魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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雨の中で

 

 雨が降ってきた。

 

 モニカは窓の外を心配そうに見つめている。マオとミラとそれにメロディエという魔族の少女が出て行ったあと、日は沈み、外は大粒の雨が地面をたたく音がする。

 

「あー!」

 

 その声にはっとモニカが振り返るとラナが頭を抱えて天井を見上げている。そこは以前にチカサナが蹴り破った天井。応急処置として板が張ってある。

 

「どうしたんですか?」

 

 モニカが近づくとラナは黙って天井を指さした。そこからぴちょんと小さな水滴が落ちてきて真下にあるテーブルに落ちる。

 

「あぁ……雨漏りしてますね」

「この家は借家だってのに……絶対チカサナ先生には修理代上乗せで請求してやる」

「そういえばこの家って借りておられるんですね。立派な一軒家なのに……」

「学生の私が借りてるのが不思議ってこと?」

「あ、いえ。そんな」

 

 ラナは白いブラウスを着ている。彼女は両手を組んでモニカを見た。モニカは制服の上着を脱いでシャツに緩めたリボン。

 

「この家は……格安で借りれたのよ」

「そうなんですね」

「まあ、一人で住むには広かったし、マオが転がり込んできたのは良かったかもね。最近ミラも家出してきたけど。はー。幽霊屋敷にしちゃ上出来かもね」

「え?」

 

 モニカは固まった。ラナは無表情で言う。

 

「黙っていたけどこの家前に殺人事件があってそれで誰も借り手がいなくて安く借りれたのよね。借りる前には幽霊の出る家って脅されたけど、そんなことはなかったわ」

「…………そ、そ、そうなんですね」

「モニカ」

「は、はい」

「今言ったの全部嘘」

 

 ラナはにやぁと笑う。モニカはあっけにとられた表情からからかわれたことが分かるとむうぅとした。彼女は無言でラナの背中をたたく。

 

「あははごめんごめん。この家は私の師匠が家主で、安いのはあれよ、井戸とかと遠いし微妙に大通りとは離れているし、左右に建物があるから日当たりも微妙だからゴネたら安くなったのよ」

「…………ソーデスカ」

 

 モニカはふいっと顔をそむけた。ラナは椅子に座って少しだけ笑う。

 

「でも、意外だったかな」

「……何がですか?」

「あんたもマオについていくかと思ったんだけど、残っているし」

「マオ様には……ミラさんが付いていますし」

 

 モニカは少し沈んだ表情をした。ラナは「ふーん」とだけ言う。外からの雨の音が響いている。

 

「そ、それよりラナさん。ニーナさんはどうしたんですか? 途中で帰ったみたいですけど」

「あー。あいつはね。あいつでいろいろと考えていることがあるみたいよ」

「いろいろと……そうですか。……じゃあ、あの」

「なに? ていうか、座ったら?」

 

 ラナはモニカを椅子に座るように手で示した。モニカもスカートのすそを手で抑えながら座った。

 

「それでなんか言いたいことがあんの?」

「言いたいことというより、聞きたいことがあります。……あ、どちらかというと意見をもらいたいといえばいいのでしょうか……えっと」

「マオのこと?」

「……ええ。そうです」

 

 モニカは背筋を伸ばしてラナを見る。

 

「さっきの公園でのことですが、マオ様と言っていた『魔王様』についてのことがなんだか引っかかっているのですが……。災害だとか化物だとかなんだか妙な……それにミラさんもそれについて感じておられた気がします」

「……それをマオ本人に聞いてみたら?」

「……もちろんそれはそうなんですが、まずは考えてみたいなと。こんなことを言うのはどうかと思うのですが……マオ様はなんであんなに魔族に対して同情的……いえ、こんな言い方はマオ様は嫌がる気がしますが……そう、優しいのでしょうか?」

「さあ? あいつに聞いたこともないしね」

 

 モニカは自分の髪を指でつまんで上目遣いでラナに視線を向ける。

 

「これは仮説ですが、ラナさんは何かを隠しているとき逆になにもないような態度をとる気がします」

「…………なんにもないわよ」

「仮説ついでに言いますが、以前にマオ様がエトワールズの中でSランクの依頼を相談された時、ラナさんは先に知っていたようですね。何か隠していませんか?」

「私は隠してはないって」

「『私』は?」

「……わかった、わかったわよ。……確かに少し演技してたのは認めるけど、あいつが何を隠しているかは知らないって」

「……やっぱりマオ様は何かを私たちにも言われてないのですね……。……もしかしてですがミラさんには言っているのではないでしょうか?」

「……さあ。どうかしらね」

「もしかしてまだ、私はマオ様に信頼されてないのでしょうか……?」

「それはないでしょ」

 

 ラナはその言葉はすぐに否定した。

 

「あいつはそういうやつじゃないってあんたもわかっているでしょ」

「……はい」

「いつかあいつが自分で言いたくなったら言うでしょ」

 

 モニカはその言葉にもう一度頷く。その後に小さくつぶやいた。

 

「でも……もしマオ様が悩んでいるなら……相談もしてくれないのは寂しいです……」

 

☆☆

 

 

 

 ざあぁって雨の音だけが響く夜。どこかの工房の軒下で雨宿り。

 

 ミラの出してくれた灯りだけが優しくあたりを照らしてくれる。あたしが横を向くとミラの顔がその光に照らされている。白い肌がきれいだなって女の子のあたしから見ても思う……。

 

 魔王と『剣の勇者』の話ってなんだろ。あたしはそれが気になったけどなんとなくミラが話してくれるのを待った。雨の音だけがあたしたちの間に響いている。

 

「マオはさ」

「うん」

「あんまり人を頼らないよね」

「え……!? そんなことないと思うけど……。Fランクの依頼を100個以上した時も、この前の模擬戦の時も最近も……いろんな人に助けてもらっているし……」

「……うまく伝わらないけど」

 

 ミラは「ん」と少し考えるように顎を上げて、左手を添える。

 

「それは……みんなマオを助けたいから助けてくれたんだと思う。でもそれってマオが誰かに頼ったというよりも……なんて言えばいいかな……そうだね。自分から助けを求めたというわけじゃない。マオは何かあったらいつも自分がどうにかするって一人で走っていこうとすることがある」

「まあ、あたしは思ったら行動しちゃう時があるけどさ……。結局みんなに助けてもらってるしそれで迷惑をかけているってあとで思うから……」

「たぶん。違うと思う」

 

 ミラが何を言っているのかよくわからない。んー。あたしは王都に来る時も来てからもミラにもみんなにもいっぱい迷惑をかけたって思っている。

 

 ミラは前を向いたまま話をする。

 

「マオはさ、いや、魔王はきっと」

 

 魔王? あたしのことをミラはそう言った。

 

「これは想像だけど……誰かに頼ることができなかったんじゃないかなって思う」

「……どうかな」

「……いろんな書物には昔の戦争のことが書いてあって、魔王が悪いことをしたってことは子供のお話にも出てくる……大勢の人が『魔王』を語っていることを聞いたり、見たり、読んだりしてきた。…………でもね、マオ」

 

 ミラはあたしに向き直った。

 

「でも、誰もあなたを知らない。……私も……私が知っていたはずの『魔王』の姿は全然違った。……いつも諦めが悪くて、食いしん坊で……ひどいくらいに優しい。誰もきっと想像すらしてない」

「……食いしん坊って……」

 

 あたしはいつも食べているイメージがあるのかもしれない。……ミラはあたしについて良く言ってくれているのはわかる。でもさ――

 

「ミラが聞いてきた『魔王』だってあたしの姿かもしれないよ?」

「…………」

「あたしは……あたしはね?」

 

 雨が空から落ちてくるのを見ながら言う。

 

「所詮人殺しなんだ」

「それは違うよ」

「違わない……」

「違うよ」

 

 ミラの断定する言葉にあたしの声は遮られた。

 

「私はマオを一緒にいて、いろんな姿を見て……私のせいで喧嘩もしちゃったけど……。でも、マオが自分をそういうのを私は認めない」

「……ミラ」

「この前、魔族の襲った街で大勢の怪我をマオは治してくれたよね。私はそれを横で見ていた。ずっと真剣な顔をマオはしてた」

「………あの時は集中してただけだよ。あたしは……結局は今の時代の人間と魔族の争いを生み出した元凶だから、それくらいしかできないし」

「それも違うと思う」

「違わないって」

「ミラ」

 

 あたしが悪くないって言ってくれているのかな? ……違う気もする。ミラがそういう風に単純に物事を言ったことをあまり聞いたことがない。

 

「あたし、この前さ、学園の図書館に行ったんだけどそこで剣の勇者についての本を読んだんだ。あいつ、あたしを討伐した後に魔族のことを庇ってくれたんだって。モニカの住んでいる魔族の自治領の成立にもいろいろと動いてくれたらしいよ。はは」

 

 乾いた笑いが出る。

 

「あいつは人間のために『魔王』を滅ぼして、そして生き残った魔族にすら手を伸ばした。ミラのご先祖ってそういう奴だったんだよ。考えることもせずに暴れるしかなかった『魔王』とは全く違うね」

「……そんなことはないよ」

「違うって、あたしはあの時代そんなこと考えてもいなかった。人間に対しての憎しみもあった、前も言ったけどあたしは生まれかわったすぐくらいはね……お父さんにもお母さんにも……敵意を持っていたようなどーしようもない屑だったんだよ」

 

 あたしは幼いころを思い出すとすごく心が痛くなる

 

「やめて」

 

 ミラが言った。あたしははっとした。

 

「ごめん。変なこと言ったよね」

「……マオ、あのね。私はマオが自分のことをひどく言うと……すごく……すごくね。胸が苦しくなるよ」

「ごめん」

「違う……謝ってほしいなんて。少しも思ってない…………」

 

 あたしとミラは並んだまま雨を見ている。やみそうにない。帰るのは大変そうだ。ずぶぬれで帰ったらラナはなんて言うかな……。

 

 しばらくしてミラが口を開いた。

 

「私はね。昔から『剣の勇者』の子孫としていろんな人に期待されてきたと思う。お父さんもそうだし、ほかのいろんな人にも。……そうすると相手の顔色をどうしてもみちゃう……嫌な性格になっちゃったんだ」

「ミラが嫌な性格って思っている人たぶんいないよ」

「ううん。私は……きっと嫌な人間。マオ……さっき私がメロディエを怒らせちゃったよね。やり方が間違っているって思ったことを言っちゃったから」

「ミラはメロディエのことを思っていったんだし……気にしなくていいと思うけど」

「そうじゃないの。……マオは私は本当に嫌な人間だってわかってもらうように言うね」

 

 ミラはうつむいたまま話す。

 

「私は……何かを聞いたときとか教えてもらった時にいろんなことを考えるの。どうやればうまくいくのか、何をしているのかとか頭の中を整理してそれでやってみたらできるんだ」

「ミラは料理も上手だから、それを聞いたらそうなんだろうなって思うよ」

「料理も……そうだね。誰かが何をしているのか見て、何のためにしているのか考えて、じゃあどうすればいいのかって想像していくとあとは実際にやってみたらできる。魔法や武器の扱いも同じ」

「それのどこが嫌な話なのさ?」

「……私が考えたことが教えてもらったり、頑張ったりしている人のことを超えたりしないように、そう思われないように言葉を黙っている……そういったらわかる?」

「…………頑張ってる人のことを気遣っているってこと?」

「…………そう、思いたい。でも」

 

 ミラは自分の胸を掴む。ぎゅうってシャツが皺になるように。

 

「もしかしたら心の底で、ずっと奥の方で他人を馬鹿にしている自分がいるんじゃないかって思っている。相手を信頼してないから私の言葉を伝えた時、傷つけるんじゃないかって怖くなる。……きっと傲慢だってわかってても…………。さっきのメロディエのこともそう。私の中にあるものを見せてしまった。メロディエが頑張っていることもわかっているのに、そのやり方が間違っているなんて言えた自分は……嫌な人間なんだよ」

「…………」

 

 ミラは天才だってあたしも思う。だからこその孤独や葛藤があるってことはこの前の模擬戦でもわかった。それでも本当に嫌な人間ならきっとこんなことに悩んだりはしないんじゃないかな。そう思ったけど、ミラはまだ話をする。

 

「……マオ、だから言いたいの。マオと出会ってから、それからいろんな話を聞いて考えたこと。私は過去のことなんて全然知らない。マオの本当の気持ちに触れることができるほどいい人でもない。でも、言いたい」

「え?」

 

 ミラがあたしに向き直った。

 

「マオのやり方は間違っていると思う」

 

 あたしの……やり方?

 

「マオはみんなに優しいけど……自分に冷たい。だから誰にも頼ろうとしてない。……たぶん私にも」

「そんなことはないよ。だって」

「さっきマオは言ったんだよ。迷惑をかけているって。何かをするときマオは私にもどこかで迷惑をかけているってそう思ってない?」

「そ、そりゃ、いろんなことに巻き込んじゃうこともあるし」

「……私はマオの助けになりたいと思ってる。たぶんみんなもそう。……はっきり言うね。マオが人間と魔族の関係が良くなるようにしたいって思っているよね」

「う……ん」

「それを一緒に考えさせてほしい。マオのやり方なら……目の前に現れたことを全部抱え込んでいったら絶対どこかで壊れちゃうよ」

 

 ミラがあたしの両肩に手を置いてくれる。

 

「『今回』はそんなことにはさせない。……マオの願っていることも、メロディエのことも私を頼ってほしい。迷惑なんかじゃないよ」

 

 …………………

 

 …………どう答えたらいいの?

 

 …………どう返事したらいいの?

 

 …………あたしは目の前にいる親友に対して言葉を探した。

 

「あたしは、わ、『私』は、ミラが知らないだけでどうしようもないやつだったんだ。……戦争の中で奪うことしかできなかった。生まれ変わって、お父さんとお母さんがいて、やっと、やっと少しだけ考えることができるようなっただけなんだよ?」

 

 何を言っているんだろう? 

 

「『魔王』なんて言われても頭の悪い子供が持っている力を振り回した結果。今も魔族を苦しめている……言ったじゃん、私が死んだあとに『剣の勇者』に魔族を助けてもらった本当に役立たずなんだ。そういうやつなんだよ。」

 

 ミラの言葉への返答になっていない。意味の分からない言葉が口から出てくる。なんでこんなことを言っているんだろう。

 

「違うよ」

 

 ミラはあたしを優しく見た。

 

「違う。全然違う。マオの言っていること全部間違っている。私は過去のことは知らないけど、今のマオをみてきたからわかるよ。たぶん昔の『魔王』も大勢の人のために立っていたんだよ。それで生まれ変わってもかわることなく誰かのために毎日走り回ってる、今も昔もマオなんだと思う」

「そんなの……わからないでしょ」

「わかるよ。だって、マオはマオの故郷で『剣の勇者』の子孫だった私をミラスティアとして見てってみんなの前で言ってくれたんだから。……本当にマオがマオの言う通りのならそんなことしたりしない……それにまだ続いている」

 

 続いてる? ミラは言った。

 

「マオが『魔王』として頑張った時も、『剣の勇者』が魔族の自治領にかかわったことも、今私とマオがここにいて、これから先があることも、全部つながっている。まだ終わってない。……『剣の勇者』はもういないけどその子孫である私も聖剣もあるから代わりになるよ……『魔王』と『剣の勇者』が一緒になればなんだってできると思う……それはきっと一緒に歩いていく道なんだと思う」

「それ、空の上であたしが言った」

「そう、マオが私に言ったこと。マオは自分が考えることばかり思ってたんじゃない?」

「……う、うん」

「私もね。マオと歩いていく道を一緒に考えるよ」

 

 ざあざあと雨の音が耳に響く。あたしはぽつりと無意識に言ってしまう。

 

「寂しかった」

「え?」

 

 ミラが聞き返したけど、あたしは超えずに雨の中に飛び出す。立ち止まって振り返る。頭から濡れてしまうけど、雨が降ってて助かった。

 

「ミラ……あたしはさ。思ったらすぐに動くから大変だよ」

「わかってる」

「…………いっぱい迷惑をかけるよ」

「だから、そうじゃないよ、マオ」

「……ミラに……頼るよ?」

 

 ミラはニコッと笑ってくれる。

 

「うん」

 

 あたしは本当に雨が降っててよかったと思う。

 

 ……

 

「マオ、帰ろう」

「うんそうだね」

 

 あたしとミラは雨の中を駆けていく。

 

 真っ暗闇の中でも、雨の中でも二人なら、まっすぐに帰れる。

 

 

 

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