魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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偶然に応えること

 うう寒い。

 

 朝早くにあたしとラナは家を出た。今日からギルドで依頼を受けることができるようになるはずだから、陽が昇る前には準備をしていた。

 

 ほかのみんなは後で合流することになっている。それにしても今日はむしろラナがあたしを起こしに来たからびっくりした。いつもなら眠たそうにしているのに。

 

 冷えた空気の中、2人で足早に歩く。寒い日ってさ、お昼があったかいよね。

 

「でもさ、ラナ。こんな朝早くにいってギルドって開いているのかな」

「基本的にギルドはいつも誰かがいるようになってんのよ。さっさと依頼を受けて、できるだけ開始を早くしないと厳しいわよ」

 

 そっか、でも依頼を受けるのはできるかもだけど、結局それを行えるのは街の人がちゃんと起きてからだ。

 

 そんなことを思いながらふと、空を見た。

 

 朝日がきれいだった。王都を照らしてくれてる、その光をみたらなんだか応援してもらっているように思えてくる。

 

 角を曲がる。この先まっすぐ行くとギルドだ。

 

 

 シャッシャッ

 

 モップでギルドの前の小さな階段や入口のあたりをこすっている人たちがいる。黒い髪のお兄さんと、青い髪のお兄さん。……ギルド職員の服装をしている。

 

「あ、おはようございます!」

 

 あたしとラナは簡単に挨拶をした。黒髪の人がこちらを向いて。

 

「おっ、おはよう。早いな」

「ちょっと急いでいることがあるからさ」

 

 黒髪のお兄さんはモップを止めていった。

 

「お前、マオだろ? 後ろの赤い髪は知らんけど」

「え? なんであたしのことを知っているのさ?」

「ノエルの奴のお気に入りだからな。知っているぜ、Fランクの依頼をどかどか受けて100件やるって言ってんだろ? あいついっつもいっているぜ、いずれSランクになるってさ」

「ノエル?」

「……なんだ、あいつの名前知らねぇの? ほら、受付に座っている女だよ」

 

 ああ、受付のお姉さん。最初の依頼を受けてくれて、終わった後も拍手してくれたお姉さんはノエルさんっていうんだね。あ、あとラナぞんざいに言われたからって怒らないでよ。

 

「俺はギルド職員のダーツで……あっちのやつが」

 

 ダーツさんの頭を青い髪のお兄さんがたたいた。前から見ると眼鏡をかけている。

 

「ダーツ。冒険者さんに対してちゃんと敬意をもって話さないといけないだろう。……マオさん、それにラナさん。失礼いたしました」

「いや、いいよ。それより、あたし急いでいるから」

「急いでいるとは?」

「今日から依頼が受けられるって聞いてたから」

「ああ、なるほど」

 

 ダーツさんが青髪のお兄さんの頭をたたいた。わってびっくりしちゃった。

 

「いてーんだよ、ジークフリード! 英雄みたいな名前しやがって!」

「……君はいつも人の名前を揶揄することに反省をするべきだな。ダーツ」

 

 ま、まってよ。いきなりお兄さんたちで胸ぐらをつかみあわないでよ。ジークフリードサンていうんだ。いや、まって、ほら。にらみ合わないで。あたし急いでいるから!」

 

「す、ストップ!! ダーツさんもジークさんもストップしてよ。あたし忙しいから」

「ジークさん……」

 

 くいっと青髪のジークさんが眼鏡をあげる。

 

「失礼マオさん。中にはノエルがいると思いますから、おい、ダーツ。案内をして差し上げろ。ここの掃除は僕がしてやる」

「へいへい。おらよ」

 

 ダーツさんの投げたモップをジークさん受け取る。その時ラナがあたしに耳打ちしてきた。そっと。

 

「なに? こいつら」

 

 あのさ……耳がくすぐったいんだけど。

 

 

 ギルドの中もひんやりしている。朝早いからだと思う。受付を見ても誰もいない。

 

「おら、ノエル起きろ」

 

 がんとダーツさんが受付を蹴った。そ、粗暴だなぁ。

 

「起きねぇしこいつ」

「誰かいるの?」 

 

 ラナが聞いてくれた。あたしとラナは二人そろって、受付から覗き込む。そこにはすうすうと書類の山に埋もれて寝息をたてている女性がいた。茶色のふんわりした髪。受付のお姉さんのノエルさん。

 

「おーい。ノエルさん」

「ふぁ、ふぁあ?」

 

 あたしが聞くとノエルさんは跳ね起きた。あたしの顔を見てぱちくりと目をしばたかせて、ごしごしと指でこする。

 

「マオちゃん」

「おはよう、ノエルさん」

「あ! 私の名前を憶えていてくれたのね」

 

 ぐさっ。あたしはさっき教えてもらっただけだから、ちょっと悪い気がする。

 

「ノエル。マオ……サンたちは依頼をさっそく受けに来たらしいぜ。ちゃっちゃと手続してやれよ。Fランクの依頼はお前、必要だからって整えていただろ?」

「…………ダーツ。マオちゃんこんな朝早くに来るなんて思わなかったけど、安心して。ちゃんとマオちゃんが来ても大丈夫なようにFランクの依頼は受けることができるように整えているわ」

 

 にこにことノエルさんが言ってくれる。あたしがここ数日ずっと受けていたから、気を利かせてくれているんだ。正直うれしい。ラナがあたしを小突いてくる「意外と人望あんのね」って、うーん、恥ずかしいからやめて。

 

「なんたってマオちゃんはFランクの依頼を100件こなすって頑張ってたものね。あ、でも安心して、きっとあの水路の事件での評価はFから上がるから、合格はほとんど間違いないわ! それに、ちゃーんと王都のFランク依頼全部で36件は受けられるから。絶対安心ね!」

「は?」

「へ?」

 

 ラナとあたしは同時に声を出した。全部で36件? 惚けているあたしの横からラナが出て受付をバーンとたたいた。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ。今受けられる依頼がそれだけしかないってこと!?」

「え? え? そうだけど。ここ数日は新しい依頼を受け付けなかったし、期限切れとか、取り消しで、水路のようなことのないように危険度の調査が終わったのがそれだけ……まあ、調査が全部終わっても50件ないと思うけど。」

「じょ、ジョーダンじゃないわよ! ま、マオには依頼がいるの! ど、どうにかできないの!?」

 

 ああ、あああああ。まずい。これはまずいよ。

 

「何の騒ぎだ」

 

 ジークさんも両手にモップをもってきた。でも、あたしは何も反応できない。

 

 あたしは頭を抱えた。ラナが怒っている声がするけど、悪いのはお姉さんじゃないし。どうしよう、3日で100件しないといけないのに、そもそも依頼がないなんて……

 

 不意にあの夜、ミラと約束した学園に一緒に行くことが脳裏をよぎった。……ああああ、あああ。やばい。どうしよう。まずい。依頼をしてくれる人を自分で探すしかないけど、60件以上……? うう、でもやるしかない。

 

「な、なんでそんなに2人とも悩んでいるの? あ、そうか、学園の試験の期間が延びたことを知らないのね。ちゃんと数日延びたから安心していいし、それに必要な依頼数はもうさっき言った通りだから」

「だめなんだよ。あたしはこの3日で100件Fランクの依頼をしないといけないんだ」

 

 あたしはノエルさんに短く言う。

 

「……なんで? うーん。本当に意味が分からないんだけど、マオちゃん。説明してくれないかな」

「それは……」

 

 あたしはポーラとのやり取りを説明した。試験の期間とかかわりなく残り3日で100件をしないといけないってことも。

 

 話をしていると、ノエルさんはだんだんと押し黙っていった。……ノエルさんに悪いところなんてない。これはあたしの問題だからどうにかしな

 

「殺す」

 

 は!? あたしは顔を上げた。

 

 笑顔のまま固まっているノエルさんがいる。笑顔なのに、目が座っている。

 

「その女、殺す」

 

 怖い、あたしとラナはいつの間にか抱き合ってた。黒いオーラみたいなのがノエルさんの後ろに見える! ラナが言った。

 

「あ、あのこわ、怖いんですけど」

「私はねぇ、この一週間くらいずっと頑張ってるマオちゃんのことを見ていたから今回のことでもちゃんと依頼ができるように頑張って寝ずに書類作成とか内偵とかしていたっていうのにその女のやってることでマオちゃんが不合格になるなんていうことあっていいわけないじゃない。ああああ!」

 

 ばーん!! ノエルさんが立ち上がって机をたたいた。思いっきり。書類がばらける。あたしとラナが普通に「ひっ」って声を出してしまう。

 

「ギルドマスター!!!」

 

 ギルド中に響き渡る声。ほかにも何人かいる職員さんがこちらを驚いてみた。

 

 ダーツさんとジークさんは両手で耳をふさいでいる。あたしたちはその声が直撃した。く、くらくらする。

 

 薄暗いギルドの奥でドアの開く音がした。そこから顔をだしたのは小柄で頭頂だけがは……髪がなくて綺麗なおじさんだった。

 

「な、何かね。の、ノエル君」

「ギルドマスター!! 聞いてください!!」

 

 覇気というか殺気を纏ったノエルさんの声にギルドマスターと言われたおじさんはハンカチで汗を拭いている。おどおどしてて、見た目頼りなさそうだった。

 

 

「なるほどねぇ。それでノエル君はどうするつもりなのかな?」

 

 ギルドマスター……おじさんはゆっくり話をしている。ダーツさんたちを含めて職員全員が見ていた。

 

「あったりまえですよ! こんな横暴許していいわけがないです! 抗議! 抗議ですよ!」

「あのねぇ、ノエル君」

 

 おじさんがあたしを見た。ん、少しびっくりする。

 

「これはねぇ、私闘だよ。この子がどういうつもりでそんな勝負を受けたのかは知らないけれど……ギルドとしては学園との関係を悪化させる動きはできないでしょ……?」

 

 私闘、うっ。そ、そういわれればそうかも。

 

「そんな」

 

 ラナが前に出ようとしたのをあたしが止める。短い言葉だけど、確かにそうかも。ポーラとの対立にギルドは関係ない。それでも……どうしよ。あたしは肩を落とした。

 

「ぎ、ギルドマスター!」

「ダメなものはだめ……仕事に戻りなさい」

 

 おじさんはそういって踵を返した。ノエルさんがまだ食って掛かりそうだったから、あたしは止めた。

 

「ありがとう、ノエルさん。あのおじさんの言う通りだよ」

「マオちゃん……でもそれでいいの!? いままで頑張ったのに」

「まだ終わってないし。これから依頼をしながらさらに依頼をしてくれる人を探すよ。何とかする!」

 

 それしかない。……多いけど。どうにかするしかない。

 

「ああ、そうだ」

 

 おじさんが部屋に戻りながら言う。

 

「もちろんFランクの依頼をしてくれる人がいたらその子には通常業務通りに紹介すること……いいかい、ノエル君。業務中にその子に肩入れするようなことをしないようにね……手伝いとかしたければプライベートでやりなさい」

 

 おじさんは一度振り向いた。

 

「その子の問題は依頼の数が足りないだけでしょ? 学園に抗議とかはしないけど、『君たち』が個人的に依頼の相談をされてもちゃんとギルドを通して斡旋するのが筋だよ」

 

 そうだね。それが正しいよ。……ノエルさん? なんで固まっているのさ。

 

「ギルドマスター」

 

 ノエルさんが叫んだ。

 

「ん?」

「めまいがします」

「そう、そりゃあ早退したほうがいいんじゃないの?」

 

 え?

 

「いててぇえええ」

 

 は? 突然のダーツさんの声。いきなり床に倒れておなかを押さえている。

 

「いてぇえ。なんて腹いて―!! やべー。病院行かねぇと死ぬかもしんねぇ。あとジークフリードの奴も病気かもしれねぇ」

 

 何? え? ジークさんをあたしが見ると困惑した顔で眼鏡をはずして。

 

「……し、視力が悪くなりました。早退します」

 

 そ、そりゃあそうだね。……いや、早退することかな!? 

 

 おじさんが前に出てくる。

 

「最近の若い者は体調管理がなってないねぇ。さっさと帰って病院に行ってきなさい……ああ、そうそう、さっき言った通り知り合いなどから偶然依頼の相談を受けたら、ちゃんとギルドに報告すること。報告を受けたらすぐに書類をまとめて依頼を受けられる体制を作ることね。みんな」

 

 職員さんたちが「はい」と声をだす。

 

 なんだろ、これ。どうなってんの。ノエルさんはあたしとラナの肩を抱いた。それから倒れているダーツさんを蹴って起こす。

 

「マオちゃん任せておきなさい。今日は頑張ってね」

「いって、ノエル。お前さ」

「僕に無茶ぶりするからだ。僕まで早退することになっただろうが」

 

 ジークさんを2人がたたいた。

 

「あ、あのさ」

 

 呼び止めようとするあたしをおじさんが止めた。

 

「……偶然Fランクの依頼が増えるかもしれないけど、それをちゃんと自分のものにできるかは努力次第だよね。偶然にちゃんと応えてあげられるかは、自分に聞いてあげなさい」

 

 あたしが振り向くとギルドマスターのおじさんは「あー腰が痛い」と言いながら奥に引っ込んでしまった。

 

「ら、ラナ。こういう場合どうすればいいのかな」

「知らないわよ」

「………………」

 

 あたしはギルドマスターの後ろ姿にぺこりと頭を下げて、それからノエルさん達の後ろ姿にぺこりと頭を下げた。これくらいしかできないし。

 

 

 

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