魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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みんなの時間

 

 魔族自治領の公館に向かって歩く。

 

 街はずれというか中心街から離れたところにあるってことは分かっている。調べた場所を簡単に描いた地図を見ながら行く。場所は王都の南側。閑静な貴族街とは違う意味で寂しい感じの街並みだった。あまり裕福じゃない人たちが暮らしているって話だ。

 

 そこに魔族の公館がある。モニカのお父さんのギリアムさんもいるかもしれない。赤いレンガの建物が見えてきた。大きいけど古い感じのお屋敷だ。昔の貴族の家をそのまま使っているって。あれが魔族達のいる場所なのかと思うと少しだけ緊張してきた。

 

 あれ?

 

 門の前に青い服を着てリボンをつけた女の子が立っている。守衛なのかなとおもったけど、見覚えのある髪の色をしている。頭のてっぺんがくろっぽくて毛先が黄色。あっちもあたしたちに気が付いたみたいだった。

 

「……」

 

 フェリシアは遠目でもわかるくらいに心底いやそうな顔をしている……。近寄ってくるなってオーラが見える気がするんだけど……。仕方ないし! あたしは手を上げて挨拶をした。

 

「フェリシア!」

「…………これはこれは皆さんお揃いでどちらに帰られるのですか?」

 

 すごい変な言い回しで帰れって言ってくる。フェリシアは笑っているけど全然目が笑っていない。あたしが困って振り返るとラナが言った。

 

「モニカのお見舞いに来たのよ」

「そうですかそうですか。伝えておきますのでどうぞお引き取りください」

「いや、会わせてほしいんだけど」

「魔族の公館に人間様が入るられるなんて恐れ多い。それにそこにいるのは剣の勇者の子孫様ではないですか。モニカさんをあれだけ痛めつけておきながらよく顔を出せましたね」

 

 フェリシアの言葉にミラがびくっとする。あたしは怒った。

 

「フェリシア! そういういい方はだめだって」

「……こちらからすれば人間などに妙な仲間意識を持たれている方が気味が悪いのですがね。どちらにせよモニカさんが元気になったらのこのこと貴方たちに会いに行くでしょうからお引き取りください。どうせ魔力の枯渇ですし、病気というほどのものじゃないですしね」

 

 フェリシアは首を振ってあたしたちを拒否をする。うー。口が悪い。

 

 フェリシアの頭の上でリボンが揺れている。大きめのそれはかわいらしい。

 

「なんかかわいいねフェリシア。そのリボン」

「…………」

 

 ひっ、すごい睨んでくる?! なんでさ。

 

「このことに触れるな」

「わ、わかった」

 

 そこまで嫌ならな、なんでリボンをつけているんだろう。でも困った。フェリシアが入れてくれないなら中に入ることができない。チカサナみたいに侵入するわけにもいかないし。どうしよ。

 

 そう悩んでいると声がした。

 

「どうしたのですか?」

 

 澄んだ声、そんな印象を持った。声のした方をフェリシアと振り向いた。

 

 深い青色の髪。そして魔族特有の紅い瞳と長い耳を持つ女性が立っていた。

 

 白いブラウスに品のいいロングスカートのお姉さんは優し気な表情であたしたちを見ている。

 

「エリーゼ……様」

 

 エリーゼさんっていうらしい。フェリシアは少し遠慮がちに言った。

 

「この人たちはモニカさんの……オトモダチですが、公館の中に入りたいと言っているのです。警備上の観点からそれはできません」

「なるほど」

 

 エリーゼさんはあたしたちを見た。あたし、ラナ、ニーナ、ミラと視線を動かしていく。

 

「モニカのお友達なの?」

 

 あたしが答える。

 

「そうだよ。えっと、あたしはマオ……です」

「マオ……? マオ……マオ……ああ!」

 

 エリーゼさんは眼をキラキラさせながらぱんと両手を合わせた。

 

「ああ、あの有名な『雷光のマオ』……会ってみたかった」

 

 ……は?

 

 ……は?

 

 …………???? 雷光のマオ??? それリリス先生の授業の時にてきとうに言った冗談だよ??

 

「ちょ、ちょっと待って。なんでその名前を知っているのさ!」

「なんでって、私は貴方のファンですから。ほら、よく王都で出ているニュースペーパーなる物語でしっているの。……たしか前はゴーレムを倒したとか、最近の記事では竜を従えていくつかの村の救ったとか……本人に会えるなんて光栄ね」

 

 村を救った???? あたしの知らない話が広がってない? 竜ってのはぴーちゃんのことだと思うけどさ。いや、でもなんでそんなことも知っているんだろう。ばれたらやばい気もするし……ニュースペーパーって前にモニカが持ってきたものだよね。

 

 エリーゼさんはあたしの困惑している様子を見て首をかしげる。

 

「その様子だとあの紙に書いていることはいろいろと脚色されてそうね。残念。好きなのに」

「ご、ごめんなさい」

 

 なんであたしが謝るんだろう。

 

「いや、こちらこそごめんなさいね。それよりもモニカに会いに来たのよね。フェリシア、貴方が皆さんを案内して」

「な、なぜ私が」

「そうね。ねえ、マオさん。それに皆さん……私とも友達になってくれないかしら?」

 

 え? 

 

「私の知り合いならちゃんと相手をしないといけないと思うのよね。どうかしら?」

 

 ああ、そういうことか。一度あたしはみんなを見た、ラナが仕方ないわねって顔で肩をすくめている。何にも言ってないのに何を思っているのかわかった気がする。

 

「うん」

「ありがとう」

 

 エリーゼさんが笑った。くすくすとした表情は綺麗だなって思う。反対にフェリシアは苦虫噛んだ顔をしている。

 

「そういうことでフェリシア。この子たちを案内して。私の友達だから。ああ、みなさん、もしご迷惑じゃなかったらあとでお話もしましょう」

「…………了解しました」

 

 

 魔族の公館の中は広かった。元々貴族の家だからだろうけど、広い玄関に吹き抜けの2階建て。フェリシアの先導で歩いていると魔族にすれ違うたびにぎょっとされる。

 

「こんにちは」

 

 って挨拶をするとたいていの魔族が「こ、こんにちは」ってすごい戸惑いながら返してくる。というか、後ろを振り向くと廊下の影とかからあたしたちを見ている人が結構いる。

 

「人間が来るのが珍しいのかな」

「……王国の役人やギルドの人間以外にここに来ることはほとんどないはずだからね」

 

 あたしの問いかけにミラはそう返した。いつの間にか彼女はあたしの横にいる。

 

 フェリシアが進んでいくのをみんなでついていく。とあるドアの前に彼女は立ってノックする。

 

「少し待っていてください」

 

 フェリシアはそう言って中に入る。中で声がして、すぐに出てきた。

 

「どうぞ……手短にしてください」

 

 そういわれて中に入ったのはミラからだった。ぎいとドアが開く。小さな部屋だった。机と本棚とベッドあるだけの簡素な部屋。そんな印象だった。ベッドの上で静かに寝息を立てているモニカがいた。いつもまとめている髪は束ねていない。

 

 ミラが少し困ったような顔で立ち止まった。たぶん緊張して中に入ったんだと思うけど当のモニカが寝ているんだから拍子抜けしたのかもしれない。

 

「御覧の通りモニカさんは寝ています。魔力枯渇は休息をとることが重要ですし、顔も見れたのでいいでしょう? 来たことは伝えておきますからさっさと――」

「ん」

 

 フェリシアが話す声に反応したのかモニカが体を動かす。

 

「んー」

 

 ネグリジェを着たモニカは上半身だけを起こした。寝ぼけ眼のままあたしをぼーっと見ている。

 

「芋が歩いとう……」

 

 芋!? あたしは芋じゃないよ。みんなも笑い子をこらえているし! あたしは抗議しようとしたけど、大きな声は出せないって思った。ただ、モニカはだんだんと目が覚めてきたのか、全員を見回して言った。

 

「ま、マオ様!?」

「お、おはようモニカ。あたしは芋じゃないよ」

「あ、いも? す、すみません。夢の中でマオ様にご飯を作ってたんです」

 

 なんか夢の中でも世話されているんだあたし。うーん。ありがたいんだけど、悪いなぁ。でもモニカは慌ててベッドから降りようとしたからあたしは止めた。

 

「あ、私は、髪とかばさばさで、あ、いろいろと恥ずかしい格好なので」

 

 モニカが慌てている。あたしはそれを止める。

 

「いいって、ゆっくりしてて」

「そそういうわけには、あ」

 

 その時モニカとミラの目があった。ミラはびくりとしている。この二人は模擬戦の時に戦いあった。ミラは多分すごく気にしていると思う。でもモニカはふっと優しく微笑んだ。

 

「少しはすっきりしたんですか?」

「……うん」

「それはよかったですね」

「あの、モニカ」

「謝ったりしたら」

 

 モニカは少し強く言った。

 

「許しませんよ」

「……」

 

 ミラも少し柔らかい表情になった。

 

「じゃあ、謝らないよ」

 

 

「それよりもみなさんがちゃんと来ることを知っていたら用意をしていました」

 

 モニカはベッドの上で言った。

 

「本当は何か買ってくるつもりだったんだけどね。さっきちょっとした事件があって時間がなかったのよ」

 

 ラナの言葉にモニカが聞く。

 

「事件とは?」

「街中で貴族が命狙われてマオとミラが襲撃してきたやつを倒したのよ」

「……マオ様が行くところはいつもそうですね」

 

 ちょ、ちょっと待ってよ今回は本当にぐーぜんだって。それよりもさ、モニカの寝癖が少しついているよ。

 

「あ、寝起きですから……見苦してくてすみません」

「いいよ。あ、そうだモニカはヘアブラシない? 髪をとかしてあげるよ」

「そ、そんな。申し訳ないですよ」

「あと鏡があるといいな」

 

 部屋の隅にリボンなんかと一緒にヘアブラシと手鏡が置いてある。

 

「ニーナそれとって」

「これか?」

 

 ニーナが持ってきてくれるとあたしはモニカのベッドに乗る。ちゃんと靴は脱いでいるよ。受けとったヘアブラシを髪にあてて髪にそって引く。モニカの髪って柔らかいな。

 

「あ、あの皆さんに見られながらなのは恥ずかしいんですが」

 

 モニカをみんな見ている。ミラが言った。

 

「これ、髪につけるもの?」

 

 ミラはリボンなんかが入っている箱の中から小瓶を手に取った。

 

「ああ、それは香油ですよ。私はそんなに使いませんけど、花の香りがするものですね」

 

 そういうとミラの目がキラキラとする。

 

「マオ。これ」

「うん」

 

 あたしは受け取る。ヘアブラシを一度離して小瓶から手に香油をふたをとるといいにおいがする。

 

「これつけていいモニカ?」

「え、え? それは、いいですけど」

 

 モニカの髪を手に取ってできるだけ丁寧に香油をつける。それからブラシで髪を梳かす。確かにいい香りがする。ふわっとした優しい香り。それからリボンで結んだ。

 

 鏡をモニカに渡してみんなでわいわいと感想を言う。かわいいよねって。モニカはそれを聞くと顔を赤くして少しうつむいている。

 

「マオ様」

「なに?」

「交代しましょう」

「え?」

 

 モニカがベッドの上で身をよじった。それからあたしは後ろにまわった。モニカはヘアブラシをもって「ふふふ」って笑っている。あたしはなんか緊張する。

 

 そうやってまずあたしの髪をきれいに梳(と) いてくれる。

 

「マオ様はいつも髪飾りとかはしませんから。こういうのどうでしょう」

 

 綺麗な一輪の花の形をした髪飾り。紫のそれはあたしには少し大人っぽいかな、それを髪留めとしてあたしにつけてくれる。……髪飾りなんてあまりきょうみないけど、鏡でなんでかみちゃう。きょうみないけどさっ。

 

「じゃあ、次はミラ様ですね」

「え? 私?」

「もちろんです。見ているだけで済むとは思わないでくださいね。ね、ラナ様、ニーナ様」

 

 そんな感じでみんなで髪をあう。ヘアブラシを使うのはいいけど、どんなリボンにするといいのかって少し口論になったりもした。なんか楽しい。

 

「そろそろ帰ってくれませんかね」

 

 いらいらした顔でフェリシアが言った時、結構時間がたっていることに気が付いた。ミラは髪をオサゲにしているし、ラナも髪飾りをつけている。ニーナは凄い抵抗してきたから透明な生地のリボンをつけてあげた。

 

 あたしたちは眼を見合わせた。そういえばまだしてない子がいる。

 

「な、なんだ貴様ら。やめろ、ち、近寄るな」

 

 フェリシアVS5人。相手にならなかった。

 

「やめろ! 触るな!」

 

 ベッドに連行した魔族の少女の髪に香油をつける。髪にヘアブラシを当てるとフェリシアはしばらくして大人しくなった。

 

 

 

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