魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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力の勇者の末裔

 カオス・スライムは上半身だけの巨人だ。

 

 大きな丸い頭に目とか口はない。太い両手も体も全部水でできている。ばらばらになっていたときは違ってそこから魔力を感じる。

 

「クリス? ……もしかして君か、あいつの言っていたわけのわからないガキというのは」

 

 ロイが飛んだ。カオス・スライムの肩に乗る。手をスライムの頭に触れて、魔力を流し込む。なるほどね。ああやって操るんだ。……うまいよ、あれじゃさっきラナと一緒にやったみたいな水への干渉は弾かれる。

 

「殺せ」

 

 冷酷な言葉を合図に巨大な両手が上に振りかぶられる。スライムだから声も何もない、不気味な水の音がする。体が光っている。

 

「やばっ」

 

 あたしは魔力で作った魔銃を手に後ろへ下がる。魔力の空になった魔導書はその場に置いていく。

 遅れて地面にたたきつけられた両手が轟音を鳴らす。カオス・スライムはそのまま暴れだした。めちゃくちゃに。

 

 両手を振り回して、壁も天井もお構いなしに殴りつける。すさまじい圧力ですべてを破壊していく。あたしは足に魔力を集中して駆ける。

 

 爆発的なスピードでカオス・スライムに近づく。一度地面をけっただけでこれだ。

 

「うわ、はやい!」

 

 じ、自分で言っちゃった。なれない動きにびっくりする。

 

 紫の巨人があたしを殴りかかる。たんと足を踏み鳴らして上へ飛ぶ。真下を通過する腕に乗って駆け出す。

 

「アイスランス」

 

 ロイの周囲に複数の氷の槍。ああ、そうか、魔導書がなくてもそれくらいできるよね。鋭利なそれがあたしに向かって発射される。

 

 槍はあたしだけを狙っているんじゃない。避ける先を計算して攻撃している。どこによけても串刺しにすることができるように――だったらさ。

 

 あたしは銃に魔力を込める。

 

 ロイはあたしを「点」じゃなくて「面」で攻撃してきている。

 

「クリエイション」

 

 つぶやくように言う。イメージするのは銃弾。魔力の銃のレバーを引いて装填する。

息を吐く。強化された感覚がなんとなく心地いい。たぶん一秒にも満たない時間が今は長く感じる。

 

 視覚強化。弓使いとの時に使ったそれを両目に展開する。

 

「ロイ! あたしを殺そうって、魔法を広げすぎたね!」

「なに?」

 

 引き金を引いて。銃弾を発射する。

 

 その一撃が氷の槍を1つ完全に破壊した。あたしは地面、いやスライムの足を蹴る。1本の槍を破壊したことでロイの攻撃の「面」に穴が開いた。そこに空中で膝を抱えて飛び込む。体の面積を小さくしたんだ。

 

 くるりと回転して、その間に氷の槍達は通り過ぎていく。

 

 着地したついでにあたしはロイに片目をつむって、べーって舌を出してやる。

 

「ちびの……ガキが……!」

 

 びきりと怒った顔。

 

「悪いけどさっ。あんまり時間がないから! ……クリエイション」

 

 銃弾を装填する。ミラとラナを救わないといけない。うわっ、カオス・スライムがまた暴れだした。あたしは飛んで、地面に降りる。

 

 暴走したみたいにスライムは暴れる。がらがらとばらばらと部屋全体が崩れていく。土煙をあげて、すべてが崩落していく。あたしたちを描いた壁画の残骸も壊れていく。

 

 暴風のような攻撃を避けながらあたしは強化された視覚でスライムを観察する。この魔物はもともと単なる水が集合した単純な構造をしている。だからこそ強いし、再生も容易なんだ。

 

 でも、どこかに「核」があるはずだ。たった一点の集合する起点。

 

 今の状態なら強力な魔法を展開することはできる。でも、それでラナとミラごと吹き飛ばすなんてできない。だから、探すしかない。

 

 氷の槍が空から降ってくる。あたしはかわす。

 

「ちょこまか……ネズミのようだな、君は」

「だーれがネズミだ! いや……別にいいけどさっ、だって」

 

 あたしはロイに叫んだ。

 

「そのネズミに翻弄されている間抜けな奴はあんたじゃん!」

 

 ロイの手がスライムの頭に触れる。魔力を流し込む。さらに狂暴化させるつもりだ。

 

 今日なんどもコケにしたからこんな安っぽい挑発にすら乗るんだよ。あいつの手から流れ込んだ魔力は薄い線になってカオス・スライムの中の一点に集中していく。小さな円のように収束していく。あそこだ。

 

 カオス・スライムの体が膨れ上がる。さらに巨大になった両手をあたしにふるう。がががっと地面をえぐる。石造りの地面に大穴が開いた。宙によける。

 

 それを見越していたロイが氷の槍を展開する。そっか、浮いている状態ならさっきみたいに避けられない。

 

 その瞬間だった。大きな音がして天井が崩れてきた。でも、もう時間はない。

 

 あたしは引き金を引く。魔力で織りなした弾丸が一直線にカオス・スライムの胸の中心を貫く。あいつは悲鳴も上げずに両手を振り回した。

 

「死ね! アイス・ランス」

 

 そんなことに見向きもしないロイの攻撃。氷の槍があたしに向かってくる。確かにあたしが避ける手段はない……! でもさ!

 

 あたしの手にある魔銃は魔力の塊なんだ! 別に銃としてだけ使う必要なんてないよ!

 

 構築したらなら分解もできる。魔銃を成していた魔力が形を失い、あたしは手の中で純粋な塊にする。それを――。

 

「いっけぇー」

 

 氷の槍に向かって投げた。眩い光があたしの視界をとざした。

 

 

「うわっ」

 

 後ろに飛ばされる感覚。受け身をとる。ぐえっ。背中から壁にぶつかった。いてて、強化してなかったら死んでたかも。あーいたい。

 

 立ち上がった。日の光がさしている。え? あ、天井に大きな穴が開いてる。

 

 その光の中でカオス・スライムは苦しそうにのたうち回っている。崩れていくからだを支えようとしてそれでも体を維持できない。ぐちゃりと溶けていくように、ただの水に戻っていく。

 

「そうだ、ラナとミラは!」

 

 あたしが駆け寄ろうとすると体中に痛みが走った。よろけて、コケる。

 

「いたいっ、ええ? なにこれ、いたい」

 

 うぎぎぎ。痛い。体中筋肉痛みたいに痛い。あ、そうかもともと弱い体を無理やり強化して動かしたから……。強化魔法の効力が切れたのか、いてて。

 

 立ち上がる。あたし自身の痛みなんかよりも2人だ。うまく走れない。

 

「けほ。けほ」

 

 ミラの声だ。よろよろと近づく。銀髪の少女が座り込んで咳き込んでる。少し服が溶けている気もするけど、無事だ。覆面は外れている。

 

「ミラ! よかった」

「マオ……」

 

 ミラがあたしに抱き着いてきた。

 

「マオ! 無事でよかった……ごめんね。役に立てなくてごめんね。船の時みたいになると思って、怖かった」

 

 自分のことよりもあたしのことでぽろぽろと泣いてくれる。う……あ、それであたしも少し……いや、だめだ。まだロイがいる。それにさ、

 

「あの時突き飛ばしてくれなかったら、多分もう死んでたよ。だから、ミラ。ありがと」

 

 カオス・スライムに殺されなかったのは運がよかった。ミラがいなければ多分溶かされて死んでた。それにしてもいつもあたしはぎりぎりだ。一人で何にもできないのを痛感する。

 

 みゃー

 

 あ、猫だ。あんたもちゃんと大丈夫だったんだね。おいで。って、

 

「いてて」

「大丈夫。マオ」

「へいきへいき。それよりもラナは」

 

 あわてて探す。

 

「げっほげほ。あーーー、気持ち悪かった!!」

 

 見つかった。よかった。

 

「なんなのよ。あのくそ魔族。どこに行ったの。あー。なんか天井に穴が開いているし。これ依頼はどうなるの!?」

 

 すごい元気だ。あたしとミラは顔を合わせてくすりとする。ミラはそしてはっとしてフードを深くかぶって顔を隠した。そんなことしなくてもいいと思うけど。

 

「君は何者だ?」

 

 はっとした。天井から落ちてくる日の光のもとにロイがいる。さっきまでの怒りの表情よりはなんだろう、どことなく興味をもった、そういう顔をしている。

 

 ラナとミラが構える。あたしは、その前に出た。

 

「何者でもないよ。あたしはマオだ」

「……ふーん。魔族の古代の文字に魔力を流すなんて普通の女の子にできることとは思わないけどね。それは才能とかそういう話じゃないよね? だって『知らないとできない』んだからさ」

「……ごそーぞーにお任せするよ」

「想像ね……。でもその後ろの奴らよりも君が弱いのは確かだ。魔力を感じない。ただ魔力や魔法の扱い方は異常だ。ねえ、君たちもそう思うだろう? 気味が悪くないかな? こいつ」

 

 ロイが語り掛けているのはあたしじゃない。

 

「マオは私の友達です。大切な」

「この馬鹿がわけわかんないのはわかりきってんのよ」

 

 あたしには二人の表情なんて見えない。でも、背中でそう聞いた後の答えは決まっている。

 

「だから言ってるじゃん。今のあたしはただのマオ様だって」

「…………今の、ね」

 

 ロイはあと息を吐いた。

 

「すごい興味があるんだ。拷問してでも吐かせてやりたいような気分だよ。ねえ、マオって言ったね。魔族の奥の手って知っているかい?」

「……! ミラ、ラナ。逃げよう!!」

「その反応は知っているね」

 

 やばい。あいつは「使える」。クリスと戦った時もそうなりかけた。反動があるから魔族は簡単には使わない。それにもともと力のあるやつしか使えない。

 

「何言ってんのよあんた。あいつ弱ってんだからもう」

「ラナ!」

「なによ」

「お願いだよ。逃げよう!」

「……」

 

 頷いてくれた。説明している暇がない。ミラは何も言わずにあたしを信じてくれる。後ろに下がる。あ、いて。足が動かない。

 

 急速に魔力が高まっていくことを感じる。この感じはヴァイゼンと向き合った時と似ている。あたしは足元に来た猫を抱きかかえた。猫が純粋にこの「感じ」を浴びたらきっと悪いことが起こる。

 

 振り向く。

 

 ロイの体を黒い霧が覆っていく。赤い瞳が光を増してギラギラとあたしを見ている。その頭に黒い「角」が生えていく。

 

 空間をすべて圧するような魔力の風。ただ立っているだけで壊れかけた天井がきしむ。

 

「なによこれ」

 

 ラナの口から出た言葉があたしたちの気持ちだ。ロイ姿は変貌していく。

 

 角の生えた姿。紅く光る瞳。そして体中を覆う魔力。あれは――

 

「魔骸化……」

 

 あたしの言葉を聞き取ったのかロイが目を見開いた。それから笑う。

 

「なんで知っているのさ。気味が悪いなぁ」

 

 ロイ右手が上がる。それを中心に青い魔法陣が展開される。

 

「マオ! ラナ! ごめん」

 

 ミラがあたし達の腰を抱えるようにつかむ。うわっ。ミラの息遣いが聞こえる。体の中の魔力を整えているんだ。あら

 

「全力で飛ぶから。目をつむって!」

 

 一瞬の浮遊感。空を飛んだみたいな感覚。壁を蹴る音がする。

 そうか、壊れた天井から地上へ行くつもりなんだ。

 

「アイス・シュトローム」

 

 頭に響くような声。すさまじい冷気が襲ってくる一瞬にあたしたち地面に投げ出された。

 

 こ、ここは街の真ん中……!? 人が集まってきている。

 

「んん」

 

 ミラの声に振り向くと、あたしたちの通り抜けてきた穴から冷気の風が吹きでてくる。それは地面も町も人も凍らせる。

 

「フレア・ウォール」

 

 瞬間にラナがあたしたちと後ろの人たちを守るように炎の壁を作った。でも数秒でかき消された。白い風があたりを覆う。

 

 雪が舞う。一瞬で極北に移動したみたいに歯の根がカチカチとなる。寒い。息が白い。

 そうだ、ミラは。

 

「大丈夫だよ。マオ」

 

 そういうミラの足が凍っていた。これじゃ動けない。

 あたしも体中痛い。

 

「へえ、運がよかったね。上じゃなくて地下に逃げていたら凍って死んでたのに」

 

 穴から飛び出てきたロイが雪の中に立つ。そうだ、逃げた方向がよかった。

 

「なによこれ、化け物じゃない」

 

 カチカチと歯を鳴らしているラナはきっと寒いからじゃない。ただ、この目の前の化け物におびえているんだ。あたしも両手で体を抱いて震えないように自分に力を入れる。

 

 でも、どうすればいい。3人が万全でも魔骸化した魔族には勝てない。あの角を中心にすべての魔力を開放する術式。仮にミラが聖剣を持っていても今のあの子じゃ、かなわない。

 

 考える。魔鉱石は? ないよそんなの。

 考える。魔導書は? おいてきたし、足りないよそんなの。

 考える。逃げる。足が……動かないよ。

 

 どうしようもない。でも、ああ、うん。あたしは、あきらめるわけにはいかない。

 

「あれ? 立ち上がるの? この姿を知ってても僕の前に立つのは、驚きだね」

「…………あたしには秘密がある」

「へえ、気になるね」

「でも、この場で暴れるなら教えない」

「じゃあ、暴れないなら教えてくれるのかい?」

「2人を……傷つけるな。街も全部」

「……じゃあさ。その秘密を教えてくれないなら後ろの二人を八つ裂きにして殺すって言ったらどうするの?」

 

 ……! いやな奴だ。あたしはにらみつける。

 

「いい顔だ。じゃあ、片方を殺そう。もう片方で脅そう。それでいいだろう」

「なにが……なにがいいのさ!」

「僕がいいのさ。あはは」

 

 ロイの手に魔力が集結していく。

 

 どうする、どうする、どうする? 

 

 その時、声がした。

 

「3の術式。炎皇装」

 

 術式!? ニーナ? あたしは声のほうを見る。

 

 炎を纏った男が立っていた。それは術式なのだろうと思う。ニーナが使っていたものとは比べ物にならない熱さ。

 

 金髪に耳のピアス。コートを着たそいつの目は戦意にぎらついている。

 

「なんだかわからねぇけど。よく頑張ったな。後は俺に任せろ」

 

「そいつに」ロイが言った。

 

「何? 君。」

「俺はSランク冒険者のウォルグ・ガルガンティアだ!! 王都に魔族が現れるとは思わなかったぜ」

「Sランク……ああ、そう。それにその名前は」

 

 ガルガンティア……! 力の勇者の末裔? でも、ニーナと少し名前が違う。「フォン」がついてない。

 

 でも、その両手には煌めく手甲があった。見間違えるはずもないあれは――

 

「今は聖甲の所有者だ! さあ、やろうか」

 

 炎が舞う。冷気がすさぶる。それをあたしはまじかで感じた。

 




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