魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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アリーの試練

  

 アリーはいつも笑顔だった。人と会うときは余裕のある表情を心掛け、常に柔和な態度を崩さないようにしている。『Sランク冒険者』と言われるからには彼女の評価はギルドへの評価にも影響がある。

そういう風に抱え込む女性であった。

 

 街中を優雅に歩きながら彼女はとあるところに向かっていた。街のレストランである。

 

 最近は預かっているドラゴンの食費のために仕事を詰め込んでいる彼女であるが、今日は休むことに決めていた。彼女の美しさの下には「おなかが減った。疲れた」という真実が隠れている。

 

 アリーはSランク冒険者の中ではまともな人物であった。他の同じ立場の者たちはひとくせもふたくせもあるものが多い。だからこそ様々な人が彼女を頼ることになる。そして彼女はそれに応えてきた。

 

 王都の大通りを歩き、行きつけのレストランを見つける。無言だったが、だれにもわからないように嬉しそうにする彼女。何を食べようと考えながら歩く彼女の前に、立ちふさがったものがいる。メガネをかけた一人の女性。ギルドの制服を着ていた。

 

「ノエル……。何ですか?」

「見つけたわよ」

 

 ノエルはギルドの職員でありアリーの友人であった。ノエルは彼女の手をガッとつかんでぐいっと引っ張っていく。

 

「ちょ、ちょっとどこに行くんですか? 私は今から食事を」

「そんなの後にして! 手伝ってほしいのよ」

 

 レストランの看板が遠ざかっていく。アリーは頭の中にある想像上の大きなハンバーグに手を伸ばしたが届かなかった。

 

 

 ギルド。

 

 街にある支部の一つでノエルが勤務する場所にラナはニナレイアとモニカを連れてここに来ていた。

 

 まずはマオたちがどこに向かったかを知りたかったこともあるが、それよりも空を飛ぶ唯一の手段である「ぴーちゃん」を預かっているアリーの居場所を聞くためだった。

 

 ノエルはFランクの依頼などを通じてラナ達とも親しくなっている。だからマオを助けるためにアリーの居場所を教えてほしいというと、突然ノエルは外に飛び出していった。次に帰ってきたときにはアリーを連れてきてた。

 

 ――ちょっとこわい。

 

 ラナは思ったが決して口には出さなかった。

 

 ギルドに併設されている酒場の席に向かい合ってラナとアリーは座っている。ノエルはアリーの後ろにいた。ラナはちらりと遠くで様子をうかがっているニーナとモニカを見る。

 

 いきなり連れてこられたアリーとラナは一度だけ面識がある。ヴォルグがギルド本部で窓を蹴破って会議に乱入した時にラナとマオはヴォルグが抱えていた。その時にアリーと出会った。ただ、それはあくまで面識があるという程度に過ぎない。

 

 ラナは『Sランクの冒険者』であるアリーの前で緊張しつつも落ち着いて話をした。普段仲間内で使うような言葉ではなく、丁寧に言葉を紡いだ。

 

「突然すみませんアリーさん。実は一度お会いしたことがありますが、私はラナ・スティリアといいます」

「確かマオさんと一緒に窓から入ってきた……」

「そういう覚え方になりますよね。あんなことがあれば……」

 

 ラナとアリーは苦笑した。互いに妙な記憶を共有しているのだというおかしみがあった。ただ、ラナは単刀直入にお願いした。

 

「そのマオのことでお願いしたいことがあります」

「マオさんのことで……?」

「あいつ……いや、あの子は高ランクのギルドからの依頼を受けています。本当なら私たちも同行する予定だったんですが……諸事情があって遅れてしまったんです。……アリーさんも会ったことがあるからなんとなくわかるかもしれませんが、あの子は抱え込む性格なんで……ちゃんとついてあげないといけないと思うんです」

「……よくわかりませんが、それで私に何を? その依頼に参加してほしいということですか?」

「いえ――」

 

 ラナの目が光る。本題を話す。

 

「ぴーちゃんを貸してください」

「……」

 

 アリーはラナの目を見ながらしばし考えた。どことなく言葉を隠しているような感覚を受けるのだが、純粋に心配していることも伝わってくる。

 

「高ランクの依頼というのは具体的には何をしているのですか?」

「……遺跡調査です」

「ランクは?」

「……」

 

 ラナは一度目を閉じて言う。

 

「Sランクです。チカサナ先生が同行しています」

「……Sランク……。なぜマオさんがそんなことを……? Sランクは通常ギルドの窓口で受けることができない特別な依頼になります。チカサナが同行しているというなら……むしろあなた達が行くことは危険と思います、だから――」

 

 アリーはぴしゃりといった。

 

「だめですね。マオさんが心配なのはわかりますが、学生をそんなことに巻き込むことはできません。SランクはAランクよりも危険性が低い場合がありますが、政治的な面も含めてのちのちの『面倒ごと』が多いものです。それがわかっているからあなたも言葉を濁したのでしょう?」

「…………」

「マオさんがそんなことになった事情は分かりませんが。ぴーちゃんも名前はかわいいですし、実際かわいいですが強大な力を持った竜です。貴方にそれを御しきれますか?」

「それは……」

「そういうことです。ノエル。この話は終わりですね」

 

 席を立とうとしたアリーをラナが止めた。彼女は立ち上がって訴える。

 

「待ってください! アリーさんの言うことは……全部正しいってわかっています。……それでもあいつをこのままいかせるのは絶対だめだってわかるんです! お願いします。アリーさん、もう少しだけ話を聞いてください」

 

 アリーは振り返った。

 

「私の言っていることが正しいとわかるのなら、マオさんが帰ってくることを待っているべきでしょう。……厳しいことを言うようですが、実力以上のことに関わるのは良いことではありません。貴方はそれが分からないような子には見えませんが?」

 

 アリーの声はただ静かで諭すように伝えている。ラナはそれを聞いて少しだけ、小さくうめいた。

 

「……わかります。分不相応に面倒ごとに自分から飛び込むなんて馬鹿なことだってことは。アリーさんの言うことは私も正しいと思います。……正しいと思うんです……でも」

 

 ラナは言った。テーブルに両手をついて心の声をこぼすように。

 

「それじゃああいつとは付き合っていけないのよ。……私が正しいと思ったことを全部やっていたら、他人より自分のことが大事だって、要領よくやるべきだって……そうしていたらきっと最後は後悔することになる。だって……私の思う正しさに従っていたら……あいつのことは……見捨てることが正しいことになるから……」

 

 彼女は絞り出すように言った。

 

「あいつはいつものほほんとした顔をしているくせに、どこか、変に大人びている時があって、妙なことにいつも巻き込まれても無視すりゃいいのに自分から関わろうとするし。……そのくせ約束していた今回は勝手にいなくなるし! 手紙なんて書いて謝ってくるくらいなら、はっきり言えっての! そしたら頭はたいて怒ってやるのに……あ」

 

 ラナははっとした。途中からアリーへの言葉ではなくなっていたことに気が付いて頭に手を当てて「これもマオのせいだ」と小さくこぼした。彼女はそれでもアリーに向き直った。

 

「アリーさんの言うことは正しいと思います。それでも、正しいことより……私は……。お願いします。アリーさんには迷惑をかけないようします」

 

 ラナは頭を下げた。アリーは無言でそれに応えないが、ほんの少し困ったような顔をしている。

 

「……あなたが並々ならぬ気持ちを持っていることはわかりました。しかし……それでも私は大人として感情のままに動くことを許してあげることはできません……。私を恨んでくれてもいい、それで――」

 

 はっとした時にアリーのそばに別の少女たちがいた。彼女から見れば初めて見る。ショートの金髪に耳飾りをしたニナレイアとワインレッドの癖のある髪をした魔族のモニカ。アリーが何かを言う前にモニカが言う。

 

「すみません。私はモニカと言います。見ての通りの魔族です。いきなりすみません…………私もお願いをします」

 

 魔族の少女が頭を下げる。アリーはさらに困ったような顔をした。

 

「いや、しかしですね。

 

 その前にニナレイアも出た。

 

「お願いします」

「あなたは……耳飾り……ガルガンティアの一族?……」

 

 アリーはさらに三人目に頭を下げられて、目が泳いでいた。正面からの頼みごとに弱い彼女は必死になって断る言葉を探していた。助けを求めるようにノエルを見たが、ノエルは言った。

 

「で、どうするのアリー」

「どうするといわれても」

 

 アリーは三人の少女をそれぞれ見た。それでも頼みを聞いてあげることはしない方が良いと思っている。彼女ははあとため息をついた。

 

「わかりました」

 

 その一言に三人が顔を上げる。ただアリーはぴしゃりといった。

 

「あなたたちの気持ちはわかりました。ですが『Sランク』の依頼に対して実力不足のものを出すわけにはいきません……ですから条件があります」

 

 アリーは立ち上がる。

 

「今からこのアリーと三人がかりで模擬戦をします。私にもしも一撃を入れることができれば話は聞きましょう。……その程度できないようならあきらめなさい」

 

 あきらめさせるつもりであった。それでもアリーの言葉に三人はそれぞれを見あってから、ラナが答えた。

 

「わかりました」

 

 その強い瞳にアリーは好ましいものを覚えつつも、それを断ち切るべきと心に想った。

 

 

 

 

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