魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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信頼

 

  ――遠くで響く破壊音。そしてすごい魔力を感じた。

 

 あたしは空の上からセレーナ島を見る。やけに小さく見えるのは自分が思ったよりも高い場所にいるということだ。そしてすぐにはっとする。

 

「ぴーちゃん!」

 

 あたしの叫びと同時にぴーちゃんが体を傾ける。その一瞬後に魔力の圧縮された光があたし達の傍を通過する。魔力の余波に熱を感じる。直撃すれば蒸発するほどの高出力。あつい風が頬をなでる。

 

 セレーナ島のことがすごく気になる……でも、気を取られている場合じゃない。自分の戦っている相手はヴァイゼンだ。あたしは前方を睨む。遠くに見える『点』がすさまじい速さで動いていく。あれが彼の乗る竜だ。

 

 空での戦い。ぴーちゃんもヴァイゼンの乗る竜もめちゃくちゃ大きいのにすごく小さく見える。……それでも接近する一瞬はその大きさを感じる。

 

 蒼い竜があたしとぴーちゃんを見ながら高速で空を舞う。2匹の竜は円を描くように空を飛ぶ。一定の間合い、相手の隙を伺う。気を抜けば即座に攻撃に晒される。一撃でも食らえば終わりだ。

 

 ……戦いの中で状況判断が重要なのは昔の経験で文字通り痛いほど知っている。

 

 だから正直に言えば、今あたしは押されている。劣勢なのをごまかして、隠してもいいことなんかない。

 

 あたしはぴーちゃんの背中に当てている手で魔力の流れを調整している。ヴァイゼンがそれをしているのかどうかはわかんないけど……『速さ』という一点だけでもあっちの方が上だ。だからこちらからは攻撃がなかなかできない。回避に専念させられている。

 

 ――唇をなめる。

 

「マオ様をなめるなよ……」

 

 あたしの心の声が漏れる。顔を上げる。その瞬間だった。

 

 ヴァイゼンの乗っている蒼い竜。空を飛ぶ姿。大きな翼を動かすたびに微細な魔力の光が蒼い粉のようにはじけて消える。綺麗だって思ってしまった。一瞬の目を奪われてあたしは唇を噛む。

 

「……ヴァイゼン」

 

 あたしは声の届かないあいつに言う。睨みつける。

 

「ぴーちゃんの方が可愛いからね……!」

 

 あの蒼い竜も綺麗な色しているけど……。ぴーちゃんの背中とかすごく安心して寝ることができるんだぞってヴァイゼンに言ってやりたい……! 言ってどうなることでもないけど……。この戦いはあたしも負けたくないけど、ぴーちゃんにも勝たせたい。

 

 あたしは振り返る。そこには不安そうな表情をしているソフィアがいて、でもあたしを見てきっと睨みつけてくる。

 

「ソフィア。今から……攻めるから振り落とされないように気を付けてて」

「何を……私を侮っていますの?」

「そんなことは思ってないよ。行くよ。ぴーちゃん!」

 

 あたしはぴーちゃんの背中に手を付けて魔力の流れで意思を伝える。

 

 ぴーちゃんが咆哮する。空気が振動する中であたしはちゃんと伝わったことで少しだけ口元がほころぶ。ぴーちゃんは羽を広げて羽ばたく。ぐんと加速して上昇する。空の戦いは上を取った方が有利だ。さっきからずっとヴァイゼンの蒼い竜にその有利な位置を取られ続けている。

 

 蒼い竜が速度を緩めて口を開けた。上昇するあたしたちに向かって魔力の光で撃ち落とそうとしている……。上昇するだけなら軌道も読みやすいはずだ。そこを狙われている。あたしは右手を眼下の蒼い竜に伸ばし、手を広げる。

 

「クリエイション」

 

 右手を中心に魔法陣が展開する。

 

 魔王としてあたしの編み出した魔法。魔力は糸のように分解して形を成していく。空に上がるぴーちゃんの周りに魔力の糸が形を作っていく。

 

 編み出すのは魔銃の形。紫色の魔力に編まれた銃が空中に浮かび。そして魔力の弾丸を発射する。一直線に蒼い竜に向かって飛ぶそれを竜は回避する。わずかに体勢を崩した隙にぴーちゃんは空に昇りきる。最低限の牽制に使った魔力の銃はまだ消さない。

 

 高い。どこまでも青い空が広がる雲の上。空気が薄い中であたしは両手を組んで下を見る。さっきまでヴァイゼンに見下ろされていたからそれをしっかりと態度でやり返してみる。

 

 ていうか高いな……普通に怖い。その場で止まって改めてみると……うう。動いてた方が気がまぎれるよね。

 

「何をする気ですの……あなたは」

 

 ソフィアに詳しく説明をしている暇はない。あたしは振り返った。ソフィアの両手は『聖杖』を強く握りしめている。それを見ながらあたし言った。

 

「ソフィア、頼みがあるんだ」

「頼み……?」

「あたしはぴーちゃんの力を制御しながらこれから急降下する。あたしが合図したら一緒に攻撃をしてほしい」

「…………」

「『聖杖』の力を使わせてほしい」

 

 あたしの言葉を聞いた瞬間にソフィアのくすんだ赤い瞳がわずかに開かれたように見えた。あたしのことを彼女はみて、口をわずかに開けて何も言わない。その表情からは何を思っているのかよくわからなかった。それにここにこれ以上とどまっていれば撃ち落とされる可能性もある。

 

「お願い」

 

 急いでいた。あたしは頭を下げてお願いする。ネヴァ・クラーケンを倒した時のように彼女が協力をしてくれれば今の劣勢の中でも対抗することができる。

 

「……何を……すればよろしいんですの?」

 

 ソフィアは抑揚のない声でそう言った。すごく感情を抑えているのはわかる。それでも協力してくれるならすごく嬉しい。あたしは彼女に言う。

 

「あたしがぴーちゃんの魔力を操作して聖杖に魔力を流し込む。ソフィアはそれを操作してあの青い竜にぶつけてほしい……あの海で戦った時みたいに」

「…………」

 

 青い竜の『竜の息吹』《ドラゴンブレス》やあたしのクリエイションで作った疑似的な『魔銃』は直線だ。それを躱すのは射線から外れてあげればいい。だけどソフィアが魔力を誘導してくれればこちらの攻撃はずっと直撃させやすい。

 

 …………時間はないね。

 

「ありがとうソフィア、じゃあ、行くよ! ぴーちゃん!」

 

 あたしの言葉でぴーちゃんが降下を始める。青い竜の滞空する場所に向けて一直線に降りていく。冷たい空気が体を包む。眼下にいる青い竜は動かない。その背中にいる黒いマントを羽織った男はあたしを見ている。

 

 青い竜の周りに魔法陣が展開される。ひとつ、ふたつ、みっつ……竜を中心に6つの魔法陣が展開されてそれぞれ魔力の道でつながっている。

 

 竜の口が開かれる。そこに収束した魔力が魔法陣に浸透して光を放つ。数秒にも満たない時間、一瞬先にあたしたちは必殺の攻撃を受けるだろう。

 

 その中であたしもぴーちゃんの魔力を使う。

 

「クリエイション」

 

 あたしはクールブロンを手にして魔力を流し込む。魔銃の形をイメージしやすいように。

 

 想像する。

 

 ぴーちゃんの背中に2つの魔銃を背負うように、魔力を構築する。弾丸を装填するように魔力の『弾』を魔力の糸を重ねて、重ねて。重ねて作る。これは攻撃のためのものじゃない。

 

 青い竜が周りの魔法陣が強い光を放つ。6つの閃光、降下するあたしたちに向かって放たれる……はずだ。あたしは右手を空に伸ばして振り下ろす。

 

「マオ様をなめるなぁ!」

 

 作り上げた『魔銃』からあたしのつくった魔力の銃弾が放たれる。

 

 青い竜の放った6つの光。これはあたしたちを狙っている。だからまっすぐにこちらに向かってくるはずだ。その軌道は読みやすい。全部を打ち落とす必要はない。あたし達が前に行くために邪魔になる攻撃だけを――

 

「撃ち落とす!!」

 

 青い竜の放った魔力の光とあたしの銃弾がぶつかり衝撃が起こる。それでもぴーちゃんは止まらない。撃ち落としきれてない相手の攻撃が天空に向かって伸びていく。眼下にはわずかに硬直している青い竜がいた。

 

 懐に入った。そう感じる。

 

 呼吸する時間も惜しい。刹那の時間を得るためにあたしは危険を冒した。命がけで手に入れた僅かな時間の中であたしは叫んだ。ここで決める!!

 

「ソフィア! 聖杖をあたしに!」

 

 振り向いた。ソフィアがはっとして何か言いかけて。そして聖杖を両手で握りしめて。あたしを――睨みつけた。

 

「ソフィア!」

 

 もう一度声を出す。彼女は何も言わない。その間に時間は無常に消えていく。

 

 ぴーちゃんと青い竜が交差する。千載一遇の攻撃のタイミングは消えて、ぴーちゃんの速度がわずかに鈍る。さっきの一瞬で決めるつもりだったからこそあたしは急激にぴーちゃんの魔力をつぎ込んでしまった。

 

 それを見逃すヴァイゼンじゃない。青い竜が咆哮する。口を開き『竜の息吹』を放つ。一筋の熱線がぴーちゃんの片翼を貫く。

 

「ぴーちゃん!!」

 

 ぴーちゃんが苦し気に咆えた。

 

 

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