魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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覚悟の話

 

「相談したいこと?」

 

 エリーゼさんは小首をかしげた。あたしもミラが何を言おうとしているのかわからない。ミラはすうっと小さく息を吸ってまっすぐにエリーゼンさんを見ている。横から見ると背筋を伸ばしてきれいな銀髪をしたあたしの親友はそれだけで絵になる気がする。

 

「……突然すみません。ご存じかも知れませんが正式にご挨拶はしていませんでしたのでまず名乗らせてください。私は……ミラスティア・フォン・アイスバーグ、騎士団のシグルズ・フォン・アイスバーグの娘です」

「……ミラスティアさん。……そう」

 

 エリーゼさんはコホンと咳払いをした。

 

「なら私もミラスティアさんにはまだ挨拶をしてませんでしたね。私は魔族自治領ジフィルナの領主の娘でエリーゼ・バーネット……。騎士団団長のご令嬢に失礼かもしれないけど、あまり固くならないでくれたら嬉しいな」

 

 柔らかく笑うエリーゼさんにミラも少しほっとしたような顔をする。騎士団はこの前この魔族の公邸にやってきてエリーゼさんとあたしを連れて行った。相手が相手なら嫌な顔をされるかもしれない……それでもあえてミラが名乗ったのは何か意味があると思う。

 

「私もできればエリーゼさんとは仲良くさせてもらえたら嬉しいと思っています。思うところはあるかもしれませんが」

「思うところ……。ふふ。そんなものはないなんて言ったら少し疑われるかな? でも正直言えば私はあなたともマオさんとも仲良くできたらいいなって思っているのは本心よ」

「……ありがとうございます」

 

 ミラとエリーゼさんが視線を交わしてお互いに笑う。あたしとモニカは会話に入れずそれを見ている。本当にミラがなんで言い出したのかわかってない。メロディエは……お菓子食べてる。あ! あたしのを食べてる!

 

 抗議する前にミラが口を開いた。

 

「それで相談というのはですがエリーゼさんはメロディエが王都に来た目的は聞かれましたか?」

「ああ……人間と魔族が一緒に音楽を楽しめるならって話ね」

「どう、思われましたか」

「どうって言われても、考えることは素敵ね」

「……もしもそれが現実にできるなら協力してもらうことはできますか?」

 

 その時に一瞬だけ昨日のことが脳裏をよぎった。ミラが雨の中で言ってくれたことを思い出す。

 

 メロディエはミラをにらんで黙っている。それをエリーゼさんがちらっと見てから視線を戻す。

 

「現実にできるなら……? それで協力って具体的に何をすればいいのかな?」

「それはまだわかりません。ただ、もしも今の人間と魔族の関係が変わる一歩になるのなら、エリーゼさんは協力をしてくれますか?」

「……ミラスティアさん。一つ聞いていい?」

「はい」

「これは勝手な想像だけど、そんなことを言う貴方は話をぼかしている気がするのだけど、実はそのかわいらしいあなたの頭の中に明確な考えがあって、私に先に言質を取っておこうとかして……してない?」

「…………」

「あはは。ごめんごめん。私はいろいろと汚い大人だから勘ぐってしまうんだけど、そうね本心で話そうかな。人間と魔族の関係が良くなるなら魔族の私は大賛成よ。もしそうなることがあって、そのために必要なら」

 

 エリーゼさんは一度紅茶を飲む。そしてにっこり笑った。

 

「命だってあげるわ」

 

 ……エリーゼさん。横でモニカも服の裾をぎゅっと握りしめたのが見えた。メロディエはそのエリーゼさんを見ている。

 

「でもミラスティアさん。お互いに面倒な『生まれ』だからわかると思うけどね。あなたのその考えをあなたのお父さんはちゃんとわかってくれるかな?」

「それは」

「ごめんね。もう少し厳しめに言うね。あなたはお父さんとぶつかってでも、剣の勇者の子孫という枷のあるままに魔族と仲良くしようなんて言えるの?」

「……」

「別に私は貴方を責めたいとかではないの。それでも私はそれなりに立場があるから、簡単に約束はできない。逆になんでも約束できるなら貴方にも私の同胞にも……不誠実になる。……って……ごめんごめん。ほんと嫌な気持ちにさせちゃったね。メロディエのやろうとしていることはいいことだと思うよ。そう思っているのはほんと」

 

 ミラは少しの間何も言わなかった。だけどその瞳はまっすぐにエリーゼさんを見ていた。

 

「それを口にするなら私にも同じだけの覚悟があるのか……そういわれてますか?」

「………………へえ」

 

 エリーゼさんの表情が少し変わった。赤い瞳の奥が鈍く輝いたように見えた。

 

「ミラスティアさん……。あまり鋭いところを見せないことも必要なものよ。貴方もこれからそれが必要になっていくのだから」

「…………もし」

 

 ミラは静かに言った。

 

「エリーゼさんが私に覚悟を感じられたら、その時は協力をしてくれますか?」

「……判断は私に任せるってことかしら?」

「そうです」

「……もちろん。必要な時は何でもしてあげるよ」

「ありがとうございます」

 

 ☆☆

 

 ミラとモニカと公邸を出た。少し離れてメロディエもついてくる。ミラは怖い顔をしているからなんとなく声をかけられなかった。それはだめだって思って、あたしは親友の肩をたたいた。

 

「……あ。マオ」

 

 はっとした顔でミラが振り向いた。なんかいつもの優しい顔に見えたからほっとした。

 

「さっきはあたしはよくわからなかったけど、ありがとね」

「ありがとう? ……マオ。さっきの話、昨日の今日だから考えがちゃんとまとめきれてないけど、ちゃんと話すよ。……ちょっとだけ待っててほしい」

 

 そう言ってくれるならきっと大丈夫。ミラが考えていることを知りたい気もするけど、あたしのことを考えてくれているってわかっている。

 

「それに私は一度家に帰るよ」

「え? 家出は」

「それは……終わり。お父さんがいたら話をしようと思う」

「……大丈夫?」

 

 ミラはあたしを見る。

 

「私はね、逃げてたの。模擬戦の時にマオと離れようとしたこともそう。誰にも傷ついてほしくなかったなんて言って、全部マオに押し付けて逃げてた」

「そんなことないよ……」

「ううん。そうだった。私が向き合うべきことなのに成り行きに任せていくみたいにして……そんなのは間違っていた。私はマオと約束したから……もう逃げないよ。マオ」

 

 ミラは自分の胸に手を当てて笑う。

 

「マオにちゃんと頼ってほしいからね」

 

 微笑むミラの顔を見てあたしは何かわからない感情が胸にあふれて、でも少し恥ずかしいからあたしも笑って返す。両手を腰につけてにやって笑う。

 

「じゃあ、いっぱい頼るからさ」

「うん」

 

 そうしてあたしたちは二人で笑う。

 

「……あのマオ様」

「あ! ごめんモニカ」

 

 ミラとだけ話してて置いてけぼりにさせちゃったかもしれない。あたしが振り返るとモニカは逆に眉を寄せてなんでだろう……なんか少し悲しそうに見えた。なんで?

 

「ど、どうしたのモニカ」

「あ、いえ。その。マオ様……あの私にも、ひ………おしえ……」

 

 モニカが何か言ったけど聞き取れない。

 

「す、すみません。なんでもないです。マオ様。実は少し用事がありまして、あとでまた学園で合流できますか?」

「え? それはもちろん大丈夫だけど」

「……それでは後程」

 

 モニカはそれだけ言うともう一度公館に戻っていった。何か悪いことを言ったのかなあたし……。

 

「……マオ。私もさっき言ったけど家に一度帰るね」

「あ、うん。じゃああたしはメロディエ連れてワークスさんのところに行くよ」

「さっきのモニカのことだけどあまり気にしない方がいいよ」

「ミラはモニカが何を言ってたのかわかったの?」

 

 ミラはそれには黙って首を横に振った。

 

☆☆☆

 

「それにしても難しい話だったな」

「メロディエの話をしてたんだと思うよ」

 

 メロディエは両手を頭の後ろで組んで足を上げながら歩く。目線は空を見ながらだから転ばないか少し心配だ。

 

「アイスバーグは何をしたいのかよくわからん」

「メロディエ……ミラと昨日は喧嘩になっちゃったかもしれないけどさ、あたしの親友は信頼できるよ」

「親友……そういえばあのもう一人の赤髪も親友なのか?」

「赤髪ってラナ……あ、モニカ? もちろん」

「なんか寂しそうな顔をしてたけどな」

「…………うーん。あたしもそれが気になってたんだけど、あたしが悪いこと言ったのかな。でも何も話をしてないから、別のことかなって」

「ふーん。まあ。いでっ」

 

 ひゅーんと飛んできた石がメロディエに当たった。頭を押さえてうずくまるメロディエ。

 

 だ、だれだ!!

 

 あたしはメロディエの前に立ってあたりを見たけど道行く人があたしたちを見ているだけで犯人が分からない。

 

「卑怯だって! もしなんかあるなら出てきなよ! ……くっそー。メロディエ大丈夫?」

「いてて。血がでてら」

「メロディエ……魔力を貸して」

「魔力?」

 

 あたしはメロディエの手を握って片方の手で彼女の頭に治癒の魔法をかける。自分でできるなら一番なんだけどどうしても魔力は人に借りないとできない。メロディエはとにかく元気になった。

 

「なんか治った! マオお前実はすごいな」

「別にそんなことはないよ。それよりとりあえずワークスさんのところに行こう」

 

 あたしは周りを警戒しながら歩いていく。メロディエは「きにすんなよー」っていうけど、気にするよ。

 

 そうやって職人街にやってきたときにはなんだかへとへとだった。体というか精神的に疲れた……。職人街に朝にやってきたのは初めてだね。最初は夜、昨日もほとんど夜に来た。

 

 それにしてもなんだか活気がある。槌の音がどこからか響いてくる。やっぱりここでもメロディエは目立つなぁ。でもいろんな工房が開いてる。

 

「おーい、マオじゃーん」

 

 後ろから声がする。この声は。嫌な予感がする。

 

 がりがりがりって変な音をして誰かが近づいてくる。その人はあたしの前にすいーって滑ってきた。びっくりした。サイドテールにした水色の髪に白い上着、中に来ている黒いシャツの丈が短いからおなかが見えている。いつも思うけど露出が多くて見てて恥ずかしくなる。

 

「こんなところで何してんの?」

 

 それがリリス先生だ。ていうか今妙な動きをしてたよね。

 

「お、おはよう。リリス先生。なんか変な動きした?」

「あ、これ? ほら靴の裏に小さな車輪をつけて魔力で動かせるようにしてみたんだけど」

 

 リリス先生が足を上げると確かに文様の刻まれた靴の裏には小さな車輪が二列なっていくつかついている。

 

「これさー」

 

 リリ先生の足元が輝いて車輪が回る。リリス先生はしゃーってあたしたちの周りをぐるぐる回る。

 

「なかなかよさげじゃない?」

「なんかすごい!」

 

 楽しそう。

 

「でしょー! 石畳で微妙に車輪が痛むからなかなか難しいんだけどねー」

 

 がりがり言ってたのはそれかな。

 

「いつも思うけどリリス先生っていろんなものを自分で作っているの?」

「作っているものもあるけどねー。友達の職人に作ってもらってる」

「リリス先生友達いるの……? あ!」

 

 とんでもないこといっちゃった。リリス先生はあたしを見た。止まって両手を組んでいる。魔力で動いているから車輪を止めることもできるのかな。

 

「うわーひどい言葉。これは賠償金だね。財布の中身全部」

「ひ、ひどいのはリリス先生じゃない?」

「まーいいや。お金は後で。それよりも今から魔銃を作ったって職人締め上げに行くけど。マオもそいつに用事?」

「ワークスさんを締め上げに?!」

「そうなかなか秘密を言わないから今日は氷の魔法で閉じ込めてやろうかなって」

「だ、だめだよ! あとあたしもお金ないからね!」

「じゃあそっちの魔族でもいいよ」

 

 メロディエが自分を指さして、口を開ける。

 

「か、金なんてないぞ! 途中で全部盗られた」

 

 うう、メロディエはいきなり重い話をいっつもいう。

 

「ちゃっ、しけてんの。まあいいや。じゃあ一緒に行こうか。ついてきてねー」

 

 しゃーってそのまま走り出すリリス先生。つ、ついてきって速いし……でも、行かないとワークスさんの身が危ない!

 

 

 

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