魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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玉座の男

 

 噴水を背にクリスは私たちを睨んでいる。赤い目を光らせて殺気を隠そうともしていない。

 

「私は『暁の夜明け』のクリス・パラナよ」

 

 モニカのようにくせのある赤みがかった紙をした双剣の使い手の少女。あたしが旅立つきっかけになった事件を起こした魔族。彼女は両手を組んであたしたちを見下すように顎を上げた。その態度に人間への嫌悪がありありと見える。

 

 ……たぶんだけどクリスは『魔骸』を使うことができる。彼女と戦った時はそれを使わなかったから撃退できた。だけど今回はどうだろう。あたしたちは人数は多いけど、戦闘になればどうなるかはわからない。

 

「……うーん、なぜ、魔族の方がここにいるんですかね」

 

 チカサナ先生が前に出て言った。……先生も知らなかった? ……クリスがいることはイオスの差し金じゃないってこと? じゃあそれこそなんでこうなっているかわからない。

 

 クリスはチカサナ先生の言葉に対して反応した。それは答えたというよりさ、そう言った方がいい。

 

「私はね。仕方なくここにいるだけでお前らの質問に答えてやる義務なんてないのよ。ただ、私はそいつを待っていただけ」

 

 クリスがあたしを指さす。みんなの視線が集まる。

 

「クリスがあたしを待っていた?」

「……気安く名前をよばないでよ。言ったでしょ。好きで待っていたわけじゃない」

「イオスに言われたの?」

「誰、そいつ。あーもう。うざい。とにかくお前に会いたいと待っている方がいる」

「……待っていてる? それは誰なの」

「ついてくればわかるわ。ああ、そうそう他の連中は帰っていいわよ。森の帰り道でシャドウに喰い殺されてくれれば一番だけどね。きゃはは」

 

 クリスの言葉にミラが返した。あたしの前に立って片手をあたしの前で上げる。

 

「マオだけを行かせるわけにはいきません。それに私たちは私たちの目的があります」

「調子に乗るんじゃないわよ……ミラスティア・フォン・アイスバーグ。お前との前の戦いでは本気を出せてなかった……なんならここで殺してもいいのよ?」

 

 クリスの体から紅い魔力が迸る。

 

 殺気を含んだそれを受けたミラは剣の柄に手をかけた。その手の上にあたしが手を当てる。ミラがあたしを見る。それに頷いて答える。

 

「待ってよ! あたしに用があるならいいよ。どこにでも行くよ。でも何が目的で誰と会うかくらい教えてくれてもいいでしょ」

「…………」

 

 クリスは殺気を収めず言う。

 

「お前らはこの島に来る前に『ネヴァ・クラーケン』を殺しただろう? 私のペットを」

 

 ! あれが攻撃してきたのは偶然じゃなかった。

 

「島に近づく奴は始末するように命令していた……。私は確かにお前を待っていたが、別に死んだらそれはそれでよかった。それにペットをまた殺されたことに私は怒っている」

 

 クリスの魔力が高まる。

 

「森に出てきたシャドウどもを押さえているのも私。この島にいる全ての連中をこの城に集めてなぶり殺しにしてやってもいいのよ? うだうだ言うなら全員殺す……さっさとお前だけついてこい」

「さーすがにだめでしょ。マオさんだけをこんな危ないやつと一緒に行かせるのは」

 

 エリーゼさんがレイピアを抜いた。

 

「なんだ、お前は魔族のくせに何で人間と一緒に居る」

「私はエリーゼ・バーネット。魔族自治領主の娘よ。これでだいだいわかるでしょ?」

「自治領主……ああ、人間の犬ね」

「……うーん。嫌な言い方。でも、物騒なことを言っている相手に対しては相応の礼儀ってあるのよ?」

 

 クリスは一度あたしたちを見回した。それから残忍な顔で笑う。

 

「いいよ、別に。私はどっちかというとお前達を始末する方が性に合っているしね。ああ、魔族のくせに人間の側につているバカも一緒に相手してあげ……るよ。うっ」

 

 彼女は突然片手をこめかみにあてて俯いた。苦しそうに何か小声でしゃべっている。何をしているのかはわからない。

 

「わかりました……全員連れてきます」

 

 最期のそれだけがあたしにも聞こえた。顔を上げたクリスは苦虫をかみつぶしたような顔で吐き捨てるようにあたしに言った。

 

「お前の質問に答えてあげるわ。魔族と人間の真実の姿を教えてあげるためにお前を呼ばれている。なんで何の力もないお前如きをあの方は……いや、そんなこといいわ。お前達全員来る気があるなら連れて行ってあげる。帰り道は保証しないけど」

 

 きゃははとクリスは笑って背を向けて歩き出す。中庭から城への入り口に彼女は向かった。

 

 真実、その言葉にあたしは無意識に彼女を追いかけた。その足をチカサナ先生が引っ掛けてくる。こ、こけそうになったじゃん。

 

「な、なにするのさ?」

「行くのはいいのですが。罠とも限りませんよ」

「それはそうかもしれないけどクリスはたぶん『魔骸』が使えるから。今拒否したら戦いになる気がする。そうなったらみんなを守れるかわからない、今はついていく方がいいと思う」

「おや、意外と冷静な判断。しかしですねマオさん。あの城の中にさらに多くの魔族がいたら私たちは飛んで火にいる夏の虫ですよ」

「それはあたしも考えないでもない。……だけどそれよりも」

「それよりも?」

 

 もしあたしの悪い予感が本当なら正直ここで行こうと行くまいとあまり変わらない。だったら行くべきと思うんだ。

 

 そんな風に悩んでいるとあたしの背中をぽんとミラが押した。

 

「行こう。マオ。ここに来たのはもともとイオスギルドマスターの言う人間と魔族の『真実』の一部を見に来たはずだよ。クリスの言うことはそれとは違うことかもしれないけど『暁の夜明け』の話が聞けること……たぶんマオは望んでいたよね? ……それは人間と魔族の共生にはきっと必要なことと思う」

「……うん」

「じゃあ、私も一緒に行くよ。危険なことがあっても。それにチカサナ先生。こんな孤島じゃ、どちらにせよ不利です。相手の姿を見ていた方がいいかもしれません」

 

 ミラの言葉を聞いてあたしは自然と「よーし」って声を出した。

 

「どう転ぶかわからないけど、あたしは突き進んだ方が自分らしいよね!」

 

 あたしはクリスの後を追う。

 

 その時、後ろから声が聞こえた。

 

「人間と魔族の共生? くだらない話ですわ」

 

 ソフィアの声に今は反応できなかった。ただ、そう思うことも事実なんだと思う。

 

 

 城の中もやっぱりところどころ崩れている。それでも古い建物にしては頑丈に作られていたんだろうね。石組みとかはしっかりしている。無骨な壁を手でなぞるとひんやりしている。

 

「ねえ、クリス。ここは『暁の夜明け』が使っているの?」

「……あのね。私はお前と話をしたいとは全く思ってないの。話しかけないでくれない?」

 

 むぅ。ガードが堅い。クリスはさらに冷たく言う。

 

「……2回も殺し合った相手にそんな風に話しかけられるなんて、お前頭おかしいんじゃないのか?」

 

 2回くらいじゃ……。って思ったけどたぶんこれはあたしがおかしい。たださぁ、勇者達とは何度やり合ったかわからないよ。そんなことも言えないし仕方なくクリスの後ろを黙ってついていく。

 

 ミラとエリーゼさんは罠がないか慎重に進んでいる。チカサナ先生は少し後ろにいるのはあたしたちが罠にかかってもみんなまとめてやられないようにしているのかな……口笛を吹いているけど。ソフィア達が離れているのは単にあたしを嫌いなのもあると思う。

 

 中庭から回って城のエントランスみたいなところに出た。入口はがれきに埋まっている。あそこはさっき外から入れなかったところだろうね。エントランスには螺旋階段がある。そこをあたしたちは登っていく。

 

 2階に上がっていくつかの曲がり路を歩いていく。クリスの歩く道以外はほとんど通れない。しばらく歩くと大きな、あたしが見上げるくらい大きな扉の前でクリスが止まった。彼女はその扉に手を当てたまま振り向く。

 

「こちらで私たちの主がお待ちだ。できればあんたたちの処分を私に命令してくれたらいいんだけど。きゃはは。……ほら、開けるわよ」

 

 ぎいと扉が音を立てて開く。その時にあたしたちに向かって魔力の波動を感じた。扉の向こうにいる人物の力だろう。あたしはごくりと息をのむ。最悪の予感が当たっているかもしれない。ただ、ここまで来てどうしようもない。

 

 だからクリスが開けきる前にあたしは扉に体当たりするように入り込んだ。

 

「うわ、貴様」

 

 クリスの声を聴きながら。中に入る。

 

 広い空間だった。奥に崩れた玉座がある。その上に色とりどりのガラスをはめ込んで紋章を描いた巨大なステンドグラスがあった。そこから光が差し込み玉座とそこに座っている男を照らしている。古い城なのにあんなのがあるってことはやっぱりここは今でも使われているんだ。

 

 玉座の男。黒い服に身を包んだ男。そのそばに侍るようにもう一人巨体の男がいるけどあたしの目はそちらには向かない。

 

 男は鷹のような眼であたしを見ている。その瞳は赤。吸い込まれそうなほどに赤い。そして圧倒的な魔力をその体からたたえている。そして鞘に入った刀を両手でもって地面に立てている。

 

 あいつは

 

 魔王ヴァイゼン。

 

 あたしと戦った現代の魔王はゆっくりと立ち上がった。

 

 

 

 

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