魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~ 作:ほりぃー
張り付けたような笑顔ってやつをあたしはみている。
優しそうな顔して、ふわふわしている声音をしているのにポーラという人は怖い。ロイやクリスのように明確な敵意を持っている……ってわけじゃない、陥れようというか……そんなのとも違う気がする。
「そ、そんなのおかしいじゃん! だってまで時間はあるし」
そうだ、あたしが入学するには2週間以内にFランクの依頼を100件こなすことが必要で、それがポーラ先生が「売ってきた喧嘩」だったはずだ。だからまだ、あたしが不合格と言われるのはおかしい。
ポーラ先生は首をゆっくりと振って、その笑顔のままに言った。
「あなたがラナさんを味方につけたのは正直驚いたわ。それにたまたまとはいえ強力な魔物を倒すことに貢献して、しかも魔族まで退けるなんてね」
そういえばラナが最初にあたしの邪魔をしてきたのはこの人の差し金だったはずだ。
「ラナがいい子で残念だったね」
少し挑発をし返してみる、両手を腰においてふんと。
「そうねぇ。でも先生のいうことはそれとは関係ないわぁ。だって、あなたは重大なルール違反をしているんだから」
「ルール違反……?」
「そうよ。確か先生は明言したはずだったわよね。ねぇ、ミラスティアさん」
びくりとミラが一歩下がった。振り向くとうつむいて怯えるように震えている。
「あらら、その様子だとちゃんとわかっていたようね。そうよねぇ。あなたとニーナさんは手伝ってはダメよぉ。ってちゃんとくぎを刺していたはずだったわよねぇ。マオさんも聞いたはずね?」
「…………」
そうだ。だからこそミラはあたしを手伝うために変装までしてくれたんだ。だけど、ロイとの遭遇的な戦いでそれが分かってしまった。ただの偶然、全部偶然なんだ。
ポーラ先生はあたしの横をすり抜けてぽんとミラの肩をたたいた。
「魔族の撃退お疲れ様ぁ」
「…………」
顔を上げたミラの顔。泣きそうな、そんな顔にあたしは心底この桃色の髪の女に怒りを覚えた。
「ま、待ってください。今回のことは……全部私が勝手にやったことです。マオから頼まれたわけではありません。そ、それに、今回1度だけのことです」
「それをぉ……どうやって証明するのぉ? マオさんは記録によると今回の『功績』を含めて50回以上の依頼をこなしているわぁ。それにあなたが手伝わなかったって、どうして言えるの?」
「……こ、今回だけです」
「だから、どうやって証明するのぉ? ニーナさんも手伝ってないってことも証明できるの? ねぇ?」
「し、信じてください」
「だめ」
声のトーンは変わらない。あたしは両手を握りしめた。
「わかったよ!!」
「あら」
ロビーにあたしの声が反響する。モニカたちは正直何のことかわからないと思うけど、もう止められない。あたしはポーラを指さす。
「確かにあんたの言う通り証明する手段はないよ。でもミラの言っていることは全部真実だ。……ミラはあたしを心配してくれたからやったことで全部責任はあたしにある!」
「あらあらー、潔いわー」
「マオ……だめだよ!」
あたしは両手を組む。足を広げてポーラに対峙する。
「要するに不正がないって明確にすればいいでしょ!」
「どうやってぇ?」
ポーラの口角が上がる。あたしは一歩踏み出して宣言する。
「残りの時間を使って全部やり直しをする!! それで文句はないはずだよね!!」
ポーラの目があたしを見る。何も言わずにただ見てくる。それをあたしは見返す。
「残りの期間を使ってぇ。100件の依頼を受けるってことぉ? 今までのすべてを投げ捨てて?」
「そうだよ、それなら文句ないでしょ」
「…………ふーん。じゃあ、聞くけどぉ。もちろん今までの合格の条件を引き継いでのことねぇ」
「もちろ――」
モガ!? いきなり後ろから羽交い絞めにされた。な、なにさ。視界の端に赤い髪が見える。
「……ラナ」
「はあぁ。うっさいのよあんたの声は……遠くまで響くし……話を陰で聞いてたら……てあー、ほんと馬鹿ね」
ラナがあたしの口元を押さえたんだ。い、いきなりなんだよ。抗議しようとしてもラナの目はあたしじゃなくてポーラに向いていた。
「先生。こいつの試験のやり直しというのはわかりましたけど、でもさすがに短期間での100件はほとんど不可能と言っていいと思います」
「それは、その子が言い出したことよ。ラナさん」
「ええ、ほんと、こいつ馬鹿で」
ラナの視線があたしに向く。なんか……なんだろう、優しい顔をしている。
「期間の延長をできないのなら、こいつのパーティーを組む人間の制限をするのは流石にフェアではないと思いますが? 先生は私が言うように短期間での100件は不可能に近いと思っておられるなら、フェアではないことを認識されているはずです」
理知的な話し方をラナがする。もしかしたら、いつもはこんな感じなのかもしれない。
「……さっきも言ったけどぉ。それを言い出したのは先生じゃないわぁ。その子よ?」
「わかっています。ただ、今回の魔族撃退は『あなたが功績と表現した』ように大きなことのはずです。少なくともFランク依頼としての評価はおかしい……。本来であれば、この一事のみで入学を認められても何一つおかしいことはないはずでは?」
「ふーん」
「そのうえで明らかに不可能な条件で再度試験を受けさせようというのは……最初から落とそうとする行為となんら変わらないと思いますが?」
ポーラは少し考える素振りをしてから、ぱんと手を合わせた。それからにっこりする。
「先生わかったわ。ラナさんの言う通りよ。それじゃあ、当初示した残りの期間での試験再開とミラスティアさんとニーナさんの手伝いを許可しましょう―。ただし、ラナさんのお友達とかに何十人と手伝ってもらったら困るから、パーティーを組めるのはあなたと2人、そしてぇー。この子ね」
突然にモニカに話が振られた。
「え? わ、私ですか?」
「そうよぉ。あなたとミラスティアさんとマオさんはおともだち、なんでしょ?」
「…………………」
モニカが困惑してあたしを見てくる。ギリアムさんはさっきから何も言わずに静かに見ている。
「そうだよ、モニカはあたしの友達だ。でも、今回のことに関係があるわけじゃないから断ってもいいよ」
「……マオ様……」
モニカが一度目を閉じる。それからギリアムさんを見る。
「モニカ。自分で決めなさい」
快く頷いてくれる。だからモニカが言ってくれた。
「よく、わかりませんがお手伝いは致します。力にはなれないかもしれませんが……」
「……ありがとう。十分だよ。もが」
また、ラナがあたしの口を押えた。
「待ちなさいよ。あんたらが友達になったかどうかなんてどうでもいいけど、魔族を連れてFランクの依頼をするなんて無茶よ。マオも、あとあんたも自分で分かっているでしょ」
……そ、そんなの。
「そう、ですね」
口元を押さえられたままモニカが少し寂しそうに笑う。いやだ、なんかいやだ。
「ちょっ、暴れるんじゃないわよ。……ここは私に任せておきなさいって」
「んーんー」
もがいてみてもラナから離れられない。
「まあ、いいわぁ。じゃあ今から再スタートってことで。その子をお仲間にするかどうかはマオさん達に任せるからね。あと残りは3日くらいしかないと思うけど頑張ってねぇ」
「は?」
ラナが反応した。
「ま、待ってください。あと6日くらいはあるはずですよ!?」
「そうねー。期間はその通りよー。でもねぇ、昨日の事件でギルドは一時依頼の受付停止をしているって知らない?」
そうだ、ニーナがそんなことを言ってた。
「あっ!? そ、それが再開されてから残りの日数が、み、3日!?……し、知ってたから私の提案を受け入れたんですか!?」
ぐぐ。ぎりぎりとラナが力をいれて、くる。
「なんのことかしらー。でも先生は全面的にラナさんからの要望を受けましたからね」
「3日で100件!?」
「そうよー」
「そ、そんな……そもそも依頼受付を停止するならその分の試験期間は延長するべきです!」
「だーかーら先生はちゃーんと『当初示した残りの期間での試験再開』って言ったでしょーー? 聞いてなかったの?」
「…………そ、そんな馬鹿なこと」
う、うぐぐ。い、息ができない。ち、力こめ、こめすぎ。ラナ。ギブ、ギブ。し、しぬ。
「別にモニカちゃんを仲間に入れなくてもいいわ。それにこの問題はそこの死にかけているマオさん一人の問題だから、ミラスティアさんやニーナさん、それにラナさんにもなーんにも関係ないことですからね」
「死にかけているって……わっ、ごめん」
げほげほ。ほんとに死ぬかと思った。あたしは口元を袖で拭いて。ポーラをにらみつける。
「先生は口が上手いね」
「ありがとー」
「でもさ、あたしは負けないからさ。なにがなんでも入学してみせるよ」
「がんばってねー。あ、田舎に帰る用意も一緒にしておいてねー」
ニコニコ笑うポーラ。あたしはくるっと踵を返す。その背中に追い打ちが来る。
「そうそう、ラナちゃんはねー。先生からマオさんのことを依頼したときにはー。こーんな才能もない屑って言ってたわよー」
「…………ち、ちが」
ラナが慌てたような声を出す。あたしは振り向いた。そして言ってやる。
「そんなのどうでもいいよ! ばーか!!……行こう、ラナ、ミラ……モニカ」
今更そんな挑発なんかマオ様に効くもんか!
「わ、私もですか?」
モニカが困惑したように言うから手を差し伸べる。
「あたりまえだよ。ほら!」
☆
ギルド本部から出て噴水の近くで大きなため息をついた。あー疲れた。
全くあの人はなんだろう。なんでここまで突っかかってくるのかわけがわからないよ。
後ろを見ると3人がそれぞれうつむいているし、ラナはため息をついている。
「あんたさ。心臓オリハルコンなの?」
「なにそれ。あ、ていうか、さっきはアリーさんを待っていたんだよね。勝手に外に出ちゃった。……い、今から戻るのカッコが悪いなぁ」
「そういえばそうね……あたしとあんたはともかく……ミラスティアは戻らないといけないんじゃないの」
「あ、えっ、そ、そうですね」
ミラが顔を上げた。その前にラナ行く。
「あんたさ。ミラだって? あのへんてこな格好をした」
「…………は、はい」
あ! そうか……あれだけミラが関係者ってことを言ってたらわかるよね。陰で聞いてたってことをラナが言ってたから
いや、もしかしたらもともとラナも薄々でも感づいていたのかもしれない。だって、今朝からラナは一度も「ミラ」の話をあたしにしなかったから。不自然なくらいに。
「ラナ。それはあたしが」
「マオは黙ってなさい!」
うぐ。ラナはミラから視線を外さない。
「私をだましていたの?」
「…………ごめんなさい」
「ふーん」
「あ、あう。お、折を見てちゃんと話そうと思っていました」
ミラはこういう時全然口が回らない。あたしは間に入ろうとして、ラナがじろりと見てきた。うっ、なんか先に行動を読まれているみたいに思う。
「なんで?」
「なんで…………マオの手伝いをするために、変装をしてました」
「……はあ。単純な理由……もうすこしひねった理由がないのかしら」
ラナがこめかみに手を当てて下がる。
「じゃあ、私があんたのことを性格悪いって言ったのも聞いてたってことよね」
「…………き、気にしてません」
「私が気にするのよ。それにマオのことはマオのことでさっきポーラ先生が言ったとおりだし。……あーもう、性格悪いのは私じゃない」
ラナが足元にあった小石を蹴った。
「ばっかみたい」
なんて声をかけよう。あたしには言葉がない。
「そうでしょうか?」
意外だった。
モニカが最初にラナに声をかけた。驚いたのはラナも同じみたいでゆっくりと振り向く。
「私はラナ様ともお二人とも今日お会いしたばかりでよく経緯は存じませんが、うまくは言えませんが、ラナ様からは悪い気……なんといいましょうか、その悪意のようなものを感じることができませんが……」
「…………変な言い回しで慰めなくてもいいのよ。私はあんたのことだって魔族だって思っている。正直今でもパーティに入れることは反対よ」
「それは……単なる事実です。そのうえでパーティーのことを考えることも、そしてそう思われること自体も問題とは思いません」
「……………………あああーーー! もう、なんなのよあんたら!!」
ラナがあたしを指さした。
「あんたのことをその、く、屑っていったのはほんとよ!」
次にミラを指さす。
「あんたについて陰口を言ったの聞いてたでしょ!?」
そしてモニカを指さす。
「あんたのことを仲間に入れないようにしようとしたことをさっき見てたでしょ!!?」
ラナが頭を押さえながらうつむく。
「ああ、もう、なんなのよ。私だけ性格悪いっていうの!? ちょっとは気にしなさいよあんたら!! おかしいんじゃないの??」
あたしは少し考える。
ここ数日のことだ、ラナに出会ってから短い間だけどいろんなことをした。たしかに出会ったときは戦ったりもしたけど、それは昨日謝ってくれた。だから、
「ラナ」
「何よ」
「今日はシチューが食べたい」
「は?」
あたしは両手を組んでいう。ラナは何を言っているかわからない顔をしている。
「いーお肉といー野菜を使ったシチューが食べたい!」
「は? 馬鹿?」
「全部ラナのおごりね」
「…………………はぁ? ……あんたさ……そんなんでいいの?」
「そんなんでいいよ。あ、ミラもモニカも来るよね」
2人は驚いている。
「マオ……来るってどこに?」
「そりゃ、ラナの家だよ。そうだそのまま泊ればいいじゃん」
「……シチューを食べに?」
「そうだよ。嫌かな?」
ミラは首を振る。
「ううん、全然そんなことはないよ。マオと話したいことが、いっぱいあるから」
「そっか」
あたしは自然に笑顔になった。あとはモニカだけど、
「私は遠慮したほうが」
「え? 嫌なの?」
「い、嫌ではありませんが」
「じゃあ、来るよね」
「……いきます」
よし。どうせ依頼も受けられないから今日は買い出しとかに行こう。
「そうだラナ、ニーナも誘わないとね」
「あんたね。そんなに椅子とかないし寝るところもないからね。わかってんでしょ?」
「別にいいじゃん。何とかなるって」
「何とかなるって……」
そこでラナがふって笑った。あたしもつられて笑った。
何か話をするにしてももっと落ち着いてから話をしたほうがいいと思う。だから、もしも話すことがあれば今日の夜に話そう。そっちのほうがいいとあたしは思うからさ。
「じゃあ帰ろう」
「あ、待って、マオ」
ミラ……あ、そうかアリーさんのことを待ってないといけないからか。あー。そうだ、ということはポーラともずっといないといけないのかな。あたしはミラが心配になってきた。
「ミラ、もしもあの陰険な先生が何を言ってきても、バーカって言ってやればいいんだからね?」
「……いや、マオ。昨日のこと、私が邪魔をしたから、こんなことに」
「ミラがいなかったら昨日はロイに負けてたよ。それにあたしはまだ、この勝負に負けてない。ミラが手伝ってくれるなら、絶対にあいつに勝てる」
「……」
ミラがあたしをまっすぐ見てきた。綺麗な瞳だなぁっていつも思う。でもなんか、今日は光が強いような。
「私は全力でマオを助けるよ」
「うん。頼りにしてる」
ほんと、頼りにしてる。よーしじゃあ、帰ろう。
「あ、そうだミラ。アリーさん達には言い訳しておいてね」
「いいわけ……。うん」
ミラが言い訳を考える……自分で頼んでおいてもしかして一番苦手なことを頼んだのかもしれない。
☆