たぶんジンオウガ転生物   作:横電池

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この度、ハンター様には、渓流に現れたリオレイアを狩っていただきたいのです。
村を訪れる湯治客の安全のためにも、早急にお願いしたく思います。


3ワオーン

 

 

 

 目と鼻をやられたあの日からしばらく。

 あのハンターとは遭遇していない状態が続いた。未だにあの時の怒りは収まっていないが、平和な時間が長く続く。時折人間と遭遇することもあるが、慌てふためきながら逃げて行く姿ばかり。わざわざ追うこともないし放置している。

 この間は荷物を置いて逃げて行った人間がいた。商人だったのか大荷物で、色々と漁ってみたがこの身体では無用なものばかり。肉を売り物にしろ。まったく、どいつもこいつも肉を持たずにうろついて。木の枝を大量に持ち運んでいるやつなんて何を考えてるんだか。まぁ私を見てそいつも木の枝を放り出して逃げて行ったが。

 

 まぁ気ままな生活をしているが、問題がひとつある。

 

 一向に雷光虫が背中に住みついてくれないことだ。

 

 そこら中に雷光虫がいるのに、何故か背中に定住してくれない。少し背中に乗ってくれたかと思えば、どこかへと行ってしまう。

 あの溜まり場で過ごしていたころはすぐに住み付いたし、永住する勢いで図々しいやつらだったのに。ここには雷光虫の天敵であるガーグァもいるのだから、私の背中に助けを求めるのは当然なはず……

 

 ひょっとして今まで身体をこまめに洗い過ぎて、雷光虫が住みづらい環境になってしまったとか?

 こう、雷光虫が永住したくなるようなフェロモンが背中にあって、それを私は洗い流してしまったとか……知らんけど。まあそうだとしたら、身体を洗わずにしばらくすればいずれフェロモンを復活するはずだ。今は待つしかない。

 

 む。

 

 この渓流は私の縄張りだというのに、なにやら聞きなれない鳴き声が聞こえてきた。

 どこからか来た新参者か。草食か、主食が魚のクルペッコのようなやつじゃなければ追い返してくれる。もしくは今日のご飯だ。

 

 存在を主張するような鳴き声、もとい咆哮をあげたやつの元へといけば、緑の火竜、リオレイアだった。

 どう考えても肉食。主食はアプトノスイメージがあるが、ガーグァも間違いなく喜んで食べるタイプだろう。つまりは敵だ。

 

 威嚇でどっかへ行ってくれたら楽でいいんだが。身体はでかいが鱗が邪魔で喰うのがしんどいし。

 

 アオーンと威嚇。

 リオレイアもぎゃーぎゃー威嚇し返してきた。引く気はないと。ならば私の狩りの相手になってもらおう。

 

 一触即発、そんな中に黒い影が乱入してきた。影は私を斬りつけ、リオレイアに飛び掛かる。

 

 なんだ突然。ていうか痛ぇ。少し脚が切られた。

 

 その影の正体はナルガクルガだった。

 

 こいつも肉食。つまりは私の敵だ。次から次へと私の縄張りを犯すやつらが来やがる。私VSリオレイアVSナルガクルガ、という形か。

 さすがに2頭同時はきついが……全員敵対同士、それに良い経験にもなる。私の最終目標はあのクソッタレな古龍だ。たかが飛竜種2頭など、私の糧にしてくれる。

 

 ナルガクルガの斬撃を前脚で受け止める。あのハンターのより鋭い。今度は私の番だとばかりにもう片方の前脚を振り上げれば、離れた場所からリオレイアが火球を飛ばしてくる。私もナルガも身をひるがえしてそれを回避。

 

 ブレス攻撃を持つリオレイアを今度は狙えば、背後からナルガクルガが私の背中を斬りつけてきた。何本か白い毛が舞い散る。ハゲたらどうしてくれるんだコイツ。

 

 しかし、クッソやりづらい。

 ナルガを狙えばレイアが漁夫の利狙いの遠距離攻撃。

 レイアを狙えばナルガの執拗な私への攻撃。

 

 ナルガは優先的に私を排除しようとしている。レイアより危険と見なされているか。私もレイアよりナルガの方が厄介だと考えている。速すぎるから乱戦のどさくさに紛れて仕留めたいと考えていた。

 

 いっそ火球を無視して強引にナルガを仕留めにいくか。痛いだろうが耐えれるはずだ。私に比べ、ナルガは火に弱いし、強引な動きはできまい。火球にも意識をやる分、こちらが攻撃に集中すればあっさり落ちると思うし。

 

 方針が決まったところでナルガ狩りを始める。

 尻尾を横に薙ぎ払いながら一度距離を離し、避けて体勢が崩れたところを跳びかかる。その跳びかかりも避けられたが、すぐさまバク転追撃。今度はまともに当たった。仰け反るナルガを逃がすまいと脚で上から抑え込む。案外あっさり捕まえれたな。

 ナルガはもがくが、拘束から抜けれない。

 速さではナルガの方が上だろうが、力比べなら私のほうに分があるのだ。帯電状態じゃなくてもこのぐらい……超いてぇ!?

 

 突如横腹に鋭い痛みが走った。

 

 火じゃない。リオレイアの尻尾……サマーソルト。火が飛んでこないと思ったら近づいていたのか。

 サマソによって、よろめき拘束が緩んだ隙にナルガが脱出。対してダメージを与えることができていないのに自由にさせてしまった。面倒臭い。

 

 それより横腹がジクジク痛む。ひょっとして毒か。さすがにまずい。

 大したことないと思っていたリオレイアが一番危険だったか。すぐに報復してやりたいが、ナルガがどう出るかがわからないし。

 

 敵意が強く出過ぎたのか、リオレイアが空を飛びだした。

 空から攻撃する、というよりは逃げるようだ。これは幸い、ならば残ったナルガに集中できる。

 

 しかしナルガに目をやれば、影すら残らず消えていた。

 

 少しレイアを見ていた間にこっちも逃げたようだ。

 

 コンディションが良ければ、どちらかを追って1頭ずつ仕留めていたが今は私も引くことにしよう。毒でまともに戦えるか怪しいし、少し安静にしたい。

 

 

 ・・・・・・

 

 

 毒にじわじわ苦しめられている間、じっとしていたおかげか。雷光虫が少しだけ住み着いていた。キモい。キモいが我慢だ。

 まだ帯電できるほどの数ではない。だがこの調子ならいずれ帯電状態を取り戻せる。

 

 毒も抜けたのか、身体の調子も悪くない。しかし丸1日寝込むとは。今度から解毒草でも食べたほうがいいかもしれない。

 

 む。

 

 またあの咆哮だ。

 私の縄張りを荒らすリオレイアめ。お前の毒はもう完治した。前回のように行くと思うなよ。

 

 すぐさま私は咆哮の元へと向かえば、そこにいたのはやはりリオレイア。

 そして、またもナルガクルガ。

 

 前と同じ状況に見える。だが前回と違ってもう1つ、そこには異物があった。

 

「────!」

 

 あの時のハンターだ。

 

 リオレイア、ナルガクルガ、ハンターの三つどもえ状態。戦いが終わる漁夫の利を待ってもいいが、私は全員に恨みがある。

 レイアには毒で寝込まされた恨みが。

 ナルガには背中をハゲさせられかけた恨みが。

 ハンターには閃光とこやし玉をぶつけられた恨みが。

 

 よって、今から四つどもえになってもらおうか。

 

 ずしり、ずしりと闊歩して近づいてくる私を真っ先に気づいたのはハンターだ。

 意識がそれた隙をレイアの火球が襲うも、やはりあのハンターはしぶとさが凄まじい。火球の殺傷範囲からあっさりと逃れた。

 だがそのハンターに追撃が襲う。ナルガの刃翼。それすらも紙一重で回避するハンターには驚かされるが、なんというか、見ていて気持ちのいいものではない。

 

 ハンターが、ではない。あのレイアとナルガがだ。

 

 さっきからあの2頭、まるで徒党を組んでいるかのように連携を決めている。さも自分たちは仲間同士ではない、みたいな雰囲気を出しておきながら、だ。

 確かにあのハンターは、しぶとさだけを見れば一級品だ。だが人間のサイズだ。隣の竜より危険度は低く感じれるものだろうに。なのにあの2頭はハンターを集中狙い。

 

「……っ!」

 

 まただ。

 ナルガの攻撃を避けようとした先に、火球を飛ばすレイア。ナルガの動きが巧みだから、ということも考えたが、やっぱりなんというか、むかつく。

 

 イライラに身を任せながら大きく吠える。

 

 四つどもえにしようと思っていた。だが気が変わった。

 

「────っ!?」

 

 私の吠え声に身を竦ませたハンターに、ナルガクルガが斬りかかる。

 

 だがその刃が届く前に、私がナルガクルガを殴り飛ばしてやった。

 

「──!」

 

 助けたわけじゃない。勘違いするなよ。あのナルガクルガがむかついただけなんだからな。お前も嫌いだがあのナルガとレイアはもっと嫌いなんだ。

 

 伝わらないだろうが、そんなことを呟きながらハンターを一瞥し、ナルガクルガへと向きなおる。

 レイアは任せてもいいだろう。私は性格が悪そうなナルガを優先させてもらおう。これで2対2だ。もしもハンターが私に斬りかかってきた時は、まあ1対1対2という構図になるだけだ。

 

 私の思惑が伝わったのかはわからないが、ハンターは私へと攻撃することはなく、太刀をレイアへと向けていた。

 

 これで背後を気にすることなく、目の前の敵を屠れる。

 

 狩人の力を見せてやろうじゃないか。

 

 

 ・・・・・・

 

 

 素早く動きまわるナルガの首の骨をへし折ったと同時に、ハンター側も決着がついたようだ。レイアの身体が地に沈む音が響き渡る。

 

 これで残ったのは私とハンター。

 共通の敵もいなくなった。

 

 ハンターは私の出方を窺っている。そして私も、ハンターの出方を窺っている状態だ。

 

 まあぶっちゃけ、さすがに疲れた。

 ナルガクルガめっちゃくちゃ動きまわるんだもの。追いかけ、追い詰めて、攻撃を当てるまでが本当にしんどいの。

 やっと終わった後にこのしぶとさ満点ハンターの相手とかもっと疲れるわけで。正直なところ今は戦いたくない。

 

「……」

 

 見つめ合うことしばらく。

 ハンターも戦う意志は今はなさそうだし、よし。

 

 今回は見逃してやるからな!

 

 そう吠えて、私はナルガクルガの死骸を咥えながらその場を離れた。レイアの死骸はお前にやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 去って行ったジンオウガが見えなくなって、深々と安堵の溜息をついた。

 

 あのジンオウガと遭遇したのはこれで3回目だ。今までの2回は敵対していたのに、今回は味方となってくれた。できれば4回目の遭遇はあってほしくないが、きっとそうはいかないだろう。

 

「やりづらくなるな……」

 

 最近渓流に現れたジンオウガ。

 今のところ人的被害はないが、ユクモ村への湯治客は減る一方。行商人の足も遠のき、ユクモの木を取りに行った木こりたちもまともに仕事ができず、確実に村の存続の危機に陥っている原因。それがあのジンオウガだ。

 

 いずれあのジンオウガの狩猟依頼も出るだろう。というか、すでに出ているかもしれない。自分の腕が拙いからその話が来ていないだけで。

 

 今回は助かったが、下手に仲間意識を持ってしまうといざという時に困る。

 あのジンオウガは村の敵なんだ。

 

 だけど、今回の件はきっちり村長さんに報告しよう。

 

 もしかしたら、狩猟ではない方法で、ジンオウガを渓流から離れさせる方法を思いつくかもしれない。考えてくれるかもしれない。

 

 

 

 

 




 

前書きは『女王、渓流を舞う』の文章です。
前回のざわめく森同様、キークエストです。
なお、ナルガクルガは乱入しません。

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