魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~ 作:ほりぃー
あたしの前で両手を組んでソフィアはニコニコしている。ただその目の奥は笑っていない。明らかにあたしに対して敵意を持っている。あたしが「知の勇者の子孫」かどうか聞いたことにはソフィアは答えなかった。
「ま、いいや。あたしは急ぐからさ」
あたしはぱんぱんをお尻をはたきながら立ち上がった。関わったらダメな気がするし、今はミラたちを探すことの方が重要だった。
「あら、急ぐとは? ミラスティアさんを探しに行くのですか……? 剣の勇者の子孫の傍にいればなんらかのおこぼれをもらえると思ってのことでしょうけど」
んん。
こいつすごい喧嘩売ってくるなぁ。なんで挑発してくるかは知らないけど、あたしはミラからなんかもらおうとか思ったことないし。
「うっさいなぁ。あたしはミラに何かしてもらおうととかぜんっぜん思ってないし。そもそもあんたみたいに人に喧嘩売ってくるのはわけわかんないよ」
「………ミラ?」
「そう、ミラ」
「なれなれしい」
はっと侮蔑を込めたような笑いをソフィアはした。なんでここまであたしに突っかかってくるのかは知らないけど、もうめんどくさい。とにかくこの場から離れよう。そう思って踵を返したとき、あたしの後ろからソフィアが声をかけた。
「マオ。貴方の冒険者のカードはここにありますよ」
「!?」
あれ、あたしのポケットに入れてた冒険者のカードがない。さっきので落としたんだ。
あたしが振り返ると、あたしの冒険者のカードをソフィアは指でつまんで持っている。
「FFランクの冒険者さん。落ちこぼれ以下の分際でよくそんな口がきけましたね」
ニコニコしながらギルド中に響き渡るように言った。周りの冒険者たちもその声に「FFランク?」などといい、ざわざわした空気がだんだんと嘲笑に変わっていった。ギルドをあたしを嘲笑う声が満ちていく。
そんな中であたしはソフィアだけを見てた。
「とりあえず、返せ。ドロボー」
あたしはソフィアを睨みつけながら言う。
「あら、あなたが勝手に転んだ時に落としたのわたくしが拾って差し上げたんですのよ。お礼を言って当然じゃない?」
あたしとソフィアは睨みあいながら対峙する。
「そ、ありがと、ほらお礼言ったじゃん。早く返せ」
「そんな心のこもっていない。それにこれは貴方にはないほうが良いと思いますわ。だって、見たところなんの魔力も才能もなさそうなのですから。まったくこんな馬の骨を生んだのはどこの賤民かしら……」
…………あたしは怒った。
「ふざけんな! 取り消せ!」
ギルドにあたしの声が響く。お母さんを馬鹿にしたことは絶対許さない!
ソフィアはにやぁっと笑って、さらに馬鹿にしたように言う。
「あら、怒りました? でも仕方がありませんわ……FFランクなんてそこら辺のゴミ拾いの依頼くらいしか受けられないんですもの」
ガオが確かあたしにいった。Fランクの依頼しかあたしには受けられないらしい。それは命の危険がない代わりに雑用みたいなものだ。ただ、そんなことはどうでもいい。
「だからどうした。あたしはFFランクだ! そんなこと、別にどうだっていい。そんなことよりもさっき言ったことを取り消せ!」
「……どうしても取り消せと申されるのですか?」
「そうだ」
「じゃあ、こうしましょう。わたくしの出す課題を出来たらわたくしは貴方の冒険者のカードを返して、発言を撤回しますわ。ただ……もしそれができなければこのカードは廃棄してもいいですわね」
「課題?」
「そう、簡単なことですわ。わたしくの用意した冒険者を全員倒してくれたいいんですの」
ソフィアはあたしに背を向けてギルドに置いてある机に向かった。それからそこにドンと何かを置いた。それは赤い宝石。ギルドの明かりの火に煌ている
「皆様、今からそこのFFランクの冒険者を相手に決闘をしていただきたく思います。もしもあれを叩きのめすことできたらこれを差し上げますわ」
は?
ソフィアの周りに冒険者たちが集まっていく。屈強な男たちがソフィアに何か言い含められている。
「そう、あの小娘を叩きのめすだけですわ」
「FFランクなんて、逆に可哀そうじゃありません? モンスターに殺される前に引退させてあげるのは善行とはおもいません?」
ソフィアは見た目がいい、それに口がうまい。集まった男たちは彼女を中心に盛り上がっている。ギルドの人間が止めに行ったみたいだけど、周りから推し止められてどうしようもなくなってる。
その中から一人、よく日に焼けた肌をした男が出てきた。大柄で頭は剃っている色黒の男。大きな剣を抜いて、あたしにいった。
「おい、クソガキ。そういうことだ。さっさとあきらめて降参したら痛い目見なくてすむぞ」
男は笑った。周りも合わせて笑っている。ソフィアは勝ち誇ったような顔をしていた。
「…………」
あーそうかい!
そういう風にやってくるのね。あたしは魔銃をケースから出す。肩に担いだ。
このマオ様を簡単に倒せると思っているんだ。ふむふむ……そーかそーか、じゃあさ……全員ぶちのめしてやる!
「いい歳こいて女の子いじめようってダサいやつが。あたしに勝てるわけないだろ!」
魔銃に弾を装填してレバーを引く。ガシャンと音がした。
「なんだぁ。その妙ちくりんな武器は。安心しろよ。刃引きの加護くらいはしてやるよ」
色黒の男は自分の剣に手を添えて、呪文を言う。それで剣の刃を光が包んだ。
「行くぞ、おら」
突進してくる。早い。男の体が一瞬で大きくなったように思えた。
剣が空から落ちてくる。そう思わせるような剣圧。あたしは転がってよけた。周りには嘲笑う声がする。
あたしは上着のボタンを外す。
今のでわかったのはあたしよりもこの男はずっと強い。でも、クリスよりは弱い。
「さっきの大口はどうしたんだぁ!」
剣が横なぎに来る。あたしは魔銃で防ぐ。衝撃が吸収しきれない、後ろに転げたけど、すぐにおきあがる。ぺっ、口に砂が入った。男は剣を担いであたしにのっしのっしと余裕たっぷりに歩いてくる。
刃引きの加護、剣を魔力で包むことで逆に攻撃力を低下させる訓練などの魔術。ガオとミラが戦ったときにも使ったのを見た。今、あたしが魔銃で防げたのはそれがあったから、なかったらもうあたしごと切り殺されていただろう。
「そろそろ降参したらどうだ? 顔はいいんだから、別の仕事をしょうかいしてやるぜ」
だーれが降参何てするか。べっと舌を出す。
男がはあと息を吐いて、一足に飛び込んで剣を振り下ろしてくる。全力で踏み込んだ一撃にあたしはかろうじて魔銃で防ぐ。転げながら、あたしは上着に魔力を浸透させる。
この服は魔力を通せば防御力をあげることができる、それはクリスに飛びついて地面に転がったときにわかった。でも上着に魔力を浸透させるのはそのためじゃない。
「おいはーげ!」
あたしは挑発する。男はあたしを睨みながら近づいてくる。
「生意気な小娘が、そろそろおねんねしな!!」
あたしは上着を脱ぐ。リボンがゆれて下の白いシャツになる。
あたしは突進した。上着の袖を持って男の顔に目掛けて思いっきり振る。魔力を浸透させた黒いそれが男の顔に巻き付いた。
「うおっ何だこりゃ」
あたしは魔銃の銃口を男の顔に向けて、引き金を引く。どぉんと音がして、男の顔に弾丸が直撃する。でも、あたしの制服は破けない。衝撃だけが男に通った。ぐらぐらと男の体が揺れて、倒れた。
上着を取って羽織る。少し焦げたようなにおいがする。
魔力で防御力をあげた上着の上からこうすればこいつ死なないだろうと思ったけどやっぱり大丈夫みたい。気絶しているだけ。冒険者って頑丈でよかった。
「………次はだれ?」
あたしは銃を担いで言う。ああ、一発撃つだけでも疲れるのにやばいかもしれない。
でも負けるわけにはいかない。あたしの視線の先には冷たい目をしたソフィアがいた。
☆
ぱちぱちぱち。
あたしの前でソフィアがわざとらしく音を鳴らしながら拍手をしている。ただ表情は冷たい、面白くないと顔に書いているみたい。だいたいこういうやつはまだあきらめてないよね……。
ソフィアは立ち上がった。
「妙な武器を使うのですわね。魔力で弾? のようなものを発射するといったところかしら?」
「……そうだよ」
あたしは魔銃を見よがしに肩にかけて、ふんぞり返るように首を反らした。正直もう魔力の回復はあと少し必要だから、今連戦されたらやばいと思う。そうだ、今のうちに弾の装填だけはして……とポケットをまさぐって気が付いた。
あたしの掌で全て確認できるくらいの残弾。えっと、残り3発しかない。
やばい、やばい。あたしは表情に出ないようにふふんと鼻を鳴らした。
ぴきぴきとソフィアの後ろにいた冒険者連中の顔がひきつる。
げっ、あたしが挑発したみたいになっているじゃん。違うし、やばいのはあたしだし。ソフィアは氷のような表情と赤い瞳であたしを見る。
「あんたの口車にのった冒険者を倒したからあたしの勝ちだよね? じゃあ、約束通り撤回して冒険者のカードも返してよ」
あたしは余裕の表情のままそういうと、ソフィアは少し眉をひそめてからふっと馬鹿にしたように笑う。
「あら、わたくしの出した条件はわたくしの用意した冒険者を『全て』倒したら、ということだったはずですわ」
ちぇ。やっぱりそう簡単にあたしの言葉で煙に巻かれる性格じゃないよね。あたしは残り少ない弾を装填してレバーを引く。魔銃から排出された薬莢がからんと床に落ちた。
ソフィアは人差し指をたてて、自分の前に伸ばした。ほわ、と指の先が赤く光る。
「みなさん。このFFランクは妙な武器を使いあなた方を舐めておられるようですわ」
ソフィアの指が踊る。空中に赤い文様が浮かぶ。これは……魔法陣だ。しかも呪文を使わずの無詠唱。……何する気かは知らないけど、やばいなぁ……。でもあたしはよゆーある表情を崩したりはしない。
「ここでこのような小娘に馬鹿にされたままでは冒険者の名折れ。どうでしょう、皆さん。わたくしも報酬を上乗せして先ほど提示した宝石とまた別に金貨10枚をお出ししますわ」
ソフィアの後ろにいた冒険者たちの顔が引きつっていく。ソフィアの前で描かれた魔法陣は円の中に複雑な線で描かれた星のようなものだった。赤い紋章をを描き終わったあと、ソフィアは言った。
「魅了(チャーム)」
甘い香りがギルドの中を満たしていく。あたしはあわてて制服で口元を覆って後ろに下がる。がん、とドアに背をぶつけた。イッタ。
でもこれはやばい。今の魔力のないあたしもまとも……あま……あ、……。
はっ! 今やばかった!! これは洗脳の魔法だ。魔力の抵抗がある人間やあたしのように知識のあるものは抵抗できるだろうけど……。
「FFランク袋叩きにする」
「報酬はもらう」
「あー」
あーあー。ソフィアの後ろにいる冒険者数人の目がやばいよ。全員じゃないみたいだけど、あたしを親の仇みたいな顔で睨んでいるし。ソフィアはというと、両手を組んであたしをゴミを見るような目で見てる。あたし自身が「魅了」に引っかからなかったことが気に入らなかったみたい。……こちとら魔王様だから、その程度ひっかかったりしないよ。
でも甘いにおいの漂うギルドではどうしようもない。
「ソフィア!」
「…………気安く呼ばないでくださる? 汚らわしい」
「あたしがあんたの魅了にかかった冒険者を全員倒したら。さっきの発言はちゃんと撤回してもらうからね」
「わたくしの用意した冒険者を全員倒せたら、考えてあげますわ」
あー生意気。いちいちとげがある。
「それで、いーよ!」
あたしはドアを蹴って開けた。夜の町に浮かぶ月が見える。
「ほら、付いておいでよ。マオ様が相手になってあげるよ」
残弾は3。魔法にかかっているとはいってもたぶん冒険者たちはあたしよりも手練れ。じゃあやることはひとつ。あたしはギルドから飛び出した!
石畳を走る。あたしは夜を駆ける。
「はあ、はあ」
ちゃんとついてきているかな? とあたしがちらっと後ろをみると、いるね。槍を持った鎧着たやつと筋肉質な男と、ナイフ嘗めながら追ってくるやつ。全員眼が血走ってる。
「こわっ」
あたしは素直にそう言ってしまった。だって、こわいもん。なにあれ。うっわ、ていうか速い。あたしは全力で駆ける。こうなると魔銃が重い。投げ捨てたい。
あたしは走りながら周りを見た。浜辺までゆるやかな下り坂になっている。だから、あたしも走りやすい。上り坂だったらたぶんもう捕まっているね。
息が切れるぅ。ぜえ、ぜえ。後ろの連中は足音高らかにあたしを追ってくる。夜の街といっても人通りはそれなりにある。港町だからだろうか。あたしは星明りと街中の篝火を目印に海岸まで走っていく。
街の中心に立つ斜塔が見えた。
鐘のそなえつけられたものでたぶん決まった時間にそれを鳴らしているんだと思う。ただ、あたしにはそこに人影が見えた。それは弓をつがえてあたしを狙っている。
はあ? なにあれ、ほんとに殺す気か!!
弓をつがえているそいつの後ろには月が浮かんでて、影しかみえない。ただわずかに魔力が周りに見える。次の瞬間にあたしに向かって矢が飛んできた。
「うわぁあああ」
あたしは転んで、あわてて避けた。一瞬おくれてあたしのいたところに矢が突き刺さっている。石畳を貫通して金色の魔力の残りがたちあがっている。…………あいつ、あたしを殺すつもりだった。
あたしは斜塔を睨む。あそこに明確に殺意を持った「弓使い」がいる。あたしの手にある魔銃であそこまで届くか、無理。魔力が足りない。それに狙う方法がない。塔は高い、狙って当てるのは無理。
「へっへっへ」
あたしははっとした。座り込んだままあわてて後ろを振り返ると、あたしを追っていた3人がそこにいる。やばいと思って逃げようとすると筋肉質な男があたしを仰向けのまま押さえこんできた。
「観念しなぁ」
目が血走っているくせに冷静のあたしの両手を抑えてくる。ち、力が違う……ぜ、ぜんぜんうごかない。
「は、はなせ」
もがいても動かないし。ほかの鎧の男とナイフの男もあたしを見下ろしている。
「そいつの服はなんか魔法のアイテムだったよな」
鎧の男が言うと筋肉がへらへら笑いながら。片手であたしの両手をまとめて抑え込んできた。そ、それでも動かないし。
「じゃあ脱がすか」
とかいいながらあたしの襟に手をかけてきた。って、触んな! あたしはその手をがぶりと噛む。思いっきり!
「いってぇ」
チャンス。あたしは自分の足を引き寄せて、そのまま筋肉の股間に突きだす。あたしのブーツの先にぐにゃあって感触があった。
「おごっ」
妙な声をあげて男はあたしから離れた。股間を抑えてうずくまってる。いた、痛いのかな? 罪悪感が少しあるんだけど。
「おごごご」
……股間を抑えてのたうち回りながら奇声をあげてる。…………ごめんね?
「てめぇ」
おわっ。槍があたしに突きだされた、鎧の奴だ。あたしはなんとかよけながら、魔銃をとって立ち上がる。鎧の奴がまた槍をあたしに突きだそうとしている。避けられない。あたしは魔銃を構えて、引き金を引く。銃の魔石が光り、弾丸が発射される。
鎧に銃弾が直撃する。鎧の奴は後ろに飛んだ。たぶん仕留めきれてない、いや仕留めちゃったら困るんだけど!
「しっ」
ぐえ。ナイフを持った奴の蹴りが横腹に突きささった。息が、できない。
ナイフ使いは軽装で、目が血走った男だった。ああ、くそぉ、盗賊みたいな格好しやがって。あたしはポケットの中の銃弾を掴んで、投げた。
ナイフ使いはよけた。でもいいんだ。それで一呼吸できる。痛みは我慢する!
あたしは銃の金属の部分を両手で持った。そのまま振りかぶって、思いっきり振る。
「おらー! とんでいっちゃえ!」
魔銃の銃身にナイフ使いの頭にクリーンヒット! ナイフ使いはのけぞった。いたーい。手が痛い。すごいしびれる。
「ころす」
げっ、気絶もしてないし。
あたしは一歩下がってからべーと舌を出して背を向けて走りだした。走りながらレバーを引いて次弾を装填する……。あと一発しかないじゃん! 一発はなげちゃったし……。
そのあたしの肩に矢が突き刺さった。
「ぐあ」
焼けるような痛みを感じる。痛い、痛い。あたしの袖に血がながれている。制服はさっき禿との闘いで魔力を通して防御力をあげてたから矢の威力を軽減してくれたみたいだ。あたしは矢が刺さったまま物陰に隠れようとする。
「てめぇ」
ナイフ使いも来てるし。はは、やばいね。
弾丸は一発。このナイフ使いですらあたしよりも強い、んで弓使いもいる。どうしよう、こ、こんなときにミラがいたら。
「……ちがう!」
あたしは自分の弱気と痛みを吹き飛ばすように叫んだ。こんなところで剣の勇者の子孫に頼るなんて魔王としてあるまじきことだ。迫ってくるナイフ使いも、遠くにいる弓使いもあたしは倒す。魔王様、いーや、マオ様をなめるな!
☆
だんだんと騒ぎを聞きつけて野次馬が集まってきている。はあ、はあ。それにしても矢が刺さるって痛いんだ……。目の前にいるのはナイフを持った盗賊のような男。ソフィアの「魅了」に掛かっているはずだけど、さすがにもうすぐ効果も薄れてくると思うんだけど。
「…………」
ナイフを逆手にもって、腰を落としてしっかりとあたしを見据えている。中途半端に戦って、中途半端に「魅了」の状態だからあたしを本気で仕留めようとしているんじゃないかな。
あたしは背中を建物の壁に預ける。弓使いが斜塔から狙撃してくるなら、狙えないところに行くしかない。つまりあたしには逃げ場がない。
あたしは銃弾を口にくわえて、手に持った魔銃のレバーを右手で動かす。薬莢が飛び出て、カランと床に転がる。
「……いっつ」
矢の刺さったのは左肩。ぽたぽたと左手の袖口から血が落ちてくる。あたしはその赤くなっている左手を見る。
「あんたさぁ」
あたしは盗賊風の男に聞く。魔銃を操作している間にあたしに攻撃してこなかったのはこの「魔銃」という武器を警戒したのかな、それとも意外とフェアなのが好きだったりって……それだったら宝石欲しさにあたしを襲ったりしないよね。
「名前とかあるの?」
「当たり前だろう、バラン。Dランク冒険者のバランだ」
「そっか、あたしマオ……」
よく考えたらあたしギルドで名前言われた気がするから知っているかな。バランはズボンと袖のない黒の上着。体に張り付くような格好で痩せているように見えて、腕周りが太い。
がやがやと周りに人が増えていく。へへ、銃を撃つようなのは厳しいね。誰かに当たっちゃうし。あたしは左手で壁に絵を描くように指を動かす。相手に聞こえないくらい小さな声で呪文をつぶやく。
「行くぞ!」
バランが飛び込んでくる。ああ、だるい。動こうとして足がもつれた。ただ左手だけを壁につけたまま、あたしの血で書いた魔法陣がそこにある。
あたしは顔をあげる。そして迫るナイフを睨みながら叫んだ!
「アクア!!」
魔法陣が青く光り、空気中の水分が集結する。魔力に流された水流がバランの顔に掛かる。そう、その程度の魔法、ただ顔にかける程度の水流しか作れない。
バランがひるんだ。あたしは魔銃を構えて、突っ込んだ。
「うあああああああ!」
両手でつかんだ魔銃を力いっぱいバランの横腹に叩きつける。バランは後ろに飛んだ。手ごたえがない、あいつ、自分で飛んで衝撃を殺したんだ。
「はあ、はあ」
やばい。力が入らない。意識してないと銃も落としてしまいそう。バランは月明かりの下で体勢を立て直した。腰を低くしてナイフを構える。くっそ、奇襲がうまくいかなかった。
バランは脇腹を抑えてる。多少効いたのかな? あとは魔銃で撃つくらいしか方法がないけど、それをやったら弓使いが倒せないだろうな。
次の瞬間あたしの目の前でバランの足に矢が刺さった。
「ぐあぁ」
悲鳴が響く。あたしには何が起こったかわからず、反射的に助けに入ろうとして、自分を押しとどめた。あたしは胸元をぎゅううっと掴んで自分に言い聞かせる。
「とまれ、落ち着け」
バランは苦しそうに足を抑えている。周りからも悲鳴が聞こえる。赤い血がながれている。これをやったのは間違いなく斜塔にいる「弓使い」だ。
おちつけあたし。
「いてぇ」
太ももに刺さった矢にのたうち回るバラン。血だまりが広がっていく。このままじゃ死んじゃうかもしれない。
あたしは唇を噛んで、体が前に行こうとしているのを押しとどめる。なんで今まで襲ってきたやつを助けないといけないんだって、思うけど。あたしを止めているのはそれじゃない。
弓使いはなんでこんなことをしたんだ。
冒険者たちは元々仲間なんかじゃなかった……のかな。でもそれでも攻撃まではやりすぎてる。周りのギャラリーは遠巻きに見ている。
あたしはギルドの光景を思い出す。
そういえば「弓」なんて持っているやつはいなかった。いたのかもしれないけど、でもあたしには見えなかった。
――「あたしがあんたの魅了にかかった冒険者を全員倒したら。さっきの発言はちゃんと撤回してもらうからね」
――「わたくしの用意した冒険者を全員倒せたら、考えてあげますわ」
ソフィアとの会話を頭の中で反芻(はんすう)した。
あいつ「用意した冒険者を全員倒せたら」って言ってた。もしかして――
あの弓使いはソフィアが直接用意した仲間?
だからほかの冒険者とは違って容赦なくあたしを攻撃してきた?
憶測でしかない。じゃあ、バランを撃ったのは……。もがき苦しむバランを見て、あたしは焦りがでてきた。ああ、もう。あたしの中ではバランに対する答えは決まっているんだって自分でも嫌になる。
そうさ、助けるよ。
「んぁ」
あたしは左肩の矢を持って、ほんと、ほんとに勇気を出して引き抜く。
――!!!! 痛い。こなくそ!
あたしが投げた矢が地面におちた。息を整えるけど、痛みでよくわからなくなってきた。バランのことをあたしは助ける。でもそのためには『建物の陰』から出ないといけない。
つまり弓使いの射程に入らないとだめだ。
きっとそれをあいつは狙っているんだと思う。いや、あたしが助けに入らなくても物陰から出てくるだけでいいんだ。だから、バランで試してみた? 失敗してもどうでもいいって ……むっかー。
「なめんなー」
あの弓使いはすごい嫌な性格をしていると思う。あたしは好きじゃない。
あたしは建物陰から出る。月明かりがあたしを照らす。それは弓使いにも見えているはずだ。あたしは左肩の痛みをこらえて、バランに手を差し伸べる。
「ほら。早く起き上がって」
「おまえ。なんで俺を」
「あーうっさいなー。倒れているから、助けるのになんか文句あんの?」
「でも、俺は」
「やかましい!」
あたしは半ば強引にバランの手を取って立ち上がらせる。太ももに矢が刺さったままだけど、とにかく陰に行かないといけない。
斜塔からの射撃、一瞬光った。魔力が奔る。
あたしは力を込めてバランをかかえて、影に逃げ込む。一瞬後に石畳に矢が突き刺さった。ベーだ。残念でした。矢は金色の魔力の纏って光っている。
「い、いてぇ。お前乱暴なんだよ」
そうだ。こいつケガがひどいんだ。あたしは上着を脱いで、あーだめだ。これじゃあ。あたしはバランの腰からナイフを取って上着を切ろうとしたら頑丈すぎてあたしじゃ切れない。だからあたしはシャツの右の袖を切って、バランの太ももを縛る。
「ほらこれで、足を縛っててよ、とりあえず出血を抑えないと」
あー今気が付いたけどあたしのシャツも結構ひどい状況だ。
上着を羽織りなおして、魔銃を手に取る。
あたしはバランの顔をぺちんとビンタした。お金に目がくらんであたしに襲い掛かった仕返し。これで許してあげる。
「いた」
「自業自得ってね」
ただ、あいつだけは倒す。もう疲れてくたくただけど、許せないし。
銃を肩に担いであたしは月明かりにもう一度でる。すぐ振り返って、遠くにある傾いた塔に銃を向ける。あたしからは相手の顔は見えない。あちらからは多分魔力の身体強化で見えている。
綺麗な三日月を背に斜塔が立っている。うっすらと人影があった。あたしは今あるだけの魔力を上着に通す。そのまま座り込んで。魔銃を立てる。
「……」
あたしが対峙する相手はあれだけ離れたところから射撃ができるような奴だ。でも一撃ごとに魔力のこもった矢を放つから連射ができない。
座り込んだまま、あたしは地面に魔法陣を描く。悪魔の形を象ったそれは魔族に伝わるものだ。今のあたしじゃどうせまともに起動することはできない。
魔法陣は魔力を通す道路みたいなものだ。
呪文は自分の魔力を変換して引き出すものだ。
魔法陣だけじゃ何もできないし、呪文はソフィアのような力を持った奴ならなくてもいい。だから、そもそも魔力量が少ないあたしが魔法陣を書いても基本的に起動することはできない。
あたしは書いた魔法陣を踏む。
斜塔に光が奔る。閃光のような矢があたしに迫る。体を動かすこともできない。ただ感覚でしかとらえることができない。その光の矢はあたしの左胸に正確に打ち込まれた。
額なら死んでたよ。
制服の魔術の防御と光の矢を包む魔力がぶつかり、ばちばちとあたりに電撃のようなものが散る。あたしはそれを「掴んだ」。四散しようとする魔力ならあたしは利用できる。
「玄(くろ)の力を我に示せ、ファースタクト!」
光の粒子が玄に代わる。あたしを包む。
これは強化の魔法。身体能力を強化し、敵に立ち向かう魔法。ただ、「前の」あたしやミラそれにニーナのようにもともと体内に循環できる魔力が豊富であればそもそも使うこと自体がない。
ただ、あたしはこの魔法に一つ工夫をした。
あたしの右目を黒に染まる。そして十字に青い魔力の線が奔る。
あたしは奪った魔力を視覚と感覚の強化そして残った魔力は魔銃に込める。この状態が続くのは数秒だけだ。
あたしの視界は開ける。
遠くの弓使いの顔が見える。金色の髪をポニーテールにした女の子。手に白い弓を構えている。少し驚いた表情だけど、エメラルドグリーンの瞳が綺麗だった。ああ、そんな顔だったんだね。完全に見えるよ。
右目で狙いをつける。
あたしは銃口を向ける。そして引き金を引いた。
発射された銃弾は紫の光を一直線に伸ばして、弓使いの持つ白い弓に直撃して叩き折った――
☆
視覚強化が消えていく。相手の魔力を利用した数秒だけの魔法。
はあ、大量の魔力があればもっと強化できるんだろうけど無理だなぁ。でもとりあえず勝ったかな……。
ああ疲れた、とあたしは夜空に息を吐いた。