魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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セレーナ島に潜む影

 

 船の舳先の向こう。遠くに小さな何かが見えたと思った。

 

 あたしは船首で船に揺られながらそれを見ていた。だんだんとそれは大きくなっていく。実際に大きくなっているんじゃなくてあたしたちが近づいているのはわかる。

 

 いい天気。海風は程よく冷たくて気持ちいい。

 

 船の周りを飛ぶ白い鳥が鳴いている。髪を押さえながら空を見れば青い空を気持ちよさそうに飛んでる。もしかしたらあたしたちの向かっている島に住んでいる鳥たちかもしれないよね。

 

 鳥の声が何かを訴えているようにも聞こえてあたしもなんか言い返した方がいいかなって思ったけど、やってしまう寸前で口を両手で押さえて止める。自分でも最近自覚したけど突発的にやっちゃうことを少し抑えた方がいい。

 

 船は近づいてく。遠くに見えていたのはだんだんと大きな島だってあたしの目にも見えてきた。青い海と空に挟まれたその島はおっきな山が真ん中にある。

 

 白い砂浜が長く続いて、その向こうは緑が広がっている。太陽に照らされた海面がきらきらと光っている。

 

「綺麗な島」

 

 あたしは自分が思ったことをそのまま口だした。

 

 ……戦争の時あたしと戦った3勇者の持ってた神造兵器はあの島で授けられたって言う。そういう意味では因縁の島なんだろうけど。まあ、昔のことだし。……それよりもあの島にイオスの言っていた『真実』の一端があるってことだけど……それは……なんのことなんだろう。

 

「マオ」

 

 あたしがその声に振り向く。ミラの声。なんとなくさ、大好きな親友の声って聞くだけでうれしくなるよね。

 

 でも、その親友は青い顔をしていた。ああ、船酔いきつそう。

 

「無理しなくていいよミラ。たぶんもう少しだから」

「う、うん……。でも、あの島に行く前にマオに話をしておきたいことがあったから」

「話?」

「そう」

 

 ミラは気分が悪そうだけどあたしの横に立った。

 

「どうなるかはわからないけど、一つ約束してほしくて」

「約束をするって?」

「もしも誰かがマオのために来てくれたなら、受け入れてほしいなって」

「……? 誰かって」

「わからない。届ているかも」

「届いているって何が?」

「それは」

 

 ミラはあたしをじっと見た。それから言う。

 

「それは秘密」

「な、なにそれ。秘密なのに約束するってこと?」

「うん。お願い」

 

 ミラが何を言っているのかはわからない。ただ、あたしに訴えかけてくるような瞳に負けた。

 

「……ミラが言うなら、よくわかんないけど約束するよ」

「ありがとう。マオ。これで大丈夫……かもしれない」

「意味深……。ねえ、ミラ何の話をしているのか教えてよ」

「……まだ言え……いえませーん」

 

 急に砕けた口調になる。ミラに「あ! 何それ」ってあたしは捕まえようとしてミラはすいっと避ける。くう、体の動かし方はすごいうまい。だけど今の動きでミラはニコニコの顔のまま青ざめた。

 

「きゅ、急に動いたから」

「へーん。今のはミラが悪いよ」

 

 あたしはそうはいったけど背中をさすってあげる。

 

☆☆

 

 船は島をぐるりと回る。途中でチカサナ先生が横に来た。くすんだ金髪を指でつまみながら言った。ミラは手ごろな樽の上で座ってぐったりしている。

 

「潮風は髪が痛むんですよね」

「へえ、チカサナ先生はそういうの気にするんだ」

「失礼ですね。私も女の子ですよ」

「おんなのこ……」

「お? なにかいいたそうですネ。授業で単位をあげませんよ。きしし」

 

 チカサナ先生はすぐに笑いを収めて言った。

 

「このまま島を回って。停泊できる場所があります。そこから目的の場所に向かう感じですね」

 

 船は動いている。それにしても『魔鉱炉』で動く船はすごいなぁ。

 

「これリリス先生の技術で動いているんだよね」

「そーですヨ。屑にも使いようがあるものです」

「ひどい言いようだよ……」

「ただ、船のとしての燃費は悪いですからね。魔鉱石を大量に使わないといけませんし……昔ながらの風に任せた船の方がいいという話もあります」

「……前にリリス先生から聞いたけどさ」

 

 チカサナ先生があたしを見ずに「なにを?」と返事をした。どことなく興味なさそう……。

 

「魔鉱石を使って魔法が使えない人でもどこでも水や火を出せるにしたり……あとさ、魔族がやっている魔鉱石の採掘をゴーレムで楽にしたり……リリス先生っていろんなことを考えているよね」

「どうせ金儲けでしょう。きしし」

「それも言ってたけどさ……もしあたしが偉ければリリス先生にそういうのをいっぱいやってもらってみんな便利になればいいなとか思ったりもしたんだ」

「偉ければ……例えばマオさんが魔族の王だったりしたら?」

「……っ!」

「きしし、じょーだんですよ。ジョーダン」

 

 し、心臓に悪い。びっくりした。ふう。近くにいたミラも顔を上げていた。

 

「それよりもそろそろ到着しますよ。ほら」

 

 船は入り江に入っていく。浅い船から身を乗り出すと透明な水の底が見える。魚が泳いでいるのもよくわかる。

 

「綺麗な場所だね」

「そうでしょう。人間はほとんど立ち入らない場所ですからね。あ、それと手伝ってくれませんか?」

「手伝うって何をさ」

「小型の船を下ろすんですよ。流石に人が少なすぎてこの入り江では停泊できないのでここで碇を下ろして。私たちは小船で上陸します……。あ、やっぱり手伝いはいいです」

 

 何を言っているのかと思ってみれば総舵手の男の人が船の側面に縛り付けるように吊ってあった小船を一人で引き上げて。担ぎ上げた。そしてそのまま海に下ろした。

 

 ばしゃーんと木の船が水しぶきを上げて。そこに降りれるように縄梯子もその人がかけてくれる。

 

「あの人……すごい力だね」

「まあ、そうですね。きしし。じゃあ行きましょうか。セレーナ島」

「うん」

 

 あたしは入り江の奥を見た、きれいな島だってやっぱり思う。

 

☆☆

 

 砂浜に降り立ったのはあたしとミラ。それにエリーゼさんとチカサナ先生にエルとソフィア。ソフィアはは少し離れたところにいるし上陸するときにも一言もしゃべらなかった。エルもそれに気遣うわけでもなく無言で袋に包まれた長い杖状のものを持っている。あれはきっと『聖杖』なんだと思う。

 

「ほらほら。マオさん。あっちにカニがいる」

 

 え? カニ? どこどこ?

 

 あたしはエリーゼさんの言う方を見て一緒に探す。そこではっとする。なんでこうすぐに魚とかカニとかさがしちゃうんだろ。エリーゼさんもエリーゼさんだよ! 彼女はくすくすとあたしを見て笑っている。……もしかしてからかわれている?

 

「はいはい。それじゃあ行きますよっと。離れないでくださいネ。一応魔物もいる島ですし。きしし」

 

 そう言ったチカサナ先生を先頭にあたしたちはついていく。クールブロンを手にしていつでも戦闘ができるようにする。ただ多少の相手ならミラが一緒に居るのだから相手にならないはず。

 

 石づくりの道を歩いていく。一応舗装されているみたいだけど人があまり来ないのか石の間から草が生えてところどころ崩れている。雨とかかな。まあ、あたしは山育ちだから。逆にこんな道の方がいいかも。故郷の道はほんと道っていうか、歩ける場所って感じだったもんね。

 

 逆にエリーゼさんは少し歩きにくそう。こけそうになってる。

 

「歩きにくい……それにしてもここに来るまでにいきなり災害級の魔物に襲われたりしたけど、マオさんと一緒に居るとああいうことが結構あるのかな?」

「いや偶然だよ」

 

 あたしが否定すると横でミラが言う。

 

「よくあることですよ。マオはいろんなことを引き寄せていますから」

「あっ!」

 

 ミラは最近あたしに遠慮がないよ! うー。まあでも、ミラと出会ってから大きな魔物には『黒狼』とか『カオス・スライム』とか昨日のイカとか……。ぴ、ぴーちゃんもそれに該当するのかも。

 

「でもさ。ミラが引き寄せているってことも」

「そ、それはないよ!」

「あたしと一緒に居たならあたしもミラと一緒に居たし!」

「絶対マオ!」

「み、ミラだって」

 

 微妙に自信がない。あたしなんか強い魔物とか強い人とかとぶつかるのがここ最近ずっと繰り返しているし。でもここで引いたらなんか負けた気がする。

 

「仲がいいね」

 

 エリーゼさんが笑うのであたしとミラも笑ってしまう。

 

 シュッと音がする。見れば先頭を歩いていたチカサナ先生がダガーを抜いてあたりをうかがっている。あたしたちも武器を手にして周りを見回した。少し後ろを歩いてたソフィア達にも声をかける。

 

 ここは少し開けた場所だ。周りに黒い影がうごめいている。つまり包囲されている。

 

 それは影の形だった。黒い、魔力の揺らぎを持っている。

 

「これもマオさんが引き寄せたんですかね。キシシ」

「ち、ちがうよ!」

 

 チカサナ先生がさっきの話を聞いていたのか冗談めかしてそういう。

 

 多くの影がその姿を現した。そのすぐ後にあたしは、いやたぶんあたしたちは感じた。

 

 強力な魔力の波動。遠くから放たれたそれに反応するように影が動く。

 

「シャドウ……」

 

 エリーゼさんがレイピアを抜いて言う。そうかこれは――

 

「召喚術で呼び出したもの」

「マオさんよく知っているね。魔族の一部が使う召喚術で呼ぶことのできる黒い異形の存在、別の世界から呼びだすことのできる存在。まあ詳しいことはわかってないみたいだけど」

 

 前に船の上の戦いでヴァイゼンがあたしの攻撃を防ぐ盾にしていた……。

 

 シャドウは数を増やしている。それぞれが別の形をしている。狼のような形、人型のような形、蛇のような形。ただ決まってその目に赤い光がある。純粋な敵意はこいつらを呼んだやつの意識によるのかもしれない。

 

 その中で一人チカサナ先生が散歩をするかのように歩いていく。両手にダガーをぶら下げている。

 

「危ないよ先生!」

「…………」

 

 チカサナ先生があたしたちから離れた。それを好機と見たのか多くの『シャドウ』が飛び出した。何かをすり合わせるような声のような叫びを放つ、その中でチカサナ先生はとーんとその場で小さく飛んだ。あたしにはそう見えた。

 

 閃光が奔った。

 

 すさまじい速度でチカサナ先生が飛び出し、気が付いたときには元の位置に戻ってダガーを鞘に納めた。周りにいたシャドウはその体を切り裂かれた状態で止まっている。一瞬後に彼らは地面に倒れ、黒い粒子になって消えていく。

 

「まあ、ちゃんと地面に足がついてればよい調子ですね。準備運動にはちょうどいい。きしし」

 

 チカサナ先生がにっこり笑って振り向く。

 

「さあ。マオさん、それに皆さん。どうやら敵みたいなのがいるみたいですが、冒険にはよくあることです。覚悟してくださいネ」

 

 

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