たぶんジンオウガ転生物   作:横電池

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渓流の森にジンオウガがいる、という目撃情報が入りましたわ。
この子の被害は日に日に拡大していく一方…。
村としても見過ごせませんの。お願いしますわ、ハンター様…!


4ワオーン

 

 

 

 ユクモ村にて、リオレイアおよびナルガクルガの狩りについて、村長に報告したあの日。

 

「そうですか。リオレイアの狩猟でそのようなことが……」

「はい、あのジンオウガがいなかったらどうなっていたか……」

 

 あのジンオウガが無害と決まったわけではない。だが積極的に人を襲っているわけでは無さそうだし、心情的に狩りたくない相手だ。

 

「ジンオウガに襲われて怪我したって人もいませんし、あの渓流からそのうちどこかへ行くかもしれません」

 

 自分は最初の遭遇時に襲われ逃げたが、ジンオウガが追いかけてくることはなかった。

 刺激さえしなければ無害な可能性が高い。それに逃げるものを追わない性格のようだし好感が持てる個体だった。

 

「……ハンター様のおっしゃりたいことはわかりますわ。あの子を狩ることなく、穏便にすませたいのだと」

「……そうです」

「ですがそうはいかないのです。あの子は危険ですの」

「好戦的な性格ではなかったですよ」

「あの子が渓流にいる……それだけで、この村の子たちは危ない目に合いますの」

 

 その理屈をすぐに理解できなかった。

 そんな自分に説明するように、村長は話を続ける。

 

「あの子が渓流に現れてから、人里までジャギィが降りてくるようになりました。彼らは元々渓流で暮らしていた子たち。ですが、ジンオウガによって追い出されたのでしょう……」

「そのジャギィが人を襲う……?」

「彼らはハンター様の敵ではないでしょう。ですが、村の方々や行商の方には恐ろしい子たちです。ジンオウガに人を襲う気がなくとも、人は脅威に晒されてしまうのです」

「……」

「あのジンオウガが人を襲わないことは重要ではありませんわ。ジンオウガが、渓流で他のモンスターを襲うことが問題となっているのです」

 

 逃げるものは追わないジンオウガだった。

 人間より別種の竜を襲うジンオウガだった。

 

 2回目の遭遇時、ジンオウガはクルペッコの狩猟中にやってきた。思えばあれは、ドスジャギィの声真似に釣られてきたからか。

 ドスジャギィを追い出しに、やつは来たのだとしたら。

 

「……わかりました。あのジンオウガを狩ります」

「ハンター様には酷なことをお願いして申し訳ありません」

「いえ、自分も覚悟はしてました。それに、あのジンオウガが生み出す被害も理解できました。だから大丈夫です」

 

 村を追い詰めるジンオウガの狩猟。やらなければいけないことだ。

 新しくなった武具や罠を用意をしながら思う。

 もしもあのジンオウガが他のモンスターにも優しい性格であれば、なんてことを。

 

 

 

 

 

 

 どけどけ! 散れ散れ!

 そのガーグァは私のだ。ジャギィどもはどこかへ行け。さもなくば叩き潰すぞ。あ、ガーグァくんはどこにも行くな。

 

 まったく、ジャギィどもは数が減ったと思えばまた増えている気がする。逃げた先でうまくいかずに戻ってきてしまったのか? だとしても優しさなど私は見せないぞ。

 私が優しくする相手はクルペッコぐらいだ。クルペッコは許す。ガーグァも許す。ジャギィは許さない。

 

 あれからレイアやナルガのような無法者は来ることなく、のんびりとした渓流生活を送れている。それに日を追うごとに背中の雷光虫が増えつつあるのだ。今の数なら背中のみの帯電状態になれそうだ。全身に巡らないと意味がないのだけど。

 とにかく住み始めてからは加速度的に数が増えている。キモいが我慢。

 

 む。

 

 人間がこちらを見ている。

 以前のしぶといハンターか。防具が変わって一瞬誰だかわからなかった。

 

「ジャギィを追い払ったのか。あいつらがどこに逃げるかも考えずに……いや、お前には関係ない話だもんな」

 

 何か言っているようだが相変わらずモンハン語で全然わからない。

 今までと違い、何か語りかけているかのようだ。

 

「前に助けてもらったから、心情的には見逃してやりたい。だけどそうもいかないんだ。お前を見逃すのは危険すぎる」

 

 私とお前の関係は、語り合うようなものではないだろうに。

 以前助太刀したことで勘違いしてしまったのか? ならその勘違いを今ここで正してやろうか。このハンターの成長速度は危険だ。これ以上見逃すのは危険すぎる。

 それにもうすぐ帯電状態になれるのだ。それは私があのクソッタレな古龍にリベンジする時が近づくということ。ならばその前の練習相手としてお前の存在は丁度良い。

 

「だから、お前を狩ってユクモ村を守る!」

 

 お前をここで狩り、私の糧にしてくれる!

 

 やつがなにやら叫びながら武器を抜き放つのと、私が前脚を振り上げるのは同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 初めて相対した時の初撃は相討ちだった。

 だが得物の差で、私が圧倒的有利だった。

 

 2度目の相対時も私が有利だった。

 ハンターの閃光玉とこやし玉で、戦いはうやむやになってしまったが、それでもあの時点では私が有利だった。

 

 3度目。相対することなく、一時的な共闘関係だった。

 私との力の差は見ていなかったからわからない。

 

 そして今、4度目の相対。

 戦いの立ち上がりは同時。初めての邂逅時と同じような立ち上がりだというのに……やつの武器が鋭くなっている。私の鱗をも斬り、肉まで刃が届いている。

 おまけに私の初撃が躱される始末。

 

 失敗した。こいつは早く潰すべきだったのだ。経験を積むたびに強くなっている。武器も強く、ならば身を守る防具もより頑丈になっているだろう。

 3度目の時点で確実に潰すべきだった。疲れているからなどと言ってる場合じゃなかった。

 

「攻撃が通る……!」

 

 調子に乗るなよハンター。

 まだ最初の一撃だ。お前の防具がいかに頑丈だろうと、お前自身の回避能力が高かろうと、私の1撃は重くのしかかる。すべてが致死に至る連撃を何度も掻い潜れると思うなよ。

 

 前脚、前脚、尾、頭突き、尾。

 私自身が息をつく暇のない連続攻撃。ここまでの連携、今まで見せたことがない。あやふやなゲームの記憶でもこんな連携はなかったはずだ。

 

 だというのに。

 

「あぶなっ!」

 

 なんだこいつは。

 私の攻撃は尽く届かないのに、何故こいつの攻撃は尽く私を傷つける。

 

 私のほうが大きいのに、私のほうが力強いのに、私のほうが速いのに。

 

「いける……! これなら……!」

 

 振り下ろされる太刀筋を殴るように前脚で払う。

 

 ……爪が斬り落とされた。回避能力が成長しているだけでなく、武器が強化されただけでなく、こいつ自身の太刀筋も鋭利になっている。このままではまずい。私の鱗や甲殻が、いともたやすく斬り裂かれてしまう。

 

 このままでは、私は負けてしまう?

 

「ここで倒れろ!」

 

 こんな小さな人間相手に?

 私の怨敵はあの古龍だ。こんな小さな存在に、負けていいものか?

 

 

 

 んなわけあるか。

 

 

 

「なっ!? 逃げる気か!?」

 

 痛む脚を無視し、背中を向けて一気に距離を取る。

 私のほうが圧倒的に早いのだ。いつまでもインファイトにこだわる必要などない。今の私に遠距離攻撃はないが、間合いの管理は私に分がある。

 

 逃げる気などない。

 

 呼び寄せるだけだ。

 

 身震いしながら背中に静電気を発生させる。

 背に住む雷光虫どもがその電気に共鳴し、さらに電気を増幅させる。その輝きが少しずつ、強くなっていく。

 

「なんだ……? 何をする気かわからないが、何もさせない!」

 

 さっさと来い、雷光虫ども! 背中のやつらも仲間を呼べ!

 ここで私が死ねばお前らはガーグァに啄まれるだけだ!

 

 顔に太刀が振るわれる。雷光虫の強制集合を阻止させるわけにはいかない。角で受け止め致命傷を避ける。

 

 片角が折れたが、痛みをこらえる。もう少しだ。もう少しで来る。過去最高の充電ができる。

 

「くそっ! まずい!」

 

 ハンターというのは第六感が優れているのかもしれない。遅いのに私の攻撃を尽く避けることが可能な理由は予知能力染みた勘のおかげか?

 だとしたら、その勘が教えてくれているか? これからお前が負ける未来を。

 

「っ!?」

 

 ──────来た。

 

 この身体から発生する電気が、背中に集まった雷光虫たちの生み出す電気が、互いに共鳴し、高め合い、最高点へと到達する。

 溢れる雷が周囲を襲う。全身を纏う電気に一瞬筋肉が硬直、反射的に天を仰ぐ形となった。

 

 だがその硬直も収まり、身体からは力が溢れてくる。感覚が鋭くなっている。

 

 超帯電状態。実に久しぶりの感覚だ。少し動くだけで、空気が弾ける音がする。夜の森が、月の光ではない輝きで照らされている。

 

 ハンター、お前は強い。

 帯電していない私よりも僅かばかりに強い。それは認めよう。

 

 だけど、もう終わりだ。お前と4度も続く腐れ縁をここで終わらせよう。

 

 私は終わりの宣告として、森に響く咆哮を高々とあげた。

 

 

 

 

 

 

 全身を駆け巡る電気のおかげで敏感になっているのか、ハンターの攻撃は帯電する前よりも痛い。だが私の攻撃は前よりも届く。

 まだお前の太刀筋では私の心臓まで届かない。だが私の一撃はお前を確実に滅ぼすぞ。

 

 私の脚の叩き付けを前と同じ要領でかわそうとし、弾ける電気までは避けれず吹き飛ばされるハンター。無様に転がる姿を潰さんと近づくと、

 

「まずい! これでもくらえ……!」

 

 ハンターが何かを投げた。閃光玉か。以前見た。

 身を翻しまばゆい光に背を向ける。

 

「避けた……!?」

 

 驚く姿が少し愉快だ。いつまでも成長しているのは自分だけだと思っているのか。私の成長はこんなものではないぞ。

 

 距離が空いて仕切り直し、ではない。

 私の背中に溢れすぎた雷光虫どもにも張り切ってもらおう。

 

 身体から何匹かの活性された雷光虫を振り落とし、ハンターに向かって飛ばす。

 

「んなっ!?」

 

 たかが虫と思うな。

 そいつらは私たちが高めた電撃を身に纏っているのだからな。

 

 襲い来る雷光虫に度肝を抜かれながらも、回避を成功させるハンターにさらなる追撃を行う。

 

「速っ」

 

 少し空いた程度の距離、今の私には空いてないも同意義だ。

 雷を纏った前脚を、今度は躱しきれずにまとも当たる。しかし叩き潰した感触は手にこない。当たる直前に後ろに下がって威力を殺したか。

 

 ……また閃光玉。

 

 窮地を逃れるために反射的に使ってしまうのか? そういう癖が根付いているのか?

 だが私はもうそれにやられることなどない。冷静に光から逃れるため、背を向ける。

 

 再度振り向けば、武器を納め走るハンターの後ろ姿。

 

 ……逃げる気か。

 以前なら見逃していたかもしれない。だがお前はダメだ。お前の成長速度は危険すぎる。逃がすわけがない。

 

 

 

 

 

 

 ハンターといえど、所詮は人間の大きさ。

 このジンオウガの身体とは雲泥の差がある。私の1歩はやつにとっては何歩となるか。さらには今の私の身体は超帯電。力が溢れているのだ。

 

「少しは、待ってくれよ!」

 

 わめきながらハンターが地面に何かを叩きつける。

 叩きつけられた場所からモクモクと煙が立ち込め始めた。

 

 ケムリ玉とか珍しいもん持ってるな。

 だがそんな煙で姿を隠そうとしたって無駄だ。多少見えづらくなっただけ。それに私はもうお前の匂いを覚えたぞ。見失ったとしても匂いで……くさぁい!?

 

 きゃうん、と可愛らしく鳴いてしまったかもしれない。私の威厳が。

 というかあのハンター、またこやし玉を投げやがったな!? 煙の中でこやし玉とかアイツマジでテロリストだろ!

 

 くそっ! 鼻が痛い! おまけに苦しんでいる間に見失った! またこれか!!

 いや、まだ追えるはずだ! 煙から抜ければ視界は確保できる! 鼻はダメだが! それにやつの足では遠くまでいけないはず!

 

 煙から抜け出し周囲を見るも、人影はない。索敵範囲を広めないと。あいつは絶対に逃がしてはいけない。

 逃げる方角を予想して先回りするか? 追い詰められたら人里へと逃げ帰ろうとするはずだ。たしか……南の方に人里があったはず。そこまで行ってみるか?

 

 そう考え動きだそうとした途端、東の夜空にまばゆい光が生まれる。

 

 閃光玉だ。

 

 ここにいるといわんばかりの使い方。

 そうか、逃げたのではなく、仕切り直しがしたかったというわけか。ならその誘いに乗ってやる。

 

 

 

 

 

 そこは少し空けた場所だ。廃屋がぽつんとあり、それ以外は広々とした空間。

 その中央にあのハンターが立っていた。

 

 もしも、この場にいたのが私ではなくジョンやボブのような普通のジンオウガなら、まああいつらは普通っぽくなかったが、とにかく普通のジンオウガなら負けていただろう。

 

 ハンターの前の地面に、奇妙な盛り上がりが僅かに見える。

 

 落とし穴、だろうか。とにかく罠であることが予測できる。

 逃げると思わせて、仕切り直しと思わせて、罠を仕掛ける時間が欲しかったのか。涙ぐましい努力だ。だが無意味だ。罠に気づいていて、かかるやつなどいない。

 

 ハンターは太刀を構え、戦う準備を完了している。

 ここで決着をつける気だろう。私とて望むところだ。ここで終わらせてやる。

 

 行くぞ。

 

 

「……来い!」

 

 

 

 

 

 

 

 






前書きはクエスト『月下雷鳴』の文章です。

普通に書いていますが、ハンターの言葉はジンオウガには伝わっておりません。
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