい、起きました」

 

 声が、少女の意識を完全に夢の海から引き上げた。

 目を覚ませば、そこには意識が途切れる直前と同じくマスターの姿がそこにある。

 

「あれ、マナカは?」

 

「ライダーとセレニケが一緒に出かけてる。ライダーからしても、ちょっと見る目が怖いけど、セレニケが変なことをしないで、まともな少女らしく過ごせるならそれが一番さ、って」

 

「それなら、私も誘ってくれればよかったのに……」

 

「寝てるキャスターを起こすのも、っていうのと、”赤”のセイバーがモードレッドだってことがわかったからな。アーサー王は隠しておきたいんだろう」

 

「ああ、そういう……」

 

 ユグドミレニアが愛歌と憐の関係をどう捉えているのかはわからないが、そこらへんは愛歌がどうにかしているのだろう。

 今の今まで一度も尋ねられたことはない。

 ユグドミレニアを裏切れないように人質として作用させるつもりなのか、考えはわからないが、まあどんな考えであろうと彼女なら平然と踏みつぶすという信頼もある。

 そもそも、憐には彼女をどうにかできる力はない。

 

 その上で、自由にミレニア城塞で過ごす愛歌は、一番仲の良いセレニケと時折出かけているらしい。

 二人ともマスターなので、ライダーを護衛として連れていく形ではあるが。

 ライダー個人としても、自分にマスターが変なことをせず、さらには友人とお出かけを楽しめるというのなら、それは喜ばしいことなのだろう。

 

 ”黒”の陣営六騎と、”赤”のバーサーカーが一騎。

 現在の戦力のうち、要石であるマスターが二人外に出ている。

 ライダーが護衛としてあるとはいえ、魔術師同士の暗黙の了解を絶対視しすぎではないか、と言われるような行動。

 そこに、カウレスがさらなる言葉を持ち込んできた。

 

「今から、俺とバーサーカーは出かけてくる。なんか”黒”のアサシンが連続殺人鬼として名前を馳せてるらしい」

 

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