キャストリアと行く聖杯大戦   作:ぴんころ

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終わり! 閉廷! なんか色々と端折ったし、出番を端折られた皆には悪いと思うが、これで終わり!


えぴろーぐ

 聖杯大戦は終わりを迎え、憐には日常が戻ってきた。

 時計塔に通い、己の魔術を磨きあげる毎日。

 ただ、少しだけ違うことがあるとするならば、以前よりも注目を集めるようになった、ということか。

 

 理由は二つ。

 

 まず一つ目は単純に、聖杯大戦の生き残りである、ということ。

 聖杯大戦で生き残ったのは、彼と獅子劫界離の二人だけ。

 それに伴い、最大規模の聖杯戦争で何の後遺症もなく戻ってきた、という理由で注目を集めるようになった。

 ”赤”の陣営のマスターは聖杯爆弾の爆発の結果、滅ぶ空中庭園からの脱出に失敗して死亡したらしい。

 その結果、獅子劫に『彼に弟子入りすれば聖杯戦争でも生き残れるのでは?』という噂が立ったらしいが、そこは憐の預かり知らぬところ。

 

 獅子劫……憐の戦い方における師匠はまた戦場に戻ったのだが、目的を達成できたのかは定かではない。

 爆発した大聖杯の欠片を魔術協会が回収した時には、いくつか足りない破片があったということなので、もしかしたらその内の一つが内包していた魔力次第では、呪いを解呪することもできたのかもしれないが、現在連絡を取っている余裕もない憐では、知ったとしても遠い未来の話だろう。

 

 ユグドミレニアのマスター達は、聖杯大戦が終わったところで、魔術協会が新たに編成した魔術師狩に特化した猟犬部隊によって処罰されることになった。

 あるいは、”赤”のマスターが生き残っていたならば、聖杯大戦そのものをなかったことにすることでユグドミレニアとしては終わっても、生き残ることはできたかもしれない。

 もしくは、超一流の、時計塔としても類を見ないほどの天才がいたならば、その身柄を担保にすることもあり得たかもしれないが、ユグドミレニアという一族の性質上、そんな輩はいなかった。

 聖杯大戦に参加する魔術師の中にすら二流がいたくらいだ。ダーニックが死んだあと、ユグドミレニアをまとめられる人材がいるはずもなかった。

 それでも奇跡的に『悪いのは全てダーニックである。彼の実力、そしてサーヴァントという兵器を持っていたことで逆らえなかった』という形にすることで全ての家系が滅ぶことだけは避けられた。

 そこに、いろいろなところに手を出しているユグドミレニアを全て滅ぼすのは面倒だ、という魔術協会の意向がなかった、とは言えない。

 

 では、二つ目の理由は何かというと。

 

「マスター」

 

()()()()()

 

「あ、はいすみませんレン」

 

 よろしい、というように頷く憐。

 そんな彼の横にいるのは、現代風の装いに身を包んだ()サーヴァント、キャスター。

 受肉したサーヴァントという希少な例故に、彼女はいろんな人物からの注目を集めている。

 当然、彼女のマスターであった憐も。

 

「それで、どうかしたのか?」

 

「何を書いているのかなぁって」

 

 見る、という問いに頷いたキャスター……アルトリアに、渡した紙の束。

 それは、いわゆるレポートというやつであり、その表紙に書かれている言葉を目で追って、少女は口にする。

 

「アーサー王について……? 私のこと、ですか?」

 

「そうそう」

 

 聖杯戦争は、世界中で巻き起こっている。

 その中では、アーサー王と似通った顔立ちのサーヴァントもいれば、お前アーサー王だろ!と言いたくなるような、でもこれをアーサー王と認めていいのか、と思うようなサーヴァントが召喚されることも例としては希少だが確かに存在する。

 その中でももっとも古い英霊がアーサー王であり、そこにはきっと何かの意味があるはずだ、ということで作られたレポート。

 聖杯大戦で出会ったモードレッド。彼女の宝具が持つ『アーサー王特攻』とでも呼ぶべき力。『アーサー王』に対してのみ力が増幅される、というのは少々不思議である、ということも。

 他の英霊であれば、『◯◯を殺した宝具』であってもその個人に対して力が増幅されることはない。相手が勝手にその攻撃に対して弱体化するだけだ。

 で、あるというのにアーサー王に対してだけは技の方が威力増幅されるという事実。

 つまり、アーサー王とは個人の名前ではなく、アーサー王という特性、あるいは概念ではないかというレポート。

 相手に竜特性を付与する宝具を持つゲオルギウス、勝手に安珍認定して火力を増す清姫。そういった例を鑑みれば、アーサー王が竜や神性といった特性の一種であってもおかしくはないだろう。

 いずれ、『汝はアーサー!』とかやりだす英霊も出てくるかもしれない。

 

「えぇ……」

 

 私の顔、また増えるかもしれないんですか、と呟くアルトリア。

 受肉した後、この現代魔術科の教棟に初めてやってきた時の彼女は、他の生徒の人気者だった。

 その中で、最も彼女の印象に残ったらしい質問が『君の名前は?』という普遍的なもの。

 普遍的ではあるが、その直後に自分と同じ顔をしていたという英霊の名前を大量に挙げられれば、印象にも残るというものだ。

 

「そこ、お喋りをするな」

 

「おっと、怒られた」

 

「怒られちゃいましたね」

 

 次はもう少しうまく、バレないようにしましょうと笑うアルトリアへと頷いて。

 それを見ていたエルメロイⅡ世は額に青筋を浮かべる。

 

「ちょうどいい。私の授業を聞いていないということは、これを聞かなくても解けるということだな。よろしい、ならばこれを解いてみろ」

 

 授業を聞かない生徒、というのはエルメロイ教室では珍しいことではない。

 むしろ、エルメロイ教室だからこそ、というべきか。

 他の学部では持て余す才児たちの最後の拠り所。”この男の元ならばあるいは”と思われる魔術師たちが集められる場所。

 エルメロイⅡ世という、生徒としっかり向き合う人間が教師をしているが故に、彼の元に集う魔術師は多く、結果としてその勢力はどんどん拡大していく。

 

 魔術は家系と才能でその大部分が決定されてしまう。

 そのため、魔術における授業など、ついてこられる奴だけがついてこればいい、というものである。

 真面目に、相手に学ばせるための授業ではなく、餌になりそうな情報をばら撒き、そこから何かを見出せるほどの才能を持った生徒を弟子として囲い込む。

 それが時計塔における授業の性質だったのだが、エルメロイⅡ世の場合、そこで相手の得意を見抜き、それの伸ばし方まで教えてしまうのだから、人気が出るのは仕方のないことだろう。

 今回のことも、言ってしまえば彼らがしっかりと授業内容を理解しているかどうかの心配になるだろう。

 

「む……正解だ」

 

「せんせー、神代の魔術師に魔術の講義をしようなんて無理があると思いまーす」

 

「黙れフラット」

 

 とはいえ、アルトリアという神代の魔術師の存在がある。

 彼女の前では如何な権威とて、魔術師として勝利を掴むことは不可能だろう。

 そういう意味では、どんな時でも彼女の授業を個人で受けられる憐にも問題を出す意味合いはそこまで大きくないのだが。

 

「わかっているならいい。が、一応授業は聞くフリだけはしているように。この教室には面倒な輩しかいないんだ。下手に面倒を増やしてもらうのは困る」

 

「はーい」

 

「君も」

 

「私、ですか?」

 

 ああ、と頷いたエルメロイⅡ世は、どこか隠しきれない苦々しさを滲ませたような表情で。

 まるで、彼女の顔に何かしらの恨みがある、といったような様子。亜種聖杯戦争に参加したことのある彼にも、何かがあったのかもしれない。

 

「元サーヴァントだという話だが、ならばこそ主人を諌めてくれ」

 

「はい。ちゃんと、一生面倒を見る予定です」

 

 その言葉の直後、ぼん、と爆発音が響く。

 音源は、憐の腕。魔術回路の操作を誤るという、魔術師としては初歩的なミス。

 黒煙をあげる腕とは真逆に真っ赤な顔。

 ついでにそれを見る、授業を受けている人の中で曖昧な、なんとも困ったような笑みを浮かべる、アルトリアと同じ顔をした灰色の少女。

 

「授業中に爆発するな」

 

「むりでーす……」

 

 顔を突っ伏して応える憐。

 これももう、アルトリアがやってきてからは慣れ親しんだ光景。

 肩を寄せ合って授業を受ける程度ならば普通にできるが、少しでも好意を口にされると直後に彼の魔術回路が暴走するのは、もうこの教室では名物だ。

 

 はぁ、と一つため息を吐いたエルメロイⅡ世。

 

「とりあえず、爆発した机は直しておけ。それと、後で私の研究室に来るように」

 

「うっす……」

 

 

 

 

 

 時計塔には、正確には卒業という概念はない。

 魔術師は年齢など考慮するものではなく、あくまで生まれつき持った才能こそが大部分。

 だが同時に、卒業はなくてもたいていの生徒は一定の年齢になると自分の才能の限界を悟って、次の世代を作り出すために動き出す。

 だから、一定の年齢を超えると生徒として時計塔にいる魔術師は非常に少なくなる。形式的な話ではあるが。

 だが同時に、その年齢に達するよりも前に時計塔から出て行く人間も普通にいる。

 

 憐も、その類の人間になろうとしていた。

 

「ほい、先生」

 

「……なんだ、これは?」

 

「卒業論文」

 

「魔術に全く関わりがないように見えるが?」

 

「亜種聖杯戦争を材料に、魔術的な観点からアーサー王について判断したんだけど?」

 

 エルメロイの研究室にて軽めに怒られた後、提出したのは作っていたレポート。

 アーサー王についてをまとめた論文を提出したところ、先ほどに比べてなお怒っている様子が見て取れる。

 タイトルも内容もふざけたものであること、それなのにその考証のために使われた、聖杯大戦のデータは真面目なものであるという事実。

 魔術としてはかなり高等な代物をいたずらにしか使わないエルメロイ教室の人間が論文を作ればこうなるのか、と思わず天を仰ぎたくなるような一品だった。

 

(だが……)

 

 この辺りが丁度いい塩梅かもしれない、とも思う。

 すでに、受肉したサーヴァントを保有している、という一点で憐は時計塔の狡猾な連中に多少目をつけられている。

 ここで、もしも蒼崎橙子……とまでは行かずとも多少時計塔にとって有用なものを提出してしまえば、それを口実にサーヴァントを手に入れよう、なんて考える輩もいるかもしれない。

 それに比べれば、こうしたちょっとした与太を真面目に考察してみた程度の論文の方が、彼の安全のためにはちょうどいい。

 というか、そうすれば自分もあの面倒な老人どもに合わなくて済むのだから、これを受け取っておけばいい。

 

 そんな思考で、エルメロイⅡ世はその論文を受け取った。

 

「それで」

 

「はい?」

 

「これでお前は……お前と、あとはそちらのサーヴァントは時計塔にいる理由がなくなったわけだが」

 

 これからどうするつもりだ、という質問。

 心配と、余計なことをしてくれるなよ、という感情の入り混じった質問に対して、明確に”これ”というヴィジョンが憐にあるわけではないのだが。

 

「とりあえず、ピクニックにでも行こうかって話にはなってますね」

 

「ピクニック」

 

「ええ。今、どこか別のところをふらふらしてる愛歌も捕まえて」

 

 沙条愛歌は、聖杯大戦が終わるとふらりと姿を消した。

 『これが妹ができた感覚……そんなに変わった気分にはならないわね』なんて言葉を残して。

 とはいえ、時折彼女は手紙を送ってきたりするので、今の賃貸を出て行くつもりは憐にはない。

 

「私が聞いたのは、これからの生活についてだったんだがな……」

 

「そのあたりはこれから考えますよ。まずは、アルトリアのお願いを叶えてやりたいんで」

 

「……そうか。まあ、お前の人生だ。私に迷惑をかけなければそれでいい」

 

「はーい」

 

 それじゃ帰りますね、と口にして立ち上がった憐。

 外には彼のサーヴァントが待っているはずである。

 それを見つめるロード・エルメロイⅡ世の瞳には、一抹の羨ましさが見えた。

 

 マスターとサーヴァント。

 形は違えど、自分が求めた形をサーヴァントと築き、そしてそれを実現させられた生徒を眩しく思い、見送った。




なんか書いてる最中にふっと降りてきたエルメロイⅡ世での締め。
サーヴァントとマスターの関係性で言えば彼も結構長めよね。勝てなかった側と勝てた側で真逆だし、うん君採用。

アビーちゃんにお世話してもらいながらエルメロイ教室に通いてぇなぁ……俺もなぁ……
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