魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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化物の夢

 

 いつかの夜。

 

 どこかの街。城壁に囲まれた大きな街でのことだった。

 

 空から一人の少女が舞い降りた。広場の中心でのことだった。そこでは大勢の人間たちがお祭りのように喜んでいた。だからいきなり現れた少女に多くの者があっけにとられた。

 

 結んだ黒髪。その頭にはまるで羊のような2つの角があった。魔力の結晶化による『角』は魔族の力を開放する『魔骸』によるものだ。通常は一つだけだが、その少女には魔力を纏った双角がある。

 

 赤い目を光らせて黒の衣装に身を包んでいる。その上には白い上着を羽織り、右手の裾だけが風に揺れているのはそこには何もないからだった。

 

 彼女は左手を上げて魔法陣を発動させる。大量の魔力が奔流となり一つの魔法陣に結集していく。魔力は炎となって渦を作る。それは少女が左手を振り下ろすと同時に放射状に広がっていく。

 

 炎が無限に広がっていく。世界を焼き尽くしていく。炎は広がり街を焼いた。

 

 悲鳴が聞こえてくる、焦げたにおいが鼻につく。

 

「人間ども……」

 

 逃げまどう人々に目もくれず少女は人間への憎しみを口にする。赤い瞳から涙を流している。

 

 この城塞都市にいる人間たちは魔族の中の有力者を磔にして処刑していた。少女の降り立った広場にはすでにこと切れた魔族のかけられた十字架が並んでいる。少女はそれを弔うためにさらに魔力を発動させる。

 

 魔族の十字架は炎に包まれていく。

 

 ――いつの記憶だろう。

 

 あたしはそれをどこかの建物の上で見下ろしている。眼下にいる「私」は燃え盛る炎の中で憎しみに顔をゆがめている。あたしはそれを目をそらすことなく見ている。炎が街に広がっていく。城砦都市と言ってもいるのは兵士だけじゃないはずだ。

 

 あの時代はやってやり返されてを繰り返した。そして勇者が現れて「私」を打倒した。

 

 無駄に力だけがあるあの少女はバカなやつだ。それは……今も変わらない。

 

 魔王が顔を上げてあたしを見た。あたしも両手を組んで見下ろす。

 

 さすがに夢なんだろう。でも、炎の熱さを肌で感じた。魔王はその目に憎しみを映している。

 

『忘れるなよ』

 

 なにをさ。

 

『お前の中に私はいる』

 

 そうだろうね。

 

「それでもあたしは、ちゃんと考えられるようになりたい。昔の自分のまま、そのままなのはいやだ」

 

 あたしの言葉に魔王が言う。

 

『人間と魔族がまた戦争になったら……お前はどちらにつく』

 

 …………。

 

『戦争はもう嫌だと逃げ出すのか』

 

 …………。

 

『それとも親友と一緒に魔族を裏切るのか』

 

 今の……あたしの生きている時代はそんなことにならない。あたしは逃げないし、魔族を裏切ることもしない……人間と戦いたくなんてない。

 

『どうしようもなくなった時』

 

 魔王は冷笑してあたしに向き直った。

 

『お前は同じことをするだろう』

 

 魔王が燃え盛る炎の中で両手を広げる。悲鳴が耳にこだまする。

 

☆☆

 

 嫌な夢を見た。

 

 朝はニーナとの特訓で早起きしたから逆にあんな夢をずっと見なくて済んだ気がする。夜はあんなに雨が降っていたのに今朝はいい天気。雨あがりの後ってなんか空気がきれいな気がする。気のせいかもしれないけどさ。

 

 昨日の夜のことはミラといろんなことを話せた気がする。……夢の中の自分にあたしの親友のことをちゃんと言ってやりたい。まあ、自分に何を言っても仕方ないし、夢に何を言っても仕方ないんだけどさ。

 

 ところであたしの前にニーナが両手を広げて倒れている。き、気絶している?

 

 今日もやりすぎた……ほんとごめんニーナ。でも最近なぜかよくわからないけどニーナの動きがどんどん速くなってきている気がする。だから調子に乗って水人形を動かしてしまった。どこかで別に特訓してたりするのかな……。

 

 あたしはニーナを肩を持つ。お、重い。ニーナが重いというよりあたしに力がない。とりあえず家の中に頑張って入れてベッドに寝かせる。頭にぬれた手拭いをおいて冷やす。

 

「ごめんニーナ」

「…………」

 

 ううう。最近手加減がほんとうに難しくなってきた。今日はニーナはゆっくりしておいてよ……。

 

「マオ様」

 

 そう言って寝室にエプロン姿で木製のお玉を手にしてモニカが入ってくる。モニカも昨日は泊ってくれた。今朝はミラと一緒に朝ご飯を作ってくれていたみたいだ。

 

「ニーナさんは大丈夫ですか?」

「た、たぶん大丈夫と思うけど。やりすぎたよ」

「……いえ、むしろマオ様が思いっきりやってくれた方がニーナさんは喜びそうな気がします。変に遠慮するより……」

「そうかな……」

 

 あたしはモニカを見ると彼女はじっとあたしを見返してくる。

 

「へんに遠慮するより」

 

 な、なんで二回繰り返すのさ? で、でもそうかな、本気でやる方がいいのかもしれない。ニーナはヴォルグに勝たないといけないし……。怪我をさせない程度にがんばろう。

 

「あ、そうだモニカに頼みがあるんだけど」

「え、はい!」

「なんか元気だね……。昨日エリーゼさんと会って魔族の公館にメロディエを連れて行ってもらったんだけど後で迎えに行こうと思うんだけど……付いてきてほしいなって。たぶんモニカも一緒にいた方がいいかなって」

「それはもちろん大丈夫ですが……エリーゼ様がおられたんですか? 昨日はマオ様がびしょ濡れで帰ってこられたので何があったか詳しくは聞けませんでしたが」

 

 そういえばそうだね。今日は体調は良さげだし、風邪をひかなくてよかった。

 

 それからあたしはかいつまんで昨日のことを話した。あとでラナにも言っておこう。

 

「わかりました。でもエリーゼ様がおられた理由がやはりよくわかりませんね……」

「そこは結局聞けなかったしね。あとリリス先生も工房に出入りしているって言ってし、なんだろうね」

 

 正直リリス先生のことが一番怖い。何をしようとしているんだろう。

 

「それでは朝に出ますか?」

「そうだね、今日は学園の授業どうしようかな。メロディエのことが優先だけど、んー忙しい……」

「あまり無理はされないでくださいね? マオ様……とりあえず朝ご飯を食べませんか?」

「うん」

 

 ぐーっておなかがなったけど両手で隠したからたぶんモニカには聞こえてない。

 

「ふふ」

 

 なんかそんな風に部屋を出ていくモニカが笑ったけど聞こえてない。

 

☆☆

 

「アイスバーグとは会わないからな。ふん」

 

 魔族の公館にミラとモニカとあたしでやってきた。メロディエはあって早々に拗ねていた。一日立っているのにまだミラについて何か言ってる。

 

「まあまあ、よく来てくれたね」

 

 青い髪を一つにまとめて肩に流したエリーゼさんがあたしたちを応接室に入れてくれた。モニカは質素だけど掃除が行き届いた部屋だった。エリーゼさんは紅茶とお菓子を出してくれた。お菓子は小さなケーキみたいな形をしてそばにこれも小さなフォークがある。

 

 それでさ! なぜか、なんでか知らないけどモニカはお菓子の自分の分をあたしにくれるし、ミラも「はい。マオ」ってくれる。

 

 いや! なんでお菓子があたしのところに集まるの!? メロディエも「ずるいぞ、お前」っていうし……食べたいなら食べてもいいよ。だからあたしとメロディエでたべるとエリーゼさんとモニカにミラもなんか笑っているし。なにこれ。

 

「それで、今からメロディエと一緒に工房に行くの? マオさん」

「うん」

 

 エリーゼさんの言葉にお菓子を飲み込んで答える。

 

「とりあえずワークスさんにあってこようと思う。それで職人さんを紹介してもらおうって思う」

「ふーん、もしこの子のフルートが修理できる職人さんがいたとして代金はどうするの?」

「それは……とりあえず今は手持ちで」

「いやいや、マオさんこれは魔族の問題でもあるから公館から出すよ。いくらかは後で教えてね」

「ほんと! ありがとうエリーゼさん」

 

 エリーゼさんはニコッと笑う。それからメロディエも「あ、ありがと」って言って「ござます」と続ける。

 

「それじゃあ早速行こうか。ミラ、モニカ、メロディエも」

「あ、待ってマオ」

 

 ミラ? なんだろ。彼女はエリーゼさんに向き直る。

 

「エリーゼさんに相談したいことがあります」

 

 ミラは静かにそう言った。

 

 

 

 

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