たぶんジンオウガ転生物   作:横電池

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時は満ちた…! 闘技場に集いし4つの災厄はそなたの躯を易々と蝕み、喰らい尽くすであろう。
この宿命に打ち克つ自信があるのならば、恐れず立ち向かえ。
終幕の時はもう目の前なのだ…!


6ワオーン

 

 

 

 目が覚めれば、そこは狭い檻の中だった。

 無造作に肉が檻の中に投げ入れられてある。血がほとんど残ってない肉だ。喰えないこともない。

 

 なんでこんなところにいるのだか。

 そう考えて、すぐに思い出す。

 

 そうだ。あのハンターに私は遅れを取ってしまったのだ。

 捕獲されて、気づけばこんな場所。研究施設という感じではないと思う。ということは闘技場に連れられたか。耳を澄ませば他のモンスターの息遣いも聞こえてくる。

 雷光虫は……いないか。やっぱりあの時の爆発でほとんど散ってしまったか。今から集めようにも闘技場に雷光虫なんていないだろうし。ここから出ることができたら、また1から集め直しだな。

 

 とにかくまずは脱走しないとだ。

 このままここに居続けても嫌な予感しかしない。闘技場なのだから、見世物として戦わされるだろう。その間はまだいい。新鮮味の薄い肉が出続けることだろう。だがそんな生活が長く続くとは思えない。それに私自身、ここに居続けようとも思わない。

 

 檻の中から周囲を見ようにも、布が掛けられているのか全然見えない。隙間が少しあるのでそこから狭い範囲を覗ける程度だ。顔を屈め、外の様子を見ればまたも檻。

 

 その檻の中にはリオレウスがいた。空の王者も牢の中とは、革命でも起きたのかな。

 それにしてもあのリオレウスの翼、なんだか違和感がある。捕まった時に怪我をしたのか? 翼膜がバッサリ斬られている。争って斬られたにしては綺麗すぎる。

 ひょっとして飛んで逃げられないように処置されたのだろうか。ゲームと同じなら闘技場って屋根のない場所で戦うし。

 まああの切れ込み具合なら、短時間なら飛べそうではあるが、長い距離は飛べないだろう。

 

 覗くのはやめて考える。

 あのリオレウスを見る限り、他にも脱走防止処置はされているだろう。空を飛べるモンスターは翼膜に切れ込み、地中を潜るモンスターには……地面に細工か? まあ私は潜れないから関係ないが。

 私にも何かしら細工がされているのでは、と身体を確認。しかし雷光虫がいないこと以外、変化は特にない。

 脚の腱が切られているわけでもないし、爪を剥がされているわけでもない。まあ片方の爪はあのハンターに斬り落とされてしまったが。角も片方折られたし……思い出したらむかついてきた。

 

 私自身に細工はされてなさそうだ。となれば、脱走防止は外にあるか?

 闘技場で戦う相手以外にも見張りハンターがいるとか、バリスタみたいな兵器があるとか。たしかバリスタで拘束とかできたはずだ。

 

 脱走するタイミングとしては、やはり闘技場で戦うときだろうか。檻から出され、さらには青空の下だ。

 問題はバリスタの弾を避けて脱走できるかだ。生で見たことないから少し不安がある。

 

 む。

 

 何かが近づいてくる音が聞こえる。それも複数。まあここで自由に動ける存在なんて人間しかいないか。

 人間たちは私の檻の前で止まった。早速見世物デビューか。

 うお、揺れる。

 檻にタイヤでもついていたのか? カラカラギイギイと音を立てて移動し始めた。布は掛けられたままだ。

 

 運んでいる人間たちの息が荒い。タイヤつきの檻とはいえ私の体重を運んでるんだしな。

 

 そんなことを思っているうちに、目的地までついたのか、揺れは収まり、僅かに歓声のようなものが聞こえてきた。

 

 何か重たいものが動く音と共に、掛けられていた布が外され、檻の扉が開けられた。

 

 太陽の光に照らされた地面が見える。

 檻から出て、まっすぐ進めば太陽の下に出られる。本能的に走りそうになった。

 

 だが途中で脚を止める。

 

 今が最大のチャンスではないか?

 

 まだ闘技場の広場ではないこの場所。観客の目にまだ見えない場所。観客席に飛び乗り、壁を越えれば逃げれるだろうが、おそらくバリスタ的なものに阻まれるだけだ。

 だったら広場に行かず、檻の中に戻る……のではなく、運ばれてきた道を逆走してはどうだろうか。捕らえられ、自由を求めるモンスターは普通なら太陽を求めると思うだろう。まさか暗がりに向かって走るとは思うまい。予想外な動きに人間も混乱するはずだ。

 その混乱に乗じて脱走する、なんてセオリーだろう。

 

 そうと決まれば迷っている時間はない。私は太陽の下に向かって走りだし、すぐさま反転。

 さっきまで入っていた檻を殴り横に飛ばす。理由は檻が先程通った通路を塞いでいたから。

 

「な、何!? このジンオウガ、おかしいのか!?」

「わからん! すぐにハンターに連絡を!」

 

 あわてふためく人間の声が聞こえる。ただの戸惑う悲鳴であればいいが。

 とにかく通路を逆走だ。

 

 

 

 通路は薄暗いが、結構走りやすい。

 モンスターをいれた檻を運ぶ通路なのだから広さはしっかりある。

 しかし出口らしきものは見当たらない。ひょっとしてこの先は袋小路なのでは。って、あ、ダメだ。行き止まりだ。

 どうする? 今から戻って広場から脱走を狙う? いや、もうかなり警戒されているはずだ。最悪戻ろうとしたところを、何人ものハンターが待ち構えているかもしれない。

 

 ふと、いびきが聞こえた。

 

 他のモンスターの寝息だ。そうだ、他のやつらも脱走させれば大混乱では。檻を壊せるかが問題だが、とにかくやってみるしかない。

 近くにある檻から布を剥く。そこにいたのは大口を開けて寝ている黒いティガレックス。ティガ亜種だ。

 

 呑気に寝ている姿がむかつく。いや、これは眠らされている? こいつの口のそばに食べかけの肉がある。ティガは食べ残しなんてせず、ひたすら食い意地を張るイメージだ。なのに食べかけの肉を残して寝るとなると……眠り生肉か。

 

 ティガレックスの亜種といえば、たしか大声が特徴だったか。破壊力を持つ声。檻の中にいるというのに、わざわざ眠り生肉を使って無力化させている状況。

 

 こいつなら檻を壊せるのでは。

 

 私自身で破壊できるならそれに越したことはない。檻の破壊とこいつを起こす、同時に試してみよう。

 

 寝ているティガ亜種の檻を全力で叩く。バキッと音がしたが、檻は健在。檻の下に仕込まれていたタイヤが壊れただけだ。

 そして激しく揺らされたのにまだ起きないティガ亜種。こいつの性格が呑気なのか、それとも眠り生肉がよっぽど強烈だったのか。

 

 しかし今の音に、他のモンスターたちがざわつきだした。まあ普通起きるよな。折角だ。他のやつらも見てみよう。

 

 ここにはティガ亜種以外に2つ、檻がある。それぞれの布を取って見れば、中にいたのはアグナコトル亜種。ディアブロス亜種。

 亜種ばかりが集められていた。

 

 ディア亜種は檻に入れられているだけだが、アグナ亜種には口枷がされている状態だ。冷気ブレスをさせないためか。

 

 口枷をわざわざしているということは、冷気ブレスでも檻が破壊できるとか? 口枷程度なら私の爪で千切れるはずだ。檻の隙間は前脚が入るほど大きくない。だが爪の1本ぐらいならなんとかなる。

 

 アグナくん、こっちに顔を近づけなさい。そう吠えながら檻のそばで待ったが近づけてくれない。くそ、警戒されてる。

 あまり時間は掛けてられないというのに。

 

 その口枷を外してやるから来いっての!

 

 ガジガジ檻を噛んで主張してみるも、余計に離れやがる。

 

 もう面倒だ。私は檻の角を持ち、脚に力を込めた。

 そのまま檻を傾ける。そばに来てくれないのなら、無理やり来させるしかない。傾け、倒し、また角を持って傾け、と繰り返す。

 がしゃんがしゃんとうるさい音を鳴らしている最中もティガ亜種はいびきをかいていた。ディア亜種は気が立っているようなのに、呑気すぎる。

 

 やがて揺られに揺られたアグナの嘴が私のそばに来た。逃がすまいと爪でガジガジ削る。

 そんなにしっかりとした造りではないはず……すぐに千切れ……た!

 

 アグナくん、どうだね。私に感謝したまえ。

 

 しかしアグナコトルが行ったのは、感謝の行動ではなかった。

 

 カチカチカチと自由になった嘴を鳴らし、私目掛けて冷気ブレスを放った。

 突然の暴挙に驚くも、予備動作のおかげで回避が間に合い難を逃れる。しかし流れ弾もとい流れブレスは隣の檻のディア亜種に当たってしまった。

 

 ディア亜種はただでさえ気が立っていたというのに、だめ押しのような冷気ブレスで完全にキレたらしい。甲高い咆哮をあげて怒りを表明する。

 

 耳が痛くなるほどの大声量。きゃうんと悲鳴が出かけた。だが我慢できた。

 

 しかし檻がまだ壊せて────きゃうんっ!?

 

 ディアブロス亜種の咆哮が終わった途端、また別の場所から咆哮があがった。

 ディア亜種に比べて低い鳴き声。だが遥かに大きな声量で。空気は震え、衝撃となって周囲を襲った。

 

 私ですら転倒しかけるほどの衝撃。人間の用意した檻も耐えることができずに破壊されるほど。

 声でそれを成し遂げたそいつは、ティガレックス亜種は、眠りを邪魔されたことにキレているのか顔は獰猛に変わっていた。

 

 

 

 

 

 

 また通った道を私は走る。 

 今度は闘技場の広場に向かって走る。後ろで暴れながら追いかけてくるのはあの3頭。私たちに仲間意識はない。というかどいつもこいつも、キレている状態で見境なく暴れようとしているだけだ。

 アグナコトル亜種は私を特に敵視しているのか、ひたすら追いかけてくる。ティガ亜種とディア亜種は目についたものを襲っているのでやや距離が空いている。

 

 だから一番に広場に出たのは私だ。

 そして待ち構えていたのは4人の人間。おそらく全員ハンターだろう。

 全員あのハンターと同じぐらいしぶといとしたら、戦いたくない相手だ。

 

 背後からカチカチと音が聞こえる。

 撃たれる前にその場から跳び退けば、その場に極限まで冷やされ圧縮された水のブレスが穿たれた。

 

「! こいつ、アグナコトル亜種を連れて……!」

「ディアブロスとティガレックスまで!」

「拘束準備が終わるまで耐えろって言われたけどキツいぞこれ……」

 

 口枷を解く際の一連の動きで完全に恨まれている。あいつは完全に私を敵と認識しているようだ。アグナだけは先に潰しておいたほうが、脱走は確実かもしれない。

 ティガとディアブロは放置……とまではいかなくても、近づかないようにしておけば大丈夫だろう。あの2頭は近くにいるやつを優先で狙ってるようだし。あ、ハンターが1人吹き飛ばされた。

 

 ハンターは見たところ、アイツほどのしぶとさはないか? これならアグナごと一気に叩き潰せそうだ。背中を揺すり静電気を発生させる。そのまま雷光虫と共鳴させ……れない。そうだった、いなくなっていたのだ。

 くそ、いたらいたで気持ち悪い虫だが、いなくなると背中がスースーするな。

 

 って、やばい。ディアブロスがこっちに突進してきている。

 すぐに前脚でディアブロスの頭部を抑えつけるも、勢いを止めきることができない。なんだこの馬鹿力。真正面からはこれ以上受け止められない。横に流して難を逃れれば、アグナが地中に潜る姿が見えた。

 あいつは絶対私を狙って来る。そう確信して構えていれば、ティガレックスが大咆哮をあげ空気を震わす。殺傷範囲にいたのはハンターだけだったが、音の影響でアグナが飛び出た。

 

 もう滅茶苦茶な状況だ。

 

 人間と争いつつも、モンスター同士でも争う状況。

 音の攻撃によってアグナも私以外も敵と見なしたようだ。無差別にブレスを吐き回る凍戈竜。暴れている中で唯一の遠距離攻撃を持つだけあって、周辺の被害がひどいことひどいこと。

 他人事のように見ていたかったが、私も避けるのに必死だ。少し掠めただけで鱗を剥がされたかのような痛みを覚える冷気。当たりたくない。

 

 暴れ回るアグナコトルに向かってバリスタの矢が放たれた。闘技場の広場ではない、観戦席から、それも複数だ。その矢のどれもに紐がつけられており、アグナコトルの身体を拘束する。

 

 今が最大のチャンスだ。

 脱走防止用の拘束兵器はアグナコトルに使われた。未だティガとディアブロは暴れている。対応しているハンターたちもほぼ半壊。

 

 幼竜の頃から険しい崖道を動きまわっていた私の身体能力なら、跳躍で観戦席まで行ける。そこから外へ逃げることができる。

 

 迷うことなく私は観戦席へと跳んだ。慌てふためく人間たちが我先にと逃げようとしている様子が良く見える。誰も下敷きになることはなかったが、次はどうなるかわからない。

 蜘蛛の子を散らすように、とはこのことか。悲鳴をあげながらどんどんと人間が逃げて行く。

 

 む。

 

「これが終幕の予兆か! その爪と牙を存分に振るい、ハンターに4つの絶望と4つの試練を与えるがいい! そうだ、時は満ちたのだ!」

 

 何故か逃げずに気持ち悪い笑顔を浮かべている黒衣の男がいた。

 なんかキモイので無視して私は脱走を選んだ。

 

 

 ・・・・・・

 

 

 道などわからないが、勘を頼りに走る。

 あの渓流へ、あのハンターの元へ。ただひたすら走る。

 

 帰巣本能とでもいうのだろうか。なんとなく、の感覚で進んでいるが、道を間違えているかもなどという不安は一切なかった。

 あるのはただ一つ、あのハンターへのリベンジだ。

 しかし随分と距離がある気がする。相当遠くの闘技場まで私は運ばれたか。

 何度も夜になり、身体を休め、再び走りだし、と繰り返す。

 

 少しずつ見えてきた、見慣れた山や森。

 ここから南下すれば、きっとあのハンターがいる里だ。

 

 あのハンターめ、今頃は私のような強力なジンオウガを倒した英雄として持て囃されていることだろう。だがそれももうおしまいだ。人間の手から逃れ、復讐のために私は今戻っ……

 

 ふと感じた違和感に、動きを止める。

 

 …………風が、強い。強すぎる。

 

 山の上に掛かる雲はうねりを作り蠢いている。

 まるで山の上でだけ、嵐が渦巻いているかのように。

 

 ──────いる。アイツが、あそこに戻ってきている。

 

 あの古龍が、アマツマガツチが、あの嵐の中にいる。

 

 

 

 

 

 




 

前書きは集会所上位のクエスト『四面楚歌』の文章です。
実際は1頭ずつのクエストです。出てくるモンスは同じですが。
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