キャストリアと行く聖杯大戦   作:ぴんころ

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ここ数日で「カルデアのマスター絶対見守るアビゲイル」概念と「自分一人を見せて欲しい悪い子な自分を解き放ったアビゲイル」概念が頭の中に降りてきました。

戦い書くのめっちゃつらいです。


ジークフリートは戦いたい

「では、先陣を切らせてもらおう」

 

 告げたランサーは手綱を握ると、馬と共に城壁から飛び降りる。

 『騎乗』スキルを持たないヴラド三世ではあるが、生前貴族であり将でもあった頃に体得した技術を用い、馬への負担も最低限に着地を成功させた。

 与えられた馬は巨額の──ただし、一般人目線であり、ユグドミレニア目線で見れば端金──費用をかけて育てられた唯一無二の魔術馬。

 合成魔獣(キメラ)に等しい存在であり、そこにキャスターの魔術が加わったことで幻想種の末端に足を踏み入れるほどの性能が与えられている。

 知能ある馬がランサーの意を汲み取り、ゆっくりと草原を進む。

 

 いつ戦端が開かれてもおかしくないような状況。

 であるにも関わらず、戦場とはまるで思えぬような静けさは、両陣営共に率いる軍勢が戦意を燃やす”人間”ではないからか。

 

 馬が歩く中、続々と”黒”の総軍がランサーの背後に現れる。

 

 アサシンは、背後に構成される軍勢の中枢で”気配遮断”、”情報抹消”のスキルを用い、敵の思考から自らの全てを消し去りながら戦場から姿を隠す。

 ランサーに付き従うライダーと彼らが率いるホムンクルスからは少し離れたところ。バーサーカーは彼らの東側、かつ少し距離をとった場所に展開し、セイバーは西側。

 アーチャーはすでに姿を森の中へと隠し、いつ空中庭園から敵が姿を現そうと、あるいは空中庭園を囮にすでに戦場に足を踏み入れたサーヴァントが居たとしても逃すことはない。

 キャスターはランサー達の出陣と共にミレニア城塞(己の工房)へとすでに入り込んでいる。けれど、戦場に放たれた使い魔達はキャスターの目となって戦場の推移を見届けるため、援護に対しての不安を”黒”が覚えることはない。

 ”赤”のバーサーカーは、彼ら軍勢からは極端に離れている。屈強な肉体が拘束具をギチギチと鳴らしているその様は、拘束が外れた後の未来を即座に想起させるだろう。

 

「さて、どう動くつもりだ?」

 

 ランサーの正面、広がる竜牙兵の軍中にはサーヴァントの気配はない。

 あるのはただ、魔術の気配のみ。

 魔術で隠してある、そう言われれば納得するほかないが、竜牙兵ごと吹き飛ばす選択肢を”黒”が取れば意味はないだろう。

 ならば、正面には将はおらずただ有象無象があるだけで、サーヴァントは上空の空中庭園にあると考えるのが相応しい。

 

 視線は、自然と空中庭園に向けられる。

 

 その直後、ルーマニア全土の魔術師が、どれだけ離れようと感じ取れる、濃厚な”魔”の気配にトゥリファスの方向を振り向いた。

 

「どうするか、など決まっているだろう?」

 

 セミラミスの言葉に従い、動き始める空中庭園。

 周囲の機構、総勢十一存在する近寄る者を破壊する迎撃術式、『十と一の黒棺(ティアムトゥム・ウームー)』が稼働する。

 狙いは戦場。庭園の周囲を囲むよう配置された全長二十メートルを超える巨大な漆黒のプレートから発射されるのは、対軍級の魔術光弾。

 全て合わされば『幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)』に匹敵すると思われる光弾が断続的に戦場に投下される。

 

 魔術が生み出す光の雨は、サーヴァントであろうと決して油断できない絶死の一粒。

 唯一の救いは、躱しきれないほどの密度と量ではないことか。あくまで宝具の本体は空中庭園の方であり、この雨はその機構の一部。空中庭園の全てを合わせてこその宝具ランクであり、一つ一つは殺せるレベルではあっても英雄ならば超えられないことはない程度。

 だが、サーヴァントの相手をしながらということになれば、格段に難易度が上がる。

 

 とはいえ、この雨も数分の後にはきっとその役目を終えるだろう。

 

 サーヴァント同士の戦いの中、降り注ぐ光弾を避けることは難しいだろうが、それは相手側も同じこと。

 一発一発は途方も無い破壊力を有していようと、あくまで放つのはセミラミス。

 女帝であって戦う者ではない彼女に、高速で目紛しく動く戦場の全てを把握することなど、望むべくもない。

 一歩間違えれば味方を殺しかねない攻撃は、味方が戦場に出る上ではただの邪魔だ。

 

「ぬ」

 

 そんな、雨の起点に対して極光の螺旋が到達する。

 ほんのわずかに空中庭園が揺れ、セミラミスの集中が解ける。

 一瞬、止まった光弾に、今か今かと出陣の時を待ち構えていたアキレウスが獰猛な笑みを浮かべた。

 

「さあ、開戦だ。”赤”のライダー、いざ先陣を切らせていただく!」

 

 空中庭園から踊り出たライダーは落下に身を任せながらもぴゅう、と指笛を鳴らす。

 呼び出したるは彼が騎乗兵(ライダー)のクラスに据えられた理由。少し前、ミレニア城塞からの撤退に呼び出された戦車が、此度は進撃のために舞い降りた。

 天より戦場へと突き進むその威容はまさしく流星。

 人智を尽くしてもなお、止める手段が見当たらない神代の突進は、だからこそ異常によってのみ止めることができる。

 

 ──来る。

 

 視界に走った殺意の煌めき。

 一条の点は、彼を傷つけ得る数少ない同胞の一撃。

 手に持った槍を軽く回し、飛んできた矢を打ち払う。

 一瞬だけ槍が隠した彼の瞳は、これ以上ない喜悦が浮かんでいる。

 

「来たか、”黒”のアーチャー!」

 

 音となり、ホムンクルスを轢殺するアキレウスを捉えることができる英霊などそうはいない。

 それこそ、神の血を継ぎ、弓の名手として名を残す、弓兵(アーチャー)のクラスに至ることができる存在くらいだろう。

 飛んで来たのは森の方から。これは誘いだと理解する。自分は、お前を倒し得る英霊は森の中にいるぞ、という誘い。

 尻尾を巻いて逃げるか、という挑発。常識的に考えるならば、傷つけ得るのがアーチャーとキャスターのみである以上、それらの相手は他の面々に任せることが勝利を手にする最適解。

 

 だが。

 

「いいや、それは違うだろう」

 

 それは、”英雄であること”を己に課したアキレウスがとっていい手段ではない。

 障害を粉砕し、好敵手を撃破し、その上で掴む勝利にこそ意味がある。

 自らを殺せる存在から逃げ出すように背中を向けるなど、英雄には許されない。

 

 走る、走る。疾風のように。

 戦車ですらまだ足りない。どの時代、どの地域の英霊よりも尚疾いアキレウスは、視界に映るその全てが射程圏内。

 宝具の域にまで昇華された俊足が、戦車がたどり着くことすら待ちきれぬと駆け出した。

 

 そんなアキレウスの頭上を駆け抜けるのは幻想種。

 ”黒”のライダー、アストルフォがライダーのクラスに据えられた理由。

 ヒポグリフ、と伝承に名を残す馬が空を駆け、空中庭園へとまっすぐ進む。

 影がわずかにアキレウスを覆ったことで、ほんのわずかに女帝を気にかけ、あの女なら問題ないかとその心配を切って捨て、アキレウスは走り抜ける。

 

 彼が、この聖杯大戦における因縁を結実させるまで、あとわずか。

 

 

 

 

 

「さあ、我が国土を踏み荒らす蛮族共よ」

 

 懲罰の時である。

 ”黒”のランサーがそれを口にすれば、瞬間その言葉が真実となる。

 なぜならここはルーマニア。これ以上ないほどに彼という英霊の真価が発揮される土地。

 ヴラド三世という英霊が、なぜ槍兵(ランサー)のクラスに据えられることになったのか。

 それは、今この場で起きている現象を見れば誰の目にも明らかだ。

 

「我が慈悲と憤怒は灼熱であり、杭となって貴様達を刺し貫く」

 

 ヴラド三世は護国の英雄である。

 オスマントルコの侵略から自らの領土を守り抜いた、その実績こそが彼が座に招かれた理由。

 そこに武芸の如何は関係なく、また彼の伝説に武芸が含まれない以上”槍を以って伝説を残した”という槍兵(ランサー)のクラスは相応しくないように思えるが。

 これを見てそう思う輩は誰もいない。

 

「そして真実、この杭は無限であると知るがいい!」

 

 ランサーの体から迸る魔力。

 秘されるべき宝具の真名は事ここに至って隠す必要など決して存在しない。

 

「『極刑王(カズィクル・べイ)』!」

 

 わずかに揺れる大地。

 ランサーの進むべき道を傲岸にも塞ぐ竜牙兵達は、何が起きたのかもわからないままに屍を晒す。

 だが、何が起きたのかは端から見ればはっきりと。

 彼らが、地上より現れた血よりも尚濃い紅の杭に突き刺された状況が目に見える。

 

 それはまるで、彼の逸話における串刺し刑のように。

 

 半径一キロ、最大同時展開数二万の杭。

 それがヴラド三世の宝具『極刑王』。

 使用者と同じ名を冠する杭は、歴史的事実の具現。

 二万のオスマントルコ兵を串刺し刑にしたという事実が、彼の()なのである。

 

 即時展開可能という事実、二万という物量。

 それは、彼の道を塞ぐ竜牙兵が消滅するまでのわずかな時間、宝具による串刺し刑を維持しながらも、こちらに攻め込むこの聖杯戦争におけるもう一人のランサーの攻撃を防ぐには十分だった。

 

「”黒”のランサー、ヴラド三世とお見受けする」

 

「ほう。余の真名を知り、そう呼ぶ貴様は”赤”のランサーか」

 

「そうだ。故あってお前を討つ。悪く思うな」

 

 相対したのは一瞬。杭の壁が砕けた瞬間、彼らは言の葉を交わし殺戮の舞踏へと身を投げ出す。

 防壁として、殺意として、杭は”黒”のランサーを守る盾となり、”赤”のランサーの喉元へと喰らい付く吸血鬼の牙となる。

 

「いやいや、悪く思う必要はないさ」

 

 まるで彼らの狼藉を許すかのような、度量の広い笑み……などでは断じてない。

 笑みは本来攻撃的なものであることを、その表情を見て理解できない愚鈍がいるはずもないとすら思えるような激怒。

 その証明に、”赤”のランサーへの殺意を乗せた杭が今も尚津波のように押し寄せる。

 

「お前達は余を殺さねばならない理由があり、余にはお前達を討たねばならない理由がある。で、あればこの相対は当然の帰結であろう」

 

 それらを、全て”赤”のランサーは手に持った神槍で打ち砕く。

 宝具というにはあまりにも脆い、杭の数々。

 

「ふむ」

 

 それに、納得するランサー。

 伝承にある、どこかふんわりとした表現ではなく、明確に二万を貫いたという事実が具現したゆえか、数は多く融通は利くが、強度はそれほどでもない。

 

「やはり、この杭が宝具か。しかし……この数は異常だな」

 

 動く”赤”のランサー、その視界一面に杭が広がっている。

 止まれば、杭は即座に彼に食らいつくだろう。

 

「ならば、その異常な杭に飲まれてしまえばよかろう」

 

「御免被る」

 

「そうであろうな。侵略者といえども英霊か。ならば、喜ぶが良い。本来ならば百度串刺し刑にしても尚足りぬが……此度の聖杯大戦。貴様には相応しき最期が待っているぞ」

 

 ぴくり、と小さく眉根を動かした”赤”の槍兵。

 いったいどういうことか、など考える隙間は一秒にも満たず、杭は苛烈に攻め立てる。

 だが、その瞬きに等しい時間だけで十分だった。

 わずかに生まれる感情の揺らぎ。まさか、という期待が薄く、小さく、けれどカルナという英霊を考えれば無限に等しいほどの巨大な感情がそこにはあった。

 

 一瞬でも隙を見せれば喰い殺す。

 その殺意を見せながらも、同時に杭はどこかへとカルナを誘導するように。

 杭の樹木は道となり、壁となりながら、その男の元へとカルナを誘う。

 真実無限と嘯かれたヴラド三世の槍が、けれど不自然に展開されていない場所。

 

 そこには、今生における唯一の宿敵が彼のことを待っていた。

 

「なるほど」

 

 考えるまでもない。

 ”赤”のランサーはここに誘い込まれたというだけのこと。

 聖杯大戦の初戦、サーヴァント同士の戦いにおいて彼が戦った、彼と戦える戦士の元へと。

 

「最初からこうするつもりだったというわけか」

 

 その戦士こそは”黒”のセイバー(ジークフリート)

 竜を殺し手に入れた不死身の肉体を盾に、竜を殺せし真エーテルの輝きを宿す聖剣を武器にする男。

 

「どうやら、今度はお前と心ゆくまで殺しあえるようだ」

 

 返答は、剣を構えることで。

 ランサーも、槍を構えることでその誘いへの返事とする。

 お互いの合意がここにある。

 セイバーはランサーと、ランサーはセイバーと、再び武芸をぶつけあい、勝利することを心の中で望んでいた。

 

 その願いが果たされる。

 

 それはきっと、この二人にとってはこれ以上なく幸せな瞬間だ。

 

 請い願われたから応える、そういう性質を持った二人の男が、仮初めの生の中で、誰に願われるでもなく自分で願った瞬間。

 今、ここにその時が舞い降りている。

 もう、誰の邪魔も入ることはない。

 

 その事実への感謝が、二人の思考の中で同時に展開され、奇妙なことに同時に終わりを告げて。

 

 どちらからともなく、磨いた武芸を解き放った。




ジークフリート……頼む……カルデアでカルナさんと戦ってくれ……(カルナ未所持)

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