魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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その日の終わりには笑顔を

 ウォルグ・ガルガンティア。Sランク冒険者。

 

 あたしの目指している冒険者の中で頂点に立つ存在。でも、そんなことよりも前に立ったその姿に目を奪われていた。

 

 獅子のような金髪。体に纏った灼熱の炎。その両手を包む神造兵器である聖甲。

 

「まるで、力の勇者みたいだ」

 

 思い出したのはあいつの姿だった。いい思い出なんかじゃない。何度もぼこぼこに殴られたし、あたしも思いっきりやり返してやったことは1度や2度じゃない。

 

「魔族野郎!!」

 

 ウォルグが飛び込んだ。熱風にあたしは両手で顔を守る。

 

 紅く光る右手から視界が揺らめくほどの熱を放ちながらロイに殴りかかる。

 

「ちっ。アイス・シュトローム!」

 

 ロイは両手を構える。一瞬で展開された魔法陣から放たれる白い風。すべてを凍てつかせるそれを

 

「邪魔だぁ!! 炎皇刃!」

 

 ウォルグは正面から殴った。

 

 炎と風がぶつかり合い。巨大な魔力と魔力のぶつかり合いに空間がゆがむ。

 

 それが突風になってあたしを転がす。うわあ。しょ、衝撃で勝手に体が転がる。胸にいる猫をかばいながらあたしはころころと無様に転がってしまう。

 

「ハッハー! いいね」

 

 見上げれば心底楽しそうにウォルグが笑っていた。まるで獣みたいに歯をぎらつかせて。目を光らせている。あ、だめだ。こいつが本当に「力の勇者」に似ているなら。人の話を聞いたりするやつじゃなさそう。

 

 

 へたり込んだあたしの首筋を誰かがつかんだ。ぐえ、痛い。ずるずる後ろにひかれて、そいつは肩をあたしに貸してくれる。

 

「さ、さっさと下がるわよ。ほら。あんたら、ぐぎぎ」

 

 ラナだ。あたしを右肩にそして足の凍ったミラを左手で引きずるように歩いてくれる。もうあたしもミラも結構ぼろぼろだ。歩くのにも難儀する。

 

「あんたらさぁ。重いんだけど」

 

 むかっ。重くない! ミラも黙り込んでるし。

 

 とにかく後方の建物の陰に隠れる。ああ、ぺたりと石畳に座ると少し楽だ。ずいぶん疲れているんだなあって他人事みたいに思う。

 

「ミラ。足は大丈夫なの?」

「うん。多分大丈夫」

「大丈夫なわけないでしょ。ほら、私が溶かしてやるから」

 

 ラナがミラの足を強引につかんで手を当てる。暖かい光で氷がゆっくりと溶けていく。

 

「はあ、ほんとあんたら無茶ばっかりするから、あ、改めて言っとくけどね。マオより私のほうが1つ年上だからね。ミラもあいつと同じ年なら先輩を敬いなさいよ」

「う、うん」

「あと、もう話しかけないで。結構魔力の調節は難しいんだからね」

 

 ミラは破れかけたフードと覆面で顔を隠しているけど、もういいんじゃないかなぁ。隠さなくてもさ。

 

 ラナが一生懸命両手で氷を溶かしてくれている。きっとミラが「ミラスティア」だったとしても仲良くなれると思うよ。

 

「ねえ、ラナ」

「何よ。邪魔」

「……これが終わったらさ。あたしとミラにアイスクリームおごってよ」

「なんでよ!!? 意味わからないんだけど!?」

「いや、ミラと仲良くなってくれたらいいかなって。あと先輩なんだよね」

「はあぁ?」

 

 心底わけわからないって顔してるラナにくすりとする。その時ミラの覆面を外してもらおう。勝手にニーナを呼んでやったらラナはどんな顔をするかな。

 

 轟音が聞こえた。異次元の2人が全力でぶつかり合っている。

 

 すさまじい速さの魔法と拳打の応酬。渦巻く炎が氷に替わり、そしてまた灼熱に溶かされる。それが無限に繰り返されるかのようで、あたりの建物を燃やし、そして凍り付かせていく。

 

 あたしたち3人は身をよせあって固まる。ああ、魔王なのに情けないかも。……次こういうことになったらちゃんと守れるように準備するよ。……次は絶対誰も傷つけさせない。

 

「マオ。ラナ……次は私が守るから。ウォルグさんに助けられなくても大丈夫なように」

 

 ああ、ミラも同じようなことを考えていたみたいだ。……でもさ、今日も何度も助けられたと思う。

 

「……ああ。むかつく。むかつく。むかつく。なんで私があんたたちに助けられないといけないのよ。次はあのわけのわからない魔族も1人で倒してやるわ。くそぉ」

 

 ラナは少し泣いているような気もする。あたしは一人で顔を上げる。

 

 街が崩れていく。ここ数日あたしはFランクの依頼でこの王都を走り回った。

 

 みゃー

 

 わっ、襟元から猫が顔をだした。そういえばそこにいたね。この子とも街で出会ったんだ。

 

 まだ行ってないところも山ほどある。それでも、いろんなところにいろんな人がいることをこの眼で見てきたんだ。だから、なんか。やだな。こういうの。

 

「アイス・バーン」

 

 ロイの右手から放たれた波動に空気すらも凍るかのように急速にこの場のすべてが冷えていく。寒い。寒いよ。

 

「おっ? ……がっ、は、ごほ」

 

 ウォルグの足が止まる。

 

「冷気を吸って肺の一部が凍ったんだよ。ああ、やっと止まったね、暑苦しいSランク君」

 

 ロイが冷気の中を歩く。右手を天に掲げ。強大な魔法陣を形成する。

 

 空に浮かんだのは無数の氷の槍。……あたしに使ったものとは比べ物にならない。

 

 100いや1000以上はあるだろうか。数えきれない。これは……一帯を消し飛ばすつもりだ。

 

 肺が痛い。空気が冷たい。

 

「屑はさっさと死ね。」

 

 ロイの目が赤く光る。純粋な殺意とともに右手を振る。その瞬間に空の槍が一斉に落ちてくる。

 

「楽しいなあ!!! ハッハー!!」

 

 ウォルグはその中で笑っている。そうだ。力の勇者もこういうやつだった。ほんとうざい。術式によって生み出された炎が右手に収束していく。

 

 熱い。ああ、もう冷えたり熱かったりもそろそろいやだ。

 

「早くやっちゃえー!」

 

 あたしは叫ぶ。

 

「おお、誰かしらねぇけど!! やってやるぜ! 見てろよ!!」

 

 炎皇。それは力の勇者の一族があがめる火の神だ。あいつは本気で戦うとき、すべての魔力を炎にかえて向かってきた。

 

 ウォルグの右手が白く燃える。そして空に向かって振り上げた。

 

「炎皇八流刃!!」

 

 右手に収束した炎をすべて解き放つ。

 

 炎が八つに分かれ、竜のように駆け上がる。氷の槍のすべてを溶かし、空を焦がすように暴れまわった。

 

「ハッハー!!! どうだ。おいそこのギャラリー!」

 

 ギャラリー? あ! あたしのこと? ていうかさ似すぎててうざいよ。

 

「すごいね」

「だろう!? やはり俺は最強だ!! ははは!!」

 

 いろんな記憶がよみがえってくるよ。こんなのと何度戦ったかわからないとおもうとあたしは我慢強かったと思う。

 

 あたしよりもあからまさなため息が聞こえてきた。ロイだ。

 

「ちっ。殺しきれないか……いいよ。ここは引こう。別のSランクが来ても厄介だ」

「おい、逃げるのかてめぇ」

「なんとでもいってくれよ。僕は疲れた。次は殺してやるよ、暑苦しいんだよ。おまえ……ああ、そうそう。マオっていったっけ、そこの」

 

 ロイの視線。

 

「また会おう。君には興味がある」

 

 あたしが何か言う前にロイの体は白い風に包まれて、すっと消えた。

 

 後にはあたしたちとウォルグ、そして壊れた街だけが残っていた。

 

 

「いててて」

 

 先頭の後にギルドに寄って治療を受けた。やっとゆっくりできるとミラと一緒に長椅子に腰を下ろした。もう外は夕方だ。ミラはフードをかぶったままはあ、吐息を漏らしている。

 

 ミラのひざ元で猫がすやすや寝ている。のんきでいいなぁ。

 

 結局魔族の潜入とSランク冒険者の出動による街の破壊。あたしは水路の調査を「Fランク」の依頼として受けていたけど、事件が大きくなりすぎてギルドからしたら流石に大事らしい。

 

 目の前をギルドの職員が慌てて走っていった。あたしたちにもさまざまな聞き取りがあって、終わったのがついさっきだった。一応依頼は完了、ということにしてもらえた。

 

 幸いと言っていいのかわからないけど、大きなけがはしてない。あたしは強化魔法で体中が筋肉痛、ミラは足の軽い凍傷だけ。ラナに至ってはぴんぴんしていた。

 

「おなかへった」

 

 その元気なラナはそう言って先に出ていった。うーん。まあいいか。

 

「疲れたね」

 

 ミラは横で息を吐いた。

 

「あのさ、ミラ。さっきのウォルグってSランクの冒険者……あのさ、聖甲を持ってたけどニーナのお兄さんかな」

「……私はウォルグさんを知っていたんだよ。でも、ニーナのことは聞いたことがないよ。あと聖甲のことも」

 

 あ、「力」と「剣」の勇者の末裔で知り合いだったんだ。

 

「知ってるといってもほとんど話したことはなくて。前にあったのは子供のころだったし。それに……あの……その……話ができないから」

「あー」

 

 あのハイテンションはずっとなんだ。会話できなさそう。力の勇者もそんな感じだった。そう考えるとニーナは全然似てないかもしれない。あのウォルグは戦いが終わったら「詰まらねぇ」ってつぶやいてすぐにどこかに行ってしまった。

 

 あたしは足を意味なくプラプラさせる。

 

「結局依頼が1つしかできなかったなぁ。やばいなぁ」

 

 あたしが学園に入るにはFランクの依頼を100個しないといけない。これだけ苦労しても1つは1つかぁ。

 

「マオ。私も手伝うよ」

 

 ありがと。そうだね。いちいち考えても仕方ない。Fランクの依頼をやらないと……

 

「あ」

「なに? マオ」

「いや、そうだ」

「何かいい手を思いついたの?」

 

 いや、ぜんぜん。そんなのじゃないよ。

 

 そういえばあたしはもう30以上の依頼をしたんだから。あれができるかも。

 

「ミラ。今日はさ、用事を思い出したから帰るよ」

「え? だ、大丈夫?」

「大丈夫。大丈夫。少し寄るところがあるからさ……あとさ、ミラ。今度ゆっくりと話そうね、今日のことも」

「……うん」

 

 あたしは立ち上がってギルドの窓口に行く。

 

 

 ロイの壊した一角を抜けて、あたしは重たい体を引きずるように歩いてく。眠い。今すぐ寝たい。

 

「ああ、すごい疲れた」

 

 歩いてきたところはひどいことになっていた。道はえぐれているし、建物は倒壊寸前のものがおおい。そこで途方に暮れている人も何人か見た。

 

 あたしは歩く。たしかこのあたりだ。

 

 かんかんと槌をふるう音がする。ここはFランクの依頼の中で資材運びをしたところだ。あれも結構きつかった……。ラナなんて途中から逃げそうになってたし。

 

 もう夜遅いけど、その仕事場には人がけっこういた。ほのかな明かりがいくつか会って、男たちが槌や鋸なんかをつかって何かしている。いや、詳しいことは知らない。

 

 その中に勝手に入った。まあ、勝手知ったるって言うには一回しかきたことがないけど。

 

「あ、いた」

「あ?」

 

 ハチマキを巻いた大柄の男が振り向いた。あたしに仕事を依頼した大工で、この仕事場の棟梁なんだ。膨れ上がった筋肉がうっすら汗で光っている。ううー。

 

「マオじゃねぇか。なんだこんな時間に。俺は忙しいんだ」

「あのさ、お願いがあってきたんだよ」

「お願いだ? 後に後に。魔族の襲撃とかで大穴が開いて忙しいんだ。ガキの話なんて聞いている暇はない」

 

 大穴……水路のやつだ。

 

「そういわないで話だけでも聞いてよ」

「ほら言え。早く」

「うわ、変わり身はやっ」

 

 笑っちゃうよ。豹変しすぎだよ。

 

「水路の大穴を直すならさ。あのあたりの家とかいろいろと直さないの?」

「言いてぇことはわかるが、俺たちがやっているのは仕事だ。ただ働きはできねぇ。……用事はそれだけか?」

「わ、わ、まってってば。じゃあさ、じゃあさ。仕事の依頼ならいいんだよね?」

 

 あたしは懐にしまっていた袋を親方に渡す。

 

「なんだこれ」

「あたしがここ数日の依頼でもらった報酬とさ、故郷で黒狼って魔物を倒したときにもらったお金」

 

 袋を親方が開ける。

 

「……子供にしちゃ大金だな」

 

 金貨とか入っているはずだ。

 

「これで直せるだけなおしてほしい……だけど……足りるかな?」

 

 不安になってきた……よく考えたら家を建てるなんてもっとお金がいるんじゃないかな。Fランクの依頼なんてひとつひとつははした金だ。ラナにあげる分を除いちゃったから。

 

 親方は袋を結んで懐にしまった。

 

「まあ、やれるだけはやってやるよ」

「やった! た、足りたかな?」

「……それよりもなんでお前はこんなことをするんだ? 知り合いでもいるのか?」

 

 知り合い? そんなのはいないと思うけど。ただ、なんとなくさ、壊れた家とかを見ながら途方に暮れている人とか、こう見てて――

 

「なんかそうしたかったから……うわ」

 

 親方があたしの頭を乱暴にわっしゃわっしゃしてくる。やめ、やめろー。

 

「足りねぇ分は今度こき使ってやる。あとは大人に任せて、ガキは帰れ」

「え? やっぱり足りなかったの?」

「うるせぇ!!!! 帰れ!!!」

 

 わ、わかったよ。

 

 

「ふー。お金なくなった」

 

 いうとすごい情けなくなってくる。はー、ああー。明日からどうしよ。

 

 まあ、考えても仕方ないや。とりあえずラナの下宿のところに帰ろう。ここの角を曲がると――

 

「どこに行ってたのよ!!!!!」

 

 わ、わー。うるさい。突然現れたラナが叫んだ。

 

「な、なに? あたしは疲れているんだけど」

「はー? 疲れているって? 私もあんたのことを探してたんですけど」

「探すって、なんで?」

「ほら」

 

 ラナがあたしに何かを突き出した。白い少し溶けかかったアイスクリームだった。

 

「ミラに聞いたらギルドから帰ったっていうし、それなのに帰ってこないし、何してたのよ。あんたでしょ!? おごれって言ったの!!」

「あ、あー」

 

 そういえばそんなこと言ったね。でも、ミラと仲良くなってほしいから言ったんだけど……。

 

「ほら、早く食べなさいよ。私も食べるから」

 

 ラナの手にはもう一つアイスクリームがあった。あたしに渡されたのと同じく溶けかかってるけど、たぶん手が付けられてない。

 

「もしかして待っててくれたの?」

「……」

 

 ラナは顔を少し赤くしてはアイスに食らいついた。そっか……言葉にするよりわかりやすいかも。おなか減ったとか嘘ついて外に出ていったのはこのためだったんだ。

 

 あたしはアイスを両手で持って少し舐める。

 

 甘い。冷たい。

 

「……えへへ」

 

 おいしい。

 

 

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