キャストリアと行く聖杯大戦   作:ぴんころ

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熱中症っぽい症状です。みなさんごきげんいかがでしょうか。




モーさん、ガチギレるの巻

「マスター、どうしましょうか?」

 

「どうするもこうするも、まずは”赤”を倒さないとダメじゃないか?」

 

 現在、”黒”のマスター達はその全てがミレニア城塞に、正確に言うならばミレニア城塞の中、己が最も安全と信じる己の工房の中に閉じこもった。

 自らのサーヴァントを信じ、その帰還を待つ彼らの中の異端は二人。

 沙条愛歌と永宮憐。真なる意味ではユグドミレニアの仲間ではない二人。

 前者はそもそも”赤”のバーサーカーを使役していて、最初からこの戦いで使い潰すつもりであり。

 後者に至ってはサーヴァントは真横に控えている。

 

「せっかく作ったのに、使ってくれるのがライダー(アストルフォ)だけだなんて」

 

「えっと、一応私も使ってるのですが……」

 

「ええ、もちろんキャスターは除いての話よ?」

 

 くるくる、と愛歌は手の上で礼装を転がす。

 それは数枚のカード。クラスカードと呼ばれる代物。

 ”黒”のセイバーに与えられるのは、タルンカッペと呼ばれる陰蓑。

 ”黒”のランサーに与えられるのは、吸血鬼としての己の側面。

 その他の英霊には真っ当な別側面がないので、用意できたのはキャスターとライダー含めて4枚。

 使用されているのは……というよりもサーヴァント当人が持っているのは二枚だけで、セイバーとランサーには各々の事情で受け渡されていない。

 

「まあ、そうは言ってもライダーもまだ使ってないみたいだけどな」

 

「黙りなさい」

 

 憐が視線を向けたのは、戦場の混沌を映し出す魔水晶。

 そこには、ライダーが己の相棒たる幻馬、ヒポグリフの真の力を解放しながら空中庭園へと向かっている姿がはっきりと映し出されている。

 あるいは、ジークと呼ばれるホムンクルスの存在を知ったならば使うことをためらったかもしれない宝具行使は、現実にはそうならなかったから行われる。

 角笛が妖鳥(ハルピュイア)の如き骨格の、穢らわしい骸骨兵を粉砕する。

 発見した”赤”のアサシンへと突撃を敢行し、彼女の放つ神代の魔術をヒポグリフが異界へと跳躍(ジャンプ)してすり抜け、あるいはアストルフォが持つ魔術書の形をした宝具が打ち消しながら距離を潰す。

 

「さて、どうするんだろうな、あいつ」

 

 ライダーの武器は宝具でもある馬上槍。

 一応、剣を携えてはいるが、それでも主戦力は槍の方だろう。

 ”赤”のアサシンという小さな標的を、彼女の放つ魔術を避けながら接近し抉り抜く。

 言葉にすれば簡単だが、実行するとなれば難題ではある。

 

 空中戦ではまず間違いなく敵無しの彼の装備は、けれど空中庭園という足場がある本領を発揮できない。

 だからこそ、地上戦という立場で戦うのならば、もうひとつ何かが必要だった。

 その何かは、すでに彼が持っている。

 

「セイバーのクラスカード、セレニケはたっぷり楽しんでくれたみたいね」

 

 服装ごとチェンジした黒のライダー。

 連接剣が縦横無尽に駆け巡り、多種多様な方向からセミラミスを狙い打つ。

 愛歌によってライダーに渡されたセイバーのクラスカードは、アストルフォの剣士のクラスを宿したもの。

 水着やサンタといった色物ではないから、一応は用意することは可能だった。

 ちなみに、これを見たセレニケはさらに捗ったらしく、翌日には愛歌とサムズアップを交わす姿が散見されたらしい。ナイス友情。

 

「この状況だと、”赤”のアサシンはライダーに掛り切りでしょうから、ほかの英霊への援護はできないでしょうね。空中庭園に気を配らなくていいのは助かります」

 

「まあ、この状況だとケイローンの援護以外はそう求められていないような気もするけど」

 

 ロンゴミニアドを再現した魔術。

 基本的に、彼女が持つ魔術の中でアキレウスに通用するのはその一つのみ。

 最果ての塔そのものではないため、権能の行使は不可能だが、世界のテクスチャそのものに干渉する機能は限定的に再現され、有する攻撃機能は破格の代物。

 

「俺たちがやらないといけないことは忘れてないよな?」

 

「はい、もちろん」

 

 彼らの目的は、聖杯戦争を勝ち抜くこと……ではない。

 あくまで、それは手段である。目的は、聖杯を用いて願いを叶えること。

 キャスターは身長を伸ばしたい、憐はキャスターと結婚したい。

 どちらも、キャスターが受肉することで願いが叶う。

 協力している愛歌も、キャスターを妹にしたいので、受肉してもらわないと困る。

 

 そして、普通のアーサー王ならば、騎士にして王である存在ならば認められないようなことの一部は、魔術師としてある彼女ならば容認できる。

 

「サーヴァントが脱落して、仕掛けておいた大聖杯への命令が発動したら脱出」

 

「ついでにその時点であの筋肉ダルマに令呪による宝具使用を命令。爆発四散させて魔力を充填して大聖杯そのものを爆発」

 

「だから、その時まで私は死んじゃダメ、なんですよね?」

 

「そうそう。だから、早めに”赤”のセイバーは見つけてしまいたいんだけど……」

 

 魔水晶の中には、キャスターと同じ顔をした、鎧兜に身を包んだ少女の姿はない。

 隣にあるべき、強面のおっさんの姿は、戦場が戦場ゆえに仕方ない部分があるとはいえ、こういうパーティー的な戦場に遅れて来る輩だとは思えないのだが。

 

「見つからないな」

 

「見つかりませんね」

 

 ちょっとだけ自分の子供の戦いに興味はあったのに、と呟くキャスター。

 モードレッドが聞いていたら、これだけで一人死んだんじゃないか、と思うような発言。

 王に、親に認められるという叛逆の騎士としての霊基の根幹を揺さぶられて、あるいはいいところを見せようと焦って本人が死ぬか、奮起したことでこちらのバーサーカーなどそこまで霊格の高くないサーヴァントが死ぬか。

 想像は容易にできるので、本人には言ってやるなと口にしたところで、愛歌もまた口を出す。

 

「見つからないなら戦場にまだ来てないってことでしょう?」

 

「ってことは、”赤”の陣営は別行動してるセイバーには情報を伝えずに来たのか」

 

 ”赤”のセイバー陣営はモードレッドの直感に従って別行動をしている、というのは彼らも知っている。

 だが、だからと言ってこの戦場に遅れるとは信じがたい。

 ならば、最初から”赤”の陣営……正確には天草四郎時貞は”赤”のセイバーをこの戦いに呼ぶつもりはなかった、と見るべきである。

 愛歌の干渉により魔水晶は戦場となる草原だけではなくその周囲、トゥリファスの街やミレニア城塞東のイデアル森林にまで映し出す。

 

「お、いたいた」

 

 その一角に、求めていた姿があった。

 

 

 

 

 

 トゥリファスが一角、ミレニア城塞は周辺住民は誰一人として目指すことのない場所である。

 夜を迎えれば、そこは恐ろしき魔の居城。呪われたくない住民は、誰もが瞳を逸らし、布団をかぶり、恐ろしき吸血鬼──ヴラド三世に見初められないことを祈る。

 今となっては、真にヴラド公が住まう城となったその城塞に向けて、一台の車が走り抜けていた。

 

 それはスポーツカーと呼ばれるもの。

 様々な時代、様々な土地の英雄が入り混じり、しのぎを削るミレニア城塞という場所へと向かうにはあまりにも時代錯誤な鋼鉄の騎馬。

 けれど同時に、神代に逆行する戦場にこれは今を生きる者の戦いであると示すには、これ以上ない代物。

 

「おいおい……!」

 

 ぼやきは、叫びのようだった。

 腹の底から声を出さなければ、今の状況では隣にいる少女にすら届かない。

 獅子劫の叫びは、そっくりそのまま今の彼らの現状を示すものだった。

 

「もう少し安全運転ってものをだな!」

 

「んなことしてたら決着が着いちまうぜ、マスター!」

 

 セイバーの言葉と同時、揺れる車体。

 森林の中、舗装されたわけでもない、獣道にすらなっていない土の上を爆走する車は、その鋼鉄の躯体の限界が近づいていることを断末魔の如き音を立てていた。

 

「ただでさえ遅れてんだ! このまま着いたら全部終わってました、だけはごめんだぜ!」

 

「最強のサーヴァントは自己顕示欲も高いなおい!」

 

「今のところのオレたちの戦績を考えろよ! まだ一度も勝ってないんだぜ!」

 

 負けてもねえだろうが、と言おうとした獅子劫。

 けれど、唯一戦ったミレニア城塞周りの時。あれを勝利、ましてや引き分けなどと呼ぶことすら烏滸がましいと、それぐらいはわかる。

 宝具を使わされて、令呪も切らされて、その上で相手には一切の痛痒を与えていない。

 特に問題なのが、あの宝具が”アーサー王殺し”と呼ぶべきものであったこと。

 それをアーサー王相手に使用して殺せなかった、というのはどれほどプライドを傷つけられたことか。

 いや、その翌日の対応を見ればアーサー王に一度見た攻撃が通用すると思った自分の未熟を反省しているのかもしれないが。

 

 とにかく、彼女視点、一度も勝利を掴めていないというのがセイバーのサーヴァントとして、円卓の騎士として、未来の王として許せないのだろう。

 だから、これ以上なく”自らの最優”を証明するために、彼女は素早く戦場に推参することを望んでいる。

 

 とはいえ、この行動にも理はある。

 いくら”赤”と”黒”が潰しあって、彼らが到着した時点でほとんどのサーヴァントが倒れようと、結局のところユグドミレニアの中の大聖杯を手に入れられなければ意味がない。

 戦場の混乱が終わり、”赤”のセイバーがたどり着いた時には、あるいは七騎で開くことを想定している大聖杯がすでに使用された後、なんてことも考えられる。

 

 だが、そんな彼女の想いに振り回されるスポーツカーの方は可哀想だ。

 獅子劫が当初より持っていた自分の礼装、あるいは装備ではないことが特に哀愁を誘う。

 この車は、魔力の高ぶりを感じ取った獅子劫が戦場に馳せ参じるために拝借した、どこの誰ともしれない人間のスポーツカーだ。

 当初は終わった後に元の場所に戻しておけばいいか、と思っていたのだが、もうこれでは”何かがあった”ことを隠すことはできないだろう。

 彼に、この車を治すレベルの錬金術は使えない。

 

 全てのサーヴァントには、サーヴァントとして召喚された時点で二種類のスキルを持っている。

 一つは、逸話からなる固有スキル。サーヴァントの逸話が形となった、彼ら彼女らの伝説由来のスキル。

 もう一つはクラススキル。全てのサーヴァントが、召喚されたクラスに対応して与えられるスキル。

 

 今、セイバーが行使しているのは後者のスキル。

 Bランクの『騎乗』スキル。幻想種、幻獣・魔獣クラスの獣でなければ乗りこなせるレベルの騎乗能力。

 ただし、あくまでこれは『乗り方がわかる』というスキルでしかない。

 現世における法律を教えてくれるスキルではない故に、乗り方にはサーヴァントの性格が出る。

 そういう意味で言うのならば、”赤”のセイバーの乗り方は『乗り物の性能を最大限に発揮させる』と言う意味では最適解であり、『乗っている人間の安全を考慮する』と言う意味では最低最悪の部類だった。

 

 ”黒”の陣営は誰もが、”赤”のセイバーはすでに戦場にいるものだと思って戦っている。

 だから、いずれ王に至る彼女の進撃を阻むような愚か者は存在しない。

 

 それが彼女には不愉快である。

 

 自分の存在を知りながら、戦場における輝ける希望を、王の威光が戦場にないことを一切不思議がっていない。

 その威光を見つけられないことを、隠れ潜んでいると思っているに違いない、と彼女は断定する。

 何せ、モードレッドには自らの出自を隠した逸話から得た隠匿系統の宝具があるのだ。

 それを利用して隠れている、などと考えているのかもしれないが。

 

「王が隠れて何になるってんだ……!」

 

 彼の知る王とは、騎士や兵士をその姿によって鼓舞するものである。

 故に、隠れるような存在と思われるのは、侮られていると思ってしまう。

 

 その怒りによってつい、サーヴァントの身体能力が行使される。

 あり得ない力で踏みしめられたアクセルは、嫌な音を立てながら車を加速させた。

 

 それが、彼女たちの運命を救った。

 

 一瞬の加速。速度を維持したままであったならば、死んでいた、そう悟った瞬間には”赤”のセイバーは己のマスターを全力で蹴り飛ばす。

 窓を突き破り、車の外に蹴り出された獅子劫は当然の怪我を負い、咳き込みながらも魔術刻印による肉体の回復を受けて状況を知った。

 

「──ッ!」

 

 一瞬、音が消える。巨大な爆発音の根源は、つい先ほどまで乗っていたスポーツカー。

 後部エンジン部分に突き刺さった巨大な杭は、獅子劫が聖杯大戦に参加する前にもらった情報と一致している。

 すなわち、魔術協会がユグドミレニア誅罰のために送り出した五十人から成る猟犬部隊。それを一瞬で壊滅させた”黒”のサーヴァント、ランサー。

 

「ヴラド、三世……!」

 

「ほう、蛮族でありながら余の名は知っていたか」

 

 最悪だ、と獅子劫は思う。

 自らのサーヴァントとの距離はわずかに離れている。

 それは、蹴り飛ばした反動でセイバーも車から脱出していたから。

 そして、直感スキルが下手な動きをしたならばマスターが死ぬと警告しているから彼女は動けない。

 

 動けないが、同時に許しがたい言葉をこの男は口にした以上、その責任は取らせなければならないだろう。

 

「蛮族、だと……テメェ……!」

 

「違いあるまい。貴様らは我が領土への侵略者。それを蛮族と呼ばずして何という」

 

 赫怒が、彼女の総身に魔力を行き渡らせる。

 今にでもロケットスタートをしそうなその殺意を受けて、ヴラド三世はなおも平然としたまま。

 敵意を向けられているわけでもない獅子劫ですら冷や汗をかいているというのに。

 時代は違えど英傑ということか、と納得したところで。

 

「俺を、あのピクト人共と同類と呼んだか貴様ァッ!」

 

 爆発した殺意。

 『魔力放出』の赤雷が、彼女に爆発的な瞬発力と最高速度を与える。

 対するヴラド三世の行動は単純。動けないマスターの方を串刺しにして、その一瞬、無防備となる自分を守るためにセイバーの動きを杭の壁で稼ごうとして──

 

「ッ!」

 

 咄嗟に身を翻す。”黒”のランサーと”赤”のセイバーの間を津波のように通り抜けて行ったのは、黄昏の剣気、真エーテルの輝き。

 彼の同胞である”黒”のセイバーの宝具。黄昏が去った頃には、すでにその場にセイバーはいない。

 どこへ消えた、と一瞬だけ悩み、次の瞬間には身を震わせる悪寒に従い、咄嗟に杭を形成する。

 

「はっ、これで形勢逆転だな、吸血鬼野郎!」

 

 すでに、その場にマスターの姿はない。

 黄昏の最中に魔力放出で手にしたスピードを用いて、マスターを回収。そのままどこかに隠し、戦場から離れさせたか、と思考の冷静な一部分が把握する。

 だが、彼の思考の大部分は一つの感情で支配される。

 

 怒りだ。

 

「余を、吸血鬼と呼んだな」

 

 どちらも等しく、抱く感情は全く同じ。

 目の前の存在は許せない。

 自分のことを侮辱した。

 

 故に死ね。

 

 為政者でありながら、後世にて人を襲う怪物と変わった”黒”のランサー。

 為政者になろうとしながら、その最後を国を砕く最低の存在となった”赤”のセイバー。

 

 そのどちらもが、目の前の存在は許せぬと感情論に従って己の武器を振り抜いた。

 




作者は、今すぐにでも聖杯大戦部分を端折って終わらせてエピローグを書けば、完結にできるのではないだろうか、なんてバカな考えが頭をよぎっています。(ここまで書いてしまえばエピローグ書いてから中部分埋めていけばまともになりそうだし)
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