魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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心の声にこたえて

 

  終わらせるといったミラの声音がひどく冷たく感じた。

 

 なんでだろうか、それだけで胸が締め付けられるような気がする。あたしはクールブロンを握りしめる。目の前にたたずむミラは聖剣を手に緩やかに構えている。ただその眼光はあたしたちを射抜くように鋭かった。

 

 こんなのはただの模擬戦と言っていいはずだ。でも今のミラはそんな空気じゃない。この授業中ずっと感じていたのはもしもあたしが負けたらミラはいなくなってしまうんじゃないかってことだった。別に誰かがそういったわけじゃない。そう感じるだけ。

 

「ミラ」

「…………」

 

 あたしの呼びかけに反応しない。その間にそばのラナとニーナに静かに言う。

 

「離れないで」

「ミラスティアに対していろいろと私も言ってやろうと思ってたけどあいつマジね……」

「ああ。わかった」

 

 二人は構えたまま頷いてくれた。

 

 ぴりぴりと肌が感じるのはミラの体から放たれる魔力の波動もある。でもそれ以上にあたしは彼女の力をよく知っている。油断すれば一瞬で負ける。それでも話しておきたい。だから前に一歩出た。

 

 彼女の父親のことも今までのこともいろんなことが頭の中でぐるぐるする。そんなあたしをミラは静かに見ている。

 

「……なんでこんな感じになっちゃったかってよくわからないけどさ。屋敷に行った夜はあたしも冷静じゃなかった。……そのさ、うまくいえるかはわからないけど、あの時は……ミラが悩んでいるなら言ってほしいってカッとなったんだ」

 

 言葉が重い、なんでだろうそう感じる。一言一言を口に出すことがすごくきつい。ミラはずっと表情を変えない。

 

「だからさ、ごめん。これは先に言っておくよ……」

 

 なんで謝っているんだろう。言いたいことはきっとこんなことじゃない。ただミラは一度目を閉じてそしてまたあたしを見る。

 

「マオ」

「……なに」

「貴方に言って解決できないこともあるよ」

 

 あたしの中のどこかで音が鳴った気がした。何かがきしむような割れるような音が聞こえた気がする。足から力が抜けそうになるのだけはなんとか抑える。

 

「あんた!」

 

 ラナの声が叫んだ。

 

「その言い方はないんじゃないの!? こいつは確かにいろいろと変なところはあるけど……どういうやつか……あんたが一番わかっているんじゃないの?」

 

 ミラは言う。

 

「わかっていますよ。ラナよりも」

「……っ! いい性格してたのね。あんた」

「……そうですよ」

 

 ミラはあたしたちを見る。

 

「私はいろんなことをちゃんと気を遣ってきましたから。私はね、マオ。この前の夜のことでわかったんだ」

「わかった?」

「そう、マオが言ったでしょ。下に見ているんじゃないかって」

「……う」

「そうだよ」

 

 胸が苦しい。

 

「私はいろんなことを学んできたけど、同世代の子に負けたことがない。……違うね。勝負をしたことがないかな。みんな一生懸命に頑張って努力してできたことを……私がするとみんな泣いたり悔しがったりするの」

 

 ミラは乾いた笑みを浮かべる。

 

「だから傷つけないようにできるだけのことをしてきた……でもさ、疲れた.。そう疲れたってことが分かった」

「…………」

「私はエトワールズもやめるね」

「ミラ……!」

「『貴方たち』に関わらないようにするだけ。邪魔をする気はないし、ただそれだけ」

 

 彼女の体から魔力が溢れる。白い膨大なそれにあたしの体が圧される。モニカと戦った後なのにこれだけの力を持っている。彼女は魔力の光を背に言う。

 

「ただ、この戦いはちゃんと終わらせる」

 

 ぞくりとした。あたしは叫ぶ。

 

「ラナ! 魔力を貸して!」

「……いいわよ!」

 

 一瞬でミラが飛び込んでくる。ラナの手を取って魔力を借りる。頭が痛い。詠唱している暇なんてない。無理やり魔法を構築する。右手を出す。心の中で「アクア・クリエイション」と叫ぶ!

 

 力の勇者をかたどった水人形を現出させる。急速に集まってきた水を魔力で結集させる。

 

 ミラの剣が撃ちこまれる。水人形の腕だけに魔力を強化して受ける。その一撃だけ何とかはじく。痛い、頭が痛い。ニーナとの修行で作った水人形よりもはるかに精巧に構築する。それを無詠唱でしたから……反動がひどい。

 

 それでもこの魔法なら接近戦でも引けを取らない。

 

 でも、ミラは冷静に距離を取る。はは、あたしはその判断の正しさに笑えてきた。接近戦ならミラも圧倒できるかもしれない。でもこの魔法は精神的にも魔力手にも消費が激しい。彼女と戦えるレベルの水人形は長くはつづけられない。

 

「はあはあ」

「どうするのよ。これ」

 

 ラナの声が遠くに聞こえる。作戦を考えるしかない。でもその前に青い光が奔る。ミラの聖剣に雷が宿る。彼女は聖剣を振った。

 

「よけて! ラナ、ニーナ!」

 

 あたしがラナを突き飛ばして横に飛ぶ。水人形は形を失う。一瞬遅れてあたしたちの立っていたところに雷撃が襲う。倒れるわけにはいかない。よけざまに走る。的を絞らせるわけにはいかない。

 

「ミラ。こっちだ!」

 

 白い髪をなびかせながらミラはあたしをちらりと見て、ニーナに向かう。

 

「来るのか…………。何!?」

 

 ニーナは驚愕した声を出す。あたしも何が起こったか一瞬わからなかった。

 

 ミラが聖剣を地面に突き立てて、素手で向かったのだから。彼女は疾風のようにニーナとの距離を一気に詰めた。ニーナは体に炎を宿して拳を繰り出す。ミラはそれを腰を捻ってよけて肘を打ち込む。

 

「ぐあ」

 

 ニーナの制服の防御魔法が発動する。ミラはその場で半回転しながら蹴りを繰り出す。ニーナはそれを腕でガードしたがはじきとばされた。

 

「何してんの! 水の精霊ウンディーネに命じる!」

 

 ラナが魔法を唱える。青い魔法陣が展開されて水の塊が空中にいくつも浮かび上がる。ニーナを蹴り飛ばしたミラを狙い打とうとしているのだ。だがミラは振り返った。右手をラナに伸ばし魔力を収束させる。高速で展開された魔法陣。彼女の口元が動いているのは詠唱をしている……!

 

「アクアショット」

 

 ミラが魔法を唱えた!? 

 

 ラナよりも早く水の弾丸が打ち出される。ラナが一瞬遅れて反応した。

 

「……!? アクアショット!」

 

 双方から水の弾丸が撃ち込まれる。ラナが後ろに下がる。一撃食らった……? 逆にミラはその場で伸ばした右手をすっと元に戻す。

 

 …………今の行動はあたしたちにわからせるためだけだ。格闘術でニーナを圧倒して、魔法でラナの上を行く。端的に示した。

 

「呆けてんじゃないわよマオ!」

 

 ラナの声にハッとする。ラナは体から魔力をほとばしる。

 

「本当はだめだけど、あんたは聖剣なんて使ってんだからお相子よ! 炎精霊イフリートよ我が声に応えよ」

 

 ラナの周りに炎が広がり。それが龍の姿を形作る。本気だ。でもミラは聖剣とは別に2つの剣を帯びている。彼女はそれをしゃっと抜いた。そして口が動く。

 

 剣に炎が宿る。ラナは手をミラに向けた。

 

「レッドドラゴン!」

 

 炎の龍がミラに迫る。その瞬間に彼女の体から強力な魔力が剣に伝わる。一瞬のことだった。ミラが踏み込んだと同時に剣を振る。ミラは炎の龍を真っ二つに斬り飛ばした。魔力でかたどられた炎の龍が四散してあたりに散らばる。

 

 残り火の中でミラが双剣を構えて佇んでいる。圧倒的な力を感じる。

 

 ――どうすればいい?

 

 最初からミラの実力は分かっていた。そういう意味では何人でかかっていっても簡単に勝てるわけじゃないとはわかっていた。ラナもニーナも呆然としている。だめだ、あたしがここから考えないと、どうにかしないと。

 

 そう思ってもラナが先に声を上げた。

 

「ニーナ! 合わせて!」

「……ああ! いまさら……いまさら誰が私の武術を上回っても気にしていられるか!」

 

 ニーナが飛び出す。ラナが魔法で援護する。長くはきっと持たない。あたしもいかないと。

 

「マオ様」

 

 後ろを振り向くとモニカが片手を抑えながらそこにいた。ぼろぼろだ。

 

「モニカ……?」

「すみません。本当はあの人を私が倒したかったんですけど」

「……あたしこそ、無理をさせてごめ、ぐっ」

 

 軽く体当たりをされる。

 

「マオ様。あれは私の意志でやったんです。勝手に謝らないでください。それよりも時間がありませんから言いますね」

 

 モニカはすでに脱落している。むしろ巻き添えになったら危ない。彼女はその場に膝をついたあたしはあわてて駆け寄る。

 

「……マオ様。あの人の言い分……聞きましたか?」

「……うん、疲れたって……あたしたちとの関係が」

「そうじゃないですよ」

「……?」

 

 モニカは少しだけ笑った。

 

「ほんと嫌になりますよ。あの人は本当に私と似ているんですね……流石に今は実力では及びませんでしたが、うっごほ」

「モニカ!」

「大丈夫です。……マオ様……ウルバン先生との授業を覚えていますか? 私は魔族のことや……私のお母さんのことを……貴方に伝えたことを」

「う、うん」

「あの時……私はですね。ずっと心の中でこう思っていたんです」

 

 モニカ一度息を吸って静かに言った。

 

「『嫌ってください、嫌ってください』って……みんなと一緒にいることが楽しくて壊れるのが怖かったから……。でもマオ様」

 

 モニカが顔を上げる。紅い瞳があたしを映す。

 

「貴方はそんな私に何を言ったかわかりますか?」

「……あたしが言ったこと……」

 

 モニカが微笑む。優しい表情だった。

 

「……大好きって言ってくれたんですよ? 私がどう思っていてもって。……私は言葉にして嫌ってほしいなんて言ってないのに、真っ向からそう言ってくれたんです。心の中で思ってただけなのに、マオ様はそれに応えてくれた」

「…………」

「マオ様は焚火の前で私に質問をしましたね? ミラさんに対して『どうすればいいのか』って、私の答えは変わりません。マオ様がマオ様なら大丈夫です」

 

 あたしは、

 

 微笑んでくれるモニカを見て泣きそうになった。

 

「あの人にも言ってやればいいんですよ。マオ様が思っていることを,ぶつけてあげればいいんですよ。無理やりにでも。あの人もどうせ心の中で言っているんです、嫌ってくださいってずっと。そんなの通用しないって私はよーく知ってますからね」

「で、でもあたしは、今、力が」

「仕方ありませんね」

 

 魔族の少女はいたずらっぽい表情をした。

 

「仕方ないので私が手伝ってあげます。マオ様あの丘の向こうに走ってください」

 

 彼女は指さす方をあたしは見た。モニカの声だけが耳に入る。

 

「いいですかマオ様? 私は少し疲れたので眠ります……。でも、次に目を覚ました時にちゃんとマオ様の横に……ミラ様がいないと……許しませんよ……」

「……うん。わかったよ」

 

 あたしは袖で涙をふく。モニカは気を失ったみたいだった。そばに寝かせて「行ってくるから」って声をかける。

 

 そうだ。あたしは行くよ。

 

 今までも、魔王だった時もそうだ。あたしはいつだって今やれることをやるしかない。

 

 戦いを見る。魔法を切り払われたラナの前にミラが立っている。今にも剣を振り下ろそうとしている。

 

 ――させない。そう思ったから叫んだ。

 

「ミラ!」

 

 ミラはあたし振り返った。

 

「ここからが本当の勝負だ!」

 

 そういってモニカの指し示した方に走る。後ろで魔力の高まりを感じる。うぬぼれじゃなければミラはあたしを一番警戒している。こんな風に言えばまずはあたしをつぶしに来るはずだ。

 

 音がする。風を切る音。あたしは振り向きざまにクールブロンで銃撃をする。銃弾が追いすがるミラに迫り、次の一瞬に彼女はそれを「斬る」。閃光のような斬撃に銃弾が真っ二つにされる――いいさ。一歩分でも遅くなるなら!

 

 あたしは走る。

 

 ミラが迫る。

 

「マオ。終わりだよ」

 

 ! 真後ろで声がした。終わるわけにはいかない。

 

「うおおおお!!」

 

 ニーナが横からあたしとミラの間に入る。彼女は体が炎に包まれていて、超人的な動きをする。きっと全部の魔力をこの一瞬に込めている。数秒だけの力だ。

 

「マオ!! 行け!! 数秒稼いでやる!!」

「ニーナ!」

 

 あたしは前に行く。ニーナの声がする。

 

「あんたが優秀なのは分かった。でも、私はあいつを守る!」

 

 ニーナありがとう。あたしはモニカの言う先に走る。何があるかはわからない。でも、それを信じる。ニーナだってあたしが何をしようとしているのかわからないはずだ。それでも来てくれた。

 

 丘を登る。

 

 ……。

 

 そこにはあった。

 

 地面に突き立ったハルバード。斧と槍を組み合わせたモニカの大きな武器。それは強力な紅い魔力を纏っていた。ああ、そうか。『魔骸』で高まった魔力をこうやって……。

 

 あたしはその前に立つ。

 

「マオ」

 

 後ろで声がした。ミラだ。あたしは振り返らずにいう。

 

「ミラ。あたしはさ。ミラと話をしたいことがいっぱいあるんだ」

「……」

「でもさ」

 

 あたしはハルバードを掴む。強力な魔力が体に流れ込んでくる。体中に魔族の魔力が満ちていく。紅い魔力があたしを包み込む。

 

「たぶん、今のミラは聞いてくれないと思うから……だから。だから! おもいっきり喧嘩してあげるよ!」

 





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