魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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姉妹対決

 

 その少女は一人佇んでいた。全体を見下ろせる高い場所。

 

 その体は魔力でおおわれている、その頭には赤い魔力の結晶化した角があった。『魔骸化』をしておきながら彼女自身は戦いには出ない。その腰に佩いた双剣を抜くことはない。

 

 人間などシャドウに嬲り殺しになればいいのだ。クリス・パラナはそう思っている。彼女にとってみれば何も意思のない人形にただ殺される人間の姿はふさわしい無様な死だった。

 

 だが、彼女の思惑から戦況は少し外れていた。

 

「撤退……?」

 

 古城の屋根の上でクリスは一人つぶやいた。彼女の傍には魔力で作られた蝶が飛んでいる。すでに空には彼女の主はいない。それにさっきまであったドンファンのものと思われる魔力のぶつかり合いも消えている。

 

 マオという少女とミラスティアという聖剣の少女との因縁を想えばこの場で始末したい気持ちもあったが、全体の計画からすれば無理に戦闘を継続する必要性はない。

 

 眼下に広がる古城の敷地は彼女の操るシャドウに満ちている。異形の存在である彼らはクリスの特異な魔力で使役することができる。彼女は屋根の上で両手を広げて笑った。

 

 いつかこんなふうに人間の王都を滅ぼす。強大な兵力をもってこの世界の力関係を完全に覆す。紅い髪が風に流れる。

 

「どうせ撤退するなら残りの魔力でシャドウどもを強化してあげるわ」

 

 クリスが見下ろす先。光があった。それは雷撃の光。おそらく因縁のある少女の一人であるミラスティアが聖剣を振るっているのだろう。どうせなら殺しておきたいとは考えていた。

 

 クリスの口が動く、古代の魔族の言葉で呪文を唱える。

 

「死ね、勇者」

 

 きゃははと彼女は笑う。

 

 

 ミラスティアは飛び込んだ。シャドウの黒い体に両断するために腰をひねり、斬撃を繰り出す。それで一体の人型のシャドウがはじけ飛ぶが両断はできなかった。

 

 黄金の瞳が動く。手ごたえから何か違うことを即座に感じる。

 

「……みんな、気を付けて。何かが変わった」

 

 白い魔力で体を強化する。シャドウ達が彼女に殺到するが、聖剣が光り。瞬時に雷撃を繰り出す。青い電が奔り、その間をミラスティアが走る。

 

 ミラスティア達の逃げ込んだ城の棟の一階から無限にシャドウ達が入り込んでいる。彼女たちは階段を中心にバリケードを作って対抗していた。

 

 ミラスティアは向かってくる敵の真ん中に飛び込んで敵を切る。

 

「…………」

 

 撃ち漏らしたシャドウに光の矢が刺さる。エルの矢だった。金髪の少女は自分の魔力を矢にして飛ばしている。表情は変わらないが汗をが浮かんでいた。しかし口から言葉は出た。

 

「だるーい」

「あんた! 死にたくないでしょ! 気張りなさいよ」

 

 エルに叫びながらラナが魔法を撃ちだす。炎に魔法にシャドウに何体が吹き飛ぶが、ラナ自身も疲弊していた。肩で息をしている。階段側に来ないように何度も何度も魔法を繰り返し放っている。

 

「はあはあ、はあ、なめ、なめんじゃないわよ」

 

 汗を拭きながらラナは言った。エルが横で彼女を応援する。

 

「がんば!」

「うっさい! 無表情で言うな!」

 

 エルとラナの二人がそれぞれ敵を遠隔から攻撃する。だが数が多かった。ミラスティアと連携でもそれでも接近を許す。

 

 剣や槍を持ったシャドウがラナ達に迫った。その前に炎をまとった少女が跳びだす。耳飾りが揺れる。金髪の彼女はニナレイアだった。魔力の炎で拳を包み、最小の動きで2体のシャドウを攻撃する。

 

 一体を倒し、もう一体が倒しきれない。槍を持ったその個体に反撃されたがニナレイアは冷静に避けて右足で蹴りを繰り出す。魔力で強化された蹴りでシャドウが弾ける。黒い霧になって消える。

 

「…………はあ、はあ」

 

 ニナレイアも疲弊していた。少し拳が震えている。命を懸ける戦いは彼女自身ほとんど経験がない。クリスと戦った一戦があるのみだった。今の一瞬も気を緩めれば死んでいた。

 

「フェリシアとの修業がなければ死んでた……」

 

 目の前で同世代のミラスティアが遥かに高い戦闘技能を持っていることを見せられて、その後ろでラナとエルによるそれぞれの得意分野の威力を感じる。自分だけが中途半端だと彼女の中に苦い感情がある。

 

「それでもいいさ」

 

 どうせ昔から何をやっても不器用だ。だからこそ自分のできる努力を繰り返していこうとニナレイアは前を向いた。今は仲間を守ることが重要だった。

 

 シャドウ達は入り口から入ってくる。彼らにはやはり恐怖がない、つまり躊躇がない。ミラスティアの聖剣がなければすでにこの4人はどうしようもない状況になっていたかもしれない。だが、それでも物量は圧倒的だった。

 

 いつか力尽きるだろう。シャドウ達はその身を強化されて一撃では消えなくなりつつあった。

 

 

「きゃは、きゃはは」

 

 愉快そうにクリスは見下ろしていた。自分を倒せばシャドウ達は消えるかもしれないが自分があの忌々しい聖剣の少女の前に姿を現してやる気はない。仕留めた後なら顔を見せてやろうと考えている。

 

 屋根の上で屈んで愉快そうに笑う。両手で頬杖をつきながら、自分は前に出ない。

 

 クリスは『聖剣』などと言われているものは単なる殺戮の兵器としか見ていない。今日この場で始末できるならそれの方がいい。ドンファンの武力に敵うわけもなく、ましてやヴァイゼンに太刀打ちできるはずもないが伝説の武器など存在するだけで気分が悪い。

 

「いつまで耐えれるのかしら~。ミラスティア・フォン・アイスバーグ……どうせお前なんてお前たちの王から疎まれているんだから、明確な敵のこの私が殺してやるわ」

 

 その時なんとなく後方に気配がした。

 

「お姉ちゃん」

 

 クリスはびくりとした。聞き覚えのある声がする。そんなはずはないと頭を振る。クリスは立ち上がってゆっくりと後ろを向いた。

 

 癖のあるワインレッドの髪を束ねた、赤い目の魔族。フェリックスの制服を見に纏い。その手にはハルバード。

 

 モニカだった。クリスは「あ、あえ?」とうろたえて後じさりする。

 

「な、何でここにあんたが……」

「………なんば」

 

 モニカが前に出る。クリスは彼女が人間の街にいることは知っていた。そしてマオと知り合いということも知っていたが、さっき城に案内した時はいなかったはずだ。

 

「まさか、あの竜に乗ってきた?」

 

 そんなバカなことがあるかとクリスは混乱している。だがめらめらと感情を瞳に乗せてモニカは歩く。

 

「なんば」

 

 モニカは叫んだ。

 

「なんばしよっとね!! お姉ちゃん!!」

 

 思いっきりビンタするモニカ。ほえぇと珍妙な声を出したびんたされるクリス。

 

 ここに姉妹の対決は始まった。

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