魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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治癒の魔法

 

 けが人が大勢いた。町の焼けなかった建物にその人たちは並んで横になっている。うめき声をあげたり、やけどを痛がったりしている。

 

 こういうにおいは久しぶりで、大嫌いだ。多くの女性が介抱したり、けが人に声をかけている。また魔族が襲ってくるかもしれないって男は外を固めている。少なくとも騎士団がくるまでは変わらないだろうと思う。

 

「マオ……どうするの?」

「あたしに考えがあるんだ」

 

 それだけ言うとミラは協力してくれる。

 

 あたしは上着を脱いで手には魔石に魔力を湛えたクールブロンを持っている。近くにいたうめき声をあげる人の前に膝をつく。その人は腕にやけどを負っている。あたしはそのやけどの上に手をかざして呪文を唱える。白い光が放たれる。

 

「大丈夫だからさ……ヒール」

 

 回復の魔法。本来は医者なんかの特別な人くらいしか使えないくらい難しい魔法だって前に聞いたことがある。やけどをしている男の人の手が綺麗に治っていく。あたしははぁ息をついた、これはこれで神経が疲れる。魔力の多寡の問題よりも結構魔力のコントロールが難しい。

 

 目の前の人は信じられないものを見たような顔をしている。……というか近くの人全員があたしを見てる。

 

「この子、医者なの!?」

「こっちきて!」

「こっちが先!」

 

 引っ張らないで痛いいたい。全員のところに回る気だから……! 

 

 あたしはケガの度合いがひどい人から治癒を行う。『ヒール』は相手の体に深く干渉する魔法だ。ミスをしたら逆に傷つけてしまうかもしれない。本来であればゆっくり治るはずのそれを体を強化して治癒力を高めつつ、ケガそのものを魔力で覆い出血を塞ぐ。

 

 だから疲れる。あたしはそれでもひとりひとりに『ヒール』をかけて回った。いつの間にかシャツがぐっしょりと汗を吸ってて気持ち悪いし、体がだんだんと重たくなってくる。そんなあたしをミラが心配してくれるけど大丈夫大丈夫って笑う。まあ、大丈夫だよ。

 

 比較的に軽傷だった子供の治療で終わる。いつの間にか夜になっていた。逆に頭がさえてきたからこれはこれでやばいかもしれない。

 

 まあ、もうひとがんばりだ。その子は足に手を当てて『ヒール』をかける。どうやらひねったらしいけどその手のケガには少し効果が薄いかもしれない。でも痛みは和らげることはできる。その子は楽になったみたいでお礼を言ってくれた。

 

「ありがとうお姉ちゃん」

「どーいたしまして」

「それに悪い魔族をやっつけてくれたのもかっこよかった」

「……っ」

「どうしたの?」

「い、いや、なんでもないよ。まだ完全に回復したわけじゃないからちゃんと寝ないとだめだよ」

 

 その子を寝床に連れて行ってあたしは終わったって天井を仰ぐ。悪い、魔族か。あの子からすればそうなんだと思うし、実際にこの惨状を起こしたのは魔族だ。……それでもそれを言われた時に心臓をわしづかみにされたように胸が痛くなった。

 

 ……あたしも休もう。疲れた。そう思って後ろを向くと大勢の女性があたしを見ていた。ちょ、ちょっとなに、引っ張らないでって。

 

 外に連れ出されるとそこには食事が用意されていた。外で熾した焚火でいい匂いのする鍋。野菜とお肉がいっぱい入った。少し赤いスープがぐつぐつと煮えている。それを木椀にいっぱいおばさんが注いであたしに渡してきた。

 

「助かったよ本当に、ほらいっぱい食べて」

「……うん。ありがと」

 

 近くに腰かけてやっぱり木のスプーンで食べる。あったかくておいしい。なんだろこのスープ。

 

「おつかれ」

 

 ミラがそばに座った。ミラの手にも同じように湯気を立てる木椀。ミラがいなかったら魔力のないあたしにはどうしようもなかった。

 

「流石に疲れたけど、ミラのおかげだよ」

「私は……さすがにあれはやったことがないよ。マオは凄いね……治癒の魔法までできるなんて。専門でやっている人は冒険者でも重宝されるのに」

「…………そんなことはないよ」

 

 あたしはスープをすする。お肉を食べる。うーん。おいしい。もぐもぐしてからちゃんと飲み込んでしゃべる。

 

「専門的っていうけどあたしは別に勉強したわけじゃないからさ」

「それでできるのは流石だよ」

「そんなことないよ、ただ慣れているだけだから」

「慣れているだけ? ……なれて……あ」

「…………そういうこと」

 

 あたしは少しだけミラに笑いかける。そうだよ、こんなことできるのは何のすごさもない。単にケガも死も多い世界をあたしは生きてそして死んだから、それで慣れているだけ。嫌な経験値はいっぱいあるよ。

 

「ごめん」

「ミラが謝ることなんてなにもないじゃん。おかしいよ」

 

 ミラは一度空を見た。今日はいい天気で星がよく見える。

 

 これは安心だ。

 

 そう思って嫌な気分になった。空をそのままに見れないのは嫌だ。あの魔族の老人の退き方は慣れていた。味方を見捨てて躊躇なく退いた。あいつみたいなのは油断してたら夜討ちを仕掛けてくる。夜も早朝も死の時間だ……ってやだやだ。こんなの考えたくないというか思い出しくない。少なくも星も月もでている今はそう簡単には攻めてこれないはず。

 

「さっきマオに子供がさ」

「……ああ、悪い魔族って?」

「うん。その、大丈夫?」

 

 ミラは優しい。あたしの気持ちを見通すようだね。

 

「だいじょうぶ」

 

 っていった後に相手はミラだって思い直した。

 

「きつかった」

「……」

 

 ミラはあたしの手を握ってくれる。

 

☆☆

 

 ぴーちゃんにもスープをあげる。いつの間にかすごいおなかいっぱいの顔をしているけど……クマの魔物はどこに行ったって考えてやめた。うん。考えるのやめておこう。

 

 でもそれはそれでぴーちゃんもスープは気に入ったようでおいしそうに飲んだ。今回すごく頑張ってくれたからね。あたしはぴーちゃんの背中によじ登って上着を毛布代わりに横になる。ミラも後で来ると思う。

 

 アリーさんは今夜は警戒に参加するって言ってた。あたしも何かあった時のためにぴーちゃんと一緒にいる。ここにいれば相手が魔物を連れてこようとなんとかできる。ああ、お風呂入りたいなぁ。

 

「ただの薬草探しのはずだったんだけどなぁ」

 

 ほんと自分のトラブルに遭う確率にはあきれてしまう。狙っているわけでもなんでもないのにさ。はー。あたしは両腕を広げて寝そべる。上着は横に置いた、

 

 ぴーちゃんの背中は寝るには広い。夜風が気持ちいい。

 

「今王都ではみんな何しているのかな」

 

 なんとなくそんなことを思う。ラナはもう寝たかな。ニーナはそういえばどこに住んでいるんだっけ。モニカは体調良くなったかな。

 

 それにしても寝れないな。羊を数えるといいってどこかで聞いたことがあるけど、数えることに集中してむしろ目が覚める気がするんだよね。ぴーちゃんでも数えるとどうだろ、だめだ最強の軍団ができあがっちゃう。

 

 いろいろと考えているとミラも来た。

 

「私もここで寝るね」

「いいよ」

 

 ミラも同じように横になる。

 

「星空の下で寝るのって久しぶりな気がする」

「そっかミラは冒険によく出ているからそんな経験もあるよね」

「うん……あんまりそんなこと考えたことなかったけど……余裕がなかったってこともあるけどね」

 

 ん、なんか少し正直な気がする。

 

「最初にあった時のミラは余裕ゼロだったよね」

「……今言われると恥ずかしいかな」

「なんか短いようでいろんなことがあったけど、ミラとゆっくり話ができる機会って結構貴重だよね」

「そうだね」

 

 夜は永いし。あたしはミラとゆっくりといろんなことを話した。それだけでなんだか安心してしまう。

 

 ……いつのまにか眠たくなって、二人で一緒に眠った。

 

 

 

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