魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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過去の残像

 

 ヴァイゼンの剣。

 

 イグニスの剣。

 

 二つの刃が閃光となり交差する。あたしの作り出したイグニスの姿は往年の彼を想起して魔力を編む。大柄な体躯にマントを靡かせた姿。魔力で作り出した黒いイグニスの『形』。前に作った『力の勇者』の水人形は水で作り出した疑似的な体に一部の強化を織り込んだものだった。

 

 竜の魔力を使える今ならさらに精度の高い魔力の人形が作れる。

 

 ヴァイゼンの刀に魔力が収束する。

 

 呼吸ひとつにも満たない刹那。だけどあたしはそれに後れを取ることはない。右手を前に、指を動かす。イグニスの剣に魔力を流しこむ。

 

 ヴァイゼンが刀振るうと同時にイグニスの剣が動く。魔力を込めた二つの斬撃がぶつかり空気を轟音とともに振動させる。あたしは左手に持ったクールブロンを発動させる。白い銃身に刻まれた文様が光る。周囲の魔力を此処に吸収していく。

 

 バラバラに散らばった赤と黒の魔力があたしの手元に流れ込んでいく。絶対的な魔力量はヴァイゼンの方がはるかに上だ。だから何だって、使えるものは使うことが戦いの基本だ。

 

 クールブロンの操作とイグニスの体の維持するための魔力の流れを同時に行う。そのままに発動させたなら自らの魔力も無効化してしまう。

 

「クールブロン……!」

 

 白い銃の文様にあたしは黒い魔力で模様を描く。それはもともと精密に刻まれた魔力の流れを操るためのもの。より戦闘に特化させるためのものだった。

 

 白い魔銃の半分が黒に染まり、あたしの描いた黒い魔力の文様が浮かぶ。あふれ出した魔力が結晶化して別の武器のようだ。……なんでかわからいけど、心の奥の方で何か苦いものがこぼれるような気がした。

 

 ――ヴァイゼンが迫る。イグニスを動かす。

 

 刀と剣がぶつかる。一撃一撃に込められている殺意と魔力量。別のことを考えている余裕なんてない。思考を集中させるんだ。あいつを――すことに。油断すれば逆にやられる。魔力の調整を間違えればそれは死に直結する。

 

 あたしは動く。この限られた空間の中で距離を取る。強化された体で地面を蹴る。

 

「クリエイション」

 

 魔力を編み。あたしの体を中心に渦を巻く。右手を天に伸ばして指を立てる。黒い魔力があふれ出して形を作る。

 

 無数の槍。魔力で作ったそれが空中に浮かんだ。構築に時間なんてかけない。だけど――誰よりも精密に魔力の槍を構築する。

 

 右手を振り下ろすと同時にそれは黒い閃光になった。ヴァイゼンの元にすべての槍を落とした。

 

 空ごと落とすつもりであたしはやった。魔力の槍が彼のいた場所を中心にわずかな時間にすべてが突き刺さる。普通なら生きていないだろう。この魔法は騎士団をまとめて……するときのものだ。

 

 だけどあいつは立っている。

 

 黒い槍が無数にそびえる地面のその真ん中でヴァイゼンは立っていた。赤い目で静かにあたしを見ている。その時間も一瞬のことだった。あいつは刀を頭上にかざした。その主観にあたしの心の奥の中にが検証を鳴らした。

 

 魔力が溢れていく。

 

 赤い魔力が奔流のように流れる。この空間全てを威圧するように。

 

「マオ。貴様を試そう」

 

 ヴァイゼンは静かに言った。あたしはあいつを睨んだまま後ろにはひかない。イグニスを右手で動かす。そばに寄せて次の攻撃に備える。

 

 空間が歪んで見える。一つの巨大な赤い魔力の塊をヴァイゼンは剣に収束させている。ばちばちと何かが鳴る音がする。あたしは手が少し震えているのを見て、自分が少しおびえているんだろうと他人事のように観察する。

 

 死が目の前にある。鳴る心臓を胸に手を当てて押さえつける。

 

 ――閉じられた空間。限られた魔力。敵の戦力。イグニスの動き。魔銃。戦いの中にある様々な動きをあたしはパズルのように組み立てる。何度も何度もやってきたことだ。常に『今考えることできる』最善の手を打つことがあたしが昔の戦争で得たもの。

 

「……結局何も守れなかった、意味のないものなのかもしれないけどさ」

 

 あたしのつぶやきは誰にも聞こえない。ヴァイゼンの刀から赤い魔力がさらにあふれ出る。

 

「ルベル・ルクス」

 

 ヴァイゼンは静かに刀の切っ先をあたしに向ける。

 

 その瞬間にあたしの足元に巨大な魔法陣が浮かび上がった。そして一瞬それが光り、炎が湧き上がった。あたしは……クールブロンに魔力を通す。そして地面に突き立てた。

 

 灼熱の炎が全てを包んだ。

 

☆☆

 

 魔力による赤黒い炎が渦を巻き空間を支配する。

 

 圧倒的魔力で生み出された高熱の空間は地獄を現出させたかのような炎の世界。

 

 魔王を名乗る男はその中でひとり立っている。涼し気な表情を崩すことなく、相対している『敵』の次の手に備えている。孤独な王は対等にみずからと向かい合う少女を待っていた。普通であればこの全てを焼き尽くす地獄の中で自らに向かい合えば焼死は免れないだろう。それでも彼は待った。

 

 炎が世界を焼く。

 

 魔力の炎は逆巻き、余すことなく空間を嘗め尽くす。

 

「………………ここまでか」

 

 ヴァイゼンは刀を鞘に納めた。感情を感じさせない彼の表情。ただ、の向こうに『彼女』が立ち上がることを期待していた。しかし炎はさらに燃え盛る光景だけが彼の目に映っている。

 

「………?」

 

 違和感があった。何の違和感かはわからない。しかし戦いは終わったはずだった。

 

 彼は魔力で作った自らの空間を解除させるようとして……それができないことに気が付いた。その瞬間に彼は口元に笑みを浮かべた。

 

 ぱき。ぱきりと空がひび割れる。黒い塊が落ちていく。

 

 空間が割れていった。

 

「そうか……魔力の扱いに長けているのだったな。私の造った魔力の空間に干渉しているのか」

 

 魔力を吸収する魔銃を彼女は使っていた。それでも強力な力で固定していた作り出した空間に干渉することにヴァイゼンは口元をわずかな笑みを浮かべた。

 

 黒い世界。その外壁が崩れるように形を変える。

 

 魔力でできた空間から剥がれ落ちた黒いそれは一つに寄せ集まって巨大な姿になる。炎の中に立つ巨大な角を持つ巨大な魔物の姿。まるで魔物のような牙を持つその形相。ヴァイゼンのもつ魔力すらも利用した異形。

 

 ヴァイゼンはその姿を知らない。それはかつて勇者たちと戦った『魔王』の姿だった。

 

 衝撃とともに黒い地面に降りた『それ』は赤い目を持っていた。ヴァイゼンを見て咆哮を上げる。崩れた世界の天上からは外から漏れた日の光が差しこんだ。黒の空間の中で炎に包まれた禍々しい姿を照らす。それに対峙するヴァイゼンは笑っていた。

 

「召喚術か……? いや、違うな。私の魔力を利用して何をしたんだ? 魔骸とも違う…………これは……なんだ?」

 

 その言葉は期待の感情を含んでいた。

 

 しかし『魔王』はそれに言葉で応えることはない。代わりに巨大な右手を振るう。炎を巻き込みながら空間を削り取るかのように。ヴァイゼンは地面を蹴って避けると同時に斬撃を放ち、『魔王』を斬る。血は流れない。ただ『魔王』は咆哮を上げた。

 

『ウォオオオオ!!!』

 

 世界を震わせる声。

 

 そのままに暴れまわる。左手を前に出すとその掌に魔力が収束していく。『魔王』はそれをヴァイゼンに向けて放つ。死の光が彼の傍を通過して、空間に穴をあける。その一瞬に『魔王』は踏み込み、拳を振るった。

 

 ヴァイゼンは刀に魔力を通し、斬撃を放つ。拳と刀がぶつかり空間をゆがめながら双方の体がはじかれた。だが、空中で体勢を整えてヴァイゼンは地に足をつけて刀を構えなおす。

 

「……攻撃が単調だな」

 

 一撃一撃の威力はすさまじいものがあるが、それだけで崩せるほどヴァイゼンは甘くはない。それはマオもわかっているだろうと彼は思っていた。彼女の力を侮らないという点において彼はミラスティア・フォン・アイスバーグと並んで数少ない理解者であるといってもいいだろう。

 

 何か狙いがあるのか? と思考を積みかさねて次の手を予測する、時間を『魔王』は与えなかった。

 

 黒い巨体を前に押し出してヴァイゼンの頭上から拳を振り下ろす。彼はそれを避けたが、魔王の一撃が空間にめり込み轟音とともに爆風を起こす。

 

 黒の空間がさらにひび割れていく。ヴァイゼンの造ったそれは崩壊していく。

 

 その中で『魔王』は咆哮する。その赤い目がヴァイゼンを追う。左手を彼に向けた。さらに魔力が収束していく。先ほど放った魔力波を使おうとしているのだろう。ヴァイゼンは迎え撃つために魔力を高めた。

 

「――こい」

 

 ヴァイゼンは笑う。対峙する強大な姿の『魔王』を前に。 

 

 

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