ハンターは罠の周りから離れようとしない立ちまわり。
対して私は、罠を踏まないようにしつつ、避けまわるハンターを追い詰めなければならない。どうもあの罠は、ハンター程度の体重では反応しないようだ。やつは場所の制限なく動きまわれている。
こちらだけ特定地点を使ってはいけない、なんて意識すると地味にやりづらいな。
いや、何も私から近づく必要はないか。
やつが罠の上から動く気が無いのなら、誘いだしてやればいい。
私には雷光虫を遠距離攻撃として扱うことができるのだから。根競べの始まり……ってダメだダメだ。何度も雷光虫を飛ばせばその分私の帯電状態の終わりが近づくだけじゃないか。
それにいつまでも帯電できるわけでもない。今は雷光虫どもが協力してくれているが、こいつらだって休息が必要だ。でないとそのうち死骸となってしまう。
ハンターとの長期戦なんて、私のほうが不利なのだ。雷光虫の体力限界はハンターより早いはず。
ならば決めるべきは短期決戦。
徹底的なインファイトだ。
雷光虫ども! 一気に決めるために力を振り絞れ!
雄たけびをあげ、雷光虫の力を無理やり引きだす。
過去最高の輝き具合。月の光よりも遥かな煌めきを出している。
力を引きだしすぎたあまり、周囲に放電までしてしまった。その放電によって近くの大岩が壊れてしまう。さながら雷鳴のごとく鳴り響く破壊音。
「危なすぎるだろ……」
どうやらハンターは無惨な大岩を看取ってくれたようで。
ハンターの最期は私が看取ってやろう。私だけではない、雷光虫と月がお前の最期を見守ってくれるとも。
まずはシンプルに飛び掛かる。もちろんそんな単純な攻撃、あっさりと避けられるだろう。続く尾の追撃だって避けられることはわかっている。
やつは何度も連撃を凌いできたのだ。だが今までだってどれも紙一重の回避ばかり。そしていまの私は過去最高の帯電状態。
飛び掛かりは避けれるだろう。尾の追撃も何度も見たのだから、避けれるだろう。だがその次の追撃はどうだ。頭突きは、のしかかりは、脚は、尾の旋回は。
熾烈に迫る攻撃、回避も間に合わず、とうとう太刀を盾のように使うハンター。だが太刀にガードなどないだろうに。苦し紛れの行動か。
太刀ごとへし折ろうと、当たったと確信できるタイミングの尾撃の衝撃。それをやつは太刀によって受け流した。綺麗な攻撃のいなし。ここに来て新技術を見せてくるか。
いなし、反転して空いた距離を、助走をつけて詰めながら斬りかかるハンター。
もう、こいつの攻撃を受け止めるなど考えてはいけない。そのすべてが竜の牙と思い対応しなくてはならない。
上体を起こし刃を空かさせる。返す刃での追撃が来る前に、そのまま上から押し潰そうとすれば、私の脇の位置まで転がり躱される。起き上がりながら無理やり太刀を振るわれるが、無理な体勢からの攻撃は無視していい。強引に前脚で払い除ける。
「っつぁ!?」
相討ちの形か。こっちも痛ぇ。やっぱりあの武器単品でもかなり鋭い。それにあのハンターの技術が合わさって、危険極まりない。
ほとんど力を込めることができないはずのさっきの攻撃ですら、私の脚に斬り込みを入れるほどだ。
「あと少しってのに……」
さっきから奇妙な立ち回りをしやがって。
私が罠に引っかかるわけがないだろう。無駄な努力すぎる。まあ、私という普通ではないジンオウガと敵対したお前の運が悪かった。そう思って諦めてもらうしかない。
さすがに頑丈な防具といえど、私の攻撃を何度も受けているのだ。所々防具は破損し、肌は擦り向け血が滲んでいるハンターの姿。満身創痍といったところか。
苦しいだろうに。もう楽になっていいのだぞ、とばかりに脚を振り上げる。対応されることはわかっている。対応されるなら、その対応にまた対応だ。
普段よりも脚に電気を集め、ゆっくりとふりあげながら一撃の威力を高める。勘だよりに避けているハンターといえど、タイミングがズレるだけでもかなり難しくなるだろう。
雷の力を込めたこの前脚は、解き放てば振り絞られた矢のように鋭くお前を狙うぞ。
そぉれ。
「────ッ!!」
太刀でいなそうとし、目を見開くハンターの姿を間近で見る。
前脚の衝撃は地面が捲りあがるほどの威力だった。その威力がハンターに直接当たることはなかったが、
「太刀が……!」
折れた刃が宙を舞う。
いなし切ることができず、破壊の一撃を太刀で受け止めてしまった報いだ。これでお前は牙を失った。ハンターといえど、ジンオウガ相手に武器なしではお前などただの獲物だ。
ああ、めちゃくちゃ長かった! ようやく、今度こそ、この狩りが終わる!
武器がなくなったハンターは太刀の柄を捨てて走りだした。
勝ち目がないと悟った途端に即逃走。当然か。
だがお前は逃がさない。こんなチャンスはもう二度とないだろう。
閃光玉でも使うか? それともケムリ玉か? やっぱりこやし玉か?
どれであろうともう効果はないぞ。
ハンターは何も使うことなく逃げている。向かっている先は、1軒の廃屋。
まさかあの廃屋の中に逃げ込むつもりか? 私の攻撃力を知っていてそれを選ぶのか? よっぽど余裕がないのだな。
バチバチと身体に纏う電撃が弾ける。
あの廃屋に逃げ込むというのなら、目の前で廃屋を解体してやろう。電撃を一点、前脚へと集中させる。少し時間が掛かるが確実に壊すためだ。
「……よし!」
脚を振り下ろす寸前、そして、ハンターが廃屋へと入る寸前、やつが踵を返しその場で跳躍した。
そのままやつは地面へとうつ伏せに倒れこむ。
咄嗟に冷静さを取り戻したか? 解き放たれた電撃の一撃はハンターに当たることはないが、とにかく廃屋の破壊は確定だ。
雷の右脚に触れ、壊れゆく廃屋。
その中から爆音と共に、夥しい熱風が私を襲った。
いってぇしあつい!?
なんだこれは!? 何が起きた!? 爆発!? 何故!? どうして! まさか、あらかじめ廃屋に爆弾を運び込んでいたか!? だが私の鼻には火薬の匂いなんてしなかった!
衝撃に転がる私のそばにハンターが立つ。
「まだ鼻はダメになってるかよ……」
コイツ……! 勝ち誇ったかのように!
何を言ったかわからないが、勝利を確信したか! 少し策が上手くいったからといって調子に乗るなよ!
確かに思わぬダメージだが、まだ動ける。私はまだ戦える。
武器のなくなったハンター程度、問題ない。
立ち上がろうとした私の鼻先に、ハンターが何かを投げた。
「もうひとつおまけだ!」
くさぁい!?
コイツ、またこやし玉を! なんだこの糞ハンター! 絶対潰す! 確実に潰す!!
こんな嫌がらせばかりのハンターにすぐに報いを与えなければ。最後っ屁のつもりだったのだろうが、それはただ私の怒りを買うだけの行為だ。後悔して地面と一体化しろ。
痛む全身と鼻を無視し、素早く立ちあがってハンターへと迫る。やつは武器を構えていない。当然だ。太刀はもうないのだから。
「やっと冷静さを失ってくれたな!」
────っ!?
突然地面が沈んだ。
いや、地面が沈んだのではない。沈んだのは私の身体だ。
何故頭からすっぽ抜けていた。冷静さを失いすぎた。あの爆発とこやし玉の嫌がらせによって、完全に忘れていた。
くそ、あの爆発とこやし玉は囮か! 私の意識を落とし穴から逸らすための!
落とし穴から脱出しようともがくも、後ろ脚が何も蹴ることができない。中で何かを踏んでいるはずなのに、抵抗がなく地面を蹴れない。前脚で抜け出そうにも身体のほとんどが沈められて、これ以上沈まないように堪えることしかできない。
ハンターが私の顔にまた何かを投げつける。ぶつかったそばから赤い煙が発生し、私の体内へと吸収されていく。麻酔玉か。意識が薄れていく。
ダメだ。寝てはダメだ。雷光虫ども! 電気を高めて私の眠気を飛ばせ!!
薄れゆく意識の中、電撃を生みだそうとして気づいた。背中から雷光虫がいなくなっていることに。
さっきの爆発の影響か……! これだから虫は頼りにならない!
くそ、捕獲ということはどこかに連れられ、研究のための解体か、それともどこかの闘技場に連れられて見世物となるか。
どちらにしろ、すぐに殺されることはない。ならば脱走の機会はあるはずだ。
ぼやける視界の中、ハンターを睨み続ける。
必ずやこいつに仕返しするために、その顔を記憶に刻みつける。
ハンターが何かを言った。
「お前の負けだ、ジンオウガ」
なんとなくわかるぞ! 勝ち誇ったな、お前! 次はこうはならない!
これで勝ったと思うなよ、ハンター!
怨嗟の遠吠えを上げることもできず、私はそこで意識を手離した。
ゲームならここでジンオウガさんは終わりです。
でも二次創作なのでゲームと完全に同じにはしません。もうちょっとだけ続きます。