魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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水路の奥に潜む闇

「それにしても広いなぁ」

 

 素直に感心する。あれだけすごいスピードで移動したのにまだまだこの水路は続いている。

 

「そりゃあそうよ」

 

 あたしの横でラナがあくびをしながら言った。なんか寝そべっているし。さっきのあれで疲れたらしいからちょっと休憩している。

 

「そりゃあそうってなんで?」

 

 ラナはあたしをみてふっと馬鹿にしたように笑う。こ、こういうところ悪い癖だと思う。

 

 ミラは猫と一緒に水底を見ている。見たくなるよね。

 

 ラナがあたしの傍にきた。

 

「この水路は元々王都の地下都市として作られたのよ」

「ふーん。地下都市? なんでそんなことを」

「そりゃあ、前の王都は魔族に焼滅ぼされたからね。魔王の奇襲を当時の王都は受けたのよ。いわゆる『魔の夜』ってやつね」

 

 あっ。

 

「だから、また魔族みたいなのが現れた時のために王都の下に迷路のような空間を作って、逃げたり、もしくは籠城したりするために作ったってわけ。まっ、今じゃただの水路だけど」

 

 そっか。

 

 いつの間にかミラが振り向いてあたしを見ている。

 

 いや、大丈夫だよ。そんな顔しなくても。

 

「……いきなりなに深刻そうな顔をしているの?」

 

 ラナがあたしの顔を覗き込んでくる。大きな瞳は綺麗で何の曇りもない。

 

 あたしは話題を変えることにした。

 

「い、いや何でもないよ。そうなんだ。よくわかったよ。……そ、そういえばさ、ラナっていろんな魔法が使えるし、魔力の扱いが上手いよね、け、結構さ、生徒の中で上の方だったりするの?」

「まーねー」

 

 ふふんと腕を組んで、ついでにラナは足を組む。まんざらでもなさそう。

 

「私は優秀で優等生だからね」

「へー」

「あ、だからあんたとのやりあったのは手加減してたから」

「わかってるよ」 

 

 目論見通り話題がそれた。いや、そのまま聞いてもよかったんだけどね。

 そう思ってたらいきなりラナが船底をばんと足で鳴らした。び、びっくりした。

 

「でも、学園にはムカつくやつがいっぱいる」

「そうなんだ」

「特にムカつくのが2人いてさ。あんたも学園に入るなら気をつけなさいよ。いるのよ、高慢なのが、人のことを見下してますってやつら」

 

 ラナが言うくらいだから結構嫌な奴もいるんだなぁ。

 

「あー思い出しただけでムカつく。知の勇者の末裔ってだけで人のことをコケにしたあいつ。魔法の試合であたしのことを、う、うー」

 

 あ、あー。ソフィアかー。ま、まあ、わからないでもないや。あたしなんて冒険者カード焼かれたし。そういえばいまだソフィアがあたしに突っかかってきた理由がわからないんだよね。

 

「あと、剣の勇者の末裔でミラスティアってもいるのよ」

 

 へっ!!?

 

「!!!!??」

 

 ミラがびっくりしている。そ、そりゃあビックリするよ。

 

「いっつも涼しそうな顔をしてなんでもこなせるって感じでさ。きっと内心ではあたしみたいなのを見下していると思う」

「そ、それはないんじゃないかな」

「……なんであんたにわかるのよ」

 

 わかるのがなんでって、ラナの後ろで「本人」が首を振っているからさ。すごい必死そうに。

 

「3勇者の末裔って聖剣とか聖杖とか特別な武器を持ってたり、結構先生からの評価もよく見られていると思うのよね。あんたでも3勇者の話くらいは知っているでしょ?」

「すこしはね」

 

 戦ってたし。

 

「で、でもさラナも剣の勇者の末裔と話をしたことがあったりするの?」

「体術の実技でぶん投げられた。すっごい痛かった」

 

 ミラが「いっ!」って悲鳴なのかなんなのかわからない声をあげた。ラナが怪訝そうな顔をしている。それからラナは親し気に肩を抱いて、いたずらっぽく言う。

 

「なーにいきなり奇声をあげてんのよラミ」

「い、いや。何でもなイ」

「どうでもいいけどあんたなんかいい匂いがするのよね。このフードとってみなさいよ」

「や、やめっ……やめてっ」

 

 うーん。あたしはそれを見ながら少し考えた。

 

 ラナにミラの正体を明かしてもいいんだけど、なんだかそれはうまくいかないような気もする。だから、とりあえずこう言っておこう。

 

「ラナもさ、いつか剣の勇者の末裔なんてのじゃなくて、ミラスティアと付き合ってみたらいいよ。……きっとさ、友達になれると思うよ」

 

 ラナは口をあけて「はあ?」って言った。それから「馬鹿?」って。

 誰が馬鹿だ!

 

 ――あはは

 

 あたしとラナとミラははっと顔をあげた。遠くで男の笑い声がした。

 こんな水路の奥で不自然すぎる。……もしかして水路の異変に何か関係があるのかな。

 

 そうおもってあたしたちは声の聞こえた方向に船を向けた。でも、こんなところで聞こえる声……もしかして。

 

「幽霊だったりして」

 

 あたしのつぶやきを聞いた後ろの二人が小さく悲鳴をあげたのを聞かないことにしてあげた。

 

 

 

 水路の奥まで進むと船着き場があった。そこには石造りの足場があった。

 

 あたしたちはそこに船を泊めた。足場の先に奥に進めるようになっている。

 

「これさ、流されないようにするにはどうすればいいんだろ。縄もないし」

 

 あたしが悩んでいるとラナが、

 

「凍らせておけばいいじゃない」

 

 とか言って船と足場を凍らせてつなげた。雑だけど、まあいいや。

 

 にゃー。

 

 この猫流石にこんなところに置いて行って水に落ちたら大変だし、一緒に行くことにしよう。ラナが指を鳴らすと赤い炎が揺らめていて、宙に浮いてる。

 

 何でもできるの感心するなぁ。自分で自分のことを優秀っていうだけはある。

 

 3人と1匹は炎を先頭に進む。あたしはさりげなくミラのコートの裾を引いた。ひそひそと話す。

 

「ねえ、ミラ。聖剣は持ってるの?」

「……一応これでも変装しているつもりだから、持ってきてないよ」

 

 短くてわかりやすい答え。

 

「でもマオ。武器はちゃんとあるよ」

「そっか頼りにしてるよ」

「任せて」

 

 ラナに気が付かれないようにあたしとミラは話す。

 

 かつんかつんと足音が響く。さっきの笑い声は聞こえない。

 

 しばらく歩くと広いところに出た。円形の広場だ。暗いからラナが指を鳴らして炎を揺らすと天井が綺麗に映された。

 

 それは「壁画」だった。

 

 巨大な化け物に3人の人間が立ち向かう、そんな壁画。これはきっと「あたしたち」のことだろう。もう数百年も前のことだけど、きっとこの地下水路を作った「人間」はこれを忘れないためにこれを刻んだんだと思う。

 

 おどろおどろしい「魔王」の姿。勇敢に立ち向かっていく3人の勇者。

 

 ミラがそっとあたしの手を握ってくれた。なんとなく言いたいことはわかる。

 

 この壁画を作った人間も魔王と剣の勇者の末裔が肩を並べているなんて想像もできなかったとは思う。

 

「これ、すごいわね」

 

 ラナが感嘆の声をあげた。

 

「地下にこんなものがあるなんて知らなかった。この壁画は――」

 

「僕たち魔族の屈辱の絵ですねぇ」

 

 !

 

 いつの間にか壁画の真下に「男」がいた。黒い軍服を来たそいつはにやにやとあたしたち見ている。

 

 右手に持った本を開いてニヤッと笑う姿にあたしは背筋が冷たくなった。猫があたしたちの前にでてシャーって威嚇している。

 

「そんなに驚かないでいいですよ。僕はロイというしがない魔族の1人です。ほら耳も長いでしょう? 君たちと違ってさ」

 

 ロイは自分の耳を引っ張る仕草をした。短い茶色の髪は先っぽが金色に光っている。

 

「ま、魔族!? あんたここで何をしているのよ!」

「何をって、逆に聞きたいなぁ。君たちこそなんでこんなところにいるんだい?」

 

 あたしが前に出る。

 

「王都の井戸がたまに止まったりするってので水路を調べてるんだ。もしかしてあんたの仕業だったりするんじゃないの?」

「へー。それは大変だ。でも、魔族だからって疑うのは良くないですよ。僕は『暁の夜明け』という組織の一員ですから。変なことはしないよ」

 

 『暁の夜明け』! 王都に来る前に何度も襲ってきたクリスの仲間……。ミラもあたしと同じことを思ったみたいだ。もしあいつがクリスと同じくらい強いなら今はまずい。

 

「待って待って。僕は争うつもりは全然ないんだ。ほら。両手をあげるよ」

 

 ロイは本当に両手をあげた。その姿にラナが少し肩の力を抜いたように感じた。

 

 ロイの口元がゆがむ。手元の本がうっすらと光を放っている。

 

 なんか、まずい。あたしは魔力の流れを感じた。ロイの足元から一直線にラナに向かっていく。

 

「あぶない!」

 

 あたしは飛び出した。

 

 ラナの足元に青い魔法陣が展開される。

 

 その一瞬に彼女を抱えて飛んだ。地面に体をこする。

 

 後ろを振りむくとラナの立っていた場所に鋭利に尖った氷の柱が立っていた。氷の魔法を使ったんだ。

 

 もし、あたしが一瞬遅れたらラナは……。

 

「……や、やってくれるじゃない」

 

 震えた声でラナが言う。

 

 ロイ……あいつ……なんで「自分から離れたところ」に魔法を展開できたんだ! 無茶苦茶だ。あたしじゃなかったらきっと反応できなかった。

 

 その気味が悪いほどに簡単に殺しにかかってきた男は残念と顔に書いた表情をしていた。

 

「あーあ。せっかく串刺しが見られると思ったのにさ。残念だよ。まーいいけどね。一応僕を見た人間を消すことに変わりないけど。ちゃっちゃと死んでね」

 

 ロイは手元の本をぱらりと開く。そこからまばゆい光が放たれた。その光に照らされたあいつ顔は残忍に歪んでいる。

 

「あはは」

 

 真っ赤な口から、あの笑い声が響いた。

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