魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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重要な話だからきつい!


確執

 

「ひどい目にあいました」

 

  アルマはこほんと咳払いした。

 

 あれ? おかしいなこんな事ついさっきもあったような……。そうあたしが首をかしげているとアルマのなぜかあたしの前で首を同じ角度で傾げてくる。

 

「どうしました?」

「……ううん。気のせいだよ」

 

 アルマが一日に何度もひどい目にあったってぼやいていたなんてことない……ことにしておこう。ひどい過去は心の中にしまっておくのがいいよ、きっと。

 

 とりあえずモニカも待たせているけどさっきのこともある。あたしはアルマに聞いた。

 

「さっきリリス先生が言ってたけどさ。リリス先生があたしに課題をくれているんだ。なんか魔術の文様を描いて何か出来たら合格って話をアルマに教えてもらえって……それってお願いできるの?」

「すごく抽象的ですね……。助けてもらったお礼もありますし、お教えするのは全然問題ありません。……あ」

 

 そうだってアルマがパンと両手をたたいた。あたしとメロディエはいきなりだから少し驚いた。ただアルマはふふんと顔を上げて言う。

 

「助けてもらったお礼とすればよかったら今から食事に行きませんか? 私がおごりますよ、行きつけのお店のランチがありますから」

 

 食事! ……いけないいけない。あたしはクールに冷静になる。

 

「すごいうれしそうな顔をしているなマオ」

 

 メロディエだって少し笑っているでしょ! そんなこといちいち言わなくていいの! ……でも。

 

「でもさ、アルマがワークスさんの工房でひどい目にあったのはあたしたちもかかわっているところあるしお相子でいいんじゃない?」

「あれは、悪魔のせいですよね?」

 

 アルマにとってはリリス先生が完全に「悪魔」になっている。

 

「まあまあ、気にしないでください。こう見えても私は工房を持つ職人ですから、ちゃんと働いています。今日だって昨日の仕事でいただいた報酬がありますから」

 

 そう言ってアルマはお尻のあたりをまさぐっている財布を探しているのかな。

 

「あったあった」

 

 そう言ってニンジンを取り出すアルマ。

 

 …………。

 

 ………?

 

 あたしとメロディエとアルマの掲げたニンジンを前に固まった。アルマも固まっている。

 

 アルマはニコニコ顔のまま膝から崩れ落ちた。

 

「……悪魔め」

 

 地面に転がるみずみずしいニンジンの前で四つん這いになっているアルマ。たぶんリリス先生がすり替えたんだと思う。説明を受けなくてもなんとなく想像できるよ。

 

 ニンジンの裏に「魔法の文様技術使用料としていただきます にょほほ」と書いてあった。最後の一文は何!?

 

「今月の生活費ぃ……どぼじでこんなことにぃ」

 

 アルマ……あたしは彼女の両手をとる。

 

「え、えっとお金なら貸そうか?」

「そ、そんなこと……い、いいんで、いやだめです」

 

 アルマは首を振る。

 

「簡単に人にお金を借りたり、貸したりしてはいけません。私のようになりますぅ」

 

 結構説得力あるけどさ。

 

「じゃあリリス先生から取り返そう!」

「ま、まおさん。い、いやこれは私の問題……このようなことに巻き込むことはできません。はあ、まあでも貯金を崩せばちゃんと生活はできますから後で考えます。はあ」

「……こまったら言ってね?」

 

 あたしはそうアルマに伝えた。メロディエも彼女の肩をぽんと叩く。

 

「いいか、ニンジン一本でもよくかんで時間をかけて味わえば結構持つんだ。一気に食べると後がつらいぞ」

 

 少し悲しいこと言ってない? と、とにかく元気づけようとしているのはわかった。

 

 今度リリス先生に会ったら取り返してあげたいけど……もう持ってない気もする。使っているよねたぶん。ううう。今殴りこみかけた方がいい気もするけど、でも殴り込みをかけたらさらに大きなトラブルをあの人は作り出しそう。

 

 そう悩んで両手を組んでいると大きな音がした。

 

「!」

 

 あたしはびっくりしてちょっとジャンプする。体が反応したから仕方ないじゃん。アルマもメロディエもびっくりしたみたいだ。

 

 魔力を感じた。どこかで誰かが魔法を使ったんだろうか、フェリックス学園は授業とかあるから生徒か先生だと思う……音のした方を見ると校門の方向だ。……たぶん心配性なんだともうけど、一瞬モニカの顔が浮かんだ。

 

 あたしはちょっと確認しに行くために走り出す。

 

「あ、マオ!? 私を置いていくなよ。ここがどこかよくわかってないぞ」

「マオさん!」

 

 二人の声が後ろでする。あたしはさっき来た道を通り過ぎていく。まあ、なんてことはないと思うんだけど少し心配だから急ぐ。校門の近くに来ると生徒で人だかりができている。あたしと同じ制服を着た人が大勢いた。

 

「ごめん、ごめんよ」

 

 あたしはその中に飛び込んで人ごみをかき分けていく。ぱっとその中心に出た時、その子はいた。

 

「……」

 

 あたしを見るくすんだ赤い目。透明な紫がかった髪の少女。ソフィアだった。

 

 彼女はあたしを見て、

 

 一瞬だけ驚いたように目を開いた。それからふんと鼻を鳴らした。

 

 過去のあたしの宿敵の一人である『知の勇者』の子孫である彼女は酷薄と言って笑みを浮かべて言った。

 

「……お仲間のことで来たのかしら?」

「仲間?」

 

 ソフィアの前に一人の少女がうずくまっている。ワインレッドの髪をした彼女のことを見間違えるはずがない。

 

「モニカ!」

 

 あたしが駆け寄るとモニカは顔を片手で頭を押さえている。額から血が流れて、頬にやけどの跡がある。さっきの魔力の流れ、いやな感じとそして今の状況がつながった気がした。

 

「マオ様」

「何があったの? なんでモニカとソフィアが……」

 

 その言葉を聞いたソフィアが冷たい声であたしに答えた。

 

「その魔族は私に不遜な物言いをした……その報いを受けただけですわ」

「……報い?」

 

 あたしは振り返らずに答える。

 

「モニカが何を言ったのさ」

「あなたにそれを答える義務はありませんわ」

「……何を言ったかわからなくても……モニカが人を傷つけることなんて理由もなく言うわけがないよ」

「はっ」

 

 くくくとソフィアの笑う声がする。

 

「あなたの前にいるのは獣同然の魔族ですわよ」

「……獣なんかじゃないよ。この子はね、すごく優しい子だよ」

 

 あたしはソフィアのことを見ない。モニカの肩を抱きしめる。

 

「優しい? ヒトモドキが?」

「……やめてよ」

「少し人間に姿かたちが似ているからあなたのような勘違いするものが生まれるのでしょうね。『それ』は今はおとなしくしているでしょうけど、私たち人間を憎んでいるのではなくて? その華奢に見える体でも大きな武器を振り回す……異常な魔力で強化した体で暴れまわる。貴方ならよく知っているのでしょう? 模擬戦では『それ』を利用していたのだから」

 

 利用。そのソフィアの声を聴きながらあたしは唇をかみしめる。

 

「そんなのはただの一面だよ。人間にも強い人がいるのは普通。モニカが優しい子だってことには何にも関係ない。あたしが助けてもらったことに何かあるならそれはあたしの問題だよ」

「ふぅん」

 

 周りの人だかりからひそひそと声が聞こえる。魔族がどうのと聞こえる気がするけどあまり深くは聞きたくない。

 

「マオ様……大丈夫、ですから……。だから」

 

 あたしの手を振りほどこうとモニカが動くけど、あたしはそうしないように彼女を抱きしめたまま動かない。

 

「ソフィア」

「……気安く呼ばないでくださる」

「今ここでモニカに謝って」

「……は? そんなことをすると思っているのかしら? お断りしますわ」

「謝って」

「断りますわ。私がなぜ『それ』にそんなことをするのか」

 

 ソフィアは周りに声をかける。

 

「ここにいる皆さんもこの学園に魔族がいることを不安に思っておられるでしょう?」

 

 周りがざわついている。誰かがぽつりと「そうだよな」とした声が響いた。誰が言ったかはわからない。名前もわからない誰かの声がだんだんと広がっていく。

 

 ――魔族って人を食ったりするんだろ。

 ――最近もどこかの地方で魔族の野盗が人を襲ったらしいぞ。

 ――怖いよね。

 

 ざわざわと声が響いていく。嘘もどこかの誰かの罪もそんなことはモニカに何の関係がある。あたしの感情の上からソフィアが声をかける。

 

「そんなに傷つけたくないなら。魔物や獣のように檻の中に入れておくことですわね。ペットとして」

 

 あたしは目を閉じて、ゆっくりと開ける。

 

「マオ様……? っ。そ、その顔」

 

 モニカの声が遠くに聞こえる。あたしは彼女をゆっくりと手を離して振り返る。

 

 両手を組んだソフィアがあたしの顔を見て目を開く。あたしがまっすぐに彼女を見た時。一瞬口元が歪んだ。それは、嬉しそうにも見えて、あたしを憎んでいるようにも見える。

 

「人でも殺しそうな顔をしていますわね」

 

 人を殺す? お前らはわかってない。あたしは一歩前に出る。その時周りの生徒から声が聞こえる。

 

 ――なんか寒い?

 ――勝手に体が震えるんだけど。

 

 知るか。

 

 ソフィアはあたしと向かい合っている。彼女は右手で頬をぬぐう。そしてその右手を見ている。

 

「汗? 指が……震えている」

 

 『私』はさらに一歩前に出る。

 

 そしてソフィアをまっすぐに見た。

 

「……?」

 

 彼女は一歩後ろに下がる。何が起こったかわからない顔を一瞬したが、それでも(わら)う。

 

「それが本性ですの?」

 

 私はただ心の中にある黒い感情に塗りつぶされそうになる。

 

 ソフィアの体が青く光る。彼女は呪文とともに周りに水が渦を作って集まっていく。それは人の形になっていく。

 

「アクア・クリエイション……。模擬戦で私を無視したこと、この場で後悔させてあげますわ」

「…………」

 

 水で作られた剣を持つ戦士。滑らかに作られたその人形は私に向かって踏み込んでくる。素早い一撃……それを数歩歩いてかわす。

 

「……!?」

 

 驚くソフィアが次に何かする前に水人形の体にあたしは手を触れる。アクア・クリエイションは私の独自の魔法だ。水の中を流れる魔力の流れを操作する。それで水人形は形を失ってばしゃりと水たまりに代わる。

 

「なにを、しましたの?」

「そんなの前も見た。その直線的過ぎる動き。予想は簡単……。その上水人形の魔力の構築が甘いから簡単に崩れる」

 

 あたしは見る。ソフィアの表情を。

 

「ただ、それだけ」

 

 淡々と私は答える。

 

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