魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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化物の居場所

 

 ソフィアの言っていることが分からなかった。本当のソフィアを殺した? そう言ったと思う……。じゃああたしの目の前にいる彼女は……?

 

 それにソフィアの胸元には魔石が埋め込まれている。じゃあ彼女のもエルと同じように誰かに従っているということなの? ……そうやってあたしの頭の中で疑問がぐるぐると回っていく。それを言葉にしようとしても声にならなかった。

 

 あたしが何かを言う前にソフィアが口を開いた。はっと笑った姿はどことなく自嘲的に見えた。

 

「わたくしは貴方の……あなたたちの思っているよりはるかに薄汚い存在ですわ? どうかしら。驚いたでしょう」

 

 彼女は笑顔のまま言う。

 

「わたくしのいるドルシネオーズの家には昔々に心優しいソフィアという少女がいたそう。彼女は誰にでも優しく、綺麗で紫の宝石のような瞳をしていた……彼女は才能に溢れて魔法を操る姿は、誰よりも美しかった……そう聞いていますわ」

 

 彼女は語る。

 

「その少女はある日事故にあってしまった。馬車での事故に巻き込まれて、体が引きちぎれるほどの事故だったと、でも」

 

 ソフィアはあたしを見る。

 

「次にその少女が目を開けた時には、醜い姿になっていましたわ。魔族のように赤が混じった瞳。中途半端に長い耳。そしてその中にはいたのは『前』のソフィアとは似ても似つかぬ――わたくし」

 

 ……あたしはソフィアの言うことを聞いているしかなかった。……彼女の言う『ソフィア』が事故にあった後に入れ替わった? そう言っているように聞こえた。そんなことがあるのだろうか。あたしはソフィアは魔族との混血かそれに近いのかと勝手に思っていた。でも、違う……ってことだよね。

 

 あたしはやっと言葉を紡ぐ。

 

「……なんで……今、そんな話をあたしにするのさ」

「……さあ、何ででしょう。貴方のことが心底嫌いだからじゃないかしら。ふふ、わたくしが目を覚ましたのは屋敷のベッドの上でしたわ。貴方にはわかるかしら? そこが自分の屋敷だとわかり、ベッドの上だとわかっていてそれでも自分が誰なのかわからない感覚が……。知識はあるのに記憶がちぐはぐで今自分がいる場所に違和感しかない怖さがわかるかしら?」

 

 ふふふとソフィアは笑う。

 

「わかりますの? 目の前にいる『お母様』と『お父様』が自分の親とわかっているのに、他人のようにしか思えない感覚が。そして……変わってしまった醜いわたくしのの姿を見て表情をゆがめた二人の光景が、ずっと、ずっと、ずっと頭から離れないこの苦しみが!!」

 

 彼女は片手を頭に沿える。苦しそうに目を閉じる。

 

「何年経っても消えない記憶も、なんで自分が魔族もどきのような姿になっているのかもわからないことも、子供だったわたくしにはわからない……気づけば胸元に魔石が埋め込まれているのも何でかもわからない。わからない。誰も教えてくれない。屋敷に来るイオスも冷たい目をしていました…………何もわからない、わたくしは感情のままに暴れましたわ。誰にも手が付けられないくらいに」

 

 でも、とソフィアは言った。

 

「逆にそれでわたくしは自分の正体を知ったのですわ。ある日屋敷でメイドたちが話をしているのが聞こえてきたの、何を言っていたかわかるかしら?」

「……わかんないよ」

「簡単ですわよ。『お嬢様はあの化物に乗っ取られたのじゃないか』と……ふふ、ふふふ。あはは。それでわかったのですわ」

 

 ソフィアは空を見上げながら言う。

 

「『化物』であるわたくしは心優しい本物のソフィア・フォン・ドルシネオーズを殺してこの体を乗っ取ったのですわ。そう考えれば知識だけがあって記憶がないことも説明がつきますわ! 人間でも魔族でもない! 混血でもない! この醜い姿も納得がいくでしょう。あは。ははは」

 

 ぽろぽろとソフィアのくすんだ赤い瞳から涙がこぼれていく。彼女は……笑う。寂しそうだって思えた。あたしは何かを言おうとして、何を言えばいいのかわからない。

 

 幼い時のソフィアが自分のことを『化物』と言われているのを……ひとりぼっちで聞いて。……それがどれだけ辛かっただろう。

 

「『化物』と聞いた日からわたくしは人間として、『ソフィア』として演じるように様々なことを必死に学びましたわ。バカな話、捨てられることが怖くなったのですわ。ふふ、田舎で愛されてそうなあなたにはわからない感情ではないかしら?」

 

 ソフィアは視線を落とす。

 

「その中で……魔法の研鑽だけが楽しかった。魔法の書物を読み、ずっと寝るまも惜しんで努力し続けましたわ。努力すればするだけうまくいくことが『化物』でもできることでしたわ。……わたくしがね、わたくしが魔法をうまく使えると『お母様』も『お父様』もこっちをみてくれるのですわ。……見てくれる。本当の子供じゃなくても」

 

 彼女はか細い声で言う。

 

「それだけで嬉しかった」

 

 時間をかけてゆっくりとソフィアが顔を上げた。

 

「偽物のわたくしを『聖杖』の後継者になれた時、わたくしの居場所が見つかったように思えた。魔法だけがわたくしの、ただ一つの居場所。……ふふふ、知ってますの? 『化物』にも居場所は欲しいんですわよ、それを……それを」

 

 彼女の瞳に憎悪が灯る。あたしを見る目に涙を溜めて、彼女はあたしに指を突きつけた。

 

「お前の存在が奪った!!! わたくしが唯一得たこの場所を!! 魔法の才能でことごとく上を行くお前がっ!!!」

 

 ……! あたしは……。

 

「わかっていますわ、お前からすれば才能のない『化物』の戯言なんて意味のわからないものでしょう。それでも……それでもわたくしはお前の存在が許せない。許すわけにはいかない」

 

 ソフィアの体から魔力が溢れていく。両手で捧げ持つ『聖杖』を天に掲げて、そこからに魔力を集めていく。収束した魔力は聖杖の力で増大していく。あたしは叫んだ。

 

「待って! ソフィア」

「…………わたくしは、わたくしの居場所のためにお前を殺す」

 

 憎悪と怒りに満ちた声。涙を讃えた瞳であたしを見るソフィアにあたしは……どうすればいい。

 

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