たぶんジンオウガ転生物   作:横電池

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いつもは森の奥にいるはずのドスファンゴがうちのタケノコ畑を荒らしに来たんだ! いつにも増して気性が荒かったよ…。何だか森の様子もおかしいし、退治しに行ってくれないかな?


2ワオーン

 

 

 

 その日は雲ひとつない快晴だった。

 

 いつものように溜まり場に行けば、いつものメンツ。ボブと合流し、ガーグァを探しに森をうろついて、競争して、私だけ行水して。またいつものように溜まり場へと戻る。

 

 その途中、ボブが私の尻尾を掴んだ。

 

 急になんだ。じゃれあいたいのかと振り返れば、ボブはグルルと唸っている。とても遊びたいという雰囲気ではない。

 ボブの主張をニュアンスで汲み取ると「ぞわぞわする。逃げた方がいい」と伝えてきた、気がする。

 

 ボブはバチバチと帯電状態に、臨戦状態に移行していく。強敵の気配を感じ取っているっぽい。リオレウスすら敵わないボブの本気の準備。つまりリオレウスよりはるかに強敵がいる。

 さすがに普通の帯電もできない私では力不足だ。だから私は逃げることを約束した。しかし溜まり場にいるであろう両親にも避難を勧めてからだ。その意志はたぶん伝わったと思う。ボブは不満げだったが尻尾を放してくれた。

 

 

 時間が経つにつれ、私にもぞわぞわする感覚がやってきた。何かが近づいてきている。

 溜まり場までまだ距離がある。急がないと。強く吹き抜ける風が家族の匂いを掻き消していく。

 ボブはかなり気が立っているようだ。眩しいほどに輝く帯電状態。

 

 ふと見上げれば、空は灰色に染まっていた。

 

 濁った雲は激しくうねっている。何か強い力によって、強引に形を変えられているかのようだった。

 

 唖然としていた私にボブが吠える。ボーッとするなと怒られた。

 そうだ、まずは家族と合流だ。匂いがわからないが、溜まり場にきっといる。いないならいないで、そのときは落ち着いたらゆっくり探そう。

 今は溜まり場に急ぐんだ。

 

 溜まり場に着いた頃には、天候は強い雨風に変わっていた。

 ジンオウガの巨体でも重心を揺らされる強風と大きな雨粒。ジンオウガより遥かに小さく軽い存在など、耐えられないものだ。

 

 ボブの背中に住む雷光虫も例外ではない。

 

 今のボブは辛うじて帯電状態を維持しているが、最初の輝きはなくなっている。

 ボブでこれなら私たちの親は……見えた姿にやっぱり、となる。

 

 帯電できていない。

 私たちが戻ってくるのを待っていたのか、彼らは全員揃っていた。

 ボブが逃げるべきだと主張する。しかし彼らは迫る敵に立ち向かうつもりらしい。意見が別れたが、私には逃げろと彼らは主張。ボブも親オウガも、私を戦力として見なしてくれない。ぴえん。

 

 みんなが戦うなら私だって戦うとも、と訴えてみたが、ママンオウガにお前はいらないとばかりに小突かれた。

 まだ子供扱いを受けるとは……と、うなだれる私に、ママンが鼻を刷り寄せてくる。いつまでも子供だと言われた気がした。あと言外に子供扱いというより役立たず扱いだとも言われた気がした。これは被害妄想か。

 

 まあ私は弱いし、役立たずどころか足手まといになりかねないか。ふーんだ。もう少ししたら私もすごく強くなるもんねー!

 そんな風に拗ねる私にママンオウガがまた鼻を擦り付けてくる。くすぐったい感触。その感触は一瞬で消えた。

 

 目の前にいた私の母が、鼻を擦り付けてきた私の母が、突如横から飛んできた細く収束された水の激流によって、水平に吹き飛ばされた。呆然と、無意識に目で追った私は、彼女が崖から落ちる姿を見ていた。

 

 遠吠えが、怒りの咆哮が無数にあがる。私たちの仲間に、家族に手を出した敵を叩き潰さんと。私の母を殺した怨敵を砕かんと。

 

 私たちの敵意を一身に集めたソイツは、白い巨躯に翼をはためかすことなく空を泳ぐ古龍。

 

 嵐龍アマツマガツチは、鬱陶しげに喉をならした。

 

 ジョンの父が跳びかかった。ヤツは宙を泳いで軽々と避けた。しかしジョンの父による攻撃はまだ終わらない。バク転して尻尾の叩きつけに連携する攻撃。

 そのバク転の瞬間、ジョンの父はさらに上から襲う長く太い尾に叩き潰された。

 

 ボブの両親と私の父が同時にアマツマガツチを襲う。3頭の同時攻撃に対して、ヤツはその場で身体をくねらせた。

 ただそれだけで、ヤツを中心にした風の勢いが強まる。集められた風は竜巻となりヤツの身を護り、近づく者の身に爪を立てる。

 3頭の身体が宙を舞い、吹き飛ばされる。ジンオウガの巨体を風が持ち上げたというのか。

 

 ボブが吠えながら前脚を振り上げた。その脚には光が、電撃が集まっている。風がより強くなった。ボブの身体までも持ち上がりだした。だが完全に浮かされる前に、その雷撃の叩きつけがアマツマガツチの頭部を襲う。

 ボブの一撃は、角がわずかに欠けた程度に終わった。

 

 いつものボブならもっと破壊力があるのに、ヤツの頭部を粉砕できるほどの威力なのに。

 

 角が欠けたことにキレたのか、アマツマガツチは叫びながらより風を強めていく。

 強くなった風により、とうとうボブの帯電も散らされた。そのままボブは天高くへと吹き飛ばされる。残されたのは私ひとり。

 

 悔しさや恐怖よりも、怒りと憎しみが遥かに勝っていた。

 

 私は感情の赴くままに、アマツマガツチに跳びかかり────夥しい風の激流に押し流された。

 

 

 

 

 

 

 目を覚まし、視界に映ったのは己の前脚。

 生きていることに驚き、すぐに身体を起こす。周囲は私と同じく押し流された木々や岩、動物の死骸が落ちていた。

 だが探しているものは見つからない。母は、父は、ボブは。みんなはどこだ。

 

 祈るように遠吠えする。返事を寄越せと高く鳴く。

 

 日が暮れても鳴き続ける。

 お腹が減った。構わず鳴き続ける。お腹が空いたと叫ぶ。母よ、はやくガーグァの肉をくれ。

 

 夜が明けても鳴き続ける。

 喉が掠れてきた。構わず鳴き続けたかった。だがうまく鳴けない。遠くまで響く声を、出せる力がない。

 

 仕方なしに、周囲に転がる死骸を喰った。すでに腐りかけていたのか不味い。だが少しは体力が戻った。まだ吠えれる。

 

 吠えて、吠えて、吠え続けた。

 

 返事はいつまでもなかった。

 

 

 ・・・・・・

 

 

 気づけば周囲の死骸の肉は無くなっていた。全て喰ってしまったのか、それとも他の獣が喰ったのか、腐り落ちて土に還ったのか。

 

 遠吠えに応える声は相変わらずないのに、取り巻く状況だけが変化する。

 長く鳴き続ければ、誰かが生きているという希望を持つのも難しくなってしまった。

 

 のそり、と立ち上がる。動けなくなる前に、なんでもいいから肉を喰わないと。

 

 生存本能。それとアマツマガツチへの憎しみが私を生かす。このまま死んでたまるかと。

 

 もしもあの時、私にもっと力があれば変わったのではないか。みんなから戦力として見なされ、始めから一致団結していたら、結果は変わっていたのではないか。

 拗ねる私を宥める必要がなくなった母は、アマツマガツチの奇襲にやられることはなかったのではないか。奇襲に対応できていれば、呆気に取られることなく、先陣を切ったジョンの父にすぐに続けていたのではないか。

 

 過ぎたことだ。だが今もなお、燻ることだ。私に力があれば、と。

 

 肉を喰ったら雷光虫を集めよう。ボブのように、いや、ボブよりも激しく帯電できるようにならないと、私ひとりではアイツを倒せない。

 

 月明かりに照らされながら、私は荒れた森を進んでいった。

 

 歩くことしばらく、血の匂いを感じ取る。怪我をした獣がいるのか。勿体ない。喰って私の糧にしなくては。

 

 そんな思いから匂いのもとへと歩けば、ドスファンゴの死骸があった。

 その死骸のそばにはひとりの人間の男。手には長い太刀。あやふやな記憶を辿ればあれはたしか、ユクモ装備だったか。

 

 人間なら今までも何度か見た。だが、こちらから関わることはなかったし、向こうから襲ってくることもなかった。しかしハンターは初めてだ。

 

 私とハンターの間に、わずかな静寂が訪れる。

 

 残っている人間性が人間と対峙することを反対する。古龍への憎しみが、そこのドスファンゴも人間も喰って糧にするべきだと主張する。

 

 分裂する内心に、私は決定を下して行動する。

 

 奇しくもハンターが動き出したのは同時だった。

 

 左前脚が太刀の突きを弾く。

 私の頭突きがハンターの身体を吹き飛ばす。

 

 互いに同時のヒット。だがダメージは圧倒的に私の優位性を示していた。

 竜を狩ることが生業のハンター相手に、私は戦える。勝てる。自信とともに私は猛攻を加えた。

 

 相次ぐ連撃、連撃、連撃。ハンターは必死に躱しては、時に躱し切れずに吹き飛ばされる。それでも致命傷だけはうまく避けている。

 

 ちょこまかと……こんなやつ、帯電状態になれれば瞬殺なのに。

 イライラしつつも、少しだけこの戦いが楽しく感じた。だが腹が減ってるのだ。はやく終わらせようと攻撃を激化させたが、当たることはなかった。

 やがてハンターは太刀を納めると一目散に逃げていく。追いかけようかと思ったが、ハンターよりもドスファンゴの肉の方が栄養になりそうだ。

 あんなのは放置だ放置。今は腹を満たそう。

 ドスファンゴの肉は硬かったが、久しぶりの新鮮な味にうれションをしてしまった。

 

 

 ・・・・・・

 

 

 今までと異なる環境。だがこの場所は思いのほか住みやすい。

 水も綺麗だし動物も多い。そして何より雷光虫がそこら中にいるのだ。点在する廃屋がかつて人里だったことを教えてくれるが、もう誰も住んでないのならハンターに狙われることもないだろう。前に遭遇したハンター程度なら問題ないが。

 

 とにかく雷光虫だ。こいつらには私の背中に住んでもらわないといけない。まあ、数日のんびりしてたらいつの間にか住み着いているだろう。そう考えて穏やかな渓流を散歩した。

 

 やがて鳴き声が聞こえてきた。

 この鳴き声は……たしかドスジャギィか。あまり喰えるところが多くないから好きじゃない。だがドスジャギィは排除する。この辺りの動物は私の獲物にするのだ。ジャギィどもに分けてやるガーグァなどないということを教えてやらねば。

 

 そう考えて鳴き声のする場所へ到着すれば、またあの時のハンターがいた。そして対峙しているのはドスジャギィ……ではなく、クルペッコ。

 クルペッコの鳴きまねだったか。正直クルペッコは放置でいいかなと思っている。たしかアイツ、ガーグァは食べないでしょ。ではここでの問題は、あの時のハンターだ。

 前回はドスファンゴを狩っていた。そして今回はクルペッコ。何故こんな場所で狩りをしているのか知らないが、あまり調子に乗られては困る。貴様に分けてやるアプトノスはない。ここは私の縄張りだ。

 

 主張するように私は吠えた。ワオーンと。

 

「────!? ────!」

 

 ハンターが驚いて何か言ってる。悪態だろうか。しかし何といったかわからない。ほにゃほにゃ語、もといモンハン語だ。

 クルペッコは飛んで逃げていった。今だけは私も味方のつもりだったのにひどい。ドスジャギィを呼んだらジンオウガが来た、なんて向こうも困るらしい。

 

 結果、残されたのは私とあの時のハンター。

 前回はかなりの空腹状態ということもあって、なかなか倒せなかった。だが今は違う。コンディションはばっちりだ。まあ、まだ雷光虫がいないけど。

 

 さて、狩りの始まりだ。

 

 

 

 

 コイツ、マジでしぶとい。

 前回より動きがよくなっている。私も前より調子がいいのに。

 とはいえやはり私のほうが強い。ヤツの刃は私の身体に致命傷を与えるほどの鋭さはない。だが私の攻撃はどれもヤツの命を奪う威力だ。なかなか当たってくれないが。当たっても掠っただけで終わってばかりだが。

 

 なんというか、ハンター、嫌い。

 こんなに疲れるのに倒しても喰いでがない大きさだし。

 

 飛び掛かりを避けたハンターに、バク転からの尻尾叩き付け。初見の技のはずなのに避けられた。だが身体がぐらつき転んだのであれば、遠慮なく追撃を行う。その状態から避けることはできないだろう。

 

 さよならだ。と吠えながら手で叩き潰そうとして、目の前が真っ白になった。

 

「────!」

 

 目が!?

 

 滅茶苦茶眩しい! 何も見えない!

 なんだ今のは!? くそ、何も見えん! どこ行った!

 

「────!!」

 

 まだ声が聞こえる! そこにいるな!? すぐに──くさぁい!?

 すごく臭い! 鼻が!? 鼻が痛いほど臭い!!

 

 この間に攻撃されたらさすがにまずい! とにかく暴れ回らなければ。幸いやつの武器は太刀。遠距離から撃たれるなんてことはない。

 

 何も見えない中、バキバキと周辺の木々が壊れる音がする。まあ犯人は私だが。

 しかし木々の音や岩の感触以外、何もない。ハンターの武器が身体に触れる感触もない。肉を潰した感触もない。

 

 少しずつ視界が正常に戻ってきた。それと同時に落ち着きを取り戻せた。周囲は破壊された木々のみ。ハンターはいない。逃げられたか。

 それより今のは閃光玉とこやし玉か。死ぬかと思った。マジで許さんあのハンター。しかし匂いを辿ろうにも、今は鼻が馬鹿になってる。何もわからん。

 

 次は絶対に仕留めるからな!!

 

 そんな決意を込めた遠吠えをした。逃げたハンターにも聞こえるぐらいの大声量で。

 

 

 

 

 




 

前書きはMHP3のクエスト『ざわめく森』の文章です。
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