魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~ 作:ほりぃー
青い竜が加速する。地面が動く感覚……竜の背に乗っているから当たり前だ。あたしは振り落とされないように少し重心を下げる。景色が流れていく。その中でクールブロンに魔力を込める。
白い魔銃にはめ込まれた魔石に魔力を込めて、そして呪文を唱える。クールブロンは2つの力がある。ひとつは周囲の魔力を集める力、もう一つは撃ちだした弾丸に魔法を込める力。あたしは後者を使う。
ヴァイゼンに向けて引き金を引く。撃ちだされた弾丸は数秒後に一瞬の青い光を放ち、複雑な文様を宙に描く。魔法陣が展開してヴァイゼンに向けて水流が放たれる。それは複数に分かれて彼を襲う。
「アクア・ショット!」
あたしは竜の背を走る。視界の端、ヴァイゼンが体から魔力を放ったのが見えた。それで水流を弾き飛ばした。ほんの少しの間だけはじかれた水が雨のように降る。竜の動くのに合わせて消えていく。
雨の中でヴァイゼンの赤い瞳があたしを見る。そうさ、こっちを見させるための攻撃だった。
「クリエイション」
あたしは右手を振る。さっき魔力で『魔銃』を作った。複数作り、そのひとつを今の間にヴァイゼンの後方に回り込ませていた。こっちを見ている彼の後ろから攻撃させる――指をパチンとはじく!
魔力の糸で編みこまれた魔銃は宙を浮き、ヴァイゼンに対して一筋の魔力の光線を放つ。紫の一瞬の光。その後方からの攻撃をヴァイゼンは刀で振り向きざまに斬った。
「無茶苦茶するね……!」
黒髪の魔族は刀を振るいあたしを見て、少しだけくいっと顎を上げる。くそ、挑発している!
切り払われたあたしの魔力が粒子となって弾ける。
フェイントを含めて2重の攻撃が当たらないのなら、たぶんあいつは魔力探知の能力にも優れている。魔力の攻撃で不意打ちは難しいってことだ。かといってあたしの物理的な攻撃はクールブロンでの銃撃だけどそれじゃあヴァイゼンの魔力の防御を突破できない。
「じゃあ、これならどう?」
あたしが空に指を立てて手を上げる。魔力で作った『魔銃』は複数ある、それを一気に動かしてヴァイゼンの周囲を囲む。一呼吸もできないくらいに一瞬にそれをする。それ以上の時間をあいつには与えてやらない。
魔力で編んだ『魔銃』があたしが指を鳴らすと同時に火を噴く。いや、魔力の光線を放つ。四方からの攻撃。その一瞬にヴァイゼンは笑ったのが見えた。
光が収束する。すべての魔力の光線が彼に直撃した……ように見えた。閃光が奔りあたしは思わず片目を閉じてしまう……。だけど次の光景に思わず笑ってしまった。
ヴァイゼンは悠然と佇んでいた。刀を右手に、そして残りの左手に『魔力を掴んでいた』。あたしの攻撃をすべて手で捉えて『掴んだ』? はは、やり方はわからないけどめちゃくちゃくちゃなことをしていることはわかる。
ヴァイゼンは左手を前に出す。そこに集まる魔力をあたしに向けて撃ちだす。
「!!」
竜の背を蹴って何とか避ける。その間にヴァイゼンが迫る。一足飛びに向かってくる。今近づかれたらやられる……! 片手を竜の背に向けて魔力を流す。
「ごめん! アースクエイク!」
本来なら地面に向けて放つものだ。青い竜の体にすることでその身を振動させる。青い竜が叫んだ。ごめん。ヴァイゼンの足を鈍らせる。そのすきにあたしは魔力で編んだ魔銃をひとつ近くにもってきて、銃撃する。
ヴァイゼンは読んでいたように避ける。
その次の瞬間だった。
風を切る音がする。青い竜の傍を黒い影が通る。
漆黒の巨大な体。少し欠けた大きな翼。巨大な牙をむき出しにした恐ろしい形相。
ぴーちゃんだ。体に魔力の鎖を巻き付かせている。あれは……。
グオオオオ!
何かを考える前にぴーちゃんが青い竜にかみついた。鮮血が飛ぶ。
「ぴーちゃん……!」
やめてと叫ぼうとする。その前にヴァイゼンが動いた。彼の刀にすさまじい魔力が込められる。赤いそれがキィイイイイと不快な音を鳴らす。
一閃。ヴァイゼンの赤い斬撃がぴーちゃんを斬った。黒い鱗に覆われたぴーちゃんの体に一筋の傷を負わせた。赤い血が降る。ヴァイゼンがその雨の中でゆっくりとあたしを見る。ぴーちゃんが悲鳴を上げるのが空に響く。
「あれは操られている……。だが向かってくるのであれば容赦するわけにはいかない」
「…………操られているって……誰にさ」
青い竜はぴーちゃんから離れていく……。唇をいつのまにか噛んでいる。傷ついたぴーちゃんに胸がぎゅっとなる。……あたしはそれでも目の前の男に視線を戻す。
ヴァイゼンがさらに刀に魔力を込める。赤い血の雨があたしにもかかる。彼の魔族特有の瞳が光る。
「マオ。手加減しているな?」
「…………そんな余裕があたしにあると思うの?」
「…………しているさ。所詮お前は相手の行動を封じる程度に攻撃を抑えている。殺意がない」
心臓が鳴る。手加減なんてしてない……だけど確かに『魔王』だった時と魔法の使い方も戦いのやり方も全然違う。相手のことなんて何も知らないとすべてを利用して相手を殺すことが戦場では必要だった。
……だけど今のあたしは……相手との戦いを終わらせるための戦いをしている。殺すことも傷つけることも目的じゃない。全力でやっているのは同じでも、全然違う。それをこの男に見透かされている。
ヴァイゼンが歩みを止める。
「貴様と船上で戦った時とはまるで違う。この私に対して手を抜いて勝てるとはまさか思ってはいないだろう?」
「………………」
そうだろう。ぴーちゃんの魔力を借りている今ならあたしは多くの魔法を使える。
使えることをそのまま使う……そんなことを求めているわけじゃない。……だけどヴァイゼン相手にそれで勝てるとは思えない。
あたしはぴーちゃんを見る。青い竜が空中で止まる。まさか『竜の息吹』でぴーちゃんを狙うつもり……?
「気が散っているな。今ので殺せた」
「……!」
ヴァイゼンの言葉にはっとした。確かに今この強敵の前で別のことを考えていた。こいつに勝つこととぴーちゃんを守ることを同時にやることは今のあたしには力不足だ。こいつの言う通りヴァイゼンがその気なら刀で斬られていたかもしれない。
――だけどぴーちゃんが……。
――それにセレーナ島のみんなが。
――ソフィアはどうしたんだろう?
余計なことが頭に流れ込んでくる。
余計?
自分で思った言葉をすごく不快に思う。余計なことなはずはない。……だけど戦いの中ではあえてでも切り離さないといけないことだってこともわかっている。
ヴァイゼンが言う。
「お前たちは魔族と人間の共存を目指すといったが、中途半端な覚悟など何の意味もない」
ぐさりと心に刺さった気がした。困難な道だということはわかっている。それでも歩むと決めた。……だけど、力が一緒にないと歩くことなんてできない。
……
……
……
ヴァイゼンは強い。
あたしは彼に指を突きつける。黒髪の魔族の表情は変わらない。だけど、かまわない。
「あたしは今からあんたを信頼する」
「信頼?」
「そうだよ……あたしは、ヴァイゼン……あんたのことを信じることにした」
「何を言っている」
指を鳴らす。周囲に散っていた魔力の『魔銃』が集まってくる。体に纏った竜の魔力を呼応させる。あたしの周りに魔法陣が展開される。体中に力がみなぎっていく。
紫の光が赤と黒を混ぜ合わせた光に変わっていく。
魔力の結晶化を『角』の形に変えていく。羊のような湾曲した魔力の角。前のあたしが使っていた形だ。体中から魔力が溢れていく。……全盛期のあたしの魔力にはずっと足りないけど、いい。
ヴァイゼン……言った通りあんたを今から信頼する。
…………魔王の時の戦い方を見せてやる。