魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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あたしの正体

 

「あたしの……正体?……」

 

 そういうだけで精一杯だった。ヴァイゼンはあたしとは真逆で涼やかな表情で言う。

 

「それだけだ。……私と渡り合い、竜を使役するお前がただの少女……とはならないだろう? ……お前の言葉の端々にも分不相応な……そうだな、その姿に似合わない『何か』を感じさせる。例えば――」

 

 ヴァイゼンは言った。静かな声なのにあたしの頭の中にそれは響いた。

 

「何かの生まれ変わり、か?」

「……っ!」

 

 動揺を隠さないといけない。そう思ってあたしは必死に感情を抑えた。

 

 心臓が鷲掴みされたように痛い。体が冷たいと感じるくらいに血の気が引いたのを感じる。

 

 何か言わないといけない。

 

 沈黙していたら肯定と受け止められる。

 

 ……いや。

 

 あたしはヴァイゼンを見た。この魔族の男はただあたしを見ている。悪意や敵意を感じない、本当に静かにただあたしの様子を伺っている。

 

 あたしはさっきの古城でミラが間に入ってくれなかったら自分の『正体』をヴァイゼン達の説得のために口にしていた。あの時はそれしかないと思っていたからそうだった。

 

 結局いつかは口にしないといけないのかもしれない。それなら、

 

「あ」

 

 たし、と言おうとして声が出ない。

 

 その瞬間に、

 

 あたしの過去が頭に浮かんだ。

 

 ――村で生まれてお父さんとお母さんとロダ、それにみんなと過ごしたこと。

 

 ――ミラと出会って、ニーナと会ってそれからラナともモニカとも王都のみんなと過ごした。短い間だけど学園でいろんなことがあったこと。

 

「…………」

 

 声が出ない。

 

 自分の正体を口した瞬間にすべてが壊れてしまいそうな気がする。

 

 あたしは、魔王だ。

 

 その言葉はきっと強い言葉なんだ……違う……強い言葉だ。何もかも巻き込んで壊してしまえるくらい。

 

 その時あたしは思った。いや、あたしじゃない『私』の声のように感じる。不意に魔王だった時の自分を思い出してしまう。

 

 その自分が囁いてくる。

 

『魔族が迫害されているのはおまえがやったことだ。自分のために罪から逃げるのか?』

 

 あたしのすぐ後ろから声が聞こえてきた。錯覚だってわかる。でもきっとあたしの心の奥底にある声だとわかってしまう。思い出すのはいつもどこかで戦っている自分の姿。

 

 炎の光景。

 

 どこか、じゃない。多くの場所を魔法で炎の中に沈めた。多くの悲しみを作り出して、結局負けて何もできなかった。……そうだ、あたしに逃げる権利なんて最初からありはしない。

 

『逃げることは許されないよ』

 

 『私』の声、それに顔を上げてヴァイゼンに向かい合う。胸に手を当てて自分を示す。

 

「あたしは…………………」

 

 心の奥に言葉を取りに行く。

 

「…………………」

 

 マオとして、

 

 15年間生きてきた記憶が邪魔をする。

 

 みんなと一緒に過ごした日が浮かんでしまう。ミラに言うこととは違う。ヴァイゼンに言えばきっとあたしは元『魔王』として歩かないといけなくなる。それは当然のことなんだ。あたしがやったことなんだから。

 

「生まれ変わりってなにさ……」

 

 言葉がどこかで変わってしまう。そんなことを口にしてしまった。ヴァイゼンはが返してくる。

 

「……『暁の夜明け』は過去からやってきた人物が作った組織だ」

「過去から……?」

 

 あたしと同じで神が生まれ変わらせたってこと? そんなやつが……?

 

「奴は自らの力で魂を転生させたという。……事実かどうかを確かめる術はないが、幼い子供の姿でありながら凄まじい力と知識を持っていた」

「もっていた……?」

「……奴は死んだ。見方によれば生きているともいえるだろうが……一人の女性とともに消えた。イオスはそれに執着しているようだが、あの娘にとっては不幸だろう」

 

 ……話がわからなくなる。転生をした人物はもういない? 女性……イオス……それにあの娘って誰のことを言っているのだろう。考えがまとまらないうちにヴァイゼンが言った。

 

「もういいだろう……。さあ、お前の返事を聞こうか?」

 

 その言葉にびくっと体が震えてしまう。後ろに下がりそうになるのをなんとか抑え込む。顔もわからない『転生した誰か』とヴァイゼンが会ったことがあるからあたしもそうじゃないかと思っているってこと……だ。

 

「……ふ」

 

 少しだけ笑ってしまう。不安なのは変わらない。でもさ、どうせ逃げることはできない。なら前に進むしかない。どうなるかわからないけど……あたしは口を開く。あたしの正体をこいつに伝えてやるからにはさ、知ったからにはあたしに協力をしてもらうくらいの気持ちで言ってやるのがあたしだ。

 

「いいよ。ヴァイゼン。みんなに手を出さないという条件なら教えてあげるよ」

「最初からそう言っているつもりだがな」

「いちおう、確認だよ。あたしは――」

 

 その瞬間だった。急速な魔力の高まりを感じた。

 

「!」

 

 足元。

 

 ここは竜の上。だからずっと下から巨大な魔力が集まっていくのが分かった。なんだこれ。そして急に青い竜が旋回した。

 

「わわわ」

 

 バランスを崩して転びそうになるのを両手をばたつかせて耐える。そしてすぐ後に青い竜の側面を一筋の魔力の光が空に向かって伸びていく。灼熱の光。もし直撃を受ければ青い竜ごとあたしを消し飛ばす力を持った強力な魔力波。

 

 これは『竜の息吹』(ドラゴンブレス) だ。

 

「なんで……?」

 

 ここには竜は2匹しかいない青い竜とぴーちゃんだ。

 

 眼下を見る。ずっと下を飛ぶ黒い鱗の竜。ぴーちゃんが口を開けてこちらを見ている。やっぱり『竜の息吹』を撃ったのはぴーちゃん……? でもなんで? ぴーちゃんはもう魔力は残ってないないはずだ。

 

 ソフィアのことが頭に浮かんだ。いや、違う。仮に聖杖を持っていたとしてもぴーちゃんを使役することとは違うはずだ。

 

「ぴーちゃん! 今はだめ!」

 

 叫んだ声が聞こえるはずがない。だけどぴーちゃんが唸った。

 

 よく見れば体を光る鎖のようなもので縛られている。魔力で作られた鎖……なんだあれ。見たことがある。でも、あれは……。そう思ってはっとする。ヴァイゼンが刀を抜いているのが見えた。

 

「ヴァイゼン、待って! 今のぴーちゃんは魔力が少ないしもう、この青い竜には勝てない。だから待って」

「あの鎖……。まさか生きていたのか。……行け。ファーヴニル」

 

 その声に蒼い竜が呼応する。今ぴーちゃんはまともに戦えるわけじゃない。なんであんなことをしたとか、あの鎖はなんだとか考えてる暇はない。あたしはクールブロンを構える。そして背中に結晶化させている魔力の羽を一枚魔力に戻す。

 

「アクア・クリエーション!」

 

 生み出した水を人の形に作り替える。生み出すのは力の勇者の形。時間がない。攻撃をあたしに向けさせる。

 

 力の勇者をかたどった水人形が構える。あたしは全神経をその操作に集中させた。

 

「ヴァイゼン!」

「……」

 

 水人形を突っ込ませる。ヴァイゼンの刀は長刀だ。近接戦であれば水人形の方が有利のはず。

 

 それにあいつにとってはこれがあたしの魔法の所見。最初の攻撃を当てなけれいけない。一呼吸の間に水人形をヴァイゼンの前に直進させる。

 

 ヴァイゼンが刀に黒い魔力が宿したのが見えた。一瞬の間だ。魔力で強化した感覚がかろうじて『拾ってくれた』んだ。彼が刀を振るう。あたしは右手を上げて水人形を回避させる。ヴァイゼンの刀が空を切る……はずだった。

 

 水人形の右足が飛ばされる。あたしの操作が一瞬遅かった……違う、ヴァイゼンが速かった。だけどあたしは右手を振り下ろす。それに呼応して空中で水人形が回転して残った足でけりを繰り出す。それをヴァイゼンはかわして、引き寄せた刀をさらに一振りする。

 

 あたしの水人形が真っ二つになって弾ける。仮面の男の時はただの鉄剣だったけど、あのヴァイゼンの刀には凄まじい魔力が込められている。無様にやられて本物の力の勇者の奴に……怒られそうだ。攻撃のために自分から離れれば離れるほど精度が下がる。

 

 だけど水人形がはじけたことは利用する。

 

 クールブロンをヴァイゼンに向けて引き金を引く。魔力に押し出された弾丸が彼に直撃する手前でばちばちと魔力の壁に阻まれた。からんと弾丸が落ちる。あたしは横に走り出す。体の周りに魔力の障壁を作っているってことか。

 

 手にはクールブロンを構えて弾丸を込めて、レバーを引く。遅い……連射できればいいのに。あたしは身体能力を強化して走る。青い竜の背中の上はそこまで広くはない。背中の魔力の羽を使う必要がある。

 

「クリエイション」

 

 あたしの言葉に魔力の羽が糸のように分解される。そして空中で魔銃の形に再構成する。ヴァイゼンがあたしを見て笑った。

 

「あの時の続きか?」

 

 彼の体から巨大な魔力が溢れる。

 

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