魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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理想の否定者

 

 エリーゼとミラスティアの2人が残ったシャドウ達を殲滅していく。動きの悪くなった影たちは2人の剣技に圧倒されていく。エリーゼのレイピアが流麗に動き、最小限の動きでシャドウ達を仕留める。そしてミラスティアが雷撃を放つ。青い光が一瞬にしてシャドウ達を滅する。

 

 敵が全滅するまでの間はそうはかからなかった。

 

「ふう、ひと段落かな」

 

 エリーゼがレイピアを一度振ってから鞘に納める、ばさりとマントが揺れる。

 

「そう、ですね」

 

 ミラスティアははあと息を吐いた。連戦で疲労がたまっている。エリーゼは横目でじっと見ている。

 

「大丈夫?」

「は、はい」

 

 ミラスティアも聖剣を鞘に納める。戦場は静かだった。シャドウ達は倒れてもその体を残さない。魔力の結晶にすぎない彼らは倒されれば黒い霧になって消えるだけだ。しんと静まり返っている。エリーゼはあたりを見渡した。

 

 深い青の髪を手で整えて、緩やかに視線を動かす彼女の姿はそれだけで絵になるような美しさがあった。疲労からかミラスティアはそれに目を奪われた。だがはっと我に返る。

 

「そうだ」

 

 振り返ると階段のあたりに陣取っていたラナ達が見えた。赤い髪のラナが手を上げて「大丈夫」と合図している。ニナレイアはその場に座り込んで、エルは階段で寝そべっていた。いずれにしても疲れているようだった。

 

「じ、自由だなぁ。あの人」

 

 エルの姿に苦笑しつつ、ミラスティアは次のことを考えた。モニカのことを追う、みんなを安全な場所に移動させる。それらは両方ともやらないといけない。

 

「マオさんが乗っていたあの竜。島のはずれに落ちて行ったね」

「エリーゼさん……マオは……大丈夫だと思います」

「ふぅん。すごい信頼ね。まあいいか」

「エリーゼさん。私は戦闘が続いて少し疲労がたまっています。この島を脱出するまでみんなを守るのに頼ってしまうかもしれません」

「もちろん」

 

 エリーゼは少し考えるような仕草をした。顎に手を当ててミラスティアを見る。

 

「私がどこで何をしていたか聞かないのね」

「……気にはなりますが、エリーゼさんにも考えがあると思いますから」

「私も信頼してくれているってわけだ……なんか少し離れていたことが罪悪感があるなぁ」

 

 エリーゼとミラスティアはラナ達のところに行く。ラナをはじめとして3人はそれぞれ座り込んでいた。長い戦闘の中でかなり疲労がたまっているようだった。ラナが立ち上がって言った。

 

「あの黒い化物たちがいなくなったのは……。全滅したって言うよりも術者に余裕がない……からじゃないかしら」

「うん。そうだと思う。モニカがたどり着いたんだよ。きっと」

 

 ミラスティアがラナに答える。彼女はさらに言った。

 

「ごめん。みんな疲れていると思うけどここから離れよう。今なら海岸まで走り抜けることができるかもしれない」

「モニカはどうするのよミラ」

 

 ラナの言葉にミラスティアが返した。

 

「もちろん迎えに行く。幸いエリーゼさんが来てくれたから……エリーゼさんはみんなを連れて海岸まで走ってくれませんか? モニカは私が……」

 

 その時彼女はくらりとした。ミラスティアの体が揺れた。慌ててラナがそれを支える。

 

「あんたも疲れているじゃない」

「クリスが狙っているのは私だから……。単独行動をした方がいい……それにモニカも連れて帰らないとマオにみんなを任されたことが守れない」

「……」

 

 ラナは唇を噛んだ。「自分が代わりに行く」という言葉が出かかって、それがあまりに非現実的で胸の奥で悔しさが広がっていくことを感じた。しかし彼女はそれを態度に出さない。

 

 このひとつ上なだけの少女はミラスティアの体を支えながら心の重さを感じた。この場の判断ひとつで全体が崩れる。ここにとどまって休みを取る、モニカを全員で迎えに行く、先に「足手まといな自分たち」だけ脱出する……ぐるぐると思考が回るが、失敗した場合の想像が重い。

 

 戦いの場においての決断は刹那的なものだった。あらゆる選択肢が取れる一瞬が僅かな時の中に流れて、溶けて、二度と戻らない。誰かが犠牲になればやり直しは効かない。

 

「だから――。私がモニカを迎えに行く」

 

 ミラスティアがラナが何かを言う前に決意を口にする。それがラナには悔しかった。

 

「……わかった」

 

 理性で感情を抑え込んで、おそらく正しいだろうミラスティアの判断に身をゆだねる。誰かに言われる次の行動が楽なのは行動が明確だからだけではなく、その判断の失敗した時の結果から一歩距離を取れるからだった。

 

 その自覚が胸の奥に、ラナは苦いものと一緒に自分への怒りが湧いてくるのを必死に抑えた。表情や態度に出すわけにはいかないと思ったのだった。

 

「ありがとうラナ。エリーゼさん。お願いします」

「ん? あ、そうだね。わかったよ。だけど流石にここから海岸までいくにしてもクリスと戦っているの……かな?……モニカさんを助けに行くとしても。最低限の魔力は練るくらいの休憩は必要だよ」

「いえ、今は移動するべきと思います」

 

 ミラスティアはラナに寄りかかったまま歩き出す。

 

 エリーゼのことをラナは何度か見たことがある。親しく話をしたことがないが、いつの間にか消えていた。それをミラスティアは気にしていないようだった。魔族自治領の領主の娘。さっきの戦闘を見ると相当な手練れなのは間違いない。

 

 ――今まで、何やってたんだこいつ? 

 

 ラナは自分の脳裏に浮かんだ疑問を頭を振って払った。

 

「嫌な性格」

 

 無駄に疑ってしまう自嘲してエリーゼの休息の提案には賛成だったが、彼女に寄りかかっている銀髪の後輩は前に行こうとしている。

 

「行こう」

 

 立ち上がったニナレイアはそう言って続く。疲労の色が濃い。彼女からすれば死を賭した戦いは前回マオとともに戦ったクリスとの戦い以来だった。言葉を話すのすら億劫なのだろう。

 

 経験不足からくる負担も大きかった。ただ反対にエルはひょいと起き上がって伸びをすると後ろからついてくる。

 

 ミラスティアははあと息を吐いて。魔力を少しでも回復するようにゆっくりと呼吸を整えている。。ラナはその背中をさする。

 

「あんたばかり無理させてごめんね」

「……そんなことはないよ」

 

 いたわりの言葉に対して心配をさせないように振る舞う。それは当たり前のことだがラナには少し寂しい。無力感や自分の力の位置が分かってしまう。ただこの場は気にしても仕方ないと思考を打ち切った。

 

「周りは私が警戒しているから安心していいよ」

 

 エリーゼがそう言ってくれるのをミラスティアが頷いて。ラナが見る。彼女は声をかけた。

 

「あ、あの」

「うん?」

「ちゃんと挨拶をしてなかった気がしますから、私はラナ・スティリアです。魔族自治領の公館前でマオだけ話してしまったので」

「今?」

 

 くすくすとエリーゼは笑う。彼女も歩きながら返した。

 

「ご丁寧にありがとう。私はエリーゼ・バーネット。ご存じの通り魔族の領主の娘よ。今回の冒険はミラスティアさんに誘われてきたの。まさかこんなことになるとは思わなかったけどね」

「……ミラが。あの……さっきいきなり消えたように見えたんですけど、どこに行かれていたんですか?」

 

 ミラスティアが誘ったことに少しむっとした。ラナはエトワールズの前に頼られたエリーゼという女性にほんの少しだけ対抗心が生まれてしまった。だから言った。先ほど振り払った疑念を口に出した。

 

「……ごめんね。私の立場としてやらないといけないことがあって。それに調べることがどうしてもあったの」

「……この状況で……?」

「そう、どうしてもね。でもそれはマオさんにもミラスティアさんにも関係のあることなのよ」

「マオとミラに……。あ、あの、もう一つ聞いていいですか?」

「大丈夫よ。なーに?」

「なんでマオたちに協力をしてくれるんですか?」

 

 その言葉にエリーゼは少し考えてようだった。ラナのことをその赤い目で見ながら、ニコッと笑う。

 

「なんとなくかな、まあミラスティアさんに結構熱烈にスカウトされたってのもあるけど、魔族の領主の娘としてはいろんなことをみておかないといけない」

「なんとなく……」

 

 ラナは一度ミラスティアを見る。静かに魔力を整えている彼女は目を閉じたまま言った。

 

「エリーゼさんには巻き込んだことすみません」

「あ、いいのよ。最終的に来るのを決めたのは私だしね」

 

 その会話を聞きながらラナは考えた。

 

「……」

 

 最初に来たのはやはり自己嫌悪であった。なぜ自分はこんな想像をしているのだろうと考えている。

 

「……あの絶体絶命のタイミングで……」

 

 姿を消した。

 

 ラナはごくりと息をのんだ。彼女は心の中の疑念を全く表情に出さないようにしたつもりだった。ミラスティアに肩を貸しながら彼女はエリーゼを見た。涼し気な横顔をしている。逆に彼女がラナを見返した。

 

「反対に聞きたいけど、ラナさんたちはマオさんの言っていることに賛同しているの?」

「マオの言っていること?」

「そっかあの場にはいなかったね。……人間と魔族の共存という話」

「ああ、あいつそんなことを言ってたんですね」

 

 一瞬ラナはマオやモニカやみんなと過ごしている自分を思い出して苦笑してしまう。

 

「もしかしたらできるかもしれないとは……思っていますよ」

「そうなんだ」

 

 エリーゼ少しだ歩みを遅くした。ミラスティアはラナの返事にほんのり口元をほころばせて、進んでいく。ラナはその時気が付いた。

 

「モニカ?」

 

 モニカのことを思い出したから、さっきエリーゼが言った言葉をエリーゼはモニカがクリスと戦っていると言った。彼女がこの場に来るまでの間に起こったことを知っている。

 

「見ていた?」

 

 監視していたと頭の中で浮かんだ時、ラナははっと後ろを振り返った。

 

 ――レイピアの切っ先が迫っていた。

 

 とっさにラナは身をよじってミラスティアを突き飛ばした。

 

 血が飛ぶ。

 

「ぐ、あぁ」

 

 ラナの肩に切っ先刺さっていた。あまりの痛みにラナは悲鳴を上げた。

 

 赤い血がぽたぽたと地面を濡らす。彼女の目の前には赤い目をした魔族の女性が冷酷な表情で見ている。エリーゼは言った。

 

「残念」

 

 レイピアを抜く動作がラナにはゆっくりに見える。抜かれる時に激痛が奔ったはずだ。だがそれすらも感じないほどにゆっくりと優雅にエリーゼは第二撃をラナの首筋に向って放った。

 

「危ない、ラナ!」

 

 ラナの腰に抱き着いてニナレイアが後ろに跳ぶ。レイピアは空を突く。地面に倒れたその瞬間にラナに感覚が戻ってきた。彼女は歯を食いしばって肩を抑える。

 

 しかし、エリーゼはその様子に眉一つ動かさない。ただその前に彼女の背後でエルが動いた。金髪のポニーテールが揺れる。弓を構えた彼女は無表情のまま矢をつがえた。エリーゼの赤い目が動く。

 

 魔力の光を宿した矢。一瞬の間にエルはそれをエリーゼに放った。だが、次の瞬間に見たのは放たれたはずの矢が「手」に掴まれていた。振り返ったエリーゼの手が魔力の弓を抑えていたのだ。

 

 エルの懐にエリーゼがいた。エルは少しだけ口を開けた。それが彼女の驚愕を表していたのかもしれない。

 

「邪魔だから少し寝ててね」

 

 エリーゼの一閃。レイピアがエルの弓を壊す。そして次の瞬間にエルのみぞおちに彼女の拳が突き刺さっていた。エルが後方に跳び。地面ではねる。

 

「あ、あ」

 

 呻くエルを見て、立てないだろうと確認してエリーゼは手に持った矢を地面に捨てた。かつんと鏃が地面に当たって冷たく音を鳴らす。

 

「なんで」

 

 その声にエリーゼは振り返った。立ち上がったミラスティアが聖剣の柄に手をかけて構えていた。その困惑の表情に対してエリーゼは冷たく言った。

 

「ラナさんのおかげで殺し損ねたね。でも、君はここで死ぬんだよ。ミラスティア・フォン・アイスバーグ」

 

 言いながらエリーゼは体に魔力を通す。ミラスティアが疲弊していることを割り引いても油断はできない。だが、彼女は一歩一歩ミラスティアに近づいた。赤い目に魔力が灯り、殺気があたりを包む。

 

 それでいて彼女のたたずまいは優雅ですらあった。ミラスティアはまだ剣を抜いていない。その甘さがまだ子供なのだろうとエリーゼは思った。

 

 ミラスティアは言った。

 

「魔族の……ためですか?」

「魔族のため?」

 

 エリーゼは冷たい笑みを浮かべた。

 

「違うよミラスティアさん。私は貴方にもマオさんにも言ったよね、人間も魔族も力のある人は嘘つきだって……それは私も含まれているってことでしかないよ。ねえミラスティアさん」

 

 エリーゼは首を少し傾げて、流し目でミラスティアを見る。

 

「貴方が求めるエリーゼ・バーネットはマオさんの理想にもいつか協力してくれる、それでいて魔族のことを第一に考えている責任感のある人物でしょ?」

「…………!」

「貴方はそれを求めていた」

「私が……求めていた」

「だから私はそれを演じた。貴方は頭がいいから言葉の中や論理的におかしいことに気づくようだけど、最初から作られた嘘はまだ、未経験だったかな?」

「作られた嘘……じゃあ。まさか」

「そう。私の狙いは最初から貴方。……いや、正確には違うかな。んんー。なんて言おうかな。そうだね。まずは何のためにってことからかな」

 

 エリーゼは笑う。両手を少し広げた。マントの下から彼女は何かを取り出した。

 

 それは仮面だった。彼女はそれを自分の顔に当てる。

 

「私は王の剣。人間の王のために戦うの」

 

 エリーゼの体から紅い魔力があふれ出す。

 

「……英雄の末裔さん。前はエーベルハルト公を殺すことを邪魔してくれたね」

 

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