イリヤちゃん出ませんでした!(その全てが無為に帰した顔)
さすがにキアラ様6人目以降は来ませんでした!(ホッとした顔)
また周回に戻ります(今日も一話です)
ユグドミレニアが費やした六十年という時間は、ただの道楽ではなかった。
大聖杯を用いた一族の名誉を取り戻す事業。それは、未来の子々孫々に向けて残せる唯一にして至高の栄誉であり、だからこそ入念な準備を、半世紀以上もかけて行ってきた。
そんな彼らの予想を超えた相手は、その来歴を聞けば納得するしかない存在。
ダーニックと同じく第三次聖杯戦争が終わり次第、ずっと大聖杯を求め続けてきた相手。受肉した英霊である、という事実には驚けど、同じ年月をかけてきたのだから、対抗できるのはおかしくないだろう、と。
個人で
第三次聖杯戦争当時の
その象徴たる空中庭園が今、ミレニア城塞へ向けて進撃している。
サーヴァントである以上、飛行してくる可能性は考慮していたのだが。
「こっちの世界の私は、ああいう空飛ぶお城って持ってなかったんですか?」
「伝説にはちょっとないかなぁ」
「でも、もしかしたらあるかもしれないわね。伝説に出てくる馬が宝剣になってるところを見るに」
城が空を飛び、超上空からピクト人を磨り潰す、そういうキャメロットの城があってもおかしくはない。
とはいえ、そんなことを考えても仕方がない。この場にないのだから、たとえキャメロットが空を飛ぼうと、関係がないのだ。
城……拠点が空を飛ぶ、というのは非常に便利なこと。
まず、大人数を一気に収容できるのだから、全ての兵力を同時投入できる。
そして、拠点の防衛兵器を、全て攻撃に転用できる。
しかも、今回に至ってはその防衛兵器すら”赤”のアサシン……セミラミスの宝具の一部。
神代の魔術師の作った、『
「では、行きましょうかマスター」
「ああ、これが最終決戦、だな」
そも、聖杯大戦とは聖杯戦争の中でも一際特異なものである。
本来、全てが敵のバトルロワイアル。そのはずが、”同盟”ではなく”仲間”と呼べる陣営が生まれ、二つに分かれて争う。
この戦いでは、本来存在しない仲間がいる。それはすなわち、一対一で敵を潰すのではなく、仲間との連携を前提とした作戦が求められていることと同義。
小競り合いというものが意味をなさない戦いなのだ、この聖杯大戦は。
ミレニア城塞という拠点、大聖杯という報酬がユグドミレニアにある以上、ユグドミレニアに”赤”の陣営へと攻め込む理由はなく、逆に”赤”は大聖杯を奪取しなければ勝利にはならない以上、攻め込むしかない。
”黒”は、全てのサーヴァントが揃った状態で敵を迎えることができるのだから、攻め込んで来たサーヴァントは全員で迎え撃ち、一体ずつ確実に撃破することができる。”赤”のバーサーカーがそうであったように。
”赤”の陣営は、戦いという次元に立ち、サーヴァントを撃破しようと思うのならば総攻撃しかないのだ。
それならば、まだ一騎打ちという形にできたのだから。
だが、もう遅い。”赤”はアーチャーを失い、バーサーカーを奪われた。
現状はすでに八対五。バーサーカーを使い捨ての爆弾にするにしても、二騎の手が空く。
「今回、多分キャスターは前線に出ることはないと思う」
「はい、それはわかっています」
キャスターは、倒れてはいけない立場。
それは、”赤”のライダーを倒し得る力を持つという点と、”希望のカリスマ”と呼ばれるスキル。
ホムンクルスたちを強化し敵の雑兵……竜牙兵と戦わせなければならない。
それが崩れれば、竜牙兵はミレニア城塞にたどり着き、あるいはマスターを撃破する危険性がある。
神代の魔術師が用意した、というのはそういうことだ。
そして、”赤”の陣営のセイバーは、彼女を殺し得る中でも最悪の部類。
アーサー王特攻なんて持っているのだから、表に出すことはできないだろう。
そういう意味では、サーヴァントの中では一番安全な立ち位置。
「でも、”もしも”があるかもしれないから気をつけてくれ」
だが、それも絶対ではない。
対城宝具があれば、ミレニア城塞など普通に吹き飛ぶだろう。
その上で打ち込めば、キャスターのところにまで届くのは道理。
そんな会話をしている間に、二人は城壁にまでたどり着く。
そこにはすでに全てのサーヴァントが、そして一部マスターも集まっていた。
「遅くなりましたか?」
「いいや、未だ戦端は開かれていない以上、遅いも早いもあるまい」
いつ開かれてもおかしくはないが、今はまだ戦端は開かれていない。
”黒”はホムンクルスを編隊し待ち受け、”赤”は空中庭園の周囲に竜牙兵を配置する。
雑兵同士、聖杯大戦の行く末には関われない立場なれど、マスターを殺すだけの戦力としてみれば十分。
下手に放置することなどできはしない。
「我が領土にあのような醜悪な代物で乗り込んで来た挙句、あのような汚らわしい骸骨兵を撒き散らすとはな」
ランサーの言葉は、彼の抱く感情を如実に表している。
すなわち、不快感。
その不快の原因を滅ぼしたい、そう思うのは当然ではあるが、同時に体に満ちるのはそんな感情的なものだけではない。
充ち満ちるのは、この土地、ルーマニアの領王としての義務感。
サーヴァントとしての責務とは別に、”ヴラド三世”という英霊の根底。
生涯を侵略者と戦い抜き、万に一つも勝ち目がない戦いで勝利したことによって、彼は英霊となった。
今更、新たな侵略者が現れたとて、彼が膝を屈する理由はない。
「あら、それなら王様。これも使ってみないかしら。こちらが用意したんだから、これも立派な戦力になるんじゃない?」
「ほう……まさかこのようなものまで用意できるとはな」
「所詮はただの魔力の塊だもの。魔力供給ラインからホムンクルスの魔力を頂戴してしまえば、作るのはそう難しいことじゃないわ」
「では、各マスターに配っておいてもらおうか」
沙条愛歌が取り出したのは、白く細い腕。それを見た途端、集ったマスターもサーヴァントも、皆等しく驚愕する。
正確にはそこに幾重にも刻まれた聖痕。令呪と呼ばれる代物を見た瞬間に。
普通の魔術師では構造を解析することすら難しく、解析できたとしても膨大な魔力の塊であるそれを作ることなどできないが。
彼女であれば解析することは不可能ではなく、ユグドミレニアには魔力供給ラインである大量のホムンクルスが存在する。
ならば、ホムンクルスを使い潰しさえすれば、作ることは不可能ではない。
新しく作られたのは合計八画、一人につき一画分。
だが、令呪の現物そのものよりも、令呪を作れてしまう、ということの方が事実としては大きい。
ユグドミレニアが令呪の使用をためらう理由がなくなってしまうのだから。
言葉を受けて、その場にいたマスター達が令呪を転写される。
ことここに至って、彼らの出る幕はない。もらった人物から一人、また一人と城塞の中へと戻っていく。
いない人物に関しても渡しておくように、と言ったランサーは、周囲のサーヴァント達へと視線を向ける。
「ライダー、ホムンクルスの指揮はお前とアーチャーに任せる。シャルルマーニュ十二勇士としての力を見せてみよ」
「らじゃー!」
「了解しました。”赤”のライダーが発見された場合は?」
「その場合は、お前とキャスターに相手を任せる。キャスターは、基本的には後方から魔術による援護を。”赤”のライダー、並びに”赤”のセイバーの動きを特に注視し、”赤”のセイバーと出会うような事態だけは何があろうと避けたまえ。最悪、姿を一時的に消す、という意味では城塞を使っても良い」
キャスターは、”赤”のライダーを撃破できる貴重な存在。
故に、使い潰すようなことはできない。それはアーチャーも同じことだが、英雄の教師として近接技能も複数熟練の域に達するアーチャーとは違い、魔術師の道を選んだキャスターに近接戦を期待する方が間違っている。
特に、今回に関してはアーサー王を殺した逸話を持つモードレッドが敵対しているのだ。心配しすぎて損はない。
「敵の宝具と思しきあの要塞からの攻撃への対処もお前に一任する」
「ええ、任されましょう。何があろうとマスターは守り抜きます」
そして、何よりの大役。
あの空中庭園にどのような仕掛けがあるのかはわからないが、かといってそれを放置することはできない。
守るための要塞であるミレニア城塞とは違い、あれは攻め込むための要塞だ。
マスター狙いの攻撃が来た場合、それを防ぐ人員がいる。
「セイバー、お前の相手は”赤”のランサーで良いな?」
未だ、マスターからの命により言葉を発することのないセイバーは、されど頷きで返答する。
その頷きに隠しきれない感謝と熱量がこもっていることには、誰も触れない。
自らを傷つけ得る戦士との再戦。今の彼に、これ以上の願望はない。
「バーサーカー。お前は存分に目についた敵を屠れ。
呻きのような声とともに、バーサーカーが首肯する。
狂化のランクがそこまで高くないバーサーカーは、僅かに残った理性で頷く。
頷いたが、戦いになれば理性を失うのでこの命令に意味はなく、何よりもこの命令は狂気に身を浸したサーヴァントが必ず行うこと。
わざわざ、命令するまでのことではない。
それでも、命令をしたのは『いちいち考える必要はない』と明言し、余計な雑念を取り除くため。
「アサシン」
「はーい」
「お前は遊撃だ。大事な母を害そうとする雑兵は、お前の手で駆逐してやれ」
「うん、いいよ。わかりやすいし。でも、おじさんはどうするの?」
「無論、先陣を切り、相手が有する”最優”を砕く。こちらの陣営の動きをスムーズにするためにもな」
総員に対する命令が下された。
今、この聖杯大戦においてサーヴァントとは兵士である。
”黒”のランサーという王の元に集った兵士たち。
ならば、戦端を開くのは王の言葉でなければならないだろう。
「さて、諸君」
生前も将であった彼は、当然そのことを知っている。
故に、その言葉は”王”として周囲へ届ける声と共に放たれた。
「こちらはフルメンバー。不安要素であったアサシンはミレニア城塞に戻り、さらには”赤”のバーサーカーを手にすることもできた」
それは、戦力差を正しく認識しているという証明。
「一方、向こうはすでにバーサーカーだけではなくアーチャーも失っている。こちらが八、向こうは五。サーヴァントの数だけで見れば差はあるように思える。だが、向こうのランサーはこちらのセイバーと互角に戦い、ライダーに至ってはアーチャーとキャスターがいなければ傷をつけることも能わなかった」
この二騎だけを見てもそうなのだ。
さらにはあんな要塞を保有し、攻め込むことができるサーヴァントもいる。
まだ姿を見せないキャスター、あるいはアサシンも何れ劣らぬ英雄であろう。
量より質。
こちらがどれだけサーヴァントを有していようと、向こうがこちらの一切合切を消滅させるほどのサーヴァントを保有するならば意味はない。
そしてその上で、相手は”黒”よりも人数が少ない。逆境とも呼べる状況。
英雄が、その伝説の中でいくつも覆してきた状況なのだ。
敵が英雄だとわかっているからこその恐怖、というものがあってもおかしくはない。
「では、諸君に聞こう。これを聞き、怖気付いた者はいるかね」
答えはわかりきっている。聞くまでもないこと。
当然、誰もが否定する。
ランサーにも、それはわかりきっていた。
「それでこそ英雄だ」
鷹揚に頷く。
「皆の英雄譚は、私にはわからん。だが、一つ確かなのはこの場に集ったのはその全てが一騎当千にして、万難を乗り越えてきた英雄である、という事実」
一人で逆境を覆すからの英雄。
それが七騎。ならば、目に見えてわかりやすくこちらが有利であろうとも、目に見えないところでこちらが不利になっていたとしても。
「こちらの勝利以外はありえぬ!」
英雄たちを鼓舞する姿こそは、かつてこの国を守り抜いた護国の鬼将。
この国を、領土を守護する上ではこれ以上ない人材だ。
もとより負けるつもりなどなかった英霊たちが、さらなる覇気を纏い始める。
「あれは蛮族だ」
敵もまた、英雄であるというのに、彼はその言葉一つで切って捨てる。
「他人の
彼にとってはオスマントルコも、”赤”の陣営も、等しくただの敵対者。
今、この一戦は何よりも彼の真価が発揮される戦いだった。
うぅ……早く終わらせたい……エタるよりも早く……