アビーちゃんに致命傷をもらいました。書きます。あびーちゃんちょうかわいい(n回目:nは自然数)
”黒”のバーサーカー、フランケンシュタインの怪物は戦場の一部となった森を疾駆する。
目的は一つ、敵対する”赤”の陣営のサーヴァントを求めてのこと。
”黒”のセイバーは”赤”のランサーと、”黒”のアーチャーはキャスターの援護を受けて”赤”のライダーを、”黒”のランサーは”赤”のセイバー、”黒”のライダーは空中要塞の持ち主である”赤”のアサシンを、それぞれ相手にしている。
”黒”のアサシンは万が一に備え”赤”が用意した雑兵の首を狩っていて、その上で”赤”のキャスターを探し、”赤”のバーサーカーはそんな雑兵の一撃を受けて、自らダメージを蓄えているらしい。
不甲斐ない、と自分でも思う。
マスターには姉であってもいずれ敵として戦わなければならないと覚悟を決めさせようとしたくせに、こちらは
挙げ句の果てにはその狂気を止めるためだけにマスターに令呪を使わせてしまうなど、これでは何のために僅かな思考能力が残っているのかわからない。
この失態を挽回するには、サーヴァントの首の一つは取らねばならないだろう。
空を見上げる。
そこにあるのは空中庭園。アサシンの宝具だという話のそれは、さかしまの空中庭園。聞いた話だと、今回はネブカドネザルではなくセミラミスだったという。
先ほどまで立ち塞がっていた相手、シロウ・コトミネ。その横にいたサーヴァント、キャスター。口にしている言葉を聞いたマスターいわく、その真名はシェイクスピアだと。
性格的にはともかく、能力的には前線に出てくるようなサーヴァントではなかった。
ならば、キャスターはすでにあの空中庭園の中に戻ったのか。可能性はないわけではない。
なぜならキャスターとは、本来後衛職。
魔術師の工房であり城。空中庭園という大規模な規格外の宝具。その中にあるとなれば、それ以上に安全な場所などそうは見つからないだろう。
”黒”のバーサーカーはさほど、戦闘能力が高いというわけではない。そもそもバーサーカーとは狂気に飲まれた逸話を持つ英霊が至るか、サーヴァント側が容認することで狂気を付与されることで弱小サーヴァントがステータスアップを図った姿かのどちらか。
”黒”のバーサーカーは後者である。強化されたとはいえ彼女程度の火力では、空中庭園の中にあると思われる工房を破壊することは不可能だろう。
”黒”のライダーが”赤”のアサシンと戦っている今ならば、あるいは可能かもしれない。
失敗すれば即死である、ということは目に見えている。先ほど、ライダーが上陸するまでに空中庭園から放たれた魔術の数々は、彼自身が高い対魔力程度では耐えきれないことを示すように、全てを避けていた。
──さて、どうする。
長考はしない、できない。
理性は保持しているが、あくまで保持しているだけ。
狂気は当然、バーサーカーとして呼び出された彼女の中にあり、その狂気は正常な思考を蝕む。
まともな考えなど、彼女には浮かぶほどの時間がない。
令呪を使ってもらう。
そんな考えが出たところで、考えを中断するほどの爆発的な魔力の奔流を、彼女は察した。
「来た」
つぶやきは、誰のものだったか。
水晶の中に映る戦場は、目紛しく変遷している。
今、”黒”のセイバーと”赤”のランサーの決着もついた。
どうやら、ゴルドがさらに令呪を使い、カルナの元までジークフリートを届かせたらしい。
そして敗者として消滅するカルナと、令呪でつかんだ一瞬を使い果たし勝者として消滅するジークフリート。
二騎分の魔力が大聖杯に宿り、すでに埋め込まれた”願い”が叶えられる。
「これが、受肉というものですか」
キャスターの魔力で編まれた肉体を、無色の魔力が現実にある肉へと変化させる。
その威容を横目に、愛歌が令呪をかざす。
「なら、こっちも終わらせてしまいましょう?」
”黒”のバーサーカーが感じた魔力の出所は、”赤”のセイバーと”黒”のランサー。
バーサーカーが前衛となりセイバーと戦いながら、ランサーがセイバーを串刺しにしようと杭によって苛烈に攻め立てる。
だが、セイバーはバーサーカーをはるかに超える霊格の持ち主。英霊としても、セイバーにバーサーカーが敵う道理はない。
巧みにバーサーカーを用いながら”黒”の二騎と戦う”赤”のセイバーなのだが、では対応する”赤”の陣営のバーサーカーはというと。
「あら、ルーラーと接触してるのね」
ちょうどいいわ、と愛歌が笑った。
紅の燐光を纏う四つの令呪。
彼女たちの目的を達するために、絶対命令権が行使される。
「バーサーカー、ルーラー、つまりこの聖杯大戦において最も強権を振るう、あなたが嫌う圧制者を攻め立てなさい」
まずは一画。
これで、ルーラーは己の身を守るためにもバーサーカーとの戦闘を余儀無くされる。
何より、この聖杯大戦における絶対者へ逆らえ、という願いは彼にとってもまた本懐。
終わった後に愛歌を殺すという気持ちも増幅されるが、それはもう関係ない。
「バーサーカー、宝具『
敵から負わされたダメージの変換効率が最大になる。
今の彼の宝具稼働状態では、全ての攻撃が瀕死、あるいは致命傷状態で受ける一撃と変わりなく、最大効率で魔力を蓄え始めた。
圧制者を殺す喜びに笑みを浮かべながら、命令をしたマスターへと叛逆をせねばなるまいなと立ち上がる力に変わる。
「バーサーカー、あなたの宝具で貯蔵できる魔力の量を増やしてあげる」
三画目。消えた令呪によって、彼が貯蔵できる魔力量が上昇する。
彼の宝具が魔力を貯蔵し、己の力に変えるものであること、そして溜め込んだ魔力を解き放つものであることを考えると、この命令は事実上スパルタクスが放つ宝具の最大火力が上昇するということ。
すでに、願いは叶えた。
あとは後顧の憂いを断ち、撤退するのみ。
「さあ、最後よ。圧制者を、圧制者に従う走狗を、この戦場に集ったサーヴァントをその宝具の解放で皆殺しにしなさい」
彼女が作り出した四画目の令呪が輝きを失う。
聖杯は、今はもう中に溜め込んだ魔力を一気に解き放つことで周囲一帯を破壊する聖杯爆弾とでも呼ぶべき代物に変貌してしまっている。
これを爆発させることでユグドミレニアを滅ぼし、これから先の人生で彼らが関わってくる余地をなくしてしまうことが憐の狙い。
故に、破壊力はあればあるほどいい。そして、その破壊力の源泉は、すでに敗退したサーヴァント。
超級のサーヴァントが二騎入ったことで願いを叶えても多少魔力の余裕はあるが、本当に多少の域。
故に、バーサーカーを供物に、バーサーカーの宝具で他のサーヴァントを数名撃破できれば御の字。
この令呪は、そういう命令。
「キャスター、バーサーカーの宝具解放に合わせてお前の宝具も頼む」
「ええ、任せてください。ただの爆発であれば、どのようなものでも防いで見せます」
少女が、己の持つ魔術礼装……『選定の杖』に触れる。
同時に、広がったのは花の楽園。鳴り響くのは鐘の音。
共に戦う仲間たちを守り、強化するその音色が鳴り響く楽園こそは、彼女の心象世界。
「あれはいつか見た終わりの星、多くの言葉、わずかな煌めき」
百花繚乱の花の丘の中央には、彼女の持つべき選定の杖が粛然と立っている。
一歩、また一歩と近づいた彼女は、その杖へと触れて──
「どれほど遠く汚れても、私は星を探すのです」
展開されるのは、一つの結界。
それは、ワールドエンド級の一撃すらも防ぐことができる、世界最上位の防御。
聖剣の鞘に酷似した、けれど絶対的にどこかが違う究極。
「さあ、幕を上げて」
その種別こそは『対粛正防御』。
原初の英雄王の持つ天の理をも防ぎきる、究極にして至高の一。
故にその名を──
「『
希望に包まれた
こちらの世界で選定の剣と呼ばれた武器の名を冠する、究極の防御。
当然、たかだか叛乱を起こし、けれどその剣を時の皇帝に突きつけることもできずに消滅したスパルタクスごときが突破できるようなものではない。
とはいえ、それはこの宝具を超えられない、というだけのこと。
この宝具の範囲は彼女の工房、すなわちキャスター陣営が集う部屋のみを対象としており、ミレニア城塞のそれ以外の部分は覆っていない。
そして、彼女の部屋にまで光の斬撃とでも呼ぶべき爆撃が到達したということは、ミレニア城塞の内側にまでその爆発は届いたということであり、それは当然、生半可な一撃であればサーヴァントの一撃であろうと、あるいは宝具すらも受け切れるかもしれないと思われたミレニア城塞の守りを突破した、ということである。
「あら、運がいいのね。それとも悪いのかしら?」
会話の最中、どうやらバーサーカーの爆発に驚き、ミレニア城塞に一瞬気を取られたアストルフォが堕とされたという光景が水晶に映る。
同時、発進する空中庭園。目的は、大聖杯の奪取。全てが終わり次第、自らの願いを叶えるために
「マスターは死んでないのか?」
「ええ、でもこちらのアサシンは死んだみたいね。バーサーカーもモードレッドを殺すために食らいついて、宝具の最大解放をしたみたい」
「ってことはバーサーカーも落ちたか」
「それに、向こうのセイバーもね」
「え、モードレッドもですか?」
「ええ。バーサーカーが宝具をゼロ距離で使用するために令呪まで使って抑えられたところを、こっちのランサーが自分の槍でグサリって。その傷を起点にバーサーカーの宝具を叩き込まれたみたいよ」
「そう、ですか……」
何をキャスターが思ったのかは理解できない。
それでも、自らの知らなかった子供の死に何かを思ったのだろう。
「あ、でも勘違いしないでちょうだいね? そのタイミングであの怖い顔の人も令呪を使って脱出させたみたい。そのあとに、ランサーの宝具の効果で、串刺し刑にしたってことになって心臓から生えた杭に殺されたようね」
「いや、何の救いにもならんぞそれは」
「うるさいわね」
どん、と巨大な爆発音。空中庭園に回収された大聖杯が、聖杯爆弾として機能して空中庭園を破壊する。
戦場にいるサーヴァントたちも、彼らを維持するための魔力源たるホムンクルスを破壊され、さらには彼らの維持のほとんどを賄っていた大聖杯まで砕けてしまっては、もう現界を維持することなど不可能。
聖杯大戦は、彼らの一人勝ちとなったのだが。
「それじゃ、後顧の憂を断ちに行こうか」
その一言で、キャスターも立ち上がる。
この聖杯戦争にはもう一人、受肉したサーヴァントがいる。
それを倒さないことには、この聖杯大戦は真の終わりを迎えたとは言えないだろう。
キャスターが彼を抱え、サーヴァントとしての身体能力を用いて飛び出した。
「キャスター」
少年の言葉に少女が応じる。なんでしょう、と。
ここは空中庭園。すでに地に堕ちることすら許されず、惨めな姿なまま飛ぶ敵の本拠地。この聖杯戦争を終結させる上で、必ずや打倒しなければならないサーヴァントがいる場所。
そのような場で、無駄な会話をしている暇などどこにもありはしないというのに。
「四画の令呪をもって命じる」
少年の手の甲に刻まれた、四画の赤い文様が光を放つ。
聖杯が与えた、聖杯戦争への参戦チケット。本来ならば三度限りの絶対命令権が、愛歌によって新たに与えられた一画も加えて最後の戦いを前に消費される。
「第三のスキルを解放し──」
一画、消滅する。
赤い文様は莫大な魔力となり、契約の経路を通じて少女の内へと流れ込む。
解放されるスキルの名は”選定の剣”。少女が最後に辿り着くべきあり方を示す、栄光と破滅を両立するスキル。
「神話の力をその手に宿し──」
一画、消滅する。
二画目もまた嵐の如き魔力と変わり、契約の経路を通して少女の総身に張り巡らされる。
少女の手に現れるのは、神話礼装マルミアドワーズ。火の神が鍛え上げた、『
「至ることのなかった全ての
一画、消滅する。
三画目が変換された無限に等しい魔力を前に、契約の経路が悲鳴をあげながらもその命令を少女へ通す。
姿が変わる。ただの村娘、ただの魔術師だったはずの少女が、夢幻の如き究極へ。
まさに”王”と呼ぶほかない。
究極、至高、最強。子供が思い描いたような夢物語が、ここに実現する。
「我が手に勝利をもたらせ──!」
最後の一画が、消滅する。
四画目の、もはや駄目押しの如き解放が、神霊を超える何かに至ったとすら錯覚する少女を契約を通して後押しする。
もはや、無限に等しい魔力すらもその少女にとっては芥の如く。
だが、芥子粒に等しい魔力なれど令呪である。故に当然、サーヴァントとしてある少女の全てを、少女が勝ちを求め続ける限りにおいて永劫の強化をもたらす。
「無論です」
放たれる言葉も、ただの少女然としたものから威光を纏う王のものへと変貌した。
けれど、その中にはマスターである憐への親しみが確かに残っている。
無限に等しい幻想を束ねたその上で、少女は確かに王でありながら
「あなたの望む勝利を、ここに具現しましょう」
故に。
「聞かせてください、あなたの望む勝利とは、いったい何なのかを」
「俺が求める勝利は──」
いつだって決まっている。
最初から、彼が求めたものは口にしていた。
「この戦いをお前と共に勝ち抜いて、ずっと一緒に暮らすことだ」
「わかりました」
笑みを浮かべる。
少女然としたものではなく、王族としての、けれどどこかに村娘の感傷を残したような冷たくも暖かな笑み。
「では、それを実現するためにも、行きましょうか」
「……え?」
これは、つまり告白を受け入れられたということか。
思考が止まり、魔術回路の制御を見誤る。
一瞬、体内を回る魔力が滞り、爆発して死ぬところだった、と憐は後で語った。
爆発オチなんてサイテー!
ちなみに、最後のところはコピペと思いきや、微妙に……めっちゃ微妙に一部だけ変わってる。