たぶんジンオウガ転生物   作:横電池

8 / 8
8ワオーン

 

 

 

 

 

「ああ、自分もあの龍が嫌いだ! だから今だけは、一緒に戦ってやるさ!」

 

 背中でハンターが叫んだ声は、風にかき消されることなく私の耳に届いた。まあなんて言ってるかはやっぱりわからないが。

 だが声の勢いからして、この嵐の中でも戦意は失っていない。それにきっと私の意図も理解しただろう。

 

 私からやったことだが、まさか雷光虫以外を背に乗せることが来るなんて。それもあのハンターを乗せることになるなんて。

 だが背中に何かがあるというのは存外、悪くない。

 

 暴風の中からまた、圧縮された水のブレスが飛んできた。

 直撃は避けたが肩を掠めて少しグラついてしまう。

 

「お、おい! ちゃんと避けろ!」

 

 なんだハンター。文句あるのか。私はお前と違って大きいから回避が難しいんだ。それに受ける風の量も多いのだから。

 いいからチビは黙って構えてろ。私の背に刃は立てるなよ。

 

 アマツマガツチの周囲を旋回するように走りだす。すぐに近づかないのはヤツに近づくほど風が強くなり、私ですら自由を奪われるから。立ち止まっているよりは狙いがつけづらいはずだ。

 

 それに、ヤツはきっと経験が浅い。

 

 絶対的な強者である古龍だ。ほとんどの生物が本能的に敵わないと悟り、姿を隠し逃げて行く。それはすなわち、狩りの経験が絶対的に少ないということに繋がる。

 あったとしてもハンターのような頭のおかしい狩人。つまりは人間相手だ。人間相手でも、本気の風を使えば動かない獲物にしてしまえるだろう。

 そのため、ヤツの戦闘経験は多くない。ジンオウガの群れと戦った時は……私たちはあの時、怒りで直情的な攻めしかしなかった。それが一番の敗因だろう。

 

 だからこそ、狩人とも呼ばれるジンオウガが、私たちが本当の狩りを教えてやる。

 

 なかなか近づかない私たちに対し、アマツマガツチが身体をくねらせ、その場で高速回転を始めた。

 するとその場に竜巻が生じ周囲を巻き上げ始め、意志を持つかのように私たちへと迫った。

 

 この暴風の中、竜巻で攻撃?

 

 お粗末すぎる。竜巻をかき消さないように、周囲の風が弱まったのがよくわかるぞ。

 

 今ならば────!

 

 旋回をやめて方向転換、一気にアマツマガツチへと近づいた。

 迫る竜巻など、破壊力こそ秘められているが指向性がある時点で回避は容易い。

 

 距離を詰めたと同時に私はヤツの鼻柱に頭突きをかまし、私の頭の位置が下がったことで次はハンターの太刀がアマツマガツチに振るわれた。

 その斬撃はヤツの角を宙に舞わせた。

 斬った音とは異なり、砕くような音。

 

「硬ぇ……! けど折れた!」

 

 おい、ハンター! 角より首を斬り落とせ! せっかくお膳立てしてやったというのに!

 

「来るぞ!」

 

 ────っと!

 

 爆風と共にアマツマガツチが突進を行った。

 至近距離すぎて避ける間はなかったが、両前脚でその頭部を掴み、抑える。

 

 突進で蹴散らそうとしたか? 古龍と怪力勝負ができるなんて光栄だ。

 

 ほんのわずかの膠着。

 このまま押し勝てるとも思ったが、すぐに横へ流し離れる。すると力の拮抗がなくなったことにより、アマツマガツチは突進の勢いのまま地を滑って行った。遅れてヤツの周囲の風が強くなり、周辺を吹き飛ばす。

 

 アマツマガツチが怒りの咆哮をあげる。

 その姿に恐怖など感じる要素はない。ただ癇癪を起したようにしか見えない。冷静さを欠いた相手など、無双の狩人とも呼ばれるジンオウガの前では獲物同然だ。

 

 それよりも、風の鎧が乱れているぞ。心が乱れた影響か? それとも角を失ったためか?

 お前の心を乱し、角を折った相手は目の前だぞ? 天災のごとき力を持つ古龍ならそんな相手をつぶす手段などいくらでもあるだろう? さぁ、次の攻撃をして見せろ。すべて無意味だと教えてやるから。

 

 挑発するようにゆったりと、肩周りの筋肉をほぐすように首を回す。

 

「お前って性格悪いよな。ジャギィたちを追い払ってた頃から知ってたけど……」

 

 なんだ、その呆れた声音は。

 そうか、ハンターもあの古龍の不甲斐無さに呆れているのか。だよな、あの古龍さまったら、狩りの技術ひどすぎるもんな。

 

 風が強まり、アマツマガツチに引き寄せられるのを感じた。

 

 そうか、次はその手か。

 私は堪えるように少し身をかがめ、ハンターにアマツマガツチの姿が良く見えるようにした。 

 

 今のヤツは身体に力を溜めている。印象的だから覚えているぞ。ダイソン、なんてあだ名をつけられていた大技だ。

 ゲームと同じような展開はきっとないだろう。引き寄せることに成功したら、すぐに大竜巻が放たれるはずだ。最悪この溜まり場を全て呑み込む規模のものが生まれるかもしれない。

 

 ならば肉薄した瞬間に、ヤツを斬ればいい。

 竜巻が放たれる前に、ヤツが引き寄せから、解き放つまでの思考のラグを狙えばいい。あんな狩り未熟者相手、ハンターなら遅れをとるまいな。

 

 しばらく抵抗したのち、一気に近づく。だからタイミングを逃すなよ。

 

 背に向けて小さく吠える。

 何か狙っているということさえ伝わればいいが、まあコイツとはこれで5度も続く縁だ。敵ではあるが、同じ狩人と呼ばれる者同士。考えは似通っているのだから伝わったはず。

 

 風がさらに強まり、堪える身体を少しずつ引きずって、アマツマガツチに近づけていく。

 

 まだだ、もう少し耐えろ。

 一足で肉薄できる距離になるまで、間合いの管理に集中しろ。私はジョンやボブと違って知的ジンオウガだ。考えた作戦は必ずうまく決めて見せる。

 

 …………今! 行くぞ!

 

 突然堪えるのをやめて自ら突っ込んでくる私たちに、アマツマガツチの対応は遅れ、

 

「っそらぁ!!」

 

 ハンターの一閃がヤツの眼を抉った。

 眼をやられ、激痛に力の制御が狂うアマツマガツチ。集められていた風は指向性を失い、その場で暴発するように放たれた。

 竜巻にならなかった風の暴力は私の身体を吹き飛ばし、地面に転がされる。崖まで吹き飛ばすほどではなかった。だが指向性を持たせていたらどうなっていたか。

 

「攻撃が来る!」

 

 ハンターの声にハッとする。

 急ぎ立ち上がれば水のブレスを放つ寸前のアマツマガツチの姿。それと、小さな物体が私とヤツの間に投げ入れられる瞬間だった。

 

 これは……閃光玉!

 

 咄嗟に身を翻して光から目を背けた。

 背後からはまばゆい光に目をやられて呻く古龍の声。

 

 仕切り直しとしては上等すぎる。しかし私まで喰らうところだったぞ、この馬鹿。

 

「お前なら避けれるって信じてた! そろそろ終わらせるぞ!」

 

 片目を潰され、残った目も光で視力を奪われた古龍は我武者羅に暴れ回る。

 まるで何も近づけまいとする動きだ。特に重点的に守っているのは頭部だな。当然か。何せ生まれて初めてだろう。ここまで追い詰められたのは。命の危機に瀕したのは。

 

 我武者羅に暴れて頭部を守るなら、おざなりになっているその尻尾をもらおうか。太いわ長いわで鬱陶しかったからな。

 

 後ろに回り込み、両前脚で尾を抑えた。

 触られてから私たちの場所に気づいただろうが、もう遅すぎる。太刀の刃によって尾が切断された。

 

 こちらの攻撃が終わればすぐに離れる。でないと風に────っ!

 

 正確に飛んできた水のカッターがこの身を襲う。反射的に避けようとしたが、完全には避けきれず、私の尾が切断された。

 

 しかしクソッタレ古龍め、もう視力が戻ったか。生まれて初めて尾を切り落とされるほど追い詰められただろうに、すぐに反撃とは案外肝は座っているようだ。それとも怒りで痛みに鈍くなっているか?

 

「尻尾が……!」

 

 だとすればお揃いだな。片角になったところも、尾を失ったところも、怒りで痛みに鈍くなったところも。私は怒りというより使命感のようなものだが。

 

 む。

 

 アマツマガツチが一気に上空へと飛び始めた。

 ハンターにやった時のように、超遠距離からブレスで一方的に攻めるつもりか。ならもう一度跳躍して噛み落としてくれる。

 さっきのは不意打ちだったからこそ、上手くいったのもあるだろう。ターゲットがハンターだったから、突然現れた私に対応できなかった。今回は違う。だが、たとえ跳んでいる最中に穿たれようと、私はお前を必ず堕としてやる。

 

 ヤツが大きく息を吸い込み、薙ぎ払うようにブレスを放った。その初撃を躱し、一気に跳ぶ。

 空中で私は身動きを取れない。だから2撃目があるなら覚悟して受けてやる。その代り、この勢いを殺すことはできない。

 

 アマツマガツチは私の捨て身の攻撃に、反撃することなく避けることを選んだ。

 

 意外に冷静さをまだ少し残していたか。それとも生存本能か。

 絡みつくはずだった対象はいなくなり、私の身体は落ちていく。

 

 その前に、私の背中をハンターが蹴ってさらに高く跳んだ。

 

 お前、雷光虫でももう少し優し気に私の背中を扱うぞ。やっぱり背中に乗せるなら雷光虫の方がいいのかもしれない。

 私を踏み台みたいに扱いやがって。

 

 こんな扱いしたんだ。詫びとして絶対に決めろ。

 

「これで、決める!」

 

 ハンターの掛け声と共に、アマツマガツチの頭に太刀の兜割りが襲った。

 その刃は首の半ばまで斬り込みを入れる。

 

 致命傷を負い、ハンターと共に落下していくアマツマガツチの姿。

 

 私はすぐさまハンターの落下地点まで走り、背中で受け止める。

 すぐ隣でアマツマガツチの身体が地面にぶつかり、小さな地響きが起きる。

 

「ありがと、たすかった……!」

 

 まだアマツマガツチが生きている可能性があるから戦力の確保としてお前を死なせなかっただけだ。勘違いするなよ!

 

 伝わるかわからないがそう吠える。

 風はかなり弱まったが、まだ天候は荒れている。

 

 風の音で聞こえづらいが、苦し気な呼吸音がアマツマガツチから聞こえてきた。

 

 ……やはり、まだ生きている。

 

 だがもう虫の息だ。

 

「うおっ!?」

 

 ハンターを振り落とし、アマツマガツチの首を脚で抑えながら大きくひと鳴きする。遠くまで聞こえるように、雲の向こうにまで聞こえるように。

 

 ようやくだ。

 ようやく、私はここまで来た。

 母よ、見てくれているか。皆、見てくれているか! 私は強くなった! もう皆の足手まといではない! 一緒に戦えるほどに強くなった!

 だから私を置いていかないでくれ! 戻って来てくれ!

 

 私はアマツマガツチの喉笛に全力で噛みついた。

 弱々しい力でのたうち抵抗するのを無視してヤツの身体を噛み千切っていく。

 

 ジョンやボブと3頭で並んで、ガーグァの骨を噛み砕いたことがあったな。

 初めて母に全力で噛みついたときは、あまりの硬さに呆然としたな。

 

 あの日々の思い出は、こんな古龍の肉より遥かに幸せな噛み応えだった。

 

 ブチリとヤツの気道を引きちぎったころにはとうとう息絶えていた。口の中に残った肉を吐き捨てる。こんなヤツの血肉など、私の身にはいらない。

 

「……空が」

 

 嵐そのものの龍の命が潰え、空には澄んだ青色が戻ってきた。

 私は崖の端に立ち、眼下に向かって一際大きな遠吠えをする。

 

 

 あの忌々しい古龍は死んだ! もうこの場所を穢されることはない! またあの頃のような生活も戻れるんだ!

 

 だから、だからみんな、戻ってこい! もう一度あの幸せな時間を過ごせるから! だから!

 

 

「……」

 

 遠吠えに応える声は上がらない。

 

 ……もちろんわかっていたことだ。アマツマガツチを倒せても、あの頃には戻れないということぐらい。もうここには何も残っていない。ヤツの嵐に散々荒らされ、かつての穏やかな面影のない場所になってしまった。

 

 随分と遅くなってしまったが、ようやく私も巣立ちの時なのだろうな。

 

 私の行動を見届けていたハンターを見て言った。

 

 私はこの地を去る。もう遭うことはないだろうが、もしも遭えば容赦はしない。

 

 ハンターは何も言わない。まあ伝わらないか。

 だが私は伝えた。伝わらなくても伝えたのだ。義理は果たした。だから次は遠慮なく叩き潰す。

 

 

 

 

 

 

 嵐の化身、アマツマガツチの狩猟はとうとう終わった。

 風は穏やかになり、空は煌めいて見える。

 

 そばにはアマツマガツチの骸だけ。

 あのジンオウガは小さく吠えてから、どこかへと去って行った。

 

「あったあった」

 

 地面に突き刺しっぱなしだった剥ぎ取り用ナイフを見つけてほっと安堵。

 

「報告、どう話したもんかなぁ」

 

 アマツマガツチの狩猟はジンオウガと協力したなど、荒唐無稽もいいところだ。しかもジンオウガの背に乗って戦ったなど、夢物語でももう少しマシかもしれない。

 

 だけどまあ、全部話そう。

 起こった出来事を全て、見て感じたことを全て。

 

 思わぬ戦友の誕生に、その友の怒り、哀しみ、虚しさ……あと所々煽るような性格の悪さ。

 

 嵐を止めた立役者は自分一人ではないのだと、あのジンオウガについて細かに伝えよう。

 それが協力してくれたことへの礼儀だろうから。

 

 崖の端に立ち、眼下に向かって大声を出した。

 

「他のモンスターにも優しくしろよー! じゃないとまた、自分がお前を狩ることになるからな!」

 

 

 返事をするように、どこかからワオーンと遠吠えが上がって少し笑ってしまった。

 

 

 

 

 




 


これで完結です。

ジンオウガの登場するクエストにどんどん絡ませてみようかと考えましたが、それをしちゃうとあの世界が狭くなってしまいかねないのでサクッと完結まで持って行きました。

後書きなので、特に本編と関係ない微妙な設定を書いておきます。

ジョンについて
ジンオウガAことジョンはジンオウガ亜種です。3G仕様。
なんかこう、幼竜の頃に事故で親とはぐれてしまい、生き延びた先の氷海でなんとか生き延びていたらジンオウガ亜種になっちゃった、みたいな。
3Gの亜種は距離を離してはファンネルこと蝕龍蟲を飛ばすやらしい性格だったので、作中でもなんかやらしい性格扱いです。

ボブについて
ジンオウガBことボブは金雷公です。
超特殊の純粋なバ火力から馬鹿力設定となりました。避けづらい頭突きですら4割近く削るんだもの……

そんなわけで、ジョンとボブは実は生きています。
今後この知的オウガが会えるかは……想像にお任せする形で。

長々とありがとうございました。
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